連載:IEEE無線規格を整理する(4)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

高速化とメッシュ化へ進展する無線LAN


千葉大学大学院  阪田史郎
2005/11/15


IEEE無線企画を整理する連載第1回目「無線ネットワークの規格、IEEE 802の全貌」では、拡大するIEEE 802規格の全貌を、第2回では、実用化が始まった「標準化が進むRFIDと日本発ucode」について説明してきた。ZigbeeやBluetoothなどの無線PAN(パーソナル・エリア・ネットワーク)についてまとめたい第3回目「ZigbeeとBluetooth、UWBをめぐる動き」に続き、いよいよ無線LAN標準化について述べたい


 無線LAN標準化の変遷とIEEE 802.11の今後の動向

 1980年代末に、MotorolaがALTAIR、NCRがWaveLANの2つの無線LANを相次いで製品化した。しかし、これらの製品は、アクセスポイントに相当する制御装置のサイズが大きい、価格が高い割に伝送速度が遅いなどの理由で普及には至らなかった。これらの製品化がきっかけの1つになって、無線LANの国際標準化活動が1990年代初頭に、米国のIEEE 802.11委員会と、ヨーロッパのETSI BRAN(European Telecommunications Standards Institute Broadband Radio Access Networks)委員会において開始された。図1に無線LANに関する標準化の経緯、図2に無線LANの標準化を進めているIEEE 802.11委員会の構成を示す。

図1 IEEE 802.11委員会における標準化の経緯(クリックすると拡大表示します)
図2 IEEE 802.11委員会(1990年〜)の構成

 その後、1997年にIEEE 802.11、1999年にIEEE 802.11bと802.11aの仕様が標準化された。2000年以降のIEEE 802.11bの製品化とその急速な低価格化、普及に伴い、IEEE 802委員会とETSI BRANとの間の調整を経て、世界の無線LANは、IEEE 802.11仕様(物理レイヤに相当するインフラとしての無線LANは、IEEE 802.11b、 a、 g)に一本化された。2001年には、IEEE 802.11bとの互換性を保持しながら高速化するため、IEEE 802.11bと同一周波数の2.4GHz、IEEE 802.11aと同じOFDM方式を採用したIEEE 802.11gが標準化された。表1にIEEE 802.11b、a、gの比較を示す。さらに、2003年9月には100Mbps以上の高速無線LANの開発を目指したIEEE 802.11nが発足し、5GHzの利用をベースに2007年の標準化に向けた活動が活発化している。

  IEEE 802.11b IEEE 802.11a IEEE 802.11g
リンク速度
電波距離
同時使用チャネル(国内) 4 4 3
屋外仕様 ×
電波干渉
利用環境 ・低速での利用 ・屋内
・端末数が多い
・2.4GHzのノイズ源  (Bluetooth、 電子レンジなど)
・遮蔽物が少ない
・屋内外
・端末数が少なく特に高速を必要としない
・802.11bの端末と共存
・遮蔽物が多い
備考 安価で最も普及 将来的に高速化(802.11n)と屋外利用が可能に 802.11bの上位互換
表1 無線LAN IEEE 802.11b, a, gの比較

 IEEE 802.11仕様の無線LANに対しては、1999年に発足した業界団体WECA(Wireless Ethernet Compatibility Alliance)を2001年に改称したWi-Fi Alliance (Wireless LAN Fidelity Alliance)が、各業界へのプロモーションとともに、相互接続検証、仕様準拠製品認定を行っている。

 なお、無線LANと呼ばれることはないが、IEEE 802.11においても検討がなされた赤外線を用いた無線通信については、1993年に業界団体として発足したIrDA(Infrared Data Association)が標準化を進めてきた。IrDAは、波長850〜900nmの赤外線による無線インターフェイスの業界標準化を目指すコンソーシアムとして設立された。このIrDAによって標準化された方式が、当初のIEEE 802.11のPHY(物理層)規格の1つになった。IrDA方式には、最低1mの通信距離で、最大4Mbpsの伝送速度を目標とし、部品コストが安いというメリットがある。しかし、光の伝送の特徴である強い直進性(遮蔽物があるとシャドウイングにより通信できない)があり、送信側と受信側の軸調整が必要とされるなどの課題がある。このため、赤外線を用いた無線通信は、直進性の問題が大きな障害とならない、限定された場面での利用にとどまっている。

 表2にIEEE 802.11委員会における各TG(Task Group)とその活動内容を示す。

a 5GHz帯、最大54Mbpsの無線LAN(OFDM) 終了
b 2.4GHz帯、最大11Mbpsの無線LAN(DS-SS) 終了
c MACブリッジ(802.1d)に無線LANのMAC仕様を追加 終了
d 2.4GHz帯、5GHz帯が利用できない地域向けのMAC、物理レイヤ仕様 終了
e QoS制御(AV通信向け。優先制御のEDCAと品質保証のHCCA) 終了
f ローミング(アクセスポント/基地局間) 終了
g 2.4GHz帯、最大54Mbpsの無線LAN(OFDM) 終了
h 11aに省電力管理と動的チャネルを追加(欧州向け仕様) 終了
i セキュリティレベルの高度化(802.11eから分離) 終了
j 日本における4.9GHz ‐ 5GHz利用のための仕様策定 終了
k 無線資源の有効活用の研究(Radio Resource Measurement)
m 802.11aと802.11b仕様の修正など
n 次世代無線LAN(100〜200Mbps、ターゲットは2006年ころ、802.11a/b/gと何らかの下位互換性)。これまでHT SG(High Throughput Study Group)で活動
p 車などの移動体環境(ITS)における無線アクセス。DSRCの特徴を適用
r 高速ローミング
s メッシュネットワーク
T テスト手法(仕様はIEEE 802.11.2)、性能予測
u 無線LANとほかのネットワークとの相互接続。3GPP、3GPP2との相互接続を検討
v ネットワーク管理。アクセスポイントMIBの規約化を検討
w 保護された管理フレーム
y Contention Based Protocol
表2 IEEE 802.11における各タスクグループの活動
・無線LANそのものの仕様■■■■
・ミドルウェアに相当する部分■■■■

 この中で、ユーザーサービスを実現するためのMACレイヤ以上のミドルウェアとして機能するのは、主にIEEE 802.11eのQoS制御、IEEE 802.11fのローミング、IEEE 802.11iのセキュリティ(認証についてはIEEE 802.1x)、IEEE 802.11sのメッシュネットワークであるが、IEEE 802.11e、f、iの活動は、2004年初頭にはほぼ終結している。その後、2004年にIEEE 802.11p、r、s、2005年にIEEE 802.11T、u、v、w、yが発足した。インフラとしてのIEEE 802.11b、 a、 gの普及を経て、IEEE 802.11nによる高速化とともに、新たな展開に向け、MAC(Media Access Control)層に対応する部分の拡張が進められている。現在最も活発に議論されているTGはIEEE 802.11nとIEEE 802.11sである。
 
 以下、ミドルウェア部分に相当する主要機能、および次世代の超高速無線LANに関する標準化状況について述べる。

 

目次:IEEEを整理する(4)
無線LAN標準化の変遷とIEEE 802.11の今後の動向
  1. QoS制御/2 ローミング/3 セキュリティ/(1) 暗号化/(2)認証/
  4.超高速無線LAN/5. メッシュネットワーク/6. ITS応用



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