どこまで出る? LTEの通信速度次世代の無線技術、LTEの仕組みが分かる(3)(1/2 ページ)

次世代無線技術のLTEの仕組みを紹介する。NTTドコモ、イー・モバイル、ソフトバンクモバイル、KDDIの来年の無線技術はどうなる?

» 2010年03月17日 00時00分 公開
[小久保卓ノキア シーメンス ネットワークス]

「動画コンテンツ元年」をLTEが支える?

 2009年にケータイ業界で注目されたトピックの1つに「動画コンテンツ」があります。

 それ以前にも移動通信事業者各社は「iモーション」などの名称で、動画が配信可能な仕組み自体は用意していました。しかし、2009年5月にNTTドコモが「BeeTV」を、ソフトバンクモバイルが「選べるかんたん動画」を開始し、事業者自身がサービスレイヤに踏み込んで、高品質の動画コンテンツを携帯電話に配信するサービスの提供が始まりました。

 これまでFMC(Fixed Mobile Convergence)の一環として、PCから携帯への動画コンテンツ移行に主軸を置いてきたauの「LISMO Video」も、おそらく強いユーザー要望や業界トレンドへの対応から、2009年12月に携帯電話への直接の大容量動画の配信を開始しました。

 これらのサービスが2009年にそろって開始されたことで、高リテラシーユーザーだけでなく、より多くの人が、TVを利用するかのように容易に動画コンテンツを楽しむことができる環境が整いました。まさに、2009年は携帯向けの動画コンテンツの「元年」とも呼ぶにふさわしい年といえます。さらに、決算発表などにおいて各社幹部が今後も動画コンテンツに力を入れることを明確に示していることから、この分野ではしばらくサービスやコンテンツの発展が続いていくと考えています。

 技術の観点からここで紹介した動画サービスで注目すべきことは、無線ネットワークを介して直接、携帯電話に大容量ファイルを配信している点です。そしてユーザーがストレスなくコンテンツ視聴できるサービスを提供するためには、その大容量ファイルを遅延なく携帯電話に届けることのできる通信速度が必要になってきます。

 そこで、第3回目の今回は動画サービスの将来を考えるうえでもポイントとなる「LTEの通信速度(注1)」について解説します。

 これまでの連載で説明したように、LTEの最大通信速度は下り325.1Mbps、上り86.4Mbpsと規定されていますが、さまざまな要件によって実際の通信速度(実効速度)は低くなります。そのため今回は、LTEの通信速度を左右する要素を中心に説明します。

注1:LTEの通信速度については、測定レイヤの考え方などにより、いくつか異なる計算方法があります。今回の執筆に当たっては、書籍「LTE for UMTS OFDMA and SC-FDMA Based Radio Access(著者:Harri Holma, Antti Toskala)」に記載されている「Layer1 Peak Bit Rates」の値を用いました。


高速無線通信のニーズ

 LTEが期待される理由の1つとして、固定通信の光ファイバに匹敵する通信速度が挙げられます。固定通信ではFTTH(Fiber To The Home)に代表されるブロードバンドサービスの拡充により、オフィスや家庭で数十Mbpsの高速通信を容易に利用できる環境が整っています。

 一方、無線通信ではモバイルWiMAXやHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)などの商用サービスが提供されていますが、現在のところ、モバイルWiMAXはサービス提供地域が限られているのが実情です。また、HSDPAは従来に比べ高速データ通信が可能なものの、実効速度は数Mbpsにとどまります。

 そこで、光ファイバ並みの通信速度を備え、無線通信ならではの利便性を実現するLTEへの期待が高まるというわけです。例えば、高速、低遅延といったLTEの特徴を生かし、ユーザーは場所の制約を受けることなく、どこからでも大容量の動画や対戦ゲームなどのアプリケーションが楽しめるようになります。

図1 LTEで広がる適用アプリケーション

 パーソナルユースのみならず、ビジネスユースでも高速無線通信への期待は高まるばかりです。社内、社外を問わず高速な通信環境により、業務の効率化が可能になるほか、企業の課題であるセキュリティ対策などにも効果があります。例えば顧客先で商品のプレゼンテーションを行う場合、シンクライアントPCを用いて本社サーバから大容量のファイルを参照。プレゼンテーション後はPC上にデータを残さず、万一のPCの盗難・紛失時にも情報漏えいのリスクを回避できます。

 また最近では、社員の出社が制限される新型インフルエンザのパンデミック対策など、事業継続計画の観点からも高速無線通信が注目されています。

 こうした無線通信のさまざまな活用法は、現行のHSDPA(HSPA)などでももちろん可能です。しかし、より高速なLTEであれば、社内のイントラネット同様の高速な通信環境で業務が行え、名実ともに社内・社外のシームレスな企業ネットワークが実現するはずです。

LTEの高速通信を実現する3つのキーワード

 第3世代移動通信システムの標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、LTEの最大通信速度は下り325.1Mbps、上り86.4Mbpsと規定しています。

 前回、現行のHSPAからHSPA+(HSPA Evolution)を経て、LTEに至るマイグレーションの道筋を例示しました。技術的な要件によって通信速度は異なるものの、HSPA+の最大通信速度は下りで約40Mbpsとされていますから、LTEの300Mbps超は、より高速な無線通信を要求するユーザーには魅力的といえます。

 LTEの高速通信(下り)を実現する技術的なキーワードとして、以下の3つが挙げられます。

1. OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)

 無線通信方式の1つ。周波数軸と時間軸でユーザーへチャネル(サブキャリア)の割り当てを行います。ユーザーの無線環境に応じて伝送効率の高いチャネルを割り当てることにより、複数ユーザーのトラフィックを効率的に処理し、周波数帯域を有効に活用できます。

2. 64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)

 データ変調方式の1つ。64という値は、一度に6ビット(2の6乗)の信号を送ることができるという意味です。なお、HSDPAでは16QAM(4ビット)が用いられていました。また、LTEの上りでも16QAMが使用されます。16QAMに比べ、64QAMは一度に大量の信号(データ)を伝送できることから、高速通信を実現します。

3. MIMO(Multiple Input Multiple Output)

 無線通信方式の1つ。複数のアンテナを用い、複数の伝送経路(チャネル)で通信する方式です。各アンテナがそれぞれデータを同時に送受信するため、アンテナの数が増えると通信速度が向上します。例えば、送信用と受信用にそれぞれ2本のアンテナを使用する2×2 MIMOは、送受信用アンテナが1本の場合に比べ2倍の通信速度に、それぞれ4本のアンテナを使用する4×4 MIMOは4倍の通信速度になります(理論値)。

 なお、OFDMA、64QAM、MIMOは、LTEのほか、モバイルWiMAXなどの高速通信技術としても採用されています。これらの技術の詳細は連載の後の回で説明します。

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