特別企画 最新ネットワークケーブル事情

UTPはギガビットの時代へ
〜1000BASE-Tの登場〜

中村哲也
ブライトンネット
2000/05/23

高速ネットワークのギガビットイーサネット

 ギガビットイーサネット(Gigabit Ethernet)は、伝送速度が10BASE-Tの100倍にあたる1000Mbps(1Gbps)の伝送速度を発揮できるイーサネットの規格です。ギガビットの速度を持つネットワーク規格にはATM(Asynchronous Transfer Mode)などもありますが、ギガビットイーサネットは従来のイーサネットの上位互換にあたるため、既存の10BASE-Tや100BASE-TXによるネットワーク資産、管理ノウハウを継承しながら、ギガビット・ネットワークへと移行できるというメリットがあります。

 ネットワーク全体を一気に変更することなく、10BASE-Tから100BASE-TXへ移行したときと同じように段階的なネットワーク強化が可能です。ギガビットイーサネットはUTPケーブル(Unshielded Twisted Pair Cable)を使用するIEEE802.3ab規格と、光ファイバケーブルなどを使用するIEEE802.3z規格に分けることができます。

IEEE802.3ab規格 1000BASE-T カテゴリー5やカテゴリ-5エンハンスドのUTPケーブルの4対8芯のケーブルをすべて使用してデータを伝送します。すでに布設されたUTPケーブルをそのまま使用して、機器だけを取り替えるだけでギガビットイーサネットに移行できるメリットがあります。
IEEE802.3z規格 1000BASE-SX
1000BASE-LX
ケーブルには、メタルケーブルではなく光ファイバケーブルを使用します。ケーブルのコア径に種類があり、コア径によって伝送距離に違いがあります。1000BASE-LXでは伝送距離が最大5000mと長距離ですがコストは高めです。
1000BASE-CX 2芯平衡型同軸ケーブルを使用します。伝送距離が最大25mと短く、おもに室内にあるギガビットの機器を接続するのに使用します。
ギガビットイーサネットの規格


1000BASE-SX/LX/CXの問題点

 IEEE802.3zで制定された1000BASE-SX/LX/CXは、10BASE-Tおよび100BASE-TXの上位互換ではありますが、1000BASE-SX/LXは光ファイバケーブルを使用するため、既存のUTPケーブルから光ファイバケーブルに入れ替える必要があります。これでは、ネットワーク全体の更新となると工事費の割合が大きくなります。また、1000BASE-CXはケーブル長が最大20mしかないため、ネットワーク全体をギガビット化するには不向きです。 また、光ファイバケーブルはUTPケーブルに比べて扱いが非常にデリケートで、ケーブルそのものの価格もUTPケーブルに比べて5倍以上と、かなり割高感があります。1000BASE-CXの場合も、同軸ケーブルを使用するためUTPケーブルに比べて配線の小回りがきかない問題があります。

1000BASE-Tの優位点

 1000BASE-TはUTPケーブル(カテゴリー5以上:後述)を利用する規格のため、両端の機器を1000BASE-T対応の機器に入れ替えるだけの手軽さで、Gigabit Ethernetを実現できます。新たに布設する場合も、光ファイバーケーブルに比べてコストがかからず、布設作業も容易です。1000BASE-Tは、ギガビットイーサネットの中でも特にコストパフォーマンスにすぐれているといえます。

  長所 短所
1000BASE-T ・ギガビットネットワークの中でも、イーサネットの上位互換により、既存のネットワークと接続可能。また、ネットワーク資産や管理ノウハウも流用できる。

・さらに、カテゴリー5のUTPケーブルならそのまま利用できるので、インフラの更新にも費用がかからない。

・新規にケーブルを布設する場合でも光ケーブルに比べてコストが約1/5で済む。
・UTPケーブルの品質によっては、パフォーマンスを十分に発揮できない。

・ノイズの発生しやすい場所には不向きである。


・ケーブル長が最大100mである。
1000BASE-SX
1000BASE-LX
1000BASE-CX
・ギガビットネットワークの中でも、イーサネットの上位互換により、既存のネットワークと接続可能。また、ネットワーク資産や管理ノウハウも流用できる。

・光ファイバまたは同軸ケーブルなので伝送帯域にゆとりがある。また、ノイズの影響を受けにくい。


・光ファイバの場合、ケーブル長が最大550m※と長い。
・既存のネットワークの場合、ケーブルをケーブルを更新する必要がある。

・光ファイバケーブルの場合、価格が5倍以上。


・ケーブルの扱いがUTPケーブルに比べてデリケートであったり、小回りがきかない。

・1000BASE-CXは、ケーブル長が最大20mである。
※1000BASE-LXのシングルモードは最大5kmまで対応
1000BASE-Tと1000BASE-SX/LX/CXの比較


 従来100BASE-TXで100Mbps(全二重で200Mbps)しかデータを転送しないUTPケーブルで、ギガビットの転送速度を実現するために1000BASE-Tでは、4対並列伝送とデータの多値化という技術を使っています。

すべてのケーブルを使う4対並列伝送

 10BASE-Tおよび100BASE-TXはUTPケーブルの4対8芯のうち2対4芯だけを使ってデータを伝送しており、残りの2対4芯は未使用の状態になっています。また、データの全二重転送は1対を送信に、もう1対を受信に使用しています。 これに対して1000BASE-Tは、1対のケーブルで送信と受信をおこなうことで全二重転送を実現しています。さらに、未使用の2対もデータ転送に使用しています。これにより、1対あたりの伝送速度は250Mbpsとし、4対のケーブルをすべて使うことで4対×250Mbps=1000Mbpsを実現しているのです。

1000BASE-Tでは、1対のケーブルにつき250Mbps。4対合計で1Gbpsの転送速度を実現している。


データの多値化技術

 デジタルデータは0と1の組み合わせで成立しています。10BASE-Tおよび100BASE-TXは、そのデータをそのまま、1クロックあたり2値で転送しています。これに対して1000BASE-Tでは、1クロックあたり5値(通常使用するのは4値)でデータを転送します。この方式を符号化方式と呼び、1000BASE-Tでは、8BIQ4(8bit-1Quinary Quartet、8bit-1・5値4組)という符号化方式を採用しています。4対のケーブル合わせて1クロックで629種類(データ用は512種類)の符号を送信することができます。

カテゴリ5ケーブルの問題点

 1000BASE-Tは、UTPケーブルを利用できるコストパフォーマンスにすぐれたギガビットイーサネットです。しかし、問題がないわけではありません。それは、カテゴリ5のUTPケーブルでは、環境やケーブルそのものの品質によって、そのパフォーマンスが十分に発揮できない可能性があるからです。

 UTPケーブルは、その性能によってカテゴリが区別されています。1000BASE-Tで使用できるUTPケーブルは、カテゴリ5およびカテゴリ5Eのケーブルだけです。現在、使われているイーサネットケーブルは、ほとんどがカテゴリ5のケーブルです。しかし、カテゴリ5は規格自体が100MHzまでの帯域しか規定されておらず、高帯域でのデータ転送に不安があります。そこで最近登場したのがカテゴリ5E(エンハンスド・カテゴリ5)ケーブルです。保証帯域が350MHzまで広げられ、伝送速度の高い1000BASE-TXや100BASE-TXでも高いパフォーマンスを発揮できます。

  10BASE-T 100BASE-TX 1000BASE-T
カテゴリ3
×
×
カテゴリ4
×
×
カテゴリ5
カテゴリ5E
(エンハンスド・カテゴリ5)
カテゴリ6
※現在は未制定 ◎:推奨 ○:使用可 ×:使用不可
各カテゴリの対応規格


カテゴリ5E ケーブルの特徴

 カテゴリ5E(エンハンスド・カテゴリ5)はカテゴリ5に比べて信号減衰量が小さく、近端漏話減衰量が大きいという特徴があります。また、カテゴリ5Eケーブルは保証する帯域幅自体が350MHzまであるので、カテゴリ5に比べて1000BASE-Tにより適しているといえます。これから構築するネットワークでは、100BASE-TXの場合でもケーブルだけは、カテゴリ5E ケーブルを布設しておくことで、将来の1000BASE-Tにグレードアップする場合も安心です。

カテゴリ5とカテゴリ5Eケーブルの数値的な比較

 TIA/EIA-568Aで規定されているカテゴリ5規格とカテゴリ5Eケーブルの実測値を比較してみます(この内容はブライトンネット株式会社の協力により、同社のカテゴリ5Eケーブルを使用した実測値データを基にしています)。

  • 信号減衰量(Attenuation)
    信号減衰量とはUTP上に交流信号を伝送し、その信号の減数量を測定したものです。ただし、カテゴリ5は規格上100Mbpsまでしか規定されていません。周波数の帯域が高いほど信号減衰量は増加します。つまり、同じ距離では、伝送速度が高いほど減衰量は大きくなります。
    以下の表を比較すると、カテゴリー5よりもカテゴリー5Eケーブルのほうが明らかに減衰量が低いことがわかります。また、帯域幅が10Mbpsの場合は0.29dBの差ですが、100Mbpsの場合は2.89dBも差があります。このことから、1000BASE-Tや100BASE-TXのネットワークでは、カテゴリ5よりもカテゴリ5Eケーブルのほうがよいことがわかります。
信号減衰量
(dB/100m)
周波数帯域
カテゴリ5
TIA/EIA-568A規定値
カテゴリ5E実測値
10MHz
6.5以下
5.90
100MHz
22.0以下
19.11
200MHz
27.44
350MHz
36.84

  • 近端漏話減衰量(NEXT:Near End Cross Talk)
    近端漏話減衰量とは、同一のUTPケーブル内おいて、任意の2対間の近端側での漏話ノイズ量のことです。ただし、カテゴリ5は規格上100Mbpsまでしか規定されていません。周波数の帯域が高いほど近端漏話減衰量は小さくなります。つまり、同じ距離では、伝送速度が10Mbpsの場合より、100Mbpsの場合のほうが減衰量は小さくなります。近端漏話減衰量が小さいと、ネットワーク機器が送出した信号を大きなレベルで受信してしまうことになり、相手側のネットワーク機器からの信号を正しく受信できなくなります。つまり、近端漏話減衰量では、減衰量が大きいほどデータ転送が安定することになります。
    以下の表を比較すると、カテゴリ5よりもカテゴリ5Eケーブルのほうが減衰量が大きいことがわかります。全体的に各帯域で約13%〜20%近い差が見られます。このことから、カテゴリ5よりもカテゴリ5E ケーブルのほうがすぐれたケーブルだということがわかります。
近端漏話
減衰量(dB)
周波数帯域
カテゴリ5
TIA/EIA-568A規定値
カテゴリ5E実測値
10MHz
47.0以上
68.5
100MHz
32.0以上
57.1
200MHz
55.3
350MHz
44.5


ベストチョイスの1000BASE-T

 高速ネットワークの規格は、毎年のように何からの規格が制定されています。ギガビットイーサネットもその規格の1つにしか過ぎず、近い将来、さらに高速なネットワーク規格が登場することも十分に考えられます。現時点では、1000BASE-Tにカテゴリ5EのUTPケーブルを使用する組み合わせが、もっともコストパフォーマンスの高い選択肢のように思われます。今はまだギガビットイーサネットよりも100BASE-TXの導入を考えていらっしゃる方も、カテゴリ5Eケーブルさえ布設しておけば、安心して1000BASE-Tへの移行ができるわけです。

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