特別企画:
【Brocade Conference 2002 現地レポート】


ここまで来た米国SAN事情
〜2年後には日本にもその波がやってくるのか!?


鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
2002/6/13


「オープンSAN」を体感できるプライベート・カンファレンス

 米国のトレンドは、日本のそれより1〜2年先を行っているとはよくいわれるが、今回の取材は、その想像以上に差があったということを、身を持って実感することができた機会だったといえる。

Brocade Conference 2002の会場となった、Mirage Convention Centerに隣接するThe Mirage Hotel。熱帯地方をイメージした内装になっているのが特徴だ

 米ブロケード コミュニケーションズ システムズ主催の「Brocade Conference 2002」が、米国ネバダ州ラスベガスのThe Mirage Hotelに隣接するコンベンション・センターにて、現地時間の6月3日〜5日の3日間にわたり開催された。ご存じの方もいるかもしれないが、同社はSAN(Storage Area Network)の構築において、最も基礎となるビルディング・ブロックであるファイバ・チャネル・スイッチを提供するメーカーである。SANの構築では、ファイバ・チャネルという高速な光インターフェイスが用いられるが、その交通整理の役割を担うのがファイバ・チャネル・スイッチである。

 同社はこれまで、OEMベースでの製品提供を行ってきたため、あまりその名前が認知される機会は少なかったといえる。だがそのシェアは、ファイバ・チャネル・スイッチ市場全体の比率で80%近くにも上るといわれている。例えば、あるストレージ機器メーカーからストレージとファイバ・チャネル・スイッチの両方を導入した場合、実はファイバ・チャネル・スイッチのほうはブロケード製のものだった、というケースも多いのだ。実際、同社はファイバ・チャネルの仕様策定に深く関わっており、技術に精通する以外に、関連メーカーや市場への影響力も大きいといえる。

 今回開催された「Brocade Conference 2002」は、同社が主催するプライベート・カンファレンスではあるが、その市場に対する位置付けを考えれば、SANのトレンドを知るうえでは極めて重要なものだ。今回は、このカンファレンスの取材で得られた情報を記事としてまとめてみることにした。技術者の方々には、今後日本で起こるであろうストレージ市場の変化について、ぜひ押さておいてほしいと思う。

基調講演でSANのメリットを語る会長兼CEOのGreg Reyes氏

SANを導入するメリット

 今回のカンファレンスの基調講演では、SANのメリットについて、あらためて強調する場面が多く見受けられた。カンファレンスの参加者のメインは技術者ではあるのだが、ユーザー企業の担当者や報道陣も参加していたのを意識してのことだろう。SANのメリットをあらためて強調し、市場を盛り上げていくことで、同社のビジネスをより発展させていこうというのだ。

 基調講演で語られたSAN導入のメリットをピックアップすると、おおよそ次のような項目になる。

1. サーバ/ストレージの統合
2. 集中管理
3. バックアップ
4. 拡張性
5. 可用性
6. アプリケーション・パフォーマンス

 SANは、これまでサーバに直結されていたストレージ(DAS:Direct Attached Storage)を集約することで、「サーバの台数を削減」し、分散していた「ストレージの管理を容易に」し、柔軟な「拡張性」やフェイル・オーバー/フェイル・バックを容易に実現する「可用性」を高めていこうというものである。また、ストレージに特化した専用のネットワーク(ファイバ・チャネル)を用意することで、パフォーマンスの最適化を行い、従来まで時間のかかっていた「バックアップ」の改善や、より高い「アプリケーション・パフォーマンス」を得ることができるようになった。

 さらに、基調講演で数多くの図表やデータを用いて強調されていたのが、次のメリットだ。

7. コスト削減

 管理の集中化を行い、サーバの台数を削減すれば、管理に必要な人員などのリソースや機器維持などにかける費用が削減できる。また米国では大きな問題ではないのだが、日本特有の事情として、「機器を削減することで設置面積の節約」が可能になるというメリットもある。特に、今後iDCなどに高密度で機器を配置していく場面が増えるようになると、このメリットは非常に大きなものとなるだろう。1〜6までの項目が技術者向けのアピールだったのに対して、後者の7は、まさに経営者やマネージャー・サイドにとって絶好のアピール・ポイントだろう。

 このように、SANのメリットを挙げれば、まさにいいことづくめではあるのだが、若干デメリットもある。それは、7でも挙げたコストに関するもの、そして技術的な問題である。

1. 初期投資費用がかかる
2. 新しいインフラのため技術的蓄積が追いついていない

 初期投資費用がかかる理由は、サーバに取り付けるファイバ・チャネルのインターフェイス・ボードや、ファイバ・チャネル・スイッチが高価なためである。また、ネットワークの再構築が起こるため、そのための費用なども考慮する必要がある。技術者にとっての課題は、この新しいSANという概念に対して理解が浅いという点だ。勉強しようにも関連書籍は少なく、ケース・スタディなどで学ぶ機会も少ない。

 この問題は、機器提供サイドであるブロケード自身が熟知している。その対策のために、同社はどのような活動を行っているのだろうか?

Short Break: 「MGM MirageのiDCに見るシステム事情」
 今回のカンファレンスの会場にもなったThe Mirage Hotelは、MGM Mirageというグループによって運営が行われている。同グループでは、ほかにラスベガスだけでも「MGM Grand」「Bellagio」「Treasure Island」などの単体で2000室を超える名だたるホテル群を運営しており、全米に拠点を持つ巨大企業だといえる。

  当然、これだけの規模になると、システムだけでかなりのものが要求される。500台のサーバが動作し、17のハードウェア・プラットフォームに21種類のOSが混在している。ホテル各所に1万台以上のターミナル端末が配置されているという。アプリケーション数も1700ほどにのぼる。重要な業務システムとしては、「ホテルの予約管理」「カジノ等の機器管理」「カジノの運営管理」の3系統が挙げられるという。特にこれらの業務システムについては、その性格上、24時間365日の運用が必須となる。そのため同社では、専門のネットワークを設計し、同社iDCで集中管理を行っている。iDCに構築されたSANのネットワークには1日5TBのデータが流れ、1カ月に2TBのデータが増加していっているという。

ネットワーク管理ツールを使って24時間体制で監視を行う、iDC内の監視センター StorageTekのテープ・デバイス。ペタ・バイト級のキャパシティがある


製品ラインアップの拡充と教育プログラム

 SANの導入に初期投資費用がかかるのは、避けては通れない道だといえる。そのため同社では、SAN導入を考えているユーザー企業に対して、「SAN導入後、何カ月で初期投資を回収できるのか」という目安をデータとして提示するようにしているという。ケース・バイ・ケースだとは思うが、おおよそ4〜5カ月という結果が提示されることが多いようだ。いちど初期費用さえ回収してしまえば、あとは管理コスト低減効果が徐々に出てくるのはいうまでもない。

 だが、そのような提案があったとしてもなお、初期導入費用の問題はSAN導入における壁になっているのは確かだろう。同社からはその問題の解答として、エントリー向け製品の提供という選択肢を用意した。ファイバ・チャネルの最新インターフェイスである2Gbpsをサポートした8ポートの低価格スイッチ「SilkWorm 3200」がそれだ。まずは、この製品でSANを試験的に構築し、徐々に規模を拡大……というシナリオを描こうというのだ。

 また、エントリー向けとは逆のアプローチになるが、同社にとって戦略製品としてリリースされたのが「SilkWorm 12000」である。こちらは128ポートを装備した、大規模環境向けの製品だ。なぜ戦略的かといえば、これまで同社では中小規模向けの製品こそ充実していたものの、大規模環境向けの製品ラインは持っていなかったからである。大規模向けのファイバ・チャネル・スイッチの市場においては、マクデータ社が大きなシェアを持っており、今後より拡大するであろうSAN市場をにらんだとき、一刻も早くこの分野で対抗できる力をつけておく必要があったからだ。大規模向けと試験導入のための小規模向け、2つの分野での製品ライン拡充に、同社のSAN市場拡大への意気込みがうかがえる。

世界各国のSANの最新動向についてプレゼンテーションを行う、バイス・プレジデントのJames Lalonde氏

 ここまではコストの話だったが、技術者に対する情報提供の面ではどうだろうか? 同社で国際戦略担当バイス・プレジデントのJames Lalonde氏は「教育でアジアを攻めていく」と話す。同社では、ベンダ中立のSAN教育セミナーであるSAN・Edというプログラムを用意しており、技術者にSAN技術に関するトレーニングを行っている。また、日本市場に目を向けると、「T-MAN(Tokyo MAN)」や「B-CUBE」といったWAN/MANを意識した相互接続検証などを行うSANプロジェクトが実施されている。

 このように、SAN導入への壁を、同社が自ら打ち破ろうという試みを行っているわけだ。これらの潮流は、現在は米国が中心となっているが、対岸である日本にもやがては起こる現象だ。同社では、アジア、その中でも特に日本に潜在的な可能性を見いだしており、その市場規模の拡大を狙っている。Gartnerの調査によれば、現在日本のSANの市場規模は世界の8%にあたるとのことだが、同社では今年中に11%まで持っていくことが目標だという。

 次以降の項目では、同社の日本市場への取り組みや、技術的考察についてまとめてみることにしよう。

「SAN vs. NAS? そんなのは2年前の話題だよ」

 わたしが今回の取材の過程で最もショックを受けたのが、下記にある、同社エグゼクティブへのインタビューで得られたコメントだ。「日本では、NAS(Network Attached Storage)の市場が拡大しつつある。それについてどう考えるか?」と質問したときだった。

「SAN vs. NAS? そんなのは2年前の話題だよ。日本のトレンドは米国の18カ月遅れという話は聞くけど、米国ではWorkgroupからEnterpriseまで、SANがカバーする領域が広がっている」(米ブロケード コミュニケーションズ システムズ 社長兼COO Michael Byrd氏)

 時間切れという理由もあり、Byrd氏にその詳細を聞くことはできなかったが、続いてインタビューを行った前述のJames Lalonde氏に補足の説明をもらうことができた。

「2〜3年前、確かにSANはEnterpriseの領域をカバーするにとどまっていたが、いまではカバーする領域が広がっている。それは、NASに管理とバックアップの問題という致命的な欠点があったからだ。実際、EMCやNetwork Appliance社が提供する現在のNASには、SANとの統合を意識したFC(ファイバ・チャネル)ポートが用意されていたりする。短期的にはいいかもしれないが、長期的に見ればSANのメリットのほうが大きい」(同社 Vice President,International Sales James Lalonde氏)

「SAN vs. NASの構図は2年前の話だね」と社長兼COOのMichael Byrd氏

 私自身のSANに対する印象は、この時点まで「メーカー主導の閉じたテクノロジ」というものだったが、このカンファレンスでの盛り上がりを見るにあたり、「ネットワークと同様にオープンな世界になった」と変化していった。つまり「SANか? NASか?」というのではなく、「SANをいかに導入するのか」を考えるフェイズに到達しつつあるのだ。

 日本では、中小企業の数が多く、ワークグループ・レベルでネットワークを拡張していくという文化もあるため、SANという統合化の動きはフィットしにくいものでは? という考えもあったが、「サーバ5台の環境であれば、SAN導入はペイできる」(Lalonde氏)というように、意外と敷居は低いのかもしれない。前述のSilkWorm 3200のリリースも、それを後押しするものとなるだろう。

「企業のCIOレベルに対して、SAN導入のメリットを積極的にアピールしていく。例えば、SAN導入でどのようなアプリケーションでメリットを享受できるのか、といったことなどだ」(Byrd氏)

 SAN導入への下地は、徐々に整いつつあるようだ。企業でストレージの新規導入や再構築を考えているような方は、いまは関係なくても、後々のことを考えて、ぜひこのあたりの話は押さえておいてほしい。

Short Break: 「高パフォーマンス、スケーラビリティを検証する研究センター」
 1995年に設立された米ブロケードだが、昨年の2001年末に下記の写真にある研究センターを設置。さらにオフィスを拡大した。同オフィスには、他社製機器との接続検証やスケーラビリティの検証を行う実験室のほか、スイッチの設計/開発を行う研究所が設けられている。

ブロケードの研究センター。本社ともにサンノゼ空港から5分以内の距離という、好立地にある 左写真のビル内にあるセンターでは。各社最新サーバ/ストレージが持ち込まれ、接続検証が行われる


iSCSIをどう考えるか?

 最後に、少しだが技術的話題に振ろう。皆さんは、「iSCSI」という技術をご存じだろうか? iSCSIとは、イーサネットなどのネットワーク・インターフェイス経由でサーバ〜ストレージ間のやりとりを行う技術である。つまり、TCP/IPやイーサネットのフレームにSCSIのコマンドを乗せて、サーバから離れた場所にあるストレージ機器を操作しようというものだ。

技術的側面からSANについて語るJay Kidd氏

 iSCSIが2001年後半に発表された当初、まだ実際の製品もなく、その全貌は未知数だったといえる。だが、2002年も半ばにさしかかり、徐々にだが認知されるようになってきた。本カンファレンスにおいても、同社エグゼクティブからiSCSIを意識したコメントが、しばしば聞かれた。

「SANのようにすでに利用できる技術があるのに、iSCSIのような仕様の固まっていない技術を使う理由はない。パフォーマンス上も、専用のインターフェイスを提供するファイバ・チャネルに対して、TCP/IPのオーバーヘッドのあるiSCSIのほうが不利だろう。だが、iSCSIにもメリットはある。それは、ファイバ・チャネルが100km未満という距離的限界があるのに対して、iSCSIではTCP/IPを使っている性質上、距離制限がないという点だ。これは、ファイバ・チャネルが今後解決していかなければいけない課題でもある」(同社 Vice President,Product Marketing Jay Kidd氏)

 ファイバ・チャネルは、OSI参照モデルでいうところの下層レイヤ(おおよそTCP/IP未満のレベル)をカバーする技術である。QoSといった仕組みも、すべてこの下層レイヤで実現している。下層レイヤで処理することのメリットは、細かい制御が可能な点や、その上を流れるデータを選ばないという点である。その半面、距離的な制限が厳しくなる。TCP/IPのようなネットワーク・プロトコルが上位レイヤで通信品質を保証しているのは、下位レイヤの特性に依存しないためでもあるからだ。

 SAN陣営に属していないストレージ・ベンダが後押しする規格といってしまえばそれまでだが、iSCSIサイドもそのメリット/デメリットは理解しており、距離の特性や、既存の汎用ネットワーク・インターフェイスが使えるメリットを強調してきている。

 だが、これだけ広まったファイバ・チャネルのインターフェイスが、そう簡単に新しい技術にとって代わられるとは思えない。両者にメリット/デメリットがあり、当面は、それぞれの特性を活かして両立していくことになるだろう。


 今回は、エグゼクティブに対して行ったインタビューを中心に内容を構成してみた。以前、速報として掲載したニュース記事([Brocade Conference 2002開催] SANはもはやストレージのメインストリーム)に、米国でのSANの盛り上がりについてを記したが、その波がいかにして日本にやってくるのか、そのあたりの要点を汲み取っていただければと思う。

 「対岸の出来事」「大規模環境だけでの話」と考えていたSANが、徐々にだが広く一般にも浸透しつつある。現在は直接影響がなくても、その波をあらかじめ理解しておくことは重要だろう。

 近々、これらSANの基礎技術や構築技法、最新トレンドについてまとめたものを、記事として掲載していく予定だ。企業のITにかかわる方々に、少しでも参考にしていただければ幸いである。

「Master of IP Network総合インデックス」

 



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