特集:総務省が公表するWiMAX規格のチェックどころ(後編)
2007年、いよいよWiMAX始動か?!



2007/1/23
原 孝成
ノーテルネットワークス


先月公布された2.5GHz帯で運用される、広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)の技術条件を見てみよう。

 どうなった事業者向けヒヤリング

 2003年10月に総務省より周波数の再編方針が発表され、移動通信システム用に2.5GHz帯を確保するよう再編が検討されて以降、ワイヤレスブロードバンド推進研究会、広帯域移動無線アクセスシステム委員会での議論を経て、2006年12月に広帯域移動無線アクセスシステム(以下、BWAシステム)を2.5GHz帯で運用する際の技術条件が公布された。

 BWAシステムとしては、国際標準化が進んでいるなどの理由からWiMAX (IEEE 802.16)、MBTDD Wideband (IEEE 802.20)、MBTDD 625k-MC (IEEE 802.20)、次世代PHSという4つの方式について、調査検討が行われた。

 これらの技術を利用することで、自宅でインターネットに接続するのと同じ環境が、屋外において、しかも移動しながら利用できるようになる一方、ブロードバンド網の整備が行き届いていないブロードバンド・ゼロ地域においては、ADSLやFTTHに次ぐブロードバンド回線として期待されている。

 12月5日には総務省により「BWAカンファレンス」という公聴会が行われ、総務省は14社・団体から2.5G帯の利用方法や事業者として満たすべき要件に関する意見を聞いた。ここでの意見を実際の免許方針の参考にすることになっている。計画されている無線方式としては、ウィルコムが次世代PHS、ソフトバンクがまだ検討中と回答したが、それ以外の12社・団体はWiMAXを使いたいと回答した。

 総務省は来年の夏ごろに事業者を決定するとしているが、ここでかなりの確率でWiMAX事業者が選ばれることになり、早々にインフラ整備が始まり、早ければ2008年にも2.5G帯を使ったWiMAXの商用サービスが開始されることになるであろう。2007年はそういった意味で、2.5GHz帯のWiMAX事業者が決まり具体的に動き出す節目の年になるといえる。

総務省 報道資料 : BWAカンファレンスの結果

 前編では、総務省でのWBA技術に関する検討の状況、サービスイメージ、WiMAXの標準化の動向、国内・国外事業者のWiMAXに関する活動やトライアルなどについて解説した。今回は、BWAシステム委員会報告(案)とBWAカンファレンスでの討議内容を中心に、決まりつつある国内WiMAXサービスの技術条件とその内容について解説し、さらにもう少しWiMAXのシステムや技術そのものについても説明して、BWAサービスに向けた免許の方針やスケジュールについても言及する。

 難産だった?! 技術条件

 当初、BWAシステムへの割り当て周波数は、2535MHzから2605MHzまでの70MHzの帯域幅が利用可能であるとされていたが、隣接するバンドでの利用が見込まれていた準天頂衛星システムの導入が見直されたことにより、最終的には2535MHzから2630MHzまでの計95MHzの帯域幅を対象に技術条件が検討された。

図1 2535MHzから2630MHzまでの計95MHzの帯域幅が検討対象

 総務省の情報通信審議会として、2006年3月から12月12日(火)まで4回の広帯域移動無線アクセスシステム委員会が開かれ、最後の第4回では委員会報告の案が示された。内容については下記の資料を参照いただきたい。

総務省 : 情報通信審議会広帯域移動無線アクセスシステム委員会報告(案)の概要
総務省:広帯域移動無線アクセスシステム委員会報告(案) *注:第3回委員会での案

 ここではBWAシステムへの要求条件として、下り/上り最大伝送速度、周波数利用効率、ハンドオーバー機能が対応できるスピードの程度(モビリティ)について調査、検討された。また、N-Star(NTTドコモの衛星電話サービス)システムとモバイル放送に対して、周波数帯の干渉を避けるために必要なガードバンド、またBWAシステム内で使われる各無線アクセスシステム間で必要なガードバンドが検討された。検討課題については下記の資料にまとめられている。

総務省:広帯域移動無線アクセスシステム委員会技術的条件作業班 検討状況報告

 要求条件については、WiMAXを含む提案されている4つの方式すべてについて条件を満たしていることが確認された。下記の図は総務省が前述した公聴会に用意した情報通信審議会広帯域移動無線アクセスシステム委員会報告(案)の概要からの抜粋である。

1. 3Gおよび3.5Gを上回る下り伝送速度(HSDPAの最大伝送14.4Mbps/5MHzに鑑みると、最大伝送速度20〜30Mbps程度以上)及び上り伝送速度(HSUPAの最大伝送速度5.7Mbpsに鑑みると、最大伝送速度10Mbps以上)
2. 3G及び3.5Gを上回る高い周波数利用効率(セクター内平均スループット0.6〜0.8bps/Hzに鑑みると0.8bps/Hz以上)
3. 中速程度以上のモビリティ

について、調査対象となっている4方式

・WiMAX
・MBTDD-Wideband
・MBTDD 625k-MC
・次世代PHS

のいずれについても、提示された要求条件を満たすことが確認された。

図2 要求条件に関する結論
出典:総務省 情報通信審議会広帯域移動無線アクセスシステム委員会報告(案)の概要



前編へ
目次:2007年、いよいよWiMAX始動か?!
<page1> どうなった事業者向けヒヤリング/難産だった?! 技術条件
  <page2> BWAに対する要求条件/BWAシステムのライセンスはいくつ出るか?/3Gシステムとの比較
  <page3> 無線LANとの比較/WiMAXシステムの構成要素
  <page4> WiMAXでのMVNO/WiMAXに募る今後の期待/WiMAXの機能拡張 〜802.16j、802.16m〜

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