オープンソースで実現する柔軟なルータ
Vyatta――クラウド時代の仮想ルータ活用術:導入編

松本直人
日本Vyattaユーザー会 運営委員
さくらインターネット研究所 上級研究員
2010/11/22

オープンソースソフトウェアを集めて作られたルータ「Vyatta」は、ルーティングやファイアウォールといった機能を、既存のハードウェア一体型ルータには実現しがたい柔軟さで提供します(編集部)

 Vyattaとは何か?

 Vyattaは「ビアッタ」と発音し、サンスクリット語で「オープン」を意味する言葉です。その名のとおり、オープンソースを集めて作られたルータソフトウェアで、北米のVyatta社がディストリビューションを管理・運営しています。

 Vyattaには、「VyattaCore」と呼ばれる非商用版と、「Vyatta Subscription Edition」と呼ばれる商用版があります。オープンソースを使って作られたコアコンポーネントはいずれも共通です。最近、日本にもユーザー会が発足し、注目が集まりつつあります。

【関連リンク】
Vyatta
http://www.vyatta.com/
日本Vyattaユーザー会
http://www.vyatta-users.jp/

 VyattaCoreが持つ基本機能には、ルーティング、ファイアウォール、NAT、VPN、IPS、URLフィルタリング、QoS、WAN負荷分散、IPv6対応などがあります。既存の商用ルータが備えている機能はほとんど最初から入っているといっていいでしょう。

 商用版と非商用版の違いは、サポートの有無です。それ以外に大きな要素として、商用版ではWebフィルタやIPSシグニチャ、アンチウイルス、TACACS+、VPNクライアント・マネージャー、WAN/シリアル・ドライバと管理用Remote Access APIを備えるなど、機能面の違いもあります。必要とする機能と用途に応じて選択するといいでしょう。

図1 Vyattaのアーキテクチャ

 非商用版であるVyattaCoreのライセンスでは、利用用途を限定していません。誰でも自由に利用可能です。ただしサポートを必要とする場合には商用ライセンスを取得し、Vyatta社からの支援を受ける形が望ましいでしょう。

 またVyatta社では、コミュニティによる活動を支援するサイトとしてwww.vyatta.orgを設けており、ここでユーザー同士の交流ができるようになっています。また日本には日本Vyattaユーザー会があり、メーリングリストでは日本語でのやりとりを行うことができます。どうぞご活用ください。

 Vyattaの中身を理解する

 VyattaはOSディストリビューションにDebianを採用しており、その上にルーティングデーモンである「Quagga」、ファイアウォールやNATとして動作する「iptables」、IPSやURLフィルタリングを行う「Snort」といったオープンソースソフトウェアを組み合わせて構成しています。

 しかし、これらを一元管理するコマンドラインユーザーインターフェイス(CUI)などは独自に作られています。これによって、通常のLinuxとオープンソースで構成したシステムに比べ、格段に管理性が高まっている点が特筆すべきポイントです。

 Vyattaのシステムイメージは通常のLinuxに比べても非常に小さく、利用環境に応じたメモリやハードディスクなどが選択可能になっています。またCUIも非常に洗練されており、Linuxなどのサーバを扱ったことのないルーティング専門のネットワークエンジニアにも親和性が高い点も、メリットとして挙げられます。Vyattaのコマンド体系は標準的な商用ルータとほとんど同じで、この体系さえ覚えておけば、Linuxなどのサーバ環境技術を深く理解せずともシステムを管理できます。

 また逆に、ベースとなるOSディストリビューションがDebianであるため、Linuxサーバなどの知識があるエンジニアであれば、Debianで管理されているすべてのパッケージソフトウェアをインストールして利用可能です。

$ configure
# set system package repository lenny components main
# set system package repository lenny url http://cdn.debian.net/debian
# set system package repository lenny distribution lenny
# commit
# save
# sudo aptitude update
# sudo apt-get install vnstat   ←必要とするパッケージのインストール

# sudo vnstat -l -i eth0          ←インストールしたソフトウェアの起動
Monitoring eth0...      (press CTRL-C to stop)

rx:      12.91 kB/s    44 p/s      tx:      44.25 kB/s    51 p/s
通常のLinuxと同じようにパッケージのインストールを行える

 既存ルータ製品との違いとは?

 さて、Vyattaと既存ルータ製品との違いとは何でしょうか。最も大きな違いは、仮想マシンイメージなどが最初から用意され、クラウドコンピューティング環境に適していることです。

 Vyattaはオープンソースで作られたルータ「ソフトウェア」ですから、XenやVMwareなどのハイパーバイザ上で用いることができます。

 これに対し既存ルータ製品の場合、たいていはハードウェアと一体で提供されています。性能や価格はモデルにより固定化され、ネットワークごとに機器を用意する場合には、その数が膨大になります。Vyattaならば、そうした問題に直面することはありません。

 クラウドコンピューティングの代表的な使われ方であるIaaS(Infrastracture as a Service)では、仮想マシンはセグメント単位で自由に構成され、そこに必要とされるルーティング機能やファイアウォール機能も、大小さまざまな形を取ります。これらを考えたときに、仮想マシンイメージで提供されるVyattaは非常に使い勝手がよく、また設置場所を選ばないため効率がよいのです。

 

SVyatta――クラウド時代の仮想ルータ活用術:導入編
  Vyattaとは何か?
Vyattaの中身を理解する
既存ルータ製品との違いとは?
シンプルなVyattaの導入方法
ルータとしての基本設定
NATやDHCPサーバとしての設定
「Master of IP Network総合インデックス」


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