無線インターフェイスの観点からひもとく裏側
携帯向け緊急地震速報が輻輳しないワケ

無線にゃん
2011/6/17

CDMA2000(3GPP2)における緊急地震速報配信

 CDMA2000での緊急地震速報の通知には、Broadcast SMS(BC-SMS)というCDMA2000の標準技術が使われています。この技術も、W-CDMAのCBSと同じように、同一エリア内に同一の情報を一斉配信できる仕組みです。

 BC-SMSはCDMA2000のページングチャネル(PCH)下り共通制御チャネル(Forward Common Control Channel:FCCH)、あるいはブロードキャスト制御チャネル(Broadcast Control Channel:BCCH)のいずれかを使って送信されます。

 具体的には、PCH、FCCH、またはBCCHの特定のスロット(タイミング)を同報チャネルとして使い、ここにブロードキャストアドレス宛てのデータを送信することで、全端末に同じメッセージを届ける仕組みです。

2タイプの実装方法

 これを届ける手順としては、大きく分けて2つの実装が可能です。

 まず1つ目の方法は、あらかじめ拡張システムパラメータメッセージ(Extended System Parameters Message:ESPM)によってブロードキャスト用スロットを指定し、対応した全端末が常時そのスロットをモニターすることによって、随時BC-SMSを届けるチャネルを確保しておく方法です。

 W-CDMAの1つ目の方法と同じく、最も高速にデータ受信が可能です。その半面、端末では自身に割り当てられたページング用スロットとは別に、ブロードキャスト用スロットも常時モニターしなければならないため、端末のバッテリ消費が増えてしまうという問題があります。また、電力消費を抑えるためにブロードキャスト用スロット間隔を十分に長くすると、緊急地震速報に必要な即時性が失われるという問題が生じます。

 2つ目の方法は、BC-SMSのための特殊なページングメッセージを、すべてのページング用スロットに送信する方法です。この特殊なページングメッセージには、それがBC-SMSの通知であることを示すビットと、ブロードキャスト用スロットを決定するインデックスが含まれており、端末はその情報を元にブロードキャスト用スロットのモニターを開始してBC-SMSを取得します。

 この方法では、端末の消費電力は小さく保つことができますが、最初のページングからブロードキャスト用スロットまでは一定間隔を空けなければならないため、速報性はやや低下します。

 CDMA2000では、各基地局にBS-SMSを配信する役割を交換局(MSC)が担います。MSCから基地局へのBC-SMS情報の通知には、通常のページングと同じ手順とメッセージを使います。基地局は、あらかじめ別の手段で、上記いずれかの方法でBC-SMSを送信するように設定されています。そして、MSCがBC-SMSを送信する標準化されたコマンドを基地局に送付すれば、基地局は自動的に一斉ページングとブロードキャスト用スロットでのBC-SMSデータ送信を開始します。

図2 CDMA2000(3GPP2)における緊急地震速報配信の手順

 以上を組み合わせることで、CDMA2000での緊急地震速報が実現します。WCDMAのCBSと同じく、BC-SMSも一般のメッセージ通知用システムですので、通信事業者が緊急地震速報を表すフォーマットを定義して、ネットワークと端末の仕様として作り込んでおく必要があります。気象庁の発した緊急地震速報信号を受けたコアネットワークはその既定のフォーマットでBC-SMSデータを作成し、対象都道府県のMSCを通じて配信します。

 これで自動的に、全基地局においてBC-SMS情報を含んだページングが一斉送信されます。それを受信した端末は、BC-SMSデータのフォーマットを解析して、あらかじめ決められた形式であれば、緊急地震速報の鳴動を開始します。

 CDMA2000を採用した通信事業者のほとんどがLTEへのマイグレーションを宣言しており、そういった事業者ではデュアルモード端末であっても、原則はLTE待ち受けとなることから、今後の緊急速報はやはりETWSベースとなっていくでしょう。

LTE(3GPP)における緊急地震速報配信

 LTEでは、当初から日本の携帯電話事業者(ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど)を中心としたグループにより緊急地震速報のための仕組み作りが進められ、緊急災害速報専用の地震津波警報システム(Earthquake and Tsunami Warning System:ETWS)が設けられました。世界的にこういった要求が高まってきたことに加え、日本で現実のサービスとして緊急地震速報が運用されてきた実績が、この仕組みを専用のシステムとして国際標準化する大きな後押しとなったといえます。

 LTEでは、W-CDMAで複雑化してしまった方式とは対照的に、ページングメッセージにETWSを示すビットを付与し、また、実際のETWSのメッセージ内容は専用のチャネルを使わず共通の報知情報内のシステム情報10番(SIB10)およびシステム情報11番(SIB11)で届けるように改良されました。

 ETWSの手順では、まず、緊急情報を受信した対象エリアの移動管理装置(MME)が、基地局に対し警報情報の通知を行うことで手順が始まります。この通知を受信した基地局は、他のあらゆる処理より高い優先度で、ETWSを示すビットを付与したページングメッセージを全端末に同報送信します。同時に、SIB10に第一通知(Primary Notification)を、SIB11に第二通知(Secondary Notification)をセットし、本来報知情報の変更が許可されたサイクル以下で例外的に更新して送信を開始します。

図3 LTE(3GPP)における緊急地震速報配信の手順(※SIB11が3セグメントにセグメンテーションされている場合)

 ETWSを示すビットが入ったページングを読み取った端末は、即座にSIB10とSIB11の読み込みを開始します。SIB10はセグメンテーションの起こらない短いメッセージであるため、1回の報知情報通知サイクル内で全情報を受信完了できます。よって、第一通知は非常に短い時間内に全情報が端末に届くことになります。

 SIB11はセグメンテーションが許された長いメッセージであるため、メッセージ全体を受信してデコードができるようになるまではやや長い時間がかかります。その代わり、第二通知は最大9600オクテットを含めることが可能です。すなわち、「高速の第一通知、詳細の第二通知」という二段構えとなっています。

 LTEでは、通信中の端末も必ずETWSの有無を常時確認しなければならないと規定されているため、通信中であっても遅延のない通知が可能です。

 また、SIB10や11を無線上にどのように配置するかも、事業者がある程度自由に決められます。実際の国ごとの発報システムやネットワークの要求に合わせつつ、速報性と情報量に合わせて各自業者が最適な配置をチューニングするといったことも可能です。今後LTEや対応リリースのW-CDMAを導入する国では、お国柄に合わせた地震速報の導入もできるでしょう。

どの国でも緊急地震速報を受け取れる時代も?

 以上見てきたように、どの通信方式でも、端末からネットワークへ向けて信号を発信することなく何らかの情報を伝える手段が用意されており、それをうまく使うことで緊急地震速報を実現しています。

 これにより、基地局を含むネットワークノードは、エリアごとに一度の送信方向の処理を行うだけで、そのエリア内に端末が何台存在しようとかかわりなく速報を届けることができ、速報そのものや他の重要な通信に輻輳を発生させることなく大量配信を可能にしました。また、LTEでは特に緊急地震速報のためだけのシステムが形作られ、単に輻輳しない一斉同報を実現するだけでなく、その速報性を確保しつつ、情報の精度を時間とともに順次高める仕組みも組み込まれました(注2)。

 日本のように、これだけ広域に渡って非常に高度な観測網を配備し、なおかつ秒単位で速報を全国に配信している例はまだほかにありません。しかし、メキシコでは特定の海底断層の破壊に連動してメキシコシティなど特定地域に速報を発報する公共サービスを開始していますし、他の国でも日本型のメッシュ観測網による試験サービスを開始・拡大するなど、携帯電話システムの対応に呼応するように、緊急地震速報システムの開発が活発化してきました。

 まだETWS方式とそれに対する動作はオプション扱いですが、世界的に速報システムが一般的になれば、必須機能として組み込まれるようになることも十分に考えられます。どのグローバルモデルを使っていても、どの国に行っても、同じように緊急地震速報を受けられる、というような時代が遠からずやってくるかもしれません。

注2:標準仕様は順次拡張されてきており、またオプションであるため、要求の少ない国で設計されたグローバル端末(スマートフォンなど)や、国内設計でも比較的古い端末では対応できないものもあります(2011年6月現在)。


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「Master of IP Network総合インデックス」


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