【トレンド解説】
ブロードバンド時代の注目技術「CDN」
鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
2002/5/9
■ブロードバンド時代の到来とコンテンツ配信ネットワーク
2001年後半あたりから、8MbpsのADSLやFTTHなど、Mbpsクラスのインターネット接続サービスが続々と登場している。数年前までISDNの64kbpsが当たり前だった時代を考えれば、驚くほどの進化だ。
まさに日本にブロードバンド時代が到来した、というところだが、そのメリットを考えれば「ダウンロードが速くなった」「Webページがストレスなく開ける」といった、従来までのWebの利用形態の延長レベルである。アイデア的には月並みかもしれないが、ストリーミングによるインターネット放送局や、映画などのオンデマンド配信など、Mbpsクラスの回線速度をフルに必要とするコンテンツが整備されてこそ、真にブロードバンド時代が到来したといえるのではないだろうか。
だが、実際にコンテンツ提供者サイドから見てみると、いろいろ技術的な壁が、サービス提供を難しくしているのだ。利用者サイドのアクセス回線が広帯域化して、大容量コンテンツへのアクセスが集中すると、こんどは提供者側のサーバのレスポンスや、インターネットのバックボーンといった部分に“破たん”が起きてしまう。その理由としては、通常のWebアクセスだと、利用者ごとにコネクションが張られることになり、総利用者分の帯域を消費してしまうからだ。また、コンテンツ提供をビジネスとして成立させるために、課金(とそれにともなう回線品質の保証)などの処理をきちんと行わなければいけない。
そこで現在注目を集めているのが、「CDN(Contents Distribution Network もしくは Contents Delivery Network)」と呼ばれる仕組みである。コンテンツ配信用のネットワークを整備し、ボトネックをなくすことで、コンテンツ配信によるビジネスを行っていこうという試みだ。今回は、このCDNの仕組みと現状について、その概要を紹介する。
■CDN(Contents Distribution Network)は複数技術の集合体
CDNというと、あたかもコンテンツ配信を効率的に行うためのある1つの技術のように思われるかもしれないが、実際には、いくつかの既存技術をうまく組み合わせることで、コンテンツ配信のボトルネックを解消する仕組みを提供する、複数技術の集合体のことなのである。ライブ配信向けやオンデマンド配信向けなど、用途に応じてネットワーク構築の仕組みは異なってくるが、主に次の技術が中核として利用されている。
- キャッシュ技術
- ルーティング技術(IPマルチキャストなども含む)
- ユーザー/コンテンツ管理、著作権管理、課金処理
映像コンテンツのストリーミング配信においては、広帯域を必要とするコネクションが比較的長時間にわたって張られることになる。Webサーバで従来まで行っていたような、ある特定のサイトに皆が同時にアクセスするような方式では、コンテンツに同時にアクセスできるユーザー数は、おのずと限られてしまうことになる。そこでCDNでは、ダウンロード・サイトがミラー・サーバを用意しているように、中継となるサーバを複数配置することで、特定のサイトにアクセスが集中しないように工夫している。では具体的に、CDNの仕組みを見てみよう。
■CDN JAPANのネットワーク構成例
CDNの仕組みについて、CDN JAPANが提供しているコンテンツ配信ネットワークの例を紹介することにしよう(参考資料:「ブロードバンド時代を切り拓くか!? CDN JAPANが稼働開始」)。CDN JAPANが提供するネットワーク構成は、下の図1のようになっている。
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| 図1 CDN JAPANのコンテンツ配信ネットワーク |
この例では、IIJが提供するHSMN(High-Speed Media Network)と呼ばれる専用のネットワーク上にあるiDCに、コンテンツ配信用のサーバが配置されている。コンテンツの利用者は、このHSMNに接続されたISPから各コンテンツにアクセスすることになる。
実際のコンテンツ配信までの流れを見てみる。ユーザーは、まず最初にiDC上にあるコンテンツ配信サーバにアクセスを行い、必要な認証を受ける。コンテンツ配信サーバがユーザーを認証すると、ユーザーから見て(ネットワークの)距離的にいちばん近いサーバへと振り分けを行い、実際のコンテンツ配信は振り分けられたサーバから行われることになる。振り分けられるサーバには、あらかじめコンテンツ配信サーバよりコンテンツがダウンロードされている。ダウンロードのタイミングは、(1) コンテンツの更新が行われたとき、(2) 夜間〜明け方などのアクセスの少ない時間帯などいろいろ考えられるが、キャッシュ技術を用いてバックボーンや配信サーバに負荷をかけないというのが、基本的な考え方である。
ネットワーク構成におけるポイントの1つは、この中継のキャッシュ・サーバの配置の仕方にある。この例では、各ISPごとにキャッシュ・サーバが配置されていることが分かる。理由としては、インターネットのバックボーンで全ユーザー分の帯域を確保することは難しいが、ISP内でアクセスが完結するのであれば問題ないからだ(ただし、CATVなどでは全ユーザーで帯域をシェアしているため、この限りではない)。すでにお気づきの人がいるかもしれないが、このサービス形態でコンテンツ配信を受けるためには、自身が契約しているISP内でコンテンツがキャッシングされていることが前提となっている。
また、事前にコンテンツをダウンロードしておくということで、ここで配信されるコンテンツはオンデマンド型のものが中心となる。だが、リアルタイム中継などライブ配信においても、基本的なネットワークの構成はほぼ同じだ。中継となるキャッシュ・サーバが介在し、バックボーンや配信サーバへの負荷を極力低くすることで、多数のユーザーへの同時配信を実現している。
■ビジネス・サイドから見たCDN
CDNの技術的なキモは、中継を行うためのキャッシュ技術や効率的なIPの振り分け(ルーティング)技術にあるのだが、ビジネス的観点から見ると、また違った側面が見えてくる。それが、先ほど中核要素として紹介した「ユーザー/コンテンツ管理」「著作権管理」「課金処理」といった部分である。
ユーザー認証が前提となっているCDNの場合、課金処理やユーザーの属性を把握することは比較的容易である。例えば、18歳未満禁止の映像があった場合、配信コンテンツ選択の時点でユーザーをはじくことも可能である。広告ビジネスの観点からは、「20歳代の女性向け」「東海地方限定」といったように、年齢、性別、地域などの属性を元に、ターゲット配信が可能になるというメリットもある。また、配信サーバ側でユーザーの視聴情報が詳細に入手できるということで、一種のサーベイ・サービスの提供も可能になる。
もちろん、多くのユーザーがコンテンツ配信を利用するようになる、ということが前提なのだが、ブロードキャストを前提とする現在の地上波TVなどに比べ、ビジネス的に大きな可能性を秘めているところが面白い。衛星多チャンネルや地上波デジタルTVなども含め、最終的にはそれぞれが住み分けていく形態にはなると思う。ここで、CDNによるインターネット配信はどのようなポジションを獲得していくのだろうか?
最後に補足だが、CDNは必ずしも映像コンテンツの配信だけに利用されるものではない。同じ内容のコンテンツを、同時に複数(多数)のユーザーに配信するための手段である。例えば、アンチ・ウイルス・パターンの配布などの用途ではどうだろうか? アンチ・ウイルス・ソフトのパターン・ファイルは、年々ファイル容量が増大していっている。もし、CDNを用いてパターン・ファイルの効率的な配布が行えれば、インターネットの帯域の有効活用が可能になるだろう。また、国内各所や世界規模で支店や営業所を持つ大企業などでは、社内向けのイントラネットなどの資料を、CDNを用いて効率的に配信することも考えられる。
アクセス・インフラが整備されつつあるいま、こんどはコンテンツ提供者側の体制を整えることが、性急に求められている。CDNの浸透が、真のブロードバンド時代の幕開けとなることに期待したい。
| 「Master of IP Network総合インデックス」 |
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