【トレンド解説】
最新トレンドとその技術的特長を整理する

続々と実用化の進むラスト・ワン・マイル技術
〜 WiMAX、電力線、3G、MBWA 〜

鈴木淳也
2004/4/23

ISP―オフィス、あるいはISP―ユーザー宅を結ぶネットワーク技術、ラスト・ワン・マイルの接続問題を乗り越えるためのテクノロジが、再び活況を呈している。固定無線で半径約50kmをカバーし、最大で70Mbpsの通信が可能になるWiMAX、電力線をIPネットワーク接続に利用できるようにする電力線インターネット技術の実用化がスタートしている。これらとは逆の発想で移動体通信向けのブロードバンド技術をそのままラスト・ワン・マイル問題に応用しようというMBWAも発表されている。ブロードバンド普及における背景と、それぞれのテクノロジを解説したい。

ブロードバンド普及率50%を目指せ

 2004年2月に、東京電力が総務省に対して、同社の電力網を利用したデータ通信実験、いわゆる「電力線インターネット」のテストの許可申請を行った。それに続く形で、3月には北陸と近畿の方でも2件の電力線インターネットの実験申請が行われている。

 この電力線インターネットは、海外ではPLC(Power Line(Carrier)Communication)やBPL(Broadband over Power Line)などと呼ばれており、電力線の電力送信に使われていない高周波帯域を用いてデータ通信を行う技術のことだ(日本では50〜60Hzが電力の用いる帯域)。既存の電力線をそのまま高速データ通信インフラとして活用できるのが最大のメリットであり、これを応用することで、各家庭やオフィスを電力線を通してネットワーク化することが可能になる。これまで、距離的や地理的な問題からADSL、CATV、FTTHが利用できなかったユーザーに対して、ブロードバンド接続を提供する新しい手段として注目を集めている。

 最近になり、再び活況を呈してきたのが「ラスト・ワン・マイル」という、ISP―オフィス、あるいはISP―ユーザー宅を結ぶネットワーク技術である。実際に利用していると気が付かないものだが、日本はかなりラスト・ワン・マイルのブロードバンド接続では恵まれている国だ。2004年2月に米カリフォルニア州サンフランシスコで開かれたIntel Developer Forumで、米Intelの通信部門のバイスプレジデント・ショーン・マローニ氏は「国内の50%以上のユーザーがブロードバンド化されているのは、世界でも日本と韓国だけである」と説明している。ADSLやCATVによるインターネット技術は欧米から世界へ広まったことから、「欧米の方がブロードバンドで進んでいるのでは?」と考えてしまうかもしれないが、ここ数年で状況は逆転している。日本では高速低価格なADSL接続サービスが広く普及し、FTTHによる光ファイバさえも普通に提供されている状態だ。前出のマローニ氏は「今後5年以内に、世界中の国のブロードバンド普及率を50%以上にする」と意気込んでいる。

 では、どのような方法が考えられるだろうか。まずは、なぜ欧米でブロードバンド接続が普及していないのか、その原因の分析から始めてみよう。特に米国では次の2つの大きな理由により、ブロードバンド接続の普及にストップが掛かってしまった。

  • 国土に広く人口が分散しているため、ADSLのような技術が使えず、仮にインフラを整えても採算が取れない
  • ADSLが盛り上がり始めた1990年代後半に数多くのISPベンチャーが登場したが、バブル崩壊により、それまでの先行投資が災いしてほとんどが倒産。残った有力ISPが料金の値上げに転じた

 日本ではすでに40Mbps超のサービスも存在するADSLだが、この技術は距離による信号の減衰が激しい。通常は2.5マイル(約4km)程度が電話局とユーザー宅の間の限界距離だといわれており、国土の広い米国では、ADSLで賄えるユーザー比率は非常に低い。しかも上記のように、バブル崩壊で生き残った事業者は地域系電話会社などの比較的体力のある大企業であり、一気に料金値上げに転じてしまった。例えば、西海岸のSBC CommunicationsのADSLサービスは1.5Mbpsに50ドルという値段であり(最近になり30ドル代への値下げを発表したようだが)、その高さが分かるだろう。

 その代わりの技術として注目を集めたのがCATVインターネットだ。米国はCATV大国で、ほとんどの世帯にCATVのケーブルが引かれている。一時期、米国では米Time Warnerや米Disneyなどのメディア企業をはじめ、米Microsoftまでもが地域系CATV会社の買収や資本参加を積極的に進めていたが、将来的にCATVによるインターネット接続サービスを見込んでの戦略だった。だが、CATVインターネット提供のための双方向化投資が高コストで、思ったほどには普及が進んでいないのが現状のようだ。Disney買収で騒がれたCATV最大手の米Comcastがベストエフォートで3MbpsのCATVインターネット接続サービスを提供しているが、実際のところ利用可能なのは、都市圏の一部だけのようである。

次々と登場するラスト・ワン・マイル技術

 先ほどのCATVの話でもあったが、ブロードバンド化が進まない理由の1つに、多額の投資とその投資を回収するだけの採算が取りにくいことがある。すでにベンチャー企業が活躍する素地がそがれてしまっているため、価格競争やエリア拡大が進まない。しかも人口の多くが都市圏以外にまばらに分散していると、サービスを提供しても採算ベースに乗せるのが難しい。これは米国、欧州ともに共通の事情だ。日本や韓国と異なる点がここにある。ブロードバンド普及率50%の壁を破るポイントは、下記の2点に集約されるだろう。

  • 都市部だけでなく地方へもブロードバンドを積極的に推進する
  • 投資コストを極力抑えるソリューションの開発

 最近注目を集めるラスト・ワン・マイル技術の数々は、まさにこれらを踏まえたものだ。順番に紹介していこう。

WiMAX

写真 2004年2月に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたIDFでのマローニ氏のプレゼンテーション。WiMAXによるブロードバンド化が進んだ5年後の世界地図。白や水色の場所ほど、ブロードバンド対応が進んでいることを示す

 技術自体は、以前よりすでに商用サービスの開始されている固定無線(FWA:Fixed Wireless Access)と呼ばれるものだ。今回、IEEEによりIEEE 802.16として標準化が進められており、標準規格として低価格化を推進している。

 WiMAXはネットワーク機器などの関連メーカーが集まって作った業界団体であり、実際の標準仕様の作成を進めていることから、この規格自体をWiMAXと呼ぶことが多い。WiMAXの第1世代(IEEE 802.16a)では、30マイル(約48km)を最大70Mbpsで結ぶことを目標としている。

 前出の米Intelのマローニ氏が最も有望とみている技術が、このWiMAXである。WiMAXの利点は、規格の標準化が進むことで機器のコスト引き下げが可能となり、結果として安価にユーザーにサービスを提供できることにつながる点だ。また、都市部ではノイズの影響やユーザーの密集によりパフォーマンスが出ないと指摘されているが、地方であればこの心配がほとんどない。まさに50%の壁を破るのに最適なソリューションだ。日本で適用できるのは山奥などごく一部地域に限られるだろうが、広大な領土を持つ米国や、これから先、中国など巨大国家への展開を考えれば、有用な技術であることが分かる。

 マローニ氏によれば、WiMAXの展開には3段階の普及シナリオを考えており、2005年前半には戸外固定アンテナによる通信、2005年後半には屋内アンテナによる通信、2006年以降はノートPC向けの内蔵アンテナが登場し、半モバイル状態でWiMAXを利用可能になるというものだ。

電力線インターネット(PLC/BPL)

 電力線インターネットは、各家庭やオフィスにすでに敷かれている電力線をインターネット接続に利用するものだ。LAN向けの技術としては、すでに4〜5年前からコンセントにLANコネクタを付けたような商用製品が販売されている(この製品では数百kbps程度の通信速度だったようだ)。後に、HomePlugという業界団体が設立され、最大14Mbpsで通信できるHomePlug 1.0と呼ばれるLAN向けの仕様ができた。現在では、HomePlug AVと呼ばれる1.0に比べ10倍以上の速度が出る規格の策定が行われている。2004年1月に米ネバダ州ラスベガスで開かれたInternational CESの基調講演で松下電器産業の大坪文雄氏は、HD-PLCと呼ばれる170Mbpsで電力線インターネットを構築可能な技術をHomePlug AVに盛り込んでいくことを発表している。

 技術的な面をフォローしていこう。なぜ電力線を通してデータのやりとりが可能になるのだろうか。通常、日本で各家庭に供給される電力は50Hzまたは60Hzだが(地域によって違う)、電力線インターネットでは電気供給に影響の出ない範囲、つまりそれよりも大きな周波数帯の部分を使ってデータ通信を行うものである。ADSLで、可聴範囲の周波数帯を音声通信に割り当て、それより高い周波数帯をデータ通信に割り当てるのと同じ要領だ。だが現在、日本では10〜450kHzの範囲での利用は認められているが、それより広い範囲の利用は許可されていない。最近になり電力系各社が2〜30MHzでの通信実験を開始しているが、各ユーザー当たり数Mbpsのブロードバンド・サービス提供には10〜450kHzでは足りないというのが現状だ。この規制は各国ごとに異なり、すでに広帯域を用いた商用サービス開始が欧米の一部で発表されており、つい先日も韓国でも発表が行われている。

 「規制緩和を進める」のが電力線インターネット利用への第一歩なのだが、そう簡単にはいかない問題がある。電力線は、同軸ケーブルのようなシールド線やイーサネット用のツイスト・ペア・ケーブルのように電波漏れを低減する構造ではなく、しかも光ファイバのようにそもそも電流でデータ通信を行わない仕様でもない。電力線上にデータを流すことで大量のノイズが発生し、該当する周波数帯を使用する通信に多大な悪影響を及ぼすというのだ。電力会社では問題はほとんどないとのリリースを出しているが、アマチュア無線家のHPなどでは「アマチュア無線や短波ラジオなどに多くのノイズが混入する」として、電力線インターネットに反対の声明が出されている。この問題は日本固有のものではなく、すでに商用サービス開始を発表した欧米各国の電力会社近辺に住むアマチュア無線家のHPでも、同様の抗議文を見つけることが可能だ。

 1ついえるのは、日本のような都市密集型の風土に電力線インターネットを展開するのはなかなか難しいということだ。仮に提供ができたとしても、各家庭で電力線上のデータ帯域を共有するため、人口が多いほど不利になる。現実解として、ブロードバンド環境に恵まれている日本では、ADSL、FTTH、光ファイバ+VDSL、もしくはCATVインターネットのようなソリューションが最適だろう。電力線インターネットが向いているのは、インフラに多くの投資をする余裕がなく、人口が密集しておらず、電波の影響も少ないところ、つまりWiMAXと同じく米国などの田舎のような場所ではないだろうか。実際、米国内で電力線インターネット開始を発表した電力会社の米Cinergyは、中西部の非人口密集地帯を拠点としている。

第3世代携帯電話

 上記2つの技術では、いかにラスト・ワン・マイルの問題を乗り越えるかを課題としていたが、逆の発想で移動体通信向けのブロードバンド技術をそのままラスト・ワン・マイル問題に応用しようというのが、同技術だ。

 第3世代携帯電話(3G)は、日本を皮切りに、欧州各国でサービスが開始され始めている。先日には、米国でもAT&T Wirelessが実験サービスならびに、その後の商用化サービスのロードマップを発表している。W-CDMA、CDMA 2000方式のどちらもともに、最終的には基地局1つ当たり、最大2Mbpsのデータ通信を実現することを目標としている。3Gの利点は、高速移動中にも通信が行える点だ。しかもエリア内なら場所を選ばないため、デスクトップ的な用途にも、モバイル的な用途にも応用可能だ。

 利用者側のデメリットとしては、通信速度と料金である。3Gは、もともと基地局1つ当たりのカバー可能な音声通話収容数を上げることを目標としており、データ通信は副次的なサービスだった。だがiモードなどの携帯電話でのデータ通信サービスの人気上昇や、PCユーザーなどのモバイル志向もあり、帯域の空きをうまくデータ通信に振り分けて、効率的に帯域を使用していこうということでサービスが開始された。だが帯域を占有することの多いデータ通信は、多くのユーザーが共用する携帯電話インフラとの相性があまり良くないため、料金引き下げや継続的な利用というのはなかなか難しい。

 日本ではKDDIが定額のパケット通信サービスを発表し、先日はNTTドコモもそれに追随した。だがパケット定額サービスのメリットは速度というよりも、むしろヘビーユーザーに対する料金割引にあるといえる。携帯向けコンテンツ(ショート・メッセージや小型アプリなど)が主眼に考えられている面もあり、PCでの定常的な通信インフラとして利用するのに耐えられるだけの帯域を提供できるかは、まだまだ未知数の部分が多い。そこで登場するのが、次のMBWAだ。

IEEE 802.20(MBWA:Mobile Broadband Wireless Access)

 音声通話やメッセージングが主体の3Gに対し、IEEE 802.20で標準化が進められているMBWAは、PCユーザーなどに広帯域の無線データ通信サービスを提供することを主眼に置いている。IEEE 802.20ワーキンググループのトップページには、「IPデータ転送に最適化された相互互換性のある無線ブロードバンド・アクセス・システムを、ユーザー当たり最大1Mbpsで提供(原文:interoperable mobile broadband wireless access systems, optimized for IP-data transport, with peak data rates per user in excess of 1 Mbps)」「(都市圏で最大250km/hでの車などでの移動をサポート(原文:It supports various vehicular mobility classes up to 250 Km/h in a MAN environment)」と記されている。

 活動開始が2002年末と、まだ動きだして日の浅いワーキンググループのため、実際に形として成果が出てくるのはまだまだ先の話だろう。「3.5GHz以下の帯域で、かつ各国で使用可能な帯域を利用」とあるが、主に3GHz帯でOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を利用するものとみられている。

 MBWAの面白い点は、IPデータ通信に主眼が置かれていることだ。前述のように、現行の第2世代/第2.5世代携帯電話ならびに3Gのシステム設計が、あくまで音声通話や独自プロトコルをベースとしたデータ通信なのに対し、MBWAではVoIPによる音声通話など、IPベースのハンドシェイクを採用することになる。今後考えられるシナリオとしては、携帯電話事業者などがすでに構築したインフラを活用して、3Gサービスと並行してMBWAベースのサービスも、データ通信ユーザー向けに提供していくことだ。3Gとは使用する帯域が変わるため、国の規制によってはMBWAベースの携帯電話事業への参入ハードルが低くなる可能性もある。WiMAXが、サービス事業者として固定電話事業者や新規ベンチャーが名乗りを上げるとみられるのとは対照的な構図になるだろう。

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