【トレンド解説】「モバイルWiMAX」
正式サービス開始をにらみ
モバイルWiMAXに熱視線

高橋 睦美
@IT編集部

2007/8/2
2007年7月18日から20日にかけて開催された「WIRELESS JAPAN 2007」では、携帯電話キャリアやベンダが目指す次世代モバイル通信の一端をかいま見ることができた。中でも、固定ブロードバンド通信並みのスピードを安価に提供できるとして注目を浴びているのがモバイルWiMAXだ(編集部)

離陸準備整うモバイルWiMAX

 携帯電話は全国どこでも利用できるが、データ通信の速度という点で固定ブロードバンドサービスに見劣りがする。一方無線LAN(WiFi)は比較的高速な通信が可能だが、サービスエリアには偏りがあり、地方でのカバレッジはまだまだ不十分だ。これら2つの技術のすき間を埋め、補完するサービスとして注目されているのが、次世代モバイル通信技術の「IEEE802.16e」(モバイルWiMAX)である。

 総務省は5月15日に「2.5GHz帯の周波数を使用する特定基地局の開設に関する指針案」を公表し、モバイル向けに、2つの帯域を全国でサービス展開する移動体通信事業者に割り当てる方針を示した。この通信方式として想定されているのがモバイルWiMAXであり、秋にも正式に事業者が決定し、サービスが開始される見込みだ。これを機に、一気に市場が加速する可能性がある。

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 YOZANでは2005年12月より、4.9GHz帯を用いて法人向けの固定版WiMAXサービスを提供してきたが、2.5GHz帯を用いたモバイルWiMAXサービスの提供も視野に入れている。WIRELESS JAPAN 2007に出展した同社ブースでは、英Airspanと共同開発を進めている「IEEE802.16e-USBデバイス」が紹介された。このデバイスでは前述の2.5GHz、4.9GHzに加え、3.5GHz帯のモバイルWiMAXおよび2.3GHzのWiBroをサポートする。

 YOZANによると、固定型WiMAXサービスは、ほかにも多様なサービスが提供されている都市部よりも、山間部や離島など、ブロードバンド接続が困難な地域でのデジタルデバイドを解消する手段として特に有効だという。

 また、PCだけでなくPDAをはじめとするさまざまなデバイスを高速に接続する手段としても活用でき、WiMAX対応の監視カメラやセンサーネットワークとの組み合わせ、ページャを用いた緊急情報の一斉配信といった利用法も検討されているという。加えてモバイルWiMAXが本格的に展開されるようになれば、市場の様相は大きく変化するとの見通しだ。

 ほかにもイスラエルのWiMAX専業ベンダであるAlvarionは、モバイルWiMAXとMIMO Matrix Bを組み合わせた高速通信のデモンストレーションを実施した。MIMO Matrix Bは、WiMAXフォーラムが策定したモバイルWiMAX Wave 2の柱となる機能であり、スループットをほぼ倍にすることが可能という。

Alvarionブースで紹介されたWiMAXとMIMO Matrix Bの組み合わせ

相互接続性という課題も残る

 しかし、実サービス開始までに解決しなければならない課題も残されている。アルチザネットワークスによると、WiMAXではフレキシブルにさまざまな変調方式を利用できるが故に、トラブルシューティングや解析には困難がつきまとうという。

 そもそも、基地局やクライアント向け端末など基本的な機器の間でも、仕様の解釈に関してずれがあるほか、スケジューリングやアップリンクフレーム送出時のタイミングなどが問題となって通信にエラーが生じることがあるという。

 安定したWiMAXおよびモバイルWiMAXサービスの実現には、こうした問題をつぶしていく作業が欠かせない。米Sanjoleが開発したWiMAXアナライザ「WaveJudge」では、電波強度をはじめとする物理層での解析に加え、Ethrealと同じようにネットワーク構文的な解析も行えるという。

 WiMAXの仕様策定や標準化を進める業界団体WiMAXフォーラムでも、機器の相互接続製検証を重要な課題の1つととらえ、各国で相互接続イベント「Plugfest」を実施してきた。WaveJudgeは、そこで蓄積してきたナレッジを反映したツールになっているという。

スペクトラムアナライザとプロトコル解析の両方を関連づけて行える「WaveJudge」

 その先では、複数の異なるワイヤレス接続方式を、ユーザーがそれと意識することなくシームレスに利用できる仕組みも求められるだろう。

 KDDIでは、この課題に対する解の1つとして「コグニティブ無線」の開発を進めており、同社ブースでデモンストレーションを紹介した。3G携帯電話と無線LANに加え、モバイルWiMAXという3つの方式ごとに通信状況を監視し、最も効率のよい通信方式を自動的に選択する。この結果、限られた資源である電波を有効に活用できるうえ、ユーザーはネットワークの違いを気にせず接続を確保できるというメリットが生まれる。

WiMAXがWiFiと3G携帯電話を補完する――Alvarion副社長

 イスラエルに本拠を置くWiMAXベンダAlvarionの戦略担当副社長、モハンマド・シャクリ氏にWiMAXテクノロジーの今後について尋ねた。同氏はWiMAXフォーラムの立ち上げに携わり、同フォーラムのマーケティング担当副社長も務めている。

――WiMAXの役割は?

シャクリ:WiMAXはワイヤレスブロードバンドソリューションのための標準規格で、2つの方向性がある。1つは、従来のDSLではカバーできなかったエリアに「ワイヤレスDSL」を提供すること。もう1つはモバイルインターネットで、あらゆるコンシューマーが、制約を受けずにブロードバンド接続を享受できるようにするための手段としてモバイルWiMAXがある。

 日本や韓国、米国のように接続環境が整備されている国では、3G携帯電話を補い、持ち歩き可能なインターネットを実現する手段となる。一方新興国の場合は、デジタルデバイドを解消するブロードバンド接続を提供する。いずれの場合も、3G携帯電話や屋内の通信手段として優れているWiFiを補完するものであり、これらを完全に置き換えるものではない。

 今後WiMAXやモバイルWiMAXは、コンシューマー向け機器にも統合されるだろう。例えば、デジタルカメラで写真を撮ったらすぐに、ボタンを押すだけでWiMAXを介してネットワークにアップロードするといったことも考えられる。

――WiMAXによって、これまでとは異なるインターネットの利用法が生まれるのか?

シャクリ:インターネットでは、GoogleやYouTubeといったサービスが生まれ、そこから生まれる取引によって利益を上げているが、デバイス中心のモデルではない。これに対し既存のモバイル通信の場合、事業者のコストの多くがデバイスのコストによって占められている。

 WiMAXでは、デバイス側が対応していれば、ユーザー獲得のコストはゼロになる。その分をユニークなサービスに振り向けることができ、さまざまなチャンスが生まれてくるだろう。WiMAXフォーラムでも、アプリケーションインタフェースの展開やグローバルなローミングの定義といった取り組みを通じて、ユニークなアプリケーションを展開できるようにしている。

――WiMAX市場の今後は?

シャクリ:3〜5年後には市場全体で30〜50億ドル規模に成長すると見ている。いま、世界中の多くの場所で、低コストなブロードバンドアクセスが必要とされている。医療や輸送など、市場ごとに最適化したソリューションを提供していきたい。

 また、端末側ではIntelが取り組みを進めており、ラップトップPCにWiMAXが搭載されるようになれば、モバイルブロードバンド接続を活用する上で大きなてこになる。3G携帯電話とWiFi、WiMAXやモバイルWiMAXという技術はそれぞれ補完し合うものであり、コンシューマーがいつでも、どこからでも、低コストでブロードバンド接続を利用できるようにする。

Alvarionの戦略担当副社長、モハンマド・シャクリ氏

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