連載

サハロフ秋葉原経済研究所

第4回  Windows XPに向けたパワーアップ大作戦
―Windows XPに最適なプロセッサとマザーボードを価格から考える―

デジタルアドバンテージ/監修:サハロフ佐藤
2001/11/27

 秋葉原の片隅、古ぼけたビルの一室。珍しく所長の外神田昌平(そとかんだ・しょうへい)と所員の万世橋太郎(まんせいばし・たろう)が、真剣に仕事をしているようだ。どうも、何かレポートを書いているようだが……

所長: 万世橋君、サハロフ佐藤顧問から届いた今月のプロセッサ価格だが、何かおかしくないか?
万世橋: そんなことないですよ。所長に言われたとおりに集計しましたから。Athlon XP-1900+もデータベースに追加しておきましたけど。
所長: どうも前回に比べて、価格が安くなりすぎているんじゃよ。IntelとAMDの10月下旬の値下げが影響しているのかもしれないが、どうもおかしいなぁ。そういえばAthlon XP-1900+は、11月中旬の時点ではボックス品が出回ってなかったはずだが、この価格はどうやって調べたんだい? 
万世橋: そのボックス品って何ですか? Athlon XP-1900+が「BLK」っていうのしかデータがなかったんで、今回のAthlonはすべて「BLK」ってやつで集計したんですけど。
所長: うっ、これで原因が分かった。万世橋君、君はもしかしてバルクとボックスの違いが分かってなかったのかね。
万世橋: 集計していて、何となく「BLK」って方が安い気はしましたけど、同じプロセッサだし、安い方がいいとか思って。ところで、この「BLK」と「BOX」って何ですか?
所長: 「BLK」がバルク品、「BOX」がボックス品のことなのだが、知らなかったのかね。まずボックス品だが、これは化粧箱に入って、メーカーが保証を行っている商品のことじゃ。まぁ、量販店で販売されているものの多くは、このボックス品ということになるな。一方のバルク品というのは、パーツ・メーカーとかがPCベンダなどに卸した製品が、ショップに並んでいるもののことだ。バルク(in bulk)とは、「大量に」とか「積荷のまま」とかいった意味じゃな。本来は、PC本体に組み付けた状態で販売されるため、マニュアルや梱包などを省いて、まとめてPCベンダなどに出荷されたものが、いろいろな流通経路で小口になってPCパーツ・ショップに並んでいるわけだ。だから、通常はバルク品にメーカーの保証はないし、マニュアルなどもペラ1枚なんていう簡素なものしかないのが普通だ。PCパーツ・ショップによっては、独自に保証を付けたり、デバイス・ドライバなどを添付したりしているので、ユーザーからするとボックス品とそれほど変わりがないように見えるが、メーカーの保証がないことには注意が必要だな。バルク品が普通のボックス品と同様にPCパーツ・ショップに並んでいるのは、秋葉原と大阪の日本橋くらいかもしれんぞ。

バルク品の例
このようにバルク品は、化粧箱に入っておらず、静電防止袋にカードが入っているだけという場合が多い。また、箱に入っていても、箱に製品名などが書かれていない、白箱というものもある。
万世橋: でもそれだけなら、安いだけバルク品の方がいいじゃないですか。PCパーツ・ショップが保証してくれるのならば、メーカーの保証は必要ないだろうし。
所長: そうともいえんぞ。バルク品は、もともとPCベンダなどへ卸すために作られた製品だから、ボックス品とは仕様が異なっていることがある。例えばサウンド・カードなどの中には、ボックス品はS/PDIF搭載が標準だけど、バルク品はアナログ出力のみ、といったものもある。まぁ、この場合はS/PDIFが不要ならば、むしろバルク品の方が安くていいということかもしれんな。だがマザーボードの場合は、同じような製品でありながら、BIOSなどが異なっていて、マザーボード・ベンダから新しいBIOSの供給が行われない、といったこともある。BIOSに不具合があったり、買ってきたプロセッサに対応していなかったりした場合は、困ったことになるな。特に最近は、動作クロックなどもBIOSによって自動的に設定するようになっていて、新しいプロセッサを使うにはそれに対応したBIOSが必要になることもあるから、最新のBIOSが入手できないというのは大問題じゃ。
万世橋: ということは、ハードディスクやメモリみたいに、仕様の変更もできないし、BIOSなども搭載されていない製品ならば、バルク品でもOKってことですよね。
所長: そう早合点されても困る。さっきも言ったように、ハードディスクやメモリもメーカーの保証がない点が重要なんだよ。まぁ、PCパーツ・ショップの中には、いくらかお金を払うと、保証期間を1〜2年に延ばせるところもあるようだが、3〜10カ月程度のところが多いな。短いところだと、初期不良だけの保証で、「動かなかったら1週間以内に交換に来い」というところもあるくらいだ。メモリは、マザーボードやほかのメモリとの相性があって、装着するとシステムが不安定になることもたまにある。すぐに原因が分かればいいが、それこそ特定の条件で不安定になるような場合は、気付くのが遅れるもんじゃ。それに最近のハードディスクは、以前より壊れにくくなってはいるが、それでも半年くらいすると書き込みエラーが多発して壊れてしまうヤツもあるから、ある程度の保証期間はあった方が安心ってもんだ。ワシのノートPCのハードディスクも、「最近、異音がするなぁ」と思ったら、突然ブートしなくなってしまった。早く修理に出さないとならんなぁ、でも保証期間が過ぎているかもしれんなぁ、ブツブツ…
万世橋: しょ、所長、そういえば、Windows XPの発売日前にPCパーツ・ショップでOEM版っていうのを売っているのを見ましたけど、あれってちょっと怪しい気がしたんですけど。
所長: おお、そういえばWindows XPは11月16日発売だったな。だが、プリインストールPCとOEM版は10月25日の出荷だったから、万世橋君が見たのは怪しいもんじゃないぞ。
万世橋: で、そのOEM版っていうのは、バルク品とは違うのですか?
所長: おお、いいところに気付いたな。そもそもWindowsのOEM版とは、PCショップなどが販売している、いわゆるショップ・ブランドのPCにインストールして売るためにマイクロソフトが提供しているものだ。マイクロソフトのサポートは受けられないが、その分Windowsのフル・パッケージよりも価格は安くなっているな。確かに、包装も簡素だし、一種のバルク品ともいえる。ただ、WindowsのOEM版の場合、PCに実装するパーツとともに購入して、そのパーツを実装したPCでのみ動作させる決まりとなっている。OEM版の提供が開始された頃は、マザーボードやハードディスクといったモノと一緒でないとOEM版は購入できなかったが、最近ではフロッピードライブやメモリ、PCパーツ・ショップによっては中古ハードディスクと一緒に売っている例もあるくらいだから、先の決まりは、ほとんど「建前」といえるな。

Windows XP ProfessionalのOEM版
パッケージ版がしっかりした化粧箱入りなのに対して、OEM版はこのように簡易なマニュアルとCD-ROMをビニールでくるんだだけ、という簡素なものとなっている。
万世橋: それこそWindowsはOEM版でもいいんじゃないですか。かなり前になりますけど、Windows 98がプリインストールされているPCを買いましたが、メーカーからWindows 98に関するサポートを受けたことはないですよ。質問の電話もしたことないし。
所長: ある程度Windowsの知識のある人や、近くにそこそこPCに詳しい人がいる場合は、わざわざPCベンダやマイクロソフトのサポートを受けることはないのかもしれないな。まぁ、そういう人はOEM版を買うのもいいかもしれない。でも、「建前」になっているとはいえ、ライセンス上は一緒に購入したパーツを実装したPCにインストールすることになっているから、別のPCにインストールし直すときには、そのパーツも一緒に移動させないとならないぞ。まぁ、機能的には、OEM版とフル・パッケージ版はほぼ同じだから、お買い得といえばお買い得といえるな。

製品 タイプ パッケージ版の推定小売価格 パッケージ版の実売価格 OEM版の実売価格
Windows XP Professional 通常版 3万5800円 3万3300円 2万3000円
アップグレード版 2万3800円 2万1300円
特別アップグレード版 1万5800円 1万4000円
Windows XP Home Edition 通常版 2万5800円 2万3200円 1万5500円
アップグレード版 1万3800円 1万2100円
Windows XPのパッケージ版とOEM版の価格
「パッケージ版の推定小売価格」はマイクロソフトが「Windows XP発表のニュースリリース」で公表している推定小売価格で、「パッケージ版の実売価格」は11月16日調査の平均価格だ。「OEM版の実売価格」はPCパーツ・ショップでの256Mbytes PC133メモリ付きの平均的な価格(編集部で独自に調査したもの)。
万世橋: つまり、目的や用途、予算などを考えてバルク品とボックス品を選べばいいということですね。マウスやキーボードのように消耗品に近いような製品は、むしろバルク品の方が得かもしれませんね。PCパーツの世界は奥が深いなぁ。
所長: やけに優等生的な発言じゃのお。と、バルク品とボックス品の違いが分かったところで、プロセッサの価格をボックス品で再集計してくれたまえ。万世橋君の相手をしておったら、えらく時間が経ってしまったじゃないか。早くレポートを仕上げないと、今月の給料が払えなくなるなぁ。
万世橋: 所長、それは勘弁してください。今月の給料で新しいハードディスクを買うつもりなんですから。ハードディスクの場合、保証があるとはいえ、ボックス品って高めですよねえ。やっぱりバルク品の方が得なのかなぁ、所長どう思います?
所長: やっぱり今月の給料はナシじゃな。すぐに再集計して、ワシのレポートを読んで勉強しなさい!
 

 次ページより、所長の書いていたレポート「Windows XP時代に向けたプロセッサとマザーボードの価格動向について」をお届けする。Pentium 4ならびにAthlon XPのコストパフォーマンスの高い動作クロック、チップセット別のマザーボードの価格などを分析した。Windows XPの導入を機に、システムの変更を考えている人はぜひとも参考にしていただきたい。

 

 INDEX
  連載]サハロフ秋葉原経済研究所
第4回  Windows XPに向けたパワーアップ大作戦
    1.世代交代のまっただ中にあるプロセッサ
    2.マザーボード価格の分類から動向をチェック
    3.PCシステム全体を考慮したパーツ選択を目指す

「連載:サハロフ秋葉原経済研究所」


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