CD-Rの信頼性を高めるテクノロジ「Just Link」を検証する

2.バッファ・アンダーランはもはや過去のものに


デジタルアドバンテージ/澤谷琢磨
2000/11/10

 前述のようにJust Link機能を備えたCD-Rドライブならば、その構造上バッファ・アンダーランによる書き込みエラーが発生しないはずだ。そこで故意にではあるが、現実にあり得る範囲内でバッファ・アンダーランが発生するような状況を作り出し、Just Linkの効果とその応用方法を探ってみた。テストに使用したのは、最大12倍速書き込みが可能なリコーのCD-R/RWドライブ「MP9120A」である。

 結論を先に述べると、Just Link機能を有効にしている限り、MP9120Aでのバッファ・アンダーランによる書き込みエラーの発生は確認できなかった。Just Linkはバッファ・アンダーランによる書き込み失敗を確実に回避できるため、これまでCD-R/RWドライブにつきまとってきた運用上の制限を大幅に緩和できることが分かった。

テストに使用した機材

 簡単にテスト用の機材の説明をしておこう。CD-R/RWの書き込み用PCとして、表の構成のPCを用意した。2000年11月現在では、高性能なPCとはいえなくなっている。CD-R/RWドライブのMP9120Aは、セカンダリIDEのマスターとして接続した。なおMP9120Aは、ATAPI接続のCD-R/RWドライブであり、ATAインターフェースのバスマスタDMA転送の有効/無効が書き込み性能に大きな影響を与える。しかし、今回はあえてバスマスタDMA転送を無効にし、PIO転送モードで実験を行った。一部のプラットフォームで、バスマスタDMA転送が安定していないことがその理由だ。なお、テスト機のチップセット(Intel 82801AA)はバスマスタDMA転送を有効にしても安定して書き込みできるため、参考のためバスマスタDMA転送を有効にした状態でも測定を行い結果を併記した。

 また、テスト時の状況を極力同一にするため、1回書き込みが終了するごとに、毎回再起動を行っている。JustLinkの動作回数(バッファ・アンダーランが発生してJust Link書き込みが使われた回数)は、B's Recorder GOLDの報告した値を記録した。

 
プロセッサ Intel Celeron-533MHz
マザーボード ASUSTek MEW-AML
チップセット Intel 810
ディスクコントローラ Intel 82801AA(Ultra DMA/66対応)
メイン・メモリ 64Mbytes
グラフィック チップセット内蔵(ディスプレイ・キャッシュはなし)
ハードディスク Ultra ATA/66対応の15Gbytes IDEハードディスク (IBM DJNA-351520)
ネットワーク 10BASE-T/100BASE-TXイーサネット(オンボード/Realtek RTL8139)
OS Windows 2000 Professional+Service Pack 1
画面の設定 1024×768ドット、6万5536色、リフレッシュ・レート60Hz
テスト機の構成

テスト1:書き込みしながらワードプロセッサ起動

 CD-Rへの書き込み作業を行いながら、同時に別のアプリケーションを実行することはタブーとされている。アプリケーションでの作業中にハードディスクへの書き込みや読み出しが発生すると、CD-R/RWドライブへのデータ転送が阻害され、バッファ・アンダーランの原因となるためだ。特にアプリケーションの起動は、ディスク・サブシステムに高い負荷をかけるため、書き込みエラーを引き起こしやすい。そのため、CD-Rをよく利用する企業などでは、ほかのアプリケーションと併用せずに済むように、CD-R専用のPCを作り、CD-Rの書き込みにしか使わないようにしているくらいだ。

 しかしMP9120Aならば、例えば書き込み中にMicrosoft Wordを起動しても、Just Link機能によって、バッファ・アンダーランによる書き込みの失敗は未然に防止されるはずだ。具体的なテストとしては、合計600MbytesのファイルをCD-Rにオンザフライ書き込みしている途中で、Microsoft Word 2000を起動し、文書編集作業を行った。

 実験結果は以下のとおりである。

書き込み速度 MP9120A、Just Link有効 MP9120A、Just Link無効
12倍速 ○(○) ×(×)
8倍速 ○(○) ×(○)
4倍速 ○(○) ○(○)
テスト1の実験結果
表中、カッコ内はIDEのバスマスタDMA転送を有効にした場合の測定結果である。バスマスタDMA転送を有効にすると、転送速度やCPUの負荷に余裕が生じるため、8倍速でもJust Link無効でも書き込みに成功した。また、バスマスタDMA転送を有効にしている状態では、CD-R書き込み中、ほかのアプリケーションの動作が明らかに軽快になった。

 これを見ると、4倍速書き込みの場合、Just Linkを無効にしても書き込みに成功している。テスト機のスペックで4倍速書き込みならば、Word 2000の起動程度ではバッファ・アンダーランは起きない。一方、4倍速を超える速度では、Just Link機能を無効にした状態では、確実に書き込みエラーが発生した。つまり、書き込み速度が速いほどJust Linkの効果は高く、特に性能が低いPCで効果的なのが分かる。CD-Rの書き込み中でも、Word 2000のレスポンスは良好であった。バッファ・アンダーランが発生しないのであれば、Word 2000で作業しながらCD-Rを書き込むことも可能だろう。

テスト2:ネットワーク経由の書き込み

 サーバ上に保存されているデータの一部をバックアップしたり、サーバからほかの場所へコピーするための手段としてCD-R/RWを用いることは多い。この場合は、ネットワーク上にCD-R/RWドライブ専用のPCを用意して、CD-Rへ書き込みたいサーバ上のファイル群からいったんCDイメージ・データをそのPCのハードディスク上に作成してから、実際にCD-R/RWドライブへ書き込む、という手段が一般的だ。

 これは、通常のイーサネットでは転送速度は一定せず、オンザフライによる書き込みでは、最低限必要な転送速度が保証されないためだ。特に10BASE-Tでは、転送レートは最良の状態でも7M〜8Mbit/sが限界で、12倍速CD-Rの書き込み速度(1800Kbytes/s = 約14Mbit/s)の半分程度でしかない。つまり、確実にバッファ・アンダーランが発生する条件にある。

 だが、Just Link機能を備えたMP9120Aならば、サーバ上のデータを直接オンザフライでCD-Rに書き込んでも、書き込みエラーは発生しないはずだ。図はテスト環境の構成を示している。

テスト2の構成
図のように10BASE-TXのネットワークでサーバとCD-Rドライブを搭載したPCを接続して、サーバ上のデータをオンザフライで書き込みを行った。実験では他のPCがネットワークに接続されていない状態のため、Just Linkを無効にした状態でも4倍速書き込みが可能であったが、実際には他のPCがネットワークを占有してしまうといったことも起きるのでJust Linkを無効にした状態では、速度によらず安定した書き込みは難しいだろう。
 
書き込み速度 MP9120A、Just Link有効 MP9120A、Just Link無効
12倍速 ○(○) ×(×)
8倍速 ○(○) ×(×)
4倍速 ○(○) ○(○)
テスト2の結果
表中、カッコ内はIDEのバスマスタDMA転送を有効にした場合の測定結果である。バスマスタDMA有効/無効時の結果は変化がないように見えるが、Just Linkが働いた回数に大きな差が発生した。

 表のJust Link機能を有効にした場合を見ても分かるように、Just Linkを有効にしておくと何度繰り返しても正常に書き込むことができた。Just Linkを無効にした場合、12倍速と8倍速での書き込みが難しいことが分かる。もちろん、サーバからローカルのPCにファイルをいったんコピーしたり、イメージ・ファイルを作成したりしてから書き込めば、Just Linkを無効にした状態でも問題なく書き込みが行える。しかし、Just Linkを有効にしておけば、どのような状態でもエラーを気にせずに、CD-Rの書き込みが行えるという点で安心感がある。

 ちなみに、この場合でJust Linkが何回動作したのかを確認してみよう。下表に、書き込みソフトウェアのB's Recorder GOLDの報告した、Just Linkの動作回数を示す。テストは複数回実施したが、どの場合でも動作回数がほぼ一定していたため、最初に測定した値を示している。例えば、12倍速書き込み時には、Just Linkが246回動作している。これは約3.2秒に1回動作している計算だ。

 Just Linkがこれほど頻繁に動作しても、CD-Rの書き込みは見かけ上まったく問題なく行われた。ただ、書き込まれたCD-Rメディアが他のCD-ROMで読み出せないといった心配があるかもしれない。そこで、他のCD-ROMドライブで読み出しが行えるか、複数のドライブを使って確認したところ、問題なく読み出すことができた。

書き込み速度 JustLinkの動作回数
12倍速 246(205)
8倍速 147(72)
4倍速 0(0)
Just Linkが働いた回数
表中、カッコ内はIDEのバスマスタDMA転送を有効にした場合の測定結果である。バスマスタDMA転送を有効にした状態では、Just Linkの働いた回数が明らかに減少している。バスマスタDMA転送が安定して動作するプラットフォーム(Intel製チップセットを採用したPC)では、バスマスタDMA転送は有効にした方がいいだろう。


 INDEX

  [実験]書き込みミスのないCD-R/RWドライブは新たな用途を開拓する
    1.Just Linkはどのようにして書き込みエラーを回避するのか
  2.バッファ・アンダーランはもはや過去のものに
    3.Just Link搭載のMP9120AとはどのようなCD-R/RWドライブなのか
 
「PC Insiderの実験」


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