連載

究極ホーム・ネットワークへの道
−実例に学ぶホーム・ネットワーク・デザイン−

第8回 特別編:手軽にホーム・ネットワーク構築が可能な「ゲートウェイステーション」試用記

3. 無線LANにはWhitecap規格を採用

渡邉利和
2001/09/19


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無線インターフェイス・カード「KX-HGC100」
Whitecapに対応した無線LANインターフェイス・カード。クライアント用と同じPCカードをKX-HGW100に装備し、使用する。

 KX-HGW100にもう1つ用意されたネットワーク・インターフェイスが、無線LANである。ただ、無線LAN機能はオプションで、本体にはPCカード・スロットのみが装備されている。ここに、オプションのPCカード型無線インターフェイス「KX-HGC100」を差して使うことになる。

 本機の無線LAN機能における最大の特徴は、「Whitecap」と呼ばれる規格を採用していることだ*2。「2.4GHz帯を利用した最大11Mbpsの無線LAN」ということで、ついIEEE 802.11bと思ってしまうのだが、実際には異なる規格であり、互換性はない。そのため、本機の無線LAN機能を利用する際には接続する全ノードにKX-HGC100を装備する必要がある。同じくWhitecapをサポートした無線LANインターフェイスがあれば、それとは接続できる可能性もあるが、市場ではすでにIEEE 802.11bがデファクト・スタンダードの地位を占めているといってよく、KX-HGC100以外のWhitecap対応製品を見つけるのは難しいだろう。

*2 Whitecapは、ShareWave社が開発したもので、この名称も同社の登録商標となっている。同社は、2001年7月19日にCirrus Logicによって株式交換方式で買収されることを発表している(ShareWaveの「Cirrus Logicによる買収に関するニュースリリース」)。なお、Whitecap方式の製品は、本機のほか米国ではNetGearからも発売されている。
 
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KX-HGW100にKX-HGC100を装備したところ
写真のようにKX-HGW100には、無線LANインターフェイス・カード「KX-HGC100」を装備する。スロットは、通常のPCカード・スロットのようなので、ファームウェアさえ変更すれば、IEEE 802.11bにも対応できそうな気がするのだが。

 Whitecapは、IEEE 802.11bの欠点のいくつかを独自技術で解決しており、仕様としてはなかなか魅力的なものがある。制御方式にDynamicTDMAと呼ばれる方式を採用し、通信量の多いデータへ優先的に通信帯域を割り当てたり、リード・ソロモン符号を利用したエラー訂正機能を備えていたりといった特徴があり、実効速度を高く保つことが可能であるという。また、通信相手に応じてアクセス・ポイント(KX-HGW100)経由の通信とダイレクト通信(KX-HGC100相互間)を動的に切り替える機能がある。IEEE 802.11bでも、インフラストラクチャ・モード(アクセス・ポイント経由)とアドホック・モード(ダイレクト通信)という名称でこの両者をサポートするが、この両者の切り替えはソフトウェアの設定変更などの手段で利用者が明示的に行うもので、自動的に切り替わることはない。Whitecapでは、通信相手と直接通信可能な場合はアクセス・ポイントを介さずダイレクト通信を行い、通信相手がアクセス・ポイントの先に接続されている場合にはアクセス・ポイントを利用するため、効率がよいとしている。

 スペック面では魅力があるのは確かだが、現状、無線LANの市場はすでに規格の主導権争いの段階ではなく、IEEE 802.11bが標準である。IEEE 802.11b対応の製品は増え続けており、IEEE 802.11bインターフェイスを標準で内蔵したノート型PCも発売されているほどだ。この状況では、Whitecapが実効速度で優位に立ったとしても、少々選択しにくい感があるのは致し方ないところである。家庭内など、ほかの環境との互換性を考慮する必要がない場合にはよいかもしれないが、できればKX-HGW100も、IEEE 802.11bをサポートしてほしい。

 KX-HGW100では、スロットに無線LANカードをセットすると、設定用のWeb画面に新たに「無線設定」という項目が追加される。設定項目のうち、「チャンネル番号」や「ネットワーク名」は、IEEE 802.11bでも同様の設定があるので、一般的なIEEE 802.11bの知識だけでも意味は分かるだろう。「エラー訂正」はWhitecapの特徴でもある。電波状況がよい場所では、これを「無効」にすればややスループットが上がるようだが、今回は常時「有効」で試用した。

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KX-HGW100の無線設定画面
無線LANインターフェイスを追加すると、左側のメニューに「無線設定」の項目が追加される。このメニューでは、ノード名やチャンネル番号などを設定する。

 また、インターフェイスの管理用の専用ユーティリティ「クライアントマネージャ」は、ユーザー・インターフェイスとしてWebブラウザを使用するというちょっと変わった構造になっている。無線ノードの詳細情報や接続状況などが把握でき、機能は豊富だ。ただし、このWeb画面にアクセスできるのは、「マスターノード」と呼ばれるネットワーク全体の調停役となったノードだけのようだ。一方、もう1つの機能である「デバイス管理」ツールはどのノードでも任意に実行でき、「ローカルノード」の設定の確認や変更が可能だ。

デバイス管理ツールの画面
クライアントPC側のWhitecapの設定。エラー訂正の使用する/使用しないの変更や、チャンネル切り替え感度の変更などが行える。
  チャンネル番号の指定
  エラー訂正の使用する/使用しないの設定
  チャンネル切り替え感度の設定

 無線LAN機能に関しても実効速度の測定を試みたが、やや期待に反する結果となった。実施したのは、

  1. KX-HGW100が存在する環境で、KX-HGC100装備PC間でのftpによるファイル転送(ダイレクト通信となるはず)
  2. KX-HGC100装備のPCと、KX-HGW100のLAN側イーサネットに接続したPCとの間

の2パターンの転送だ。

Whitecapのテスト環境
無線LANでは、2台の無線ノード(アクセス・ポイントを含めれば3台)の間でのファイル転送と、1台の無線ノードをアクセス・ポイントにイーサネットで直結して無線ノード数を減らしたパターンとを試してみた。どちらのパターンも、手持ちのIEEE 802.11bデバイスで置き換えて差を比べた。
KX-HGC100相対 1.9Mbps
KX-HGW100経由 2.0Mbps
IEEE 802.11b相対 2.0Mbps
IEEE 802.11b片側イーサネット 4.0Mbps
無線LANのデータ転送速度の測定結果

 なお、参考までにインフラストラクチャ・モードに設定し、アクセス・ポイントを用意した上でIEEE 802.11b(アイ・オー・データ機器のアクセス・ポイント「WN-B11/AXP」とメルコのPCカード「WLI-PCM-L11」)ノード間でのファイル転送も実行してみた。予想では、1.と2.のスループットに大きな変化がなく、IEEE 802.11bよりも良好なパフォーマンスが得られると思っていた。結果は、1.で1.85Mbps、2.で2.03Mbpsと、確かに大きくスループットが変わることはなかったが、全体的に少々遅い印象だ。一方、IEEE 802.11bで同様の測定を行ったところ、1.に相当する条件で2.04Mbps、2.では4.03Mbpsであった。無線LANの場合、無線ノードの数に応じてスループットが大きく変わるのは確かだが、実は悪いときでWhitecapと同等、よい条件だとWhitecapの2倍、という結果になってしまった。スペック上はIEEE 802.11bよりもWhitecapのスループットが高くなるはずなので、この結果はちょっと怪しい感じもするが、とりあえず筆者の所有機材での結果としてこのままご紹介しておく。今後、機会があれば改めて別の環境での測定を試みてみたい。

実売価格は意外と安い「KX-HGW100」

 イーサネット、HomePNA、無線LANという3種類のネットワーク・メディアを1台で統合できるKX-HGW100は、適材適所でさまざまなメディアを使い分け、混在させている複雑な構成のネットワークのユーザーには魅力的な製品だ。価格は4万4800円とやや高いのだが、実は松下電器のWeb直販サイト「PanaSense PC-Shop」での価格は2万4800円となっている。こちらの値段ならば、イーサネットしかサポートしないブロードバンド・ルータと比べても極端な割高感はない。

型番 販売価格
ゲートウェイステーション KX-HGW100 2万4800円
HomePNA 2.0 USBアダプタ KX-HGA15 1万6800円
無線ネットワークPCカード KX-HGC100 1万2800円
PanaSense PC-Shopでの各製品の販売価格(2001年9月中旬現在)

 残念なのは、無線LANにWhitecapを採用したため、入手しやすいIEEE 802.11b対応機器が利用できないことだ。また、細かいことを言うと、本体に装備されたイーサネット・ポートはいずれも10BASE-T対応であり、本体のパケット・ルーティング速度はおおよそ5Mbpsというところだ。ADSLの1.6Mbps程度でインターネット接続を行うのであれば問題ないが、最近利用者が増えつつある8MbpsのADSLサービスや100MbpsのFTTHサービスで利用する場合、その最大速度を引き出すのは厳しいだろう。

 IEEE 802.11bへの対応、イーサネット・ポートの100BASE-TX化など、細部をリファインした次期モデルの登場にも期待したい。

  関連リンク 
Cirrus Logicによる買収に関するニュースリリース
 
 
     
 INDEX
  第8回 特別編:手軽にホーム・ネットワーク構築が可能な「ゲートウェイステーション」試用記
    1.イーサネット、HomePNA、無線LANをサポートする「KX-HGW100」
    2.ブロードバンド・ルータとHomePNAブリッジ機能を融合
  3.無線LANにはWhitecap規格を採用

「連載:究極ホーム・ネットワークへの道」


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