連載

究極ホーム・ネットワークへの道
−実例に学ぶホーム・ネットワーク・デザイン−

最終回 複数の電子メール・アドレスを統合するための受信用メール・サーバの構築と運用【後編】(1)

渡邉利和
2002/03/26

 1年少々の期間を費やして筆者宅のネットワーク環境について紹介してきたが、ブロードバンドでのインターネット接続の一般化にともない「自宅にネットワークを構築すること」は特筆する価値もないごく当たり前のことになってきたようだ。本連載も、もうそろそろ役割を終えるべき時期だとも思えるので、本連載は今回で終了となる。

電子メール受信環境の最適化を考える

 さて、前回の「第13回 複数の電子メール・アドレスを統合するための受信用メール・サーバの構築と運用【前編】」で電子メール環境の全体像に関しては大まかに紹介したが、改めて図にしてみた段階で筆者自身が「なぜこんなに面倒な構成にしなきゃいけなかったのか」と疑問を感じたほどなので、きっと読者諸氏にもうまく伝わらなかったものと思う。そこで、今回はあらためてこうした構造になった意味を再確認しておこう。まず、前回解説した電子メール環境の図をもう1度見ていただきたい。

筆者の電子メール利用環境
筆者の電子メールの流れを図に示してみた。このようにISPに届いた電子メールは、転送を繰り返すことになる。
公開しているISPのメール・アドレスに電子メールが届く。
ISPのメール・サーバは、スプールに電子メールを保存したまま、マンションのメール・サーバに電子メールを転送する。
ISPのメール・サーバは、フリーメールのサーバにも電子メールを転送する。
自宅のメール・サーバからマンションのメール・サーバにPOPでアクセスし、電子メールを取得する。マンションのメール・サーバには電子メールを残さない。
自宅のLAN内のクライアントは自宅のメール・サーバにPOPでアクセスして電子メールを取得する。このとき、基本的には電子メールをサーバに残す設定になっている。また、取得した電子メールはファイル・サーバに作られたメール・ディレクトリに保存する。
自宅のメール・サーバから、フィルタリングをかけてPHSに転送する。

 このような構成になったのは、電子メール環境を構築するに当たって重要なポイントが2点あったからだ。

  • 届いた電子メールは確実に確認できる
  • 1度見た電子メールを繰り返し転送しない

 最初のルールは簡単で、うっかり迷子になってしまう電子メールが出ないようにする、ということである。次は、だからといって同じ電子メールを繰り返し何度も転送してしまうのは帯域の無駄遣いであり、受信環境によってはコストもかさむので賢明ではない、ということである。これは、最近の常時接続環境で、固定的に利用しているPCで電子メールを読み書きする、という前提であれば特に何も気にしなくても自然と達成される条件ではある。しかし、モバイル環境を追加すると、とたんに具合が悪くなってしまうのだ。

 当然、人によって要求仕様はさまざまだろうが、筆者の場合は、電子メールの読み書きの条件はおおむね以下のようになる。

  • 基本は自宅の常時接続環境+常時運用サーバを利用
  • 外出時にはPHS回線経由で電子メールを読みたい
  • 外出中に電子メールを発信することはごくまれ

 筆者はいわゆる「自由業」であり、通勤はしていないため、自宅にいる時間が最も長い。しかし、自宅から一歩も出ることがないのかというと、そんなことはない。取材や打ち合わせといった用事で外出することもあるからだ。もちろん、「外出中は電子メールを見ない」という割り切りも可能だが、事実上、電子メールが唯一確実な連絡手段として使われているため、電子メールを見られない時間は可能な限り短くしておきたい。そこで、外出時にも電子メールを見られるように環境を考える必要があるわけだ。この場合、考えられる手段はいくつかある。

  • ISPのメール・サーバに電子メールを確認に行く(POP3アクセス)
  • 外出時専用のメール・サーバを用意してアクセスする(POP3またはHTTP)
  • PHSに電子メールを転送する(PHS回線)

 この3種類が、現状筆者が利用している方法となる。前回解説したようにISPのメール・サーバには、筆者が受け取るメールのおおよそ95%が到着する。一部の電子メールは、マンションで契約しているOCNのメール・サーバに直接届くものがあり、電子メール・アドレスの変更が徹底していない部分があるのだが、重要な電子メールはほぼ例外なくISP側に届くので、実用上の問題はあまりない。自宅では、ISPのメール・サーバ上で転送設定を行っており、届いた電子メールはコピーをサーバ上に残したまま、OCNのメール・サーバに送られるようになっている。つまり、OCNのメール・サーバにアクセスすれば、筆者あてに届く電子メールのすべてが確認できる状態になっているわけだ。そして、自宅で稼働しているメール・サーバは、OCNのメール・サーバにPOP3でアクセスしてここにある電子メールをすべて回収し、ローカルのスプールに格納してLAN内のクライアントからのPOP3アクセスを受け付ける仕様になっている。

 ISPのメール・サーバには、届いた電子メールのコピーを残すようにしてあるので、外出時にISPのメール・サーバに直接アクセスすることで、ほぼすべての電子メールが確認できる。しかし、これには多少問題がある。

 まず、残っている電子メールの量が無駄に多いことである。外出の際には、自宅を出る直前にISPのメール・サーバに残った電子メールのコピーをいったん削除するように心がけているのだが、この作業をうっかり忘れると、自宅ですでに読んだ電子メールを再度外出先でダウンロードすることになる。筆者が利用しているISPでは、メール・サーバへのアクセスはPOP3のみなので、ダウンロードせずに単にサーバ上の電子メールを削除する、という処理は意外にやりにくい。Windowsであれば、こうした用途に利用可能なPOP3クライアント(nPOP*1など)もあるのだが、筆者が外出時に使っているPalmOS搭載PDA用には手頃なものに心当たりがない。

*1 nPOPには、Win32版のほか、Pocket PC(MIPS、SH-3、ARMの各プロセッサ用)、Pocket PC 2002(StrongARM)、Windows CE 2.0以上(MIPS、SH-3)、Windows CE 2.11以上(MIPS、SH-3、SH-4、ARM)など、さまざまな機種向けのものが用意されているが、筆者が使っているのはPalmOS機なので、残念ながら対応がない。

 外出時にちょっとした合間を見て電子メールのチェックを行う場合に、すでに自宅で読んだ電子メールを延々とダウンロードし続けるのは通信料金と時間の無駄遣いであり、イライラして精神衛生上もよくない。そのため、ISPのメール・サーバに直接アクセスするという手は、泊まりがけの出張などの際にホテルの部屋からノートPCでアクセスする場合にしか使わないことになる。もちろん、外出時に忘れずに既読の電子メールを削除できれば問題ないのだが、こうした「手動システム」の信頼性は、性格にもよるだろうが筆者の場合はあまりアテにはならない。

 次に、外出時専用のメール・サーバを用意する方法である。実は現状の筆者の運用では「外出時専用」にはなっておらず、事実上ISPのメール・サーバのバックアップとなっている。これはこれで(特にISPのメール・サーバに不安を感じている場合には)意味のあることだが、この点はさておき、外出時の電子メール環境という観点から考えてみよう。

無料電子メールの利用法

 筆者はこの目的のためにインターネット上で各種提供されている無料電子メール(フリーメール)のサービスを利用している。もちろん、追加コストなしに利用できるので気軽に試せる、という理由も大きいが、さらにこうしたメール・サーバはWebインターフェイスを用意しており、管理が楽だという面もある。逆にPOP3でのアクセスができないものも多いため、実のところWebインターフェイスとPOP3アクセスの両方が提供されている無料電子メール・サービスというのはあまり多くはないようだ。ただ、存在しないわけではないので問題はない。現在の運用では、ISPのメール・サーバの場合と同様に、外出時にまずWebでアクセスして溜まった電子メールを削除しておき、外出中に届いた電子メールだけをダウンロードするようにしておく、という形で利用している。なお、この無料電子メール・サービスに直接届く電子メールはまずなく(筆者自身がこの電子メール・アドレスを誰かに教えたりしたことはない)、電子メールはISPのメール・サーバからの転送でのみ届いている。後述するが、これをISPのメール・サーバからの転送ではなく、自宅からの転送とすればさらに使い勝手が向上するはずだ。

 最後に、PHSで直接メールを受信する、という方法についても紹介しておこう。筆者が利用しているのはDDIポケットのPHSで、H"(エッジ)サービスである。このサービスでは、単にPHS端末を購入し、登録すれば電子メール・アドレスが付与され、PHS端末で電子メールを読み出すことができる。さらに、最近の機種ではプッシュ型サービスが利用でき、DDIのメール・サーバに電子メールが到着するとサーバ側から端末に電子メールを送りつけてくる。以前は端末側から発信して電子メールを取りに行っていたので、これに比べるとかなり楽になった*2

*2 良いことばかりではなく、プッシュ型配信を利用するようになってから毎月支払う通話料が結構上がった。以前は契約プランに含まれている「無料通話」時間を超過することはまずなかったが、最近は「無料通話」時間内に収まることはなく、支払額として毎月2000円ほど値上がりしたという感覚である。

 実は筆者はPHSを2回線契約している。1つは音声通話+メール・プッシュ配信に利用している通常の電話機で、もう1つはコンパクトフラッシュ・カード型のデータ通信専用端末である。コンパクトフラッシュ・カードは基本的に常時PDA(PalmOS機)に差してあり、外出時にはちょっと広い画面で電子メールが読めるようにしてあるのと同時に、バックアップとしても機能する。

 この方式の問題点は、ランニング・コストが比較的高くつくことである。もちろん、PHSの通話料はそう極端に高いものではないが、プッシュ型で配信を受けていると意外に通話料がかかるというのが実感である。この環境で常時電子メールを転送し続けるのは無駄なので、当然外出時のみ電子メールを転送し、自宅にいる際には一切転送しない、というくらいの制御は最低でも行わなくてはならない。これはISPのメール・サーバに用意された転送機能では実現しにくいので、別途自宅に電子メール転送のための環境を作っている。

  関連記事 
第13回 複数の電子メール・アドレスを統合するための受信用メール・サーバの構築と運用【前編】
 
 
     
 INDEX
  複数の電子メール・アドレスを統合するための受信用メール・サーバの構築と運用【後編】(1)
    複数の電子メール・アドレスを統合するための受信用メール・サーバの構築と運用【後編】(2)
 
「連載:究極ホーム・ネットワークへの道」


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