ニュース解説

Pentium 4用チップセット「Intel 845」はメインストリームになれるのか?

元麻布春男
2001/09/13


 
Intel 845チップセット
下のMCH(メモリ・コントローラハブ)と上のICH(I/Oコントローラ・ハブ)という2チップからなる。

 米国時間9月10日、IntelはついにSDRAMをサポートしたPentium 4対応のチップセット「Intel 845」(右写真)を発表した(インテルの「Intel 845に関するニュースリリース」)。Brookdale(ブルックディール)という開発コード名で知られてきたこのチップセットは、6月に台湾で開催された展示会「COMPUTEX TAIPEI 2001」で事実上のお披露目を済ませており、真新しさはそれほどでもない。実際、秋葉原などではこのチップセットを搭載したマザーボードが8月末あたりから出回っており、同時期に米国カリフォルニア州サンノゼ(San Jose)で開かれていたIDF Fall 2001(Intel主催の開発者向けカンファレンス)でもIntel 845搭載マザーボードが数多く展示されていた。「そうか、正式発表はまだだったか」と思った人もいるかもしれない。

 正式発表される前からIntel 845が注目を集めてきたのは、「高価な」Rambusメモリ(RDRAM)をメイン・メモリに使わないで済む、SDRAM対応のチップセットだからだ。しかし、Intel 845の発売が近付くにつれ、RDRAMの価格も大幅に値下がりし、価格差はかなり縮まっている。本稿執筆時点における両者の価格差は、256Mbytes当りで5000円〜6000円(PC800 RIMMとPC133 CL2 DIMMを比較した場合)。マザーボード自体にも、Intel 845ベースのものと、RDRAM対応チップセットであるIntel 850ベースのもので価格差がありそうだが、発売して間もないためか、ベンダごと、あるいはショップごとのバラつきも大きく、一概にどちらが高いとは言えない状態だ。マザーボード・ベンダによっては、「Intel 850とIntel 840で製造上の価格差はほとんどない」というところもあるようだ。マザーボードとメモリを合わせても、Intel 845とIntel 850それぞれをベースとしたシステムの間に1万円の差はない、というのが現状ではないかと思う。

Intel 845の発表会で示された各社の省スペース・デスクトップPC
Intel 850はRDRAMを2チャンネル実装するため、省スペース・デスクトップPCには採用しにくいものであった。Intel 845では、SDRAMの採用により、省スペース・デスクトップPCでもPentium 4を搭載できるようにした。

Intel 845の性能を検証する

 となると気になるのは、数千円をケチって(?)Intel 845を選ぶのは正解か否か、ということだ。たとえ数千円安くても、性能がパッとしなければ意味がない。薄利に悩む大手PCベンダにとっては、「この数千円が無視できない」ということがあるかもしれないが、そもそもユーザーから望まれなければ元の木阿弥である。数千円をどう配分するか、自分でコントロールしやすい、パーツ買いしてPCを組み立てるような人にとっては、Intel 845とIntel 850の性能差は特に気になるところだろう。というわけで早速、Intel 845とIntel 850の比較を行うことにした。

 Intel 845チップセットのマザーボードとしてテストに用いたのは、Intel純正の「D845WN」(D845WNの製品情報ページ)。ATXフォーム・ファクタのマザーボードだが、姉妹モデルとして、microATXフォーム・ファクタの「D845HV」も用意されている(D845HVの製品情報ページ)。左下の写真はD845WNとD845HVを並べたところだが、2つのマザーボードが、共通のデザインをベースにしていることがよく分かる。というよりもD845WNは、D845HVにPCIスロットを3つ、付け足したようなデザインになっている。この2枚のマザーボードは、BIOSデバイス・ドライバ、マニュアルなどすべて共通だ。性能も同じだと考えられる。

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D845WNとD845HV(拡大写真:60Kbytes Intel 845のMCH(メモリ・コントローラ・ハブ)(拡大写真:73Kbytes
左がD845WN、右がD845HV。一部、CNRスロット(Communication and Networking Riser:モデムやネットワーク用の専用スロット規格)の有無など製造オプションによる違いがあるものの、基本的には同じデザインであることが分かる。 新しくリリースされたIntel 845チップセットの中核である82845 MCH。ICH(I/Oコントローラ・ハブ)は更新されず、これまで同様82801BA(ICH2)を組み合わせる。

 D845WNの細部は、「元麻布春男の視点:Pentium 4の新ソケットにまつわるナゾ」で取り上げたIntel 850採用マザーボード「D850MD」のデザインをほぼ踏襲している(D850MDの製品情報ページ)。「D850GB」など423ピン・プロセッサ・ソケットのマザーボードより大型化したリテンション(CPUクーラーの留め具の一部)、82845 MCH(メモリ・コントローラ・ハブ)に取り付けられたヒートシンク固定クリップ、背面のI/Oパネルに用意された4ポートのUSB、USBポートと一体化したイーサネットの10/100BASE-TXコネクタなどは、完全に同じだ。

 D845WNがD850MDと異なるのは、メモリ・ソケットがRIMMソケットではなくDIMMソケット(3本)になっていることだ。ここに1Gbytes DIMMを差すことで、最大3Gbytesのメモリをサポートする。一方、D850MDはRIMMソケットを4本持つものの、RIMM 1本あたりの上限が512Mbytesであるため、最大メモリ容量は2Gbytesにとどまる。もう1つの違いは、USB 2.0ホスト・コントローラを実装するための空き配線パターンが用意されておらず、USB 2.0インターフェイスをオンボード実装するオプションがないことだ(D850MDはオンボード実装可能な設計になっている)。このあたりがIntel 850とIntel 845のポジショニングの違いなのだろう。

D845HVの拡張スロット部(拡大写真:137Kbytes
イーサネットやサウンドなどのインターフェイスをオンボード実装しているため、さまざまなチップやコネクタがPCIスロット周辺に集積されている。
  10/100BASE-TXイーサネットのPHY(物理層)チップ
イーサネット・コントローラ自体はICH2に内蔵されている。
  オーディオ用のアナログ・コネクタ(MPC3タイプ)
CD-ROM/DVD-ROMドライブやビデオ・キャプチャ・カードからのオーディオ信号をサウンド回路に接続する役割を果たす。
  Analog Devices製のAC‘97コーデック・チップ
コーデック・チップとは、オーディオ信号のデジタル/アナログ変換などを実行するチップのこと。ICH2と連動してサウンド機能を実現している。
  リアルタイム・クロック用の電池
D850GBやD850MDでは、この部分にUSB 2.0対応のホスト・コントローラ・チップを実装するための空き配線パターンがあるが、D845HVにはない。USB 2.0ホスト・コントローラを標準装備する設計になっていないことが分かる。

 気になる性能だが、ここでは新しい478ピンのPentium 4プロセッサを用いて、D850MDとD845WNで性能を比較してみた。下表のように、メモリ以外の周辺機器は完全に同一に揃えてある(実際は同じシステムで、マザーボードだけ交換した)。テストに用いたのはSYSmark 2001、3DMark 2001といった定番のベンチマーク・テスト、そしてゲームのベンチマークとして、これまた定番のQuake III Arenaと、懲りもせず(?)DroneZmarKだ。基本的にベンチマーク・テストは1024×768ドット解像度、32bitカラーの環境で行ったが、DroneZmarKに限り、グラフィックス・カードの描画性能がボトルネックにならないように、解像度を640×480ドットに落としてみた。

 SYSmark 2001については「元麻布春男の視点:最新ベンチマークはPentium 4が好き」を、またDroneZmarKについては「元麻布春男の視点:N-Bench 1.2に思うベンチマーク・テストの公平性」を参照していただきたい。

スペック項目 RDRAMシステム SDRAMシステム
プロセッサ Pentium 4-2GHz
マザーボード Intel D850MD Intel D845WN
チップセット Intel 850 Intel 845
メモリ 256Mbytes PC800 RDRAM 256Mbytes PC133 CL2 SDRAM
OS Windows Me
DirectX DirectX 8.0a
画面解像度 1024×768ドット/32bitカラー/85Hz *1
グラフィックス・カード Leadtek WinFast GeForce 3TD
ディスプレイ・ドライバ NVIDIA Detonator 12.41
サウンド・カード ヤマハ YMF744B
サウンド・ドライバ Windows Me標準
ハードディスク Maxtor DiamondMax Plus 60
テストに用いたシステムの構成
このように、マザーボードとメモリ以外のパーツを共通にしてベンチマーク・テストを実行した。
*1 DroneZmarKでは、640×480ドット/32bitカラーに設定している

 もう1つ、ベンチマーク・テストとして今回加えてみたのが、Aplix Encoderだ。松下電器産業製のソフトウェアMPEG-2エンコード・エンジンを用いたMPEG-2エンコーダ/トランスコーダであるAplix Encoderは、DVフォーマットのAVIファイルからMPEG-2ファイルを作成する、あるいはDVDビデオ非互換のMPEG-2をDVDビデオ互換のMPEG-2に変換するユーティリティである。DVDビデオ・オーサリングの前段階に使うものだ。今回用いたのは現在DVD-R/RWドライブにバンドルされているWinCDR 6.5 DVD Extensionに含まれるモジュールで、単体で入手することはできないが、どうやら近い将来改良されたものを含んだものが、新バージョンのパッケージとして販売されるようだ。

 Aplix Encoderは、手軽にMPEG-2のエンコード/トランスコードを行うことを目的としており、調整項目はシンプルに出来ている。ここでは、筆者がDVカメラで撮影した3分間のビデオ(DVフォーマットで620Mbytes)を、画質優先でビットレート8Mbits/sの設定と、処理速度優先で5Mbits/sの設定の2つでMPEG-2へのエンコードを行い、所要時間を計測した。エンコードにより生成されたMPEG-2ファイルは前者が178Mbytes、後者が113Mbytesだ。ほかのテストは数字が大きい方が高速だが、このテストだけは数字が小さい方がよいことは言うまでもない。

Aplix Encoderの画質設定画面
Aplix Encoderは、MPEG-2のエンコード/トランスコードを行うソフトウェア。5Mbits/s、6Mbits/s、7Mbits/s、8Mbits/sという4種類のビットレートが選択可能だ。

 テスト結果は、下表のとおりである。予想通りメモリの帯域が広いIntel 850を採用したD850MDの方が良好な結果となった。D850MDがサポートする2チャンネルのRDRAMが提供する帯域が3.2Gbytes/sであるのに対し、D845MDのそれは1Gbytes/sに過ぎない。性能差はテストによってまちまちだが、おおむね7%〜13%というところ。乱暴な言い方をすれば、Intel 850ベースのシステムが10%程度性能がよい、ということになりそうだ。全般に、3Dグラフィックスや、ストリーミング・メディアを扱うベンチマーク・テストで、性能差が大きくなる傾向が見られるが、Officeアプリケーションのテストの差が比較的大きいのがちょっと意外だった。逆に、画質最優先でのMPEG-2エンコードで、メモリの違いによる処理時間の差がでなかったのも意外だ。

テスト項目や条件など RDRAMシステム
(D850MD)
SDRAMシステム
(D845WN)
対RDRAM比
SYSmark 2001
SYSmark Rating 162 146 90.1%
Internet Content Creation 182 160 87.9%
Office Productivity 145 133 91.7%
3DMark 2001
解像度1024×768ドット/32bitカラー 5958 3DMarks 5536 3DMarks 92.9%
QuakeIII Arena
Demo2 164.6frames/s 143.8frames/s 87.4%
DroneZmarK
解像度640×480ドット/32bitカラー、GeForce3 High Q 132.0frames/s(平均) 122.7frames/s(平均) 93.0%
Aplix Encoder (3分間/620Mbytes DVビデオ)
画質最優先 8Mbit/s(178Mbytes) 15分44秒(944秒) 16分09秒(969秒) 97.4%
速度最優先 5Mbit/s(113Mbytes) 3分04秒(184秒) 3分24秒(204秒) 90.2%
ベンチマーク・テストの結果
大雑把に言えば、Pentium 4のSDRAMシステムはRDRAMシステムに比べて90%前後の性能にとどまっていることが分かる。

Intel 850システムとの1万円の差は正当化できない?

デルコンピュータのOptiPlex
Intel 845の発表会で参考出品された省スペース・デスクトップ型のOptiPlex。近々、発表の予定ということだ。

 また、今回のベンチマーク・テスト結果を、以前に行った結果と比べると、D845WNにPentium 4-2GHzを組み合わせた結果は、D850GB上のPentium 4-1.8GHzより性能が悪い、ということになってしまった。現在、Pentium 4-2GHzはハイエンドということもあり、価格にプレミアがついている。そのため、Pentium 4-2.0GHzとPentium 4-1.8GHzの間の価格差は3万円以上ある。冒頭に触れたように、Intel 845ベースとIntel 850ベースの価格差が1万円だとしたら、少なくとも2GHzのPentium 4にIntel 845ベースのマザーボードを組み合わせるのはナンセンス、ということになる。1万円を惜しんで、3万円分の性能差をフイにすることは、どう考えても合理的ではない。Intel 845ベースのシステムを構築する場合、あるいはIntel 845ベースのシステムを購入する場合は、動作クロックの低いPentium 4に限定されることになるだろう。

 以前のようにRDRAMが高価であれば、PC133 SDRAMを使うことにもメリットはあったと思うが、昨年からのメモリ価格暴落は、RDRAMの価格をも押し下げた。PC133 SDRAMと比べれば高価だといっても、現在のRDRAMの価格は昨年の9月時点でのPC133 SDRAMの価格より安い。256Mbytesで5000円〜6000円というメモリ価格の差では、10%の性能ペナルティ(動作クロックで2グレード以上の差)を正当化することが難しくなってきたといえるだろう。

 以前筆者は、RDRAMが次世代メモリとして主流になるには、DDR SDRAMに勝つ前に、まずSDRAMに対して、明確な差をつけて勝つことが必要だと述べた(「元麻布春男の視点:DDRとRDRAMは次世代メモリ争いの決勝戦に勝ち上がれるのか?」)。今回のテスト結果を見る限り、どうやらRDRAMは「準決勝」を勝ち抜くことに成功したようだ。いよいよ次は「決勝戦」だが、DDR SDRAMをサポートするIntel 845ベースのチップセットが登場するのは2002年のこと。それまでRIMMとDDR SDRAM DIMMの価格差がどう動くのかが注目される。記事の終わり

  関連記事(PC Insider内) 
元麻布春男の視点 Pentium 4の新ソケットにまつわるナゾ
元麻布春男の視点 最新ベンチマークはPentium 4が好き

  関連リンク 
Intel 845に関するニュースリリース
Intel 845チップセットの製品情報ページENGLISH
マザーボード「D845WN」の製品情報ページENGLISH
マザーボード「D845HV」の製品情報ページENGLISH
マザーボード「D850MD」の製品情報ページENGLISH
 
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