ニュース解説

AMDのDDR SDRAM対応プラットフォームの発表で次世代メモリの標準化が決着!?
―AMDがDDR SDRAM対応チップセットを正式発表―

島田広道
2000/11/01

 現在PCのメイン・メモリに用いられているSDRAMチップの後継の座は、これまでDirect RDRAMとDDR SDRAMという2種類のメモリの間で争われてきた。先に製品化されてPCに搭載されたのはIntelとRambusが推すDirect RDRAMのほうだったが、「ニュース解説:動き始めたDDR SDRAMと対抗するRambus」で触れたように、対応チップセットのトラブルやDirect RDRAMの低価格化が進まなかったなどの理由から、普及にブレーキがかかっている。それとは対照的に、DDR SDRAMは主要なDRAMベンダが推進しているほか、IntelとAMD双方のプロセッサ向けに多数のDDR SDRAM対応チップセットが開発されている(「ニュース解説:Intelに競合するチップセット・ベンダの動向」を参照)。Intelもまた、Direct RDRAM一辺倒という方針を転換して、DDR SDRAMのサポートを検討しているという。こうした流れから、現在はDDR SDRAMが次世代メイン・メモリの本命と目されている。

 こうした状況のなか、2000年10月30日、AMDは、かねてから開発してきたAthlon用のDDR SDRAM対応チップセット「AMD-760」を正式に発表した。次世代メイン・メモリにDDR SDRAMを推してきたAMDにとって、AMD-760は非常に重要な戦略的製品である。と同時に、DDR SDRAMが普及するペースにも大きな影響をあたえそうだ。データシートなど詳細な情報は10月30日の時点ではまだ公開されていないが、ここでは、同日に行われた日本AMDの記者発表会で得た情報をもとに、DDR SDRAMを巡る現状を中心に、この新しいチップセットに関してまとめてみたい。

DDR SDRAMを採用するAMD「純正」チップセットの登場

キーノート・スピーチを行うAMD副社長 兼 日本AMD社長の堺 和夫氏

 今回の発表会は、日本AMDとともに、エルピーダメモリ*1や東芝セミコンダクター、日本マイクロン・テクノロジー、メルコというメモリ・チップ/モジュール・ベンダも参加していたのが特徴的であった。もちろんこれは、今回発表されたAMD-760チップセットが、DDR SDRAMをメイン・メモリとして採用していることが関係している。Athlon用チップセットのうち、DDR SDRAMに対応する製品はすでにVIA TechnologiesやALiなどからも発表されているが、プロセッサ・ベンダからDDR SDRAM対応チップセットが正式発表されるとなると、やはりインパクトが違う。Athlon+AMD-760という新しいプラットフォームでDDR SDRAMの普及を期待するメモリ・ベンダと、次世代メイン・メモリのサポートで一歩先に進んだことをIntel に対してアピールしたいAMDの意図の双方が表れた発表会だったと言える。

*1 1999年11月に日本電気と日立製作所が設立したDRAMの合弁会社。2000年9月に社名を「NEC日立メモリ」から「エルピーダメモリ」に変更した。
 
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正式発表されたAMD-760

左がシステム・コントローラのAMD-761。DDR SDRAMで構成されるメイン・メモリやプロセッサとのインターフェイスを担当する。右はペリフェラル・バス・コントローラのAMD-766。IDEやUSBなど各種インターフェイスが統合されている。

 今回発表されたAMD-760は、基本的にデスクトップPC向けのチップセットである。当初はパフォーマンスを重視したハイエンドPCから導入されると思われるが、DDR SDRAMなどが安定的に供給されるようになれば、メインストリームのデスクトップPCでも採用されるようになるだろう。今回の発表会ではまったく触れられなかったが、AMDはデュアル・プロセッサ構成をサポートするAMD-760MPというチップセットの開発も進めている。型番から分かるようにAMD-760とは同系列である。ハイエンド・デスクトップPCを超えるワークステーションには、このAMD-760MPが採用されるはずだ。

 AMD-760の構成は、システム・コントローラ(ノース・ブリッジ)のAMD-761と、ペリフェラル・バス・コントローラ(サウス・ブリッジ)のAMD-766という2チップからなる。最大の特徴はもちろんDDR SDRAM対応で、下表にある2種類のDDR SDRAM DIMM(PC1600とPC2100)をサポートする。

名称 最大転送レート 駆動クロック周波数 データ幅 メモリ・チップ
PC133 1066Mbytes/s 100MHz 64bits SDR SDRAM(PC133)
PC1600 1600Mbytes/s 100MHz 64bits DDR SDRAM(DDR200)
PC2100 2133Mbytes/s 133MHz 64bits DDR SDRAM(DDR266)

各種SDRAM DIMMの速度

表中の「データ幅」にはECCの分を含めていない。DDRを使用するPC2100は、PC133に比べて、同じクロック周波数とデータ幅(64bit)であるにもかかわらず、転送レートが2倍も高速化されていることが分かる。

 このようにAMD-760でサポートされているPC2100は、従来のPC133に比べ、駆動クロック周波数およびデータ幅(64bit)は同じであるにもかかわらず、転送レートは2倍に高速化されている。ちなみにPC1600/PC2100という呼称は、DDR SDRAM DIMMに対するものであって、DDR SDRAMチップそのものの規格を指しているわけではない。PC133の場合はDIMMとメモリ・チップの両方を指していたので注意が必要だ。DDR SDRAMチップに対しては「DDR200」、「DDR266」という呼称があり、それぞれ100MHzと133MHzのクロックで駆動可能なDDR SDRAMチップであることを意味している(次表参照)。

名称 遅延時間 駆動クロック周波数
DDR200 2クロック(20ns) 100MHz
DDR266 2クロック(15ns) 133MHz
2.5クロック(18.8ns) 133MHz

DDR SDRAMメモリチップ単体の種類

「遅延時間」の値は、データのアクセスを要求してから、実際にデータが読み書きできるようになるまでの時間。これが短いほど高速な(応答が速い)メモリ・チップといえる。DDR266には速度の異なる2タイプが存在するので注意が必要。

 この表でDDR266が2種類存在するのは、今後のDDR SDRAMの微細化により、速度が向上するからだ。つまり、DDR266が最初に登場するころは、遅延時間は2.5クロック分だが、微細化された次世代チップでは2クロックに短縮される、ということである。

性能向上に注力されたAMD-760

 DDR SDRAMに次ぐAMD-760の特徴は、プロセッサとの接続に用いられるFSBのクロック周波数が、従来の200MHzから266MHzに向上したことだ。実はAMD-760の発表と同時に、AMDはFSBが266MHzのAthlon-1GHz/1.13GHz/1.2GHzもリリースしている*2。DDR SDRAMの採用自体、着々と性能が向上しているプロセッサとメイン・メモリとの性能ギャップを埋めるのが目的なので、プロセッサとメイン・メモリの間に位置するFSBが高速化されるのは必然だろう。

*2 従来の200MHzのFSBに対応するAthlonも、850MHz〜1.2GHzのバージョンが併売される。ただし1GHz未満のAthlonは、いずれも200MHzのFSBにしか対応しない(266MHz対応は1GHz以上のAthlonのみに限られる)。

 そのほか、最大4倍速のAGPスロットやUltra ATA/100対応のIDEインターフェイス、4ポートのUSBインターフェイスなど、AMD-760は現行のチップセットで主流の機能をほぼサポートしている。逆にいえば、前述のDDR SDRAMと266MHzのFSBのサポートを除けば、AMD-760の機能は標準的であり、ほかに特色はないということでもある。AMDはLDT(Lighting Data Transport)という3.2〜6.4Gbytes/sの高速バスでチップセット間を接続するという技術を公表しているが、これもAMD-760では採用していない。システム・コントローラとペリフェラル・バス・コントローラの間は、従来同様、PCIで接続されている。

 このように、AMD-760はDDR SDRAMの採用による性能向上にだけ焦点を当てている。メイン・メモリの種類が変わるだけでも、マザーボード/PCベンダにとっては大きなイノベーションであり、そのほかの機能拡張を同時に行うのはリスクが高いとAMDは判断したのかもしれない。

準備の進むDDR SDRAMチップ/モジュール

 前述のとおりAMD-760の発表会では、DDR SDRAMチップやそのメモリ・モジュールを製造するベンダも出席しており、各社の製品も展示されていた。DDR SDRAM DIMMは、現行のSDRAM DIMMと同様、用途ごとに下表のような種類があるが、いずれも発表会で展示されていた。

名称 端子ピン数 用途
Unbuffered DIMM 184 デスクトップPC向け
Registered DIMM 184 サーバ/ワークステーション向け
Unbuffered SO-DIMM 200 ノートPCや小型機器向け

用途ごとのDDR SDRAM DIMMの種類

現行のSDRAM DIMMと比べると、上記3種類の分類自体は変わっていない(もちろん、個々のDIMMの仕様は異なる)。
 
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エルピーダメモリの1Gbytes Registered DIMM

東芝のDDR SDRAM DIMM2種類

メルコのDDR SDRAM搭載SO-DIMM

同社が展示していた各種DDR SDRAM DIMMのうちの1つで、サーバ/ワークステーション向けに位置付けられる。これ1枚で1Gbytesという大容量を実現しているほか、ECCによるエラー修復にも対応している。 上がサーバ/ワークステーション向けのRegistered DIMMで、下がデスクトップPC向けで一般的なUnbuffered DIMM。いずれも同社の256Mbits/200MHzのDDR SDRAMチップを使用したPC1600メモリだ。これもECC対応である。 SO-DIMMはノートPCなどでメモリ実装に用いられる小型メモリ・モジュール。こうした小型のフォームファクタについてもDDR SDRAMの対応が進んでいることが分かる。写真のモジュールは266MHz駆動のPC2100 64Mbytesメモリだ(これもECC対応)。

 DDR SDRAMの量産体制は順調に整備されつつあるようだ。たとえばエルピーダメモリは、128Mbits(製造ルール0.22μm)と256Mbits(0.18μm)のDDR SDRAMをすでに量産している。東芝セミコンダクターも2000年末から2001年第1四半期にかけて、256Mbits(0.175μm)のDDR SDRAMを量産する予定だ。日本マイクロン・テクノロジーは、256Mbits(0.15μm)のDDR SDRAMを2000年末から出荷開始することと、現行のPC133と同じ価格にすることを今回発表した。

SDRAMとDDR SDRAMは同一製造ラインで生産可能

 エルピーダメモリは、2001年第2四半期から0.13μmルールのDDR SDRAMを生産する予定だが、ここで注目されるのはPC133メモリなど従来のSDR SDRAMとDDR SDRAMを同じチップから製造できるようにする、としていることだ(最初は256Mbitsから)。これは、DDR SDRAMに使われている技術の多くがSDRAMから流用されているために実現できるといわれている。これにより、SDRとDDRそれぞれのSDRAMのために製造ラインを個別に設ける必要がないため、メモリ・ベンダは需要に合わせてSDRとDDRそれぞれのSDRAMの生産量を調整しやすい。メモリ・ベンダにとっては、高価な半導体製造ラインを効率よく稼働させることができるので、投資のリスクを抑えやすいわけだ。これに対してDirect RDRAMは、製造やテストの面でSDRAMと共通性が低く、このような製造手法は採れないという。多くのメモリ・ベンダがDirect RDRAMよりDDR SDRAMの生産拡大を優先しているのは、こうした理由も大きいのではないだろうか。

DDR SDRAM対応マザーボードの開発も進行中

 発表会場では、メモリ・チップ/モジュールのほか、AMD-760を採用したマザーボードも展示されていた。ベンダの話によれば、AMD-760以外のチップセットを採用したDDR SDRAM DIMM対応マザーボードも予定しているとのことだ(日本ギガバイトは、安価なALi製DDR SDRAM対応チップセットを用いて、ATXより小型なMicroATXマザーボードを製造するとコメントしていた)。また、以下の写真以外にも、AMD-760搭載マザーボードを予定しているベンダは存在する。このように、マザーボード・ベンダ側のDDR SDRAM対応も進行中だ。

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日本ギガバイトのマザーボード

エム・エス・アイ・コンピュータ・ジャパンのマザーボード

ASUSTeK Computer社のマザーボード

標準的なスペックのGA-7DXと、Promise Technology製IDE-RAIDコントローラを搭載するGA-7DXRの2枚が展示されていた。会場では、これらのマザーボードによるPCシステムで、実際にベンチマーク・テストを実行していた。 これはK7 Master-Sという製品。Ultra 160 SCSIコントローラを搭載しているほか、DIMMソケットが4本と多く、ハイエンドを指向していることが分かる。このほかにも同社はOEM向けの標準的なスペックのマザーボードも展示していた。 これはA7M266というATXマザーボード(これはエンジニアリング・サンプル)。会場に同社スタッフはおらず、このマザーボードだけが展示されているだけだった。

2001年のPC選びにはDDR SDRAMの動向が影響する

 以上のように、DDR SDRAM対応ハードウェアは出荷に向けて順調に開発が進んでいるように感じられる。またAMDのニュースリリースでは、海外ではPCベンダによるAthlon+AMD-760+DDR SDRAMという組み合わせの採用も表明されており、AMD-760は順調なスタートを切りそうだ。AMD-760搭載PCは、2000年11月中に登場する見込みだが、多くのベンダから広範囲に販売されるのは2001年に入ってからだという。そこで問題になるのが、2001年のメインストリームPCを選ぶ際、DDR SDRAM搭載PCがどのようにかかわってくるか、ということだ。

 DDR SDRAMの供給量が需要に対して十分ではなく、価格が高いまま推移した場合、当然ながら搭載PCの実売価格も高くなる。この場合、DDR SDRAM搭載PCはハイエンド・デスクトップPCとして位置付けられ、メインストリームとは一線を画した存在となる。その場合、Athlon+DDR SDRAM搭載PCの対抗機は、IntelのPentium 4搭載機になるはずだ。こうした状況なら話は簡単で、リーズナブルな価格になるまでAthlon+DDR SDRAM搭載機の購入は「待ち」になる。

 難しいのは、DDR SDRAMの生産が順調に拡大し、メモリ・ベンダの言うとおりPC133とあまり変わらない価格で提供された場合だ。おそらくAthlon+DDR SDRAM搭載機は、メインストリームPCの中で最上位かそれに近い位置付けとなるだろう。このとき価格的に対抗機種となるのは、Pentium 4ではなくPentium IIIを搭載するPCだ。Athlonがすでに1.2GHzを出荷しているのに対し、同程度のクロック周波数のPentium IIIが量産されるのは、2001年後半からと言われているので、少なくとも2001年前半は性能面でAthlon+DDR SDRAM搭載機のほうが優位に立つと考えられる。特にビジネス用途では、減価償却の年数を考慮すると、高性能かつ将来性のあるDDR SDRAM搭載機を選びたいところだ。

 しかし、仮にAthlon+DDR SDRAM搭載機が2001年前半の時点で順調に出荷されたとしても、これだけ大規模な変更を加えたシステムがあらゆるケースで安定稼働できるかどうか、デバイス・ドライバ対応などに代表されるベンダ・サポートが十分に受けられるかどうかは未知数だ。Intel 820チップセット+Direct RDRAMの組み合わせの例を挙げるまでもなく、新しいデバイスを採用したものでは、思わぬトラブルが発生しがちだ。特に従来のAMDのプラットフォームでは、ハードウェアの差異に起因するトラブルが生じた場合、デバイス・ドライバの修正が遅かったり、あるいはベンダがまったくサポートしなかったりする例が見られた。もっとも、以前に比べればAMDプラットフォームに対するベンダのサポートも広がっているので、これは筆者の杞憂に終わるかもしれない。

Pentium 4もDDR SDRAM対応チップセットが提供される!?

 一方、DDR SDRAMの順調な展開は、Intelのチップセット戦略にも影響を与えているらしい。まもなく登場するといわれるIntelのPentium 4は、当初Direct RDRAMのみをサポートするチップセットしか提供されないが、SDRAM対応チップセットも開発中といわれる。最近になって、このSDRAM対応Pentium 4チップセットがDDR SDRAMにも対応する(あるいは対応した別バージョンのチップセットが追加される)という情報も流布している。もしこの情報が真実なら、DDR SDRAM対応Pentium III用チップセットはVIAやALiが開発していることから、AMDプラットフォームだけではなくIntelプラットフォームについても、DDR SDRAMが主流になる可能性がある。

 各種PCの導入にかかわるITプロフェッショナルとしては、2001年内のどのタイミングでDDR SDRAM搭載PCを選ぶべきか、DDR SDRAMチップやその対応チップセット、x86プロセッサなどの動向を注視していく必要があるだろう。記事の終わり

  関連記事(PC INSIDER内)
Intelに競合するチップセット・ベンダの動向
動き始めたDDR SDRAMと対抗するRambus
  関連リンク
AMD-760発表に関するニュース・リリース
DDR SDRAMを含むメモリ製品の情報
メモリを含む各種半導体の製品情報が掲載されている(トップページ)
DDR SDRAMを含むメモリ製品の情報
DDR SDRAMのSO-DIMMにおける標準規格の開発に関するニュース・リリース
マザーボードなどの製品情報ページ
AMD-760を採用するマザーボード「K7 Master-S」に関するニュース・リリース(台湾のサイト)
 
「PC Insiderのニュース解説」


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