ニュース解説

2002 International CESレポート第1弾
2002 CESに見る最新PDA事情

塩田紳二
2002/01/23

 International Consumer Electronics Show (CES)は、米国ネバタ州ラスベガスで毎年1月早々に開催される家電関連の展示会である。ここ何年かの間にコンピュータ関連製品も広く普及し、いまや家電なみのありふれた製品となったことから、CESでも多くのコンピュータ関連の製品が出品されるようになった。CE(Consumer Electronics:家電)という名前がついているものの、コンピュータ関連の展示も多く、秋に同じくラスベガスで開催されるコンピュータ関連機器の展示会「COMDEX」に匹敵するものとなっている。開催前夜のキーノート・スピーチに、Microsoftのビル・ゲイツ(Bill Gates)氏が登場したり、IntelがCESに合わせて新しいプロセッサ(今回は0.13μmプロセス製造のPentium 4)を発表したりするあたりにも、そのことが表れている。ここでは、2002年1月8日から開催された2002 CESに出展されたPDA関連製品を中心に紹介する。

2002 CESでスピーチしたビル・ゲイツ氏
キーノート・スピーチでは、Microsoftのビル・ゲイツ氏がWindows CE .NETと家電との融合について話を行った。

 米国でも、PDA(Handheldということが多い)はかなり普及しており、女性やお年を召した方などが使っているのが目につく。しかし、今回CESに出展したメーカーのうち、Palm系はPalm社のみで、あとはWindows CE系が大半を占めた。ただし、主催者が会場内に設けたCES Shopの2カ所には、Palm社とHandspring社の店舗が併設され、そこが展示ブースのようになっていた。

 Palm社は出展しているといっても、会場内のPalm社ブースは、そのほとんどがサードパーティ製品のみ。Palm社からは新製品の発表がなかったし、ソニーのクリエ(CLIE)はメモリースティック・ブースのみに展示されており、Palm系で大々的にブースを構えたメーカーがなかった。これはPalm系PDAのプロセッサが、現在の68000ベースのDragonBall EZからARMベースのDragonBall MX1へ移行する予定であるため、新製品が投入されなかったためだろう。そのためか、全体的にはWindows CE系が目立ってしまった感じがする。

 さて、開催前夜のキーノート・スピーチで、ビル・ゲイツ氏は次期Windows CEである「Windows CE .NET」、ならびにWindows CEを使った開発コード名「Mira(ミラ)」で呼ばれる専用デバイスや、家電制御向けユーザー・インターフェイス「Freestyle(フリースタイル)」などを発表した(Microsoftの「FreestyleとMiraに関するニュースリリース」)。Miraについては、ニュースリリースを読んでもどのようなものか分かりにくいが、要するにソニーの「エアボード」をイメージするとよい(ソニーの「エアボードの製品情報ページ」)。Miraは、液晶ディスプレイ側にWindows CE .NETを搭載し、PCと液晶ディスプレイを無線ネットワークとリモートデスクトップ・プロトコルで接続することで、液晶ディスプレイ側でPCの制御や画面表示を行おうというものだ。これにより、PC側で受信したテレビ放送や再生したDVDビデオの画像表示が、無線ネットワークを使って液晶ディスプレイ側で行えるようになる。MiraとFreestyleについては、「CESレポート第2弾」で対応製品を紹介する。

多くの対応製品が発表となった「Windows CE .NET」

 Windows CE .NETについては、カシオ計算機が現在北米で販売しているWindows CE 3.0搭載PDA「BE-300」にWindows CE .NETを搭載して参考出品していた。このPDAの画面を見ると、PocketPC 2000でなくなったはずの[スタート メニュー]ボタンが復活している。おそらくまだ、PocketPC向けまでは開発が進んでいないものと思われる(あるいは、またユーザー・インターフェイスを以前のものに戻すのだろうか?)。また、SiemensがMicrosoftブースで展示していた「SIMpad SL4」という機種にもWindows CE .NETが搭載されていた(SIMpad SL4自体はWindows CE 3.0搭載で2001年3月に発表済み)。こちらはタブレット型の機種であり、プロセッサにはStrongARMが採用されている。

 また会期中に、日立製作所もWindows CE .NETを採用した携帯情報通信端末の開発を発表した(日立製作所の「Windows CE .NET採用の携帯情報端末事業への参入について」)。日立製作所は、かつてペルソナシリーズで、キーボード付きのWindows CEマシンを販売していたが、ここしばらく新製品の投入は行われていなかった。これで、Windows CEによるPDA分野に再参入という形になる。なお、日立製作所のPDAは、無線LANのIEEE 802.11bを搭載しており、まずは業務用として展開を行うようだ。

 さて、Windows CE .NETに対応予定のPDAが搭載するプロセッサを見ると、SiemensがStrongARM、カシオ計算機がMIPS(日本電気のVR4131)を採用しており、少なくともWindows CE .NETは、StrongARMとMIPSの2種類に対応していることが分かった。日立製作所のPDAにSHシリーズが使われているかどうかは不明だが、もし使われているとすると、Windows CE 3.0と同様、Windows CE .NETでもSH、MIPS、ARMの3種類に対応していることになる。PocketPC 2002が事実上、StrongARMの1種類になったことから、Windows CEのワン・プラットフォーム化(StrongARM版のみ)が懸念されていたが、とりあえずWindows CE .NETではマルチ・プラットフォームが維持されそうだ。

 韓国のSamsung Electronicsは、Windows CE 3.0を使った携帯電話機能付きPDAとして「NEXiO S150」を発表した(Samsung Electronicsの「NEXiO S150に関するリリース」)。これは、解像度800×480ドットの反射型カラー液晶ディスプレイとStrongARMを採用したもので、CDMA2000 x1対応の携帯電話機能を持つ。また、USBポートを装備し、ここにカメラ・モジュールなどを装着することが可能である。Samsung Electronicsは、すでに米国のSprint PCS向けにPalm OS内蔵の携帯電話「SPH-i300」を出荷しており、NEXiO S150の投入により、Palm OSとWindows CEの両方をサポートすることになる。

Linuxの搭載で市場を切り開けるのか?

 PalmやWindows CEという競合がひしめく市場に対して、シャープの米国法人であるSharp Electronicsは、Linuxを搭載したPDA「Zaurus SL-5500」で米国への再進出を図るようだ。SL-5500は、日本国内で販売されているザウルス(Zaurus MI-E21)とそっくりだが、プロセッサにStrongARM(国内版はSHシリーズ)、OSにLinuxを採用し、その上にアプリケーションを搭載することで、オープン・コミュニティの賛同を得ようとしている。開発環境はほとんどオープンであり、Sharp Electronicsは開発者向けサイトで情報の提供などを行っている。つまりシャープは、先行するPalmやWindows CEに対して、オープンな開発環境を提供することでアプリケーション開発を個人レベルであっても容易に行えるようすることで対抗しようというわけである。

 全体としてPDAは、携帯電話機能を統合する傾向が今回のCESで強く感じられた。特にGSM方式では、SIMカード*1で自分の番号をさまざまな電話機へ移せるために、通信キャリアに対する独立性が高い。そのため、日本のようにPDAと携帯電話の両方で別々の回線契約を行う必要がないため、PDAに携帯電話機能を統合しやすいという理由がある。会場の小さなブースに展示されていた「hiptop」というPDAはよくできていた。小さな液晶の左右に「メニュー」と「Yes」「No」のキーと、ホイールが装備されており、これでほとんどの操作が簡単に行えるようになっている。さらに液晶部分を回転させることで、その下からキーボードまで出てくる。GSM方式の携帯電話機能も装備しているので、このPDAだけでインターネットへのアクセスも行える。ちなみに、このhiptopに搭載されていたカメラ・モジュールは、KDDIのFeel H"に取り付けられる「Treva」であった。話を聞くと京セラから提供されたサンプル・モジュールだという。

*1 GSM方式の携帯電話では、SIMカードと呼ばれる本人のIDや課金情報、相手先の電話番号、各種サービス情報などの利用者情報を記録したカードを組み込むことで、カード所持者の情報により電話することができる。つまり、SIMカードを差し替えることで、1契約で複数の異なる用途のGSM方式の携帯電話を使い分けることができるわけだ。

 2002 CESレポートの第1弾としてPDAを中心に見てきた。次回は、ネットワーク機器やそのほかのデバイスについてレポートする。記事の終わり

 CES 2002に展示された主なPDA関連製品(写真はクリックで拡大)
 
カシオ計算機のブースで展示されていたWindows CE .NET搭載PDA。ハードウェアは、既存のBE-300だが、それにWindows CE .NETを搭載していた。 カシオ計算機のブースに展示されていたWindows CE .NET搭載PDAの画面。「Processor」の項目を見ると、「NEC, MIPS-VR4131」と表示されていることからMIPS系のプロセッサが引き続き採用されるものと思われる。 Iceboxのキッチン用Windows CEマシン「iCEBOX」。吊り戸棚の下などにつけて利用する。液晶ディスプレイ部分は、畳んで本体下部に格納することが可能で、付属のキーボードは防水で水洗いも可能だ。また、テレビを見ることもできる。 日立製作所のWindows CE .NET対応PDA。無線LANを搭載している。ショーウィンドウの中にあったために、動作しているところを見ることはできなかった。
 
IMPACTRAの携帯用MPEG-4プレーヤ「Motion-i」。Windows CE 3.0を搭載し、Windows Media Playerの機能を持つ。 IMPACTRAのGSM/GPRS、CDMA2000 1x対応の携帯電話「Sync-i」。液晶ディスプレイ部分が90度回転して横長画面にすることもできる。やはりWindows CE 3.0を搭載し、Windows Media Playerの機能を持つ。 Siemensの「SIMpad SL4」。Windows CE .NETを搭載したタブレット型マシン。ハードウェア自体は、2001年のCeBITで発表されたもので、当時はWindows CE 3.0を採用していた。 Samsung Electronicsの「NEXiO」。Windows CE 3.0を搭載した携帯電話(CDMA)付きPDA。本体上部にはUSBポートがあり、これでオプション機器などを接続できる(写真はカメラ・モジュールを接続したもの)。液晶ディスプレイは、解像度800×480ドットとPDAにしては高精細で大型だ。下にあるのはPC接続用のクレードル。
 
Sharp Electronicsの「WIZARD」。画面デザインはかなりPalmに似ている。こちらは、低価格PDAとしてSL-5500の下位モデルとして販売される。 Sharp Electronicsの「SL-5500」。Linuxを搭載し、GUIにTrolltechのQtを採用する。概観は日本国内で販売されているザウルスにそっくりだが、中身はまったくの別物。 Samsung ElectronicsのPalm OS採用の携帯電話。すでに米国ではSprint PCSが販売を行っている。携帯電話では京セラ、HandspringがPalm OSを採用した機種を出している。 ゲームで有名なATARIは、カシオ計算機のデジタル・カメラ内蔵腕時計とソフトウェアを組み合わせたGaming+Camera Watchを発表した。ただし会場では、現行のものにソフトウェアを搭載しただけのもので、デモを行っていた。
 
Royalが開発中のLinux内蔵PDA「Royal Lin@x」。ただし、展示は液晶ディスプレイと基板のみのバラックセットと、ケースのモックアップだった。StrongARMを採用し32Mbytesのメモリを持ち、価格は299.99ドルの予定。 Dangerのhiptop。本体左右に3つのボタンとホイール(ソニーのジョグダイヤルに似て、押すことが可能)を持ち、通常の操作はこれで行う。液晶部分を上に回転させると下にキーボードが現れ、メッセージ入力などが可能だ。GSM/GPRSの携帯電話機能を持つ。 Magellan(THALES NAVIGATION)のPalm m500/505向けGPSモジュール。Palmは、周辺装置を含めたビジネスが盛んで、会場にもケースなどの展示が多く見られた。 nexianの「Nexicam」。CompaqのiPaq Handheld向けデジタル・カメラ・モジュール。解像度800×600ドットの撮影が可能で、動画にも対応する。
 
   
FLEXISのPalm用の「やわらかい」キーボード「FX100」。巻いて小さくして持ち歩くことができる。 Palmが出荷予定のSDカード型Bluetoothモジュール。製造は東芝が行う。ブームの落ち着いた感のあるBluetoothだが、PDAなどでの採用が増えてきた。あとは、対応機器や携帯電話がどれだけ普及するかにかかっているだろう。    
 
  関連リンク 
2002 International CESに関するニュースリリースENGLISH
FreestyleとMiraに関するニュースリリース
エアボードの製品情報ページ
Windows CE .NET採用の携帯情報端末事業への参入に関するニュースリリース
NEXiO S150に関するリリースENGLISH
開発者向けサイトENGLISH
 
「PC Insiderのニュース解説」


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