動向解説 IDEディスクの壁を打ち破る最新ディスク・インターフェイス

4.Fast Drive(Ultra ATA/133)の存在理由

デジタルアドバンテージ 島田広道
2001/09/20

Ultra ATA/133とは?

 シリアルATAへの移行スケジュールが遅延したのを受けて登場したのが、Maxtor提唱の「Fast Drive(Ultra ATA/133)」である。発表されたのはBig Driveに遅れること約1カ月、2001年7月31日である(日本マックストアの「Fast Driveのニュースリリース」)。Fast Driveは通称で、一般的にはUltra ATA/133と呼ばれるこの新しいIDEの仕様は、2001年9月の時点で詳細が公開されていない。ただし、ライセンス契約を結んだIDE関連製品ベンダには、非開示を前提に仕様などが提供されているという。また2001年第4四半期の間には、ATA/ATAPIの標準規格策定を担当するT13グループにUltra ATA/133が提案される予定だ(T13のホームページ)。

 こうした現状のため、Ultra ATA/133には謎が数多く残されている。それでも、Maxtorが公開しているホワイト・ペーパーから類推する限り、Ultra ATA/133は、Ultra ATA/100から最小限の変更で133Mbytes/sの最大転送レートを実現した仕様のようだ。少なくとも、シリアルATAのように物理層をごっそり入れ替えるようなドラスティックな変更は見あたらない。例えば、Ultra ATA/133でも、IDEのケーブルとコネクタには現行のUltra ATA/100用のものを使用する。また、Ultra ATA/33〜100を含む従来のパラレルATAと下位互換性を維持できるという。

 高速化は、1回のデータ転送にかかる時間(サイクルタイム)を短縮することで実現しているようだ。Ultra ATA/100のサイクルタイムは40nsで、この間に16bitのデータを2回転送する。Ultra ATA/133ではサイクルタイムを30nsに短縮することで、

 16bit×2回÷30ns=4bytes÷0.03μs=133Mbytes/s

という転送レートを実現しているようだが、詳細は明らかにされていない。

製品発表が意外に多いUltra ATA/133対応ハードウェア

 Ultra ATA/133による最大133Mbytes/sの転送レートを利用するには、ハードディスクはもちろんIDEホスト・コントローラの両方がUltra ATA/133に対応する必要がある。ハードディスクについては、やはり提唱者のMaxtorから最初の製品が発表されている(下の写真)。

MaxtorのDiamondMax Plus D740X
9月11日に発表されたばかりのIDEハードディスク。性能重視シリーズに属する。なお、同時に発表された価格重視シリーズのDiamondMax D540Xにも、Ultra ATA/133対応の120Gbytes/160Gbytesモデルが追加されている(Maxtorの製品情報ページ:DiamondMax Plus D740XDiamondMax D540X)。

 またIDEホスト・コントローラについては、MaxtorがUltra ATA/133を発表してから2カ月も経っていないうちに、次々とコントローラ・ベンダから発表された(下表)。

ベンダ名 製品名 発表日 ニュースリリースや製品情報ページ
チップセット(サウスブリッジ)内蔵タイプ
ALi M1535D+ 2001/09/04 http://www.ali.com.tw/ eng/news/year2001/sep01a.htm
VIA Technologies VT8233A 2001/09/03 http://www.via.com.tw/ jsp/en/pr/maxtor.jsp
VT82C686C
PCI接続のIDEホスト・コントローラ
HighPoint Technologies HPT372 2001/07/20 http://www.highpoint-tech.com/ hpt372.htm
HPT374 2001/09/14 http://www.highpoint-tech.com/ hpt374.htm
Silicon Image Sil 0680 2001/09/11 http://www.siimage.com/press/ 09_11_01.asp
Ultra ATA/133対応ホスト・コントローラ
上記のうち、VIA TechnologiesのVT82C686CはVTF2001(2001年に行われたVIA Technologies主催のカンファレンス)にてその存在が明らかになっている。多くの製品は2001年末までにサンプル出荷が始まる予定だ。

 上記のハードディスクもホスト・コントローラも、Ultra ATA/133だけではなく従来の転送モードもサポートしているため、一方がUltra ATA/133に対応していなくても、単に従来の転送モードで動作するだけだ(転送レートは133Mbytes/sより下がるが)。このように、現状と同様、IDEとして稼働できるか、という視点で見た場合、重要なのはハードウェアよりソフトウェアの対応である。

133Mbytes/sの転送モードを使わなくてもドライバ・アップデートは必要!?

 ハードウェアの変更規模が非常に小さいことから、ソフトウェアでもUltra ATA/100からUltra ATA/133対応にするための変更は、やはり小さいものと推測される。具体的には、ディスクBIOSとOS側のIDEドライバのアップデートで済むものと思われる。

 注意したいのは、たとえUltra ATA/133の最速転送モード(133Mbytes/s)を利用しない場合でも、Ultra ATA/133対応IDEハードディスクをPCに組み込んだら、IDEドライバのアップデートが必要かもしれない点だ。なぜなら、Windows 2000とUltra ATA/100対応ハードディスクを組み合わせた際、適切な転送モードが選択されなかったという前例があるからだ(詳細は「元麻布春男の視点:Windows 2000のUltra ATA/100サポートはSP2で改善されたのか」を参照)。あるいは、「PC TIPS:IDEハードディスクの転送モードにかかわるトラブルを解決するには?」のように、IDEハードディスク側の転送モードの上限を変更するといった対策が、Ultra ATA/133でも必要になるかもしれない。

Ultra ATA/133の位置付け

 ドラフト(草案)の段階とはいえ、すでに標準として規格に組み込まれているBig Drive(48bit LBA)に比べると、Ultra ATA/133が主流となるかどうかは流動的である。前述のように、まだ規格としてATA/ATAPIに(正式には)提案されていないからだ。提唱者であるMaxtor以外のハードディスク・ベンダは、Ultra ATA/133対応ハードディスクを出荷するかどうか、明らかにしていない。一方、IntelはUltra ATA/133をサポートする予定はないという。こうした背景から、シリアルATAに積極的なSeagate Technologyの動向が注目される。

 ただし、Ultra ATA/133がシリアルATAへの「つなぎ」であることは、Maxtor自らが明言している。大規模な変更を避けて細かい改良を重ねてきたパラレルATAは、コストを抑えたまま性能を高めていくのが非常に困難なレベルに達している。短期的にUltra ATA/133のシェアが高まっても、いずれはシリアルATAという路線は変わっていないわけだ。

 Big Driveは、137Gbytesを超える大容量ハードディスクを使用しない限り、関連するトラブルには遭遇しないだろう。一方、ハードディスクやIDEインターフェイス・カードを購入したらUltra ATA/133対応製品だった、という事態は今後十分に考えられる。そのため、ディスクBIOSやOS側のIDEドライバなどUltra ATA/133のソフトウェア・サポートには注目しておく必要があるだろう。記事の終わり

  関連記事(PC Insider内) 
Windows 2000のUltra ATA/100サポートはSP2で改善されたのか
IDEハードディスクの転送モードにかかわるトラブルを解決するには?

  関連リンク 
Fast Drive(Ultra ATA/133)に関するニュースリリース
Fast Drive(Ultra ATA/133)に関するホワイト・ペーパー
Fast Drive(Ultra ATA/133)に関するホワイト・ペーパーPDF
ATA/ATAPIに関する標準規格を策定している団体。ドラフト(草案)段階の規格書がダウンロード可能
DiamondMax Plus D740Xの製品情報ページ
DiamondMax D540X(Ultra ATA/133対応モデル)の製品情報ページ
 
 

 INDEX
  [動向解説]IDEディスクの壁を打ち破る最新ディスク・インターフェイス
    1.容量の壁を打ち破る「Big Drive」
    2.Over 137Gbytesディスクを正しく使うには
    3.不透明なシリアルATAへの移行スケジュール
  4.Fast Drive(Ultra ATA/133)の存在理由
 
「PC Insiderの動向解説」


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