ニュース解説

CompaqはなぜIntelと次世代エンタープライズ・サーバ開発で合意したのか?
―Alphaプロセッサから撤退の理由―

小林章彦
2001/06/27

 2001年6月25日、IntelとCompaq Computerが次世代のエンタープライズ・サーバの開発で合意した。日本のプレス向けにも、米国とほぼ同時と思われる22時すぎにニュースリリースが配信されるという、異例の発表であった(Compaqの「Intelとの合意に関するニュースリリース」)。

 その内容は、IntelとCompaqが複数年契約のもと、共同でItaniumプロセッサ・ファミリを搭載した次世代エンタープライズ・サーバの開発を行うというもの。これだけを聞くと、すでにIntelとCompaqは高密度サーバの開発で合意しており、その延長線にあるように思える(Intelの「Compaqとの高密度サーバで協業に関するニュースリリース」)。しかし、今回の契約は、さらに踏み込んだ内容となっている。

AlphaServer GS160
2001年夏に動作クロック1GHzのAlphaプロセッサが搭載される予定のAlphaServer GSシリーズの中型モデル。

 まず、Compaqは2004年までに、AlphaサーバとHimalayaシステムをItaniumプロセッサ・ベースに統合する。具体的には、2001年夏に動作クロック1GHzのAlphaプロセッサを搭載したハイエンド・サーバ「AlphaServer GSシリーズ」を出荷、現在開発中の次世代EV7 Alphaプロセッサを2002年末までに発表し、2003年までAlphaシステムの新規開発を行うというもの。その後、Itaniumプロセッサ搭載システムに移行することになる。また、Himalayaシステムに関しては、Itaniumプロセッサ搭載のシステムが完成する2004年までMIPSプロセッサを搭載して提供を行うと述べている。

 この統合に向けてCompaqは、Tru64 UNIX、Open VMS、NonStop Kernelを、それぞれItaniumプロセッサへ移植し、顧客の資産保護を図るという。実は過去にCompaqは、Tru64 UNIXをItaniumプロセッサに移植する「Bravo Project」を進めていたことがある。しかしその後、ItaniumシステムとAlphaシステムを棲み分けるため、「ItaniumシステムのUNIX系OSはLinuxとする」という判断がなされたことで、1999年にその計画を中止している。すでにHewlett-Packard(HP)はhp-ux 11iを、IBMはAIX 5Lを、それぞれItaniumシステム向けに提供を始めており、これから移植作業を再開したところで、果たして両社との競争に間に合うのか疑問に感じてしまう。結果的にCompaqは、ハイエンド・サーバを巡る迷走によって、2年近くの時間をロスしてしまったことになる。

 さらに、重大なのは「技術移転」についての合意である。Compaqは、Alphaプロセッサに関する各種技術ならびにAlphaプロセッサ向けコンパイラをIntelに譲渡する、としている。これには、Alphaプロセッサ関連のツールならびにエンジニアリング・リソースも含まれている。つまり今回の契約により、CompaqはAlphaプロセッサから撤退し、Intelがそのリソースを受け継ぐことになる。もともとAlphaプロセッサは、Compaqと合併したDECが持っていたもの。このとき、DECの半導体工場とStrongARMをIntelが買収した経緯がある。現在でも、Alphaプロセッサは、IntelがDECから買収した工場を使って製造している。数年を経て、DECの半導体事業のすべてがIntelに吸収されることになったのは、何とも皮肉なものだ。

 数百人のAlphaプロセッサ関連(マイクロプロセッサならびにコンパイラ)の技術者は、すべてIntelに移籍することが提案されている。ただ、現在開発中のAlphaプロセッサについては引き続き開発が行われるため、一部の開発者は継続してCompaqで作業を行い、その後にIntelに合流することになるようだ。

Compaqは3つのプラットフォームをItaniumに統合

 なぜCompaqは、ここまで大胆な戦略転換を行わなければならかなかったのだろうか。それには、現在のCompaqの成り立ちを考えると分かりやすい。PCを中心とする旧Compaqと、ノンストップ・コンピュータのTandem Computersが合併したのは、1997年8月のこと。このころから、Compaqは総合コンピュータ・ベンダへの道を歩み出し、IBMを追撃する体制を整え始めた。その後1998年6月に、Compaqとかつてのミニ・コンピュータの雄DECが合併し、現在のCompaqが出来上がったわけだ。こうした矢継ぎ早の合併により、Compaqは世界最大のコンピュータ・ベンダになる一方で、複数のアーキテクチャをサポートする、見方によっては無駄の多い会社にもなってしまった。

 サーバ分野を中心にこの3社を見ると、旧CompaqがIntel、TandemがMIPS、DECがAlphaと異なるアーキテクチャを採用している。当初は、エントリ・サーバをIntel系、計算サーバ/ハイエンド・サーバをAlpha系、基幹サーバをMIPS系といったように、サーバのセグメントで棲み分けが行えていたものの、市場の変化やItaniumプロセッサの登場により、それぞれが競合するようになってきた。

NonStop Himalaya S74ファミリ
連続可用性99.9999%を誇るHimalayaファミリの上位モデル。証券取引所や銀行などでの採用が多い。

 さらに、TandemのHimalayaが採用するMIPSプロセッサにも問題が起きている。MIPSプロセッサの開発元であるMIPS Computer Systemsが、1992年にSGIに買収され、その後1998年にMIPS Technologiesとして独立するなどの紆余曲折から、組み込み系プロセッサ・コアの開発を中心とする方向にシフトしてしまった。そのため、Himalayaシステムが必要とするハイエンド・プロセッサの開発が滞ってしまっている。つまり、Himalayaシステムは、遅かれ早かれアーキテクチャの変更を余儀なくされていたわけだ。もちろん、Itaniumプロセッサではなく、Alphaプロセッサを選択することも可能(事実、検討していたようだ)であったわけだが、今回の発表によればItaniumプロセッサを選択したことになる。

 今回、Alphaプロセッサ関連のリソースをすべてIntelに移管することからも分かるように、CompaqはAlphaプロセッサから完全に撤退することになる。これには、少なからず米国の景気後退の影響があるだろう。Alphaプロセッサが得意としていたハイエンド・サーバは、インターネットの普及により、市場が急速に拡大してきた。2000年のSun Microsystemsの業績が好調であったことからも分かるように、この市場は出荷台数こそ数万台であるものの、システム価格が高いことから、出荷金額ではPCサーバを超える。しかし、IntelがItaniumプロセッサの立ち上げに多くの開発要員を割き、長い時間をかけていることでも、この市場での投資が莫大な金額にのぼることが予想できる。つまり、景気が後退する中、1社でこの莫大な投資をまかなうことが難しくなってきたわけだ。特にAlphaサーバは、SPARCサーバ(Sun Microsystems)やPA-RISCサーバ(HP)などに比べて、ハイエンド・サーバ市場で出遅れていることから、巻き返しを図るにはさらなる投資が必要とされる。景気が後退している中で、莫大な追加投資は不可能という判断が行われたのだろう。

 さらに、前述のようにCompaqは、ハイエンド・サーバ市場に対し、3つのプラットフォームを提供している。この3つのプラットフォームを別々にサポートするには、膨大な開発パワーが必要になり、競争上大きな負担となる。これは、ハイエンド・サーバ分野でCompaqが苦戦を強いられている一因であることは否めない。限りある開発パワーを1つのアーキテクチャに集中して投資した方が効率的なのは明らかだ。

今回の合意でItaniumファミリの開発が加速

 このCompaqの戦略転換で最も得をするのは、Intelかもしれない。Intelにとっては、Itaniumプロセッサの強力なサポート・ベンダが増えることになるからだ。また、Itaniumシステムにはぜひとも必要な、Himalayaで培われたノンストップの技術が手に入るメリットも大きい。

 Alphaプロセッサの開発チームの受け入れも、Intelにとっては願ったり叶ったりかもしれない。Itaniumファミリの開発だけとってみても、次期Itaniumの「McKinley(開発コード名:マッキンリー)」を含め、5つ以上のプロジェクトが並行して動いているという。さらに、デスクトップPC向けやノートPC向け、StrongARMを中心とする組み込み向けなど、Intelは多くのプロセッサ・ラインアップを持っている。これまでは、デスクトップPC向けのプロセッサをアレンジすることで、ノートPC向けやサーバ向けを提供してきたため、製品ラインアップほど多くの技術者は必要ではなかった。しかしここ数年、それぞれのセグメントによって求められる技術が異なることから、各セグメントに合わせたプロセッサの開発が必要となってきている。そのため、いままで以上に多くの技術者が求められるようになっている。

 それを裏付けるように、Intelではミドルレンジ・クラスのサーバ向けチップセットの自社開発を行っていない。現在、Pentium III Xeonを搭載するほとんどのサーバが、ServerWorks(Broadcomの一部門)製チップセットを採用している(Intelが製造しているサーバ向けマザーボードもServerWorks製チップセットが採用されている)。これは、ServerWorks製チップセットが優秀ということもあるのだろうが、Intelがこのクラスのチップセットを提供していないというのが最大の理由だ。おそらく、ほかのラインアップと同様にチップセットを自社開発するほど、現時点のIntelの開発リソースは潤沢ではない、ということだろう。

 Intelにすれば、今回の合意によって、CompaqからAlphaプロセッサ関連の技術者を大量に移籍させることで、こうしたリソース不足の問題が大幅に改善される可能性がある。また、この合意にはコンパイラの技術者ならびに技術(特許も含まれていると予想する)もIntelに移籍すると述べられており、周辺技術の面でも大幅に強化されることが予想される。

Compaqは勝ち組みに残れるか

 今回の合意により、CompaqはIntelと強力なタッグを組むことになった。Itaniumを推進するベンダの中でも、Intelとの関係が一歩先に出た印象を受ける。しかし、ハードウェアとしてItaniumシステムに統合するものの、Itaniumシステム上でサポートするOSはTru64 UNIX、Open VMS、NonStop Kernel、Windows、Linuxの5種類と依然として多い。OSをどのようにリストラしていくのかが今後の課題となるだろう。

 Compaqの今回の戦略転換が成功だったかどうかは、2004年以降、Itaniumシステムへの統合が行われた時点ではっきりとする。歴史のあるAlphaプロセッサが終焉を迎えてしまうのはさびしいが、これも時代の流れということなのだろう。記事の終わり

  関連リンク
Intelとの合意に関するニュースリリース
Compaqとの高密度サーバで協業に関するニュースリリース
Alphaシステムの製品情報ページ
ノンストップ・システム(Himalaya)の製品情報ページ

「PC Insiderのニュース解説」

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