ニュース解説

Intelに競合するチップセット・ベンダの動向
―注目のDDR SDRAM対応チップセットなどの動向をチェック―

島田広道
2000/10/13

 プロセッサやメモリなどと同様、チップセットもまた、PCの機能や性能を大きく左右する要素である。そのチップセットの大手ベンダであるIntelの動向については、「実験:最新チップセットの機能と性能を探る」で触れたので、ここではデスクトップPCをターゲットとしたIntel以外のチップセット・ベンダの最新動向をまとめてみたい。

Intel 815/815Eと競合するチップセット

 「特集:最新のビジネス向けPCを解剖する」で述べたように、現在、Pentium IIICeleronを搭載するメイン・ストリームのデスクトップPCには、Intel 815/815Eチップセットが採用される例が多い。しかし、Intel以外のチップセット・ベンダもこの状況で手をこまぬいているわけではなく、Intel 815/815Eに優るとも劣らない機能と性能を持つチップセットを用意している。

台湾VIA Technologies社のProSavage PM133

このチップにグラフィックス機能が内蔵されている。

 すでに量産出荷が始まっているのは、台湾VIA Technologies社(以下VIA)のProSavage PM133である。このチップセットは、グラフィックス・アクセラレータとネットワーク・コントローラ、2つのUSBコントローラなどを内蔵し、AGPグラフィックス・カードも外付けできるなど、Intel 815Eとほぼ同等の機能を実現している。異なるのは、グラフィックス・アクセラレータ・ベンダだった米S3社から得た比較的高性能なグラフィックス機能を内蔵している点だ。3DアクセラレーションはS3 Savage 3Dというグラフィックス・アクセラレータから、2DアクセラレーションはS3 Savage2000から、それぞれ流用している。どちらも単体のグラフィックス・アクセラレータとして出荷された実績があり、Intel 815/815Eの内蔵グラフィックス・アクセラレータを超える性能が期待できる。スペックでも、解像度やRAMDACの最大ドット・クロック周波数は、Intel 815/815EよりProSavage PM133のほうが上である。

 ProSavage PM133は、すでに日本ヒューレット・パッカード製のSOHO市場向けPCであるhp brioシリーズに採用された実績を持つ(ニュース・リリース)。先発のIntel 815/815Eを相手に、今後どこまでシェアを広げるか、興味深いところだ。

台湾SiS社のSiS630S

この1チップで主要な機能を実現している。

 台湾SiS社(Silicon Integrated Systems)もまた、SiS630SというIntel 815Eと同等の機能を持つチップセットを発表済みである。これは、SiS630というPentium III/Celeron対応のグラフィックス統合型チップセットに、AGPグラフィックス・カードのサポートを加えたものだ。特徴は、Intel 815EとProSavage PM133が2チップで主要な機能を実装しているのに対し、SiS630Sではすべてが1チップに統合されていることである(Pentium用チップセットの時代から、SiSは1チップ構成のチップセットを得意としていた)*1。2チップより1チップのほうが、マザーボード上の実装面積が減り、結果としてPCを小型化しやすいというメリットがある。チップ数が減ると、それに応じて製造コストも低減できるというメリットも考えられるが、逆にチップの回路集積密度が上がって歩留まりが下がる可能性もあり、一概にコスト・ダウンに直結するとは言えない(もちろんSiSには勝算あっての方針だろうが)。ただし、大手PCベンダによるSiS630Sの採用例はまだないようだ。

*1 シリアル・ポートパラレル・ポートなどのレガシー・デバイスは、Intel 815/815Eと同様に、外付けのスーパーI/Oというチップで実装される。ProSavage PM133の場合、スーパーI/Oの機能まで内蔵している。

DDR SDRAM対応チップセットが続々と発表

 Intel 815/815Eが現在(2000年第4四半期)における主流のチップセットだとすれば、各社によるDDR SDRAM対応チップセットの開発競争は、次世代チップセットの主流を目指す戦いなのかもしれない。DDR SDRAMは、IntelとRambusがPC用の次期メイン・メモリとして推進してきたDirect RDRAMと直接競合するメモリ・チップだ。VIAや台湾Acer Laboratories社(以下ALi)、SiSなどIntel以外のチップセット・ベンダは、こぞってDDR SDRAM対応チップセットを開発しており、すでに発表されている製品もある。

VIAのApollo Pro266

この2チップが高速な専用バスV-Linkで接続される。

 VIAのApollo Pro266は、Pentium IIIやCeleron、VIA Cyrix IIIというSocket370対応のプロセッサをサポートするDDR SDRAM対応チップセットだ。メイン・メモリのデータ転送レートは最大2.1Gbytes/sと、現在のPC133 SDRAM(1.0Gbytes/s)に比べ、2倍以上の性能を発揮するという。またデュアル・プロセッサ構成(SMP)もサポートする。そのほか、Intel 810/815/820などと同様に、ノース・ブリッジ(メモリ・コントローラ)とサウス・ブリッジ(I/Oコントローラ)の間を、PCIより高速なV-Linkという専用バスで接続するようになった。Intel 815Eと内蔵デバイスを比べると、Apollo Pro266はグラフィックス機能こそ内蔵しないものの、そのほかは同程度のデバイスを統合している。将来的には、Apollo Pro266にグラフィックス機能を統合したチップセットも計画されている。

ALiのAladdin Pro 5(左)

右のAladdin Pro 5MはノートPC用チップセット。

 VIAより前にDDR SDRAM対応チップセットを発表して、その意気込みを見せたのはALiである。Pentium III/Celeronをサポートする同社のDDR SDRAM対応チップセットは、Aladdin Pro 5という製品で、最大2.1Gbytes/sのメモリ転送レートなど、前出のApollo Pro266と同程度の機能/性能を持つ。ただ、ノース・ブリッジ(メモリ・コントローラ)とサウス・ブリッジ(I/Oコントローラ)の間は、従来どおりPCIで接続される点が異なる。

 このほか、SiSやメモリ・チップ・ベンダのMicronも未発表ながらDDR SDRAM対応チップセットを開発しているという(もちろんMicronはDDR SDRAMチップも製造している)。このように現在、IntelあるいはRambusに対抗しているベンダはDDR SDRAMやその対応チップセットに注力している。ただ実際のところ、2000年10月中旬の時点では、DDR SDRAMのメモリ・モジュールもサンプル出荷が開始されて間もないし、対応チップセットを搭載したマザーボードもまだ販売されていない。このペースでいけば、本格的にDDR SDRAM採用PCが市場に流通し始めるのは、早くても2001年に入ってからだろう。そのPCの販売価格も、メイン・ストリームに素早く普及するほどリーズナブルかどうかは疑問の余地がある。DDR SDRAMは、Direct RDRAMとは異なり、SDRAMとそれほど変わらない価格で登場するといわれている。しかしDDR SDRAM搭載PCが高性能であるほど、それはメイン・ストリームからハイエンドのセグメント、すなわち、より高価格で販売されるだろう(開発コストを回収したいというベンダの思惑も影響するはずだ)。このような背景からいって、DDR SDRAMを搭載したデスクトップPCがメイン・ストリーム向けに下りてくるのは、2001年以降だろう。

Pentium 4やAMD陣営の動向

 Pentium III/Celeron以外のプロセッサに対応するチップセットについても、その動向を確認しておこう。まず2000年末に登場予定のPentium 4については、搭載デスクトップPCも同時に登場する見込みだ、しかし、その数は少なく、またハイエンドに限られると予想されている。当初、チップセットはDirect RDRAMのみに対応するIntel 850/860しかないため、製品価格はかなり高くならざるをえないものと思われる。2001年前半まではメイン・ストリームのセグメントに影響しないだろう。

 メイン・ストリーム向けデスクトップPCに関して注目すべきは、Pentium 4ではなくAMDのAthlonDuronだろう。これらをサポートするグラフィックス内蔵チップセットとして、VIAからProSavage PM133のAMDプラットフォーム版であるProSavage KM133がすでに発表されている(ニュース・リリース)。DuronとProSavage KM133を組み合わせれば、低価格PCからメイン・ストリームの下位までカバーできるし、逆に上位はAthlon搭載機がカバーできるだろう。

ALiのALiMAGiK 1(左)

右のMobileMAGiK 1はノートPC用チップセット。

 DDR SDRAM対応チップセットについても、各ベンダはAthlon向けの製品を準備している。VIAはApollo Pro266のAthlon版であるApollo KT266(ニュース・リリース)を、ALiはAladdin Pro 5のAthlon版であるALiMAGiK 1を、それぞれ発表済みである。AMD自身もまた、AMD-760/760MPというDDR SDRAM対応チップセットを開発している。特に注目はデュアル・プロセッサ構成(SMP)をサポートしたAMD-760MPで、これは2000年末までにAMDがリリースを予定している新型プロセッサもサポートするといわれている。2000年10月11日には、AMD-760MPと2基のAthlonでデュアル・プロセッサ構成を実現したワークステーションのデモが初公開されており、製品化は間近に感じられる。と同時に、当初はワークステーションなどハイエンドのセグメントが狙いであることもうかがえる(いずれはメイン・ストリームに下りてくるだろうが)。

 以上のように、メイン・ストリームのデスクトップPCを指向した新しい製品が、2000年末までに続々と登場する予定である。とはいえ、現時点でこのセグメントで先行しているのはIntel 815/815Eであることも確かだ。新製品のスケジュールからすれば、少なくとも2000年中は、Intel 815/815E搭載PCが主流のままだろう。PCベンダなどがDDR SDRAMなど新しい技術に慣れるのにも時間がかかるだろうから、2001年第1四半期も状況はたいして変わらないかもしれない。その後、どのように市場が推移するかは現時点では不確定な要素(DDR SDRAMの供給量など)が多く、詳細な予測が難しい。デスクトップPCの導入に携わるITプロフェッショナルは、特にここ数カ月ほど、プロセッサやチップセット、メモリ・チップにかかわる各ベンダの動向に注目すべきだろう。記事の終わり

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