ニュース解説

Pentium 4の登場はデスクトップPCに何をもたらすのか?

小林章彦
2000/07/05

 

Pentium 4のロゴ

Pentium 4でも「Intel Inside」のロゴが使われる。Pentium IIIのロゴに比べ、立体感のあるロゴになっている。

 2000年6月28日、Intelは開発コード名Willamette(ウィラメット)」で呼ばれていた次世代プロセッサのブランド名を「Pentium 4」にすると発表した(IntelのPentium 4に関するニュース・リリース)。Pentium 4という名称になったのは、Pentiumの認知度が世界的に高いため、とインテルでは述べている。Pentium 4は、Pentium IIIの後継プロセッサとして、当初ハイエンドのデスクトップPC向けとして2000年内に出荷される予定だ。最初に出荷される製品は、動作クロック1.4GHzからになると噂されている。

 Intel 820チップセットの出荷の遅れやプロセッサの品不足、さらにはMTHの不良からのマザーボードの回収騒ぎと、順風満帆だったインテルが、どうもこのところギクシャクしている中だけに、果たしてPentium 4は大丈夫なのかと気にかかる。

 Pentium 4のマイクロアーキテクチャは、Pentium IIIのパイプライン構成を大幅に拡張したスーパー・パイプラインを採用している。パイプラインは、Pentium IIIの10ステージに対し、Willametteでは20ステージと深さが2倍になっている。そのため、各ステージの処理が単純化されて、高クロック化が期待できる。そのうえ、整数演算ユニットは、動作クロックの2倍で動作するため、Pentium IIIに比べて高い整数演算性能を発揮すると予想される。また、Pentium IIIの弱点といわれていた浮動小数点演算ユニットも大幅に手が加えられ、パイプライン化することで、高速化を実現しているという。さらに、インターネット・ストリーミングSIMD拡張命令を拡張し、浮動小数点演算の同時複数演算を可能にした「インターネット・ストリーミングSIMD拡張命令2(SSE2)」と呼ぶ、マルチメディア処理向けの命令セットが実装されており、ソフトウェアによる暗号化/復号化やDVDビデオのエンコードデコードなどがよりスムースに行えるようになるだろう。また、音声認識といった分野でも、Pentium 4の性能が有効に働くはずだ。

Pentium 4のパッケージ

インテルの開発者向けの会議であるIDF(Intel Developer Forum) Spring 2000のキーノート スピーチのプレゼンテーションで公開されたWillamette(Pentium 4)のパッケージ。

 これまでIntelは、Itaniumを除き、ブランド名を発表してから数カ月(3カ月程度)で製品の発表を行ってきた。一部の噂では、Direct RDRAMの普及の遅れから、Willamette(Pentium 4)の発表を遅らせるのではないかと言われていたが、これは間違いだったようだ。リリースによれば、公表されていたロード・マップのとおり2000年後半にPentium 4の正式出荷が開始されるようだ。

 現在、デスクトップPC向けにはPentium IIIとCeleronという2種類のプロセッサが出荷されている。サーバ/ワークステーション向けも含めると、Pentium III Xeonが加わり、3種類となる。2000年内に、これにItaniumとPentium 4が加わることになる。ItaniumとPentium 4が登場しても、Pentium III XeonとPentium IIIは当面出荷され続ける予定なので、Intelのプロセッサ・ラインアップは、かつてないほどの多品種になる。ラインアップ上、Itanium、Pentium III Xeon、Pentium 4、Pentium III、Celeronと5種類も並存することになる。

 Pentium 4の登場によって、Pentium IIIの位置付けが微妙になるのは間違いないだろう。Pentiumの頃までは、メインストリームのプロセッサが次世代に移行すると、それまでメインストリームだったものは、エントリPC向けになり、当面は並存し続けた。たとえば、Pentiumが登場したばかりの頃は、それまでのメインストリームであったi486DX2/DX4は、エントリPC向けに移行した。ところがPentium IIIの場合は、エントリPC向けに別ブランドとしてCeleronがあるため、エントリPC向けに移行しにくいという事情がある(Celeronがあるため、価格を下げにくい)。さらに、プロセッサ価格が安くなっているため、これまでと同様、Pentium 4をメインストリームのプロセッサとして販売することになると、数万円の価格レンジの中に、Pentium 4、Pentium III、Celeronと3つのブランドで棲み分けを行う必要が生まれる。それぞれが、複数の動作クロックでラインアップを組むことから、性能のオーバーラップやコスト・パフォーマンスの逆転といった状態も生まれかねない。ヘタをするとPentium IIIは、Pentium 4とCeleronに挟まれ、行き場がなくなってしまうかもしれない。

カギはDirect RDRAMの動向が握る

 ここでカギを握っているのが、Pentium 4で採用が予定されているDirect RDRAMである。Direct RDRAMは、Pentium III用のチップセット「Intel 820」でも採用しているメモリだ。インテルの当初の戦略では、Intel 820の普及により、Direct RDRAMの出荷を増やし、スケール・メリットによって、これを低価格に導き、Pentium 4の出荷を待つという目論見であった。Pentium 4の出荷時には、Direct RDRAMは十分に安価になっており、Pentium IIIからPentium 4への移行はスムーズに進むことになる。そこで、Pentium 4を徐々に安価にし、現在のPentium IIIの市場をPentium 4で置き換え、それにつれてCeleronを高性能化し、実質的に現在のPentium IIIに位置付けることで、現在のCeleronをフェード・アウトさせようというものであったはずだ。ところが、前述のようにIntel 820は出荷が大幅に遅れたことや、性能が思ったよりも向上しないなどの理由から、これを採用するPCベンダが非常に少ない。そのため、Direct RDRAMのメモリ・モジュール(RIMM)の価格が下がらず、さらにこのことが、Intel 820の普及を阻害する要因ともなっている。こうしたIntel 820の失敗(?)により、インテルの目論見は大幅に狂ってしまったわけだ。

 Pentium 4は、Direct RDRAMといった高速なメモリを前提に設計されていると言われており、既存のSDRAMでは性能が発揮できないことが予想される。SDRAMよりも高価とはいえ、Direct RDRAMを使わざるを得ない状態にあるわけだ。そのうえ、Pentium 4用のマザーボードは、より高価な6層基板(現在の主流は4層基板)になり、この点でもシステム価格が高くなることが予想されている。つまり、当初のPentium 4は、メインストリームのデスクトップPC用としては、非常に高価なシステムにならざるを得ないわけだ。もちろん、Pentium 4が普及することでDirect RDRAMの価格も徐々に下がり、それにつれてシステム価格も安くなるだろうが、それには半年、もしかすると1年以上の時間が必要になるかもしれない。それまでの間は、Pentium IIIがメインストリームのデスクトップPC用のプロセッサの役割を担うことになるだろう。

 当面Pentium 4は、デスクトップPC向けとして販売されるが、もちろんノートPC向けのPentium 4も予定されている。現在公開されているインテルのノートPC向けプロセッサのロード・マップには、まだ「Pentium 4」の名前はない。 早くても2001年後半ということになるだろう。ノートPC向けプロセッサには、TransmetaのCrusoeが登場し、モバイルPentium IIIの強力なライバルとなりそうな勢いを感じる。2000年6月末にニューヨークで開催されたPC EXPO 2000でもIBM、日本電気、日立製作所、富士通がCrusoe搭載のノートPCを参考出品して、大手ベンダの採用をアピールするなど、互換プロセッサとしては素早い立ち上がりを見せている。低消費電力に強みを見せるCrusoeの状況によっては、インテルのノートPC向けプロセッサの戦略に大きな変更が生じるかもしれない。

Celeronにはより低価格向けのTimnaを追加

 一方で、Celeronは当初の予定どおり、徐々にPentium III化していくことになる。現在のCeleronとPentium IIIの違いは、動作クロックと2次キャッシュの容量、サポートするシステム・バス・クロックの違い(133MHzと66MHz)の3点しかない。Pentium IIIの高クロック化にともない、Celeronもその動きに遅れながらも動作クロックを高めている。また、Celeronのシステム・バス・クロックについては、年内に100MHz化する予定はないようだが、将来的には100MHz化は必至だろう。となると、依然CeleronとPentium IIIに差はあるものの、その差は小さくなる。

 またCeleronには、Direct RDRAMコントローラなどのチップセット機能の一部とグラフィックス機能をプロセッサに統合した、開発コード名で「Timna(ティムナ)」で呼ばれるプロセッサが、2001年前半に追加される予定だ。動作クロックは600MHz以上で、Celeronの下位に位置付けられる製品となる(既存のCeleronも併売されることから、もしかすると新しい製品ブランド名が与えられるかもしれない)。インテルでは、Timnaをシステム価格が800ドル以下のデスクトップPC向けに位置付けており、現在の動作クロック500MHzといった低クロックのCeleronをTimnaで置き換えていくことになる。

システムのターゲット価格 プロセッサ 動作クロック(コア/システム・バス) 2次(3次)キャッシュ チップセット
5万ドル以上 Itanium 800MHz 4Mbytes Intel 460
Pentium III Xeon 800MHz以上/100MHz 2Mbytes Profusion
2万5000ドル〜5万ドル Itanium 800MHz 4Mbytes Intel 460
Pentium III Xeon 800MHz以上/100MHz 2Mbytes/1Mbytes Profusion
1万ドル〜2万5000ドル Itanium 800MHz 2Mbytes Intel 460
Pentium III Xeon 800MHz以上/100MHz 1Mbytes Intel 840
6000ドル〜1万ドル Pentium III Xeon 800MHz以上/100MHz 512Kbytes Intel 840
3000ドル〜6000ドル Pentium III Xeon 1GHz/133MHz 256Kbytes Intel 840/820
3000ドル以下 Pentium III 1GHz/133MHz 256Kbytes Intel 840/820

インテルのサーバ向けプロセッサの2001年前半のラインアップ


システムのターゲット価格 プロセッサ 動作クロック(コア/システム・バス) 2次(3次)キャッシュ チップセット
7500ドル以上 Itanium 800MHz 4Mbytes Intel 460
Pentium III Xeon 800MHz以上/100MHz 2Mbytes/1Mbytes Intel 840
5000ドル〜7500ドル Itanium 800MHz 2Mbytes Intel 460
Pentium III Xeon 1GHz以上/133MHz 256Kbytes Intel 840
3500ドル〜5000ドル Pentium III 1GHz以上/133MHz 256Kbytes Intel 840
2000ドル〜3500ドル Pentium III 1GHz以上/133MHz 256Kbytes Intel 840

インテルのワークステーション向けプロセッサの2001年前半のラインアップ


システムのターゲット価格 プロセッサ 動作クロック(コア/システム・ バス) 2次(3次)キャッシュ チップセット
2000ドル以上 Pentium 4 1GHz以上 不明 Tehama
Pentium III 1GHz/133MHz 256Kbytes Intel 820E
1500ドル〜2000ドル Pentium III 866Hz以上/133MHz 256Kbytes Intel 820E/ 815E
1200ドル〜1500ドル Pentium III 800Hz以上/133MHz 256Kbytes Intel 820E/815E
1000ドル〜1200ドル Pentium III 733Hz以上/133MHz 256Kbytes Intel 820E/815E
900ドル〜1000ドル Celeron 700MHz以上/66MHz 128Kbytes Intel 815E
800ドル〜900ドル Celeron 600MHz以上/66MHz 128Kbytes Intel 815E/810E
799ドル以下 Celeron 566MHz以上/66MHz 128Kbytes Intel 810E
Timna 600MHz以上/66MHz 不明 プロセッサ同梱

インテルのデスクトップPC向けプロセッサの2001年前半のラインアップ

 このように、当面Pentium 4は超ハイエンドPC向け、Pentium IIIがメインストリームPC向け、CeleronがエントリPC向けと棲み分けが行われそうだ。Pentium 4が既存のラインアップの上に乗るような形となるため、Pentium IIIが、Pentium 4とCeleronに挟まれ、行き場がなくなってしまうようなことは起きそうにない。とはいえ、2001年前半のインテルのプロセッサ・ラインアップは、非常に混沌としたものになり、ユーザーとしては選択が難しくなるだろう。もちろん、インテルばかりでなく、AMDも次々と新しいAthlonDuronを投入することが予想されるため、店頭ではさらに頭を痛めることになるはずだ。これまでの経験から言えることは、混沌とした状況のさなかには、「初物には手を出さない」ことだ。初物は高いうえに、性能が十分に発揮されないことが多い。そのうえ、メモリ・インターフェイスやCPUソケットが変更になり、次世代に資産を引き継げない危険も高く、投資が無駄になりやすいからだ。ひらたく言えば、2001年前半のデスクトップPCのベター・チョイスは、Pentium 4の登場で安価になるPentium IIIやCeleron、Athlonを搭載したマシンというあたりになるかもしれない。記事の終わり

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Pentium 4に関するニュース・リリース
インテルのデスクトップPC向けプロセッサのロード・マップ

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