ニュース解説

電力線でインターネット接続が可能になる日

小林章彦
2001/01/20

 2001年1月1日の日本経済新聞が「電線で高速ネット」というタイトルのニュースを掲載。2002年にも郵政省(現 総務省)が「電力線をインターネット接続の通信回線として認める方針」を明らかにした、という。その後、他紙の報道や総務省のコメントなどがないため、真偽のほどは明らかではないが、少なくとも総務省が電力線ネットワークを検討していることは間違いなさそうだ。

 電力線ネットワークの最大のメリットは、すでに配線済みの電力線を利用するため、新たなケーブル敷設が不要なことにある。特に、最近話題に上ることが多い、一般に「ラスト・ワンマイル」と呼ばれる家庭からアクセス・ポイント(電話局や電柱上の光ファイバなど)までの間は、電話線以外では電線(低圧配電線)程度しかない(CATVや有線サービスなどのケーブルもあるが、これらが配線されている家庭は限られている)。インターネット接続に関しては、現在のところほとんどの家庭が電話線を利用しており、CATVや無線などを利用しているところは、全体からするとまだまだ少ない。また、地域や建物の構造などからCATVや無線などが利用できない家庭も多い。そのうえ、現状の国内に限ると、電話線のラスト・ワンマイル部分は、日本電信電話会社(NTT東日本/西日本)が所有・管理をほぼ独占している状態にあり、NTTに束縛されることなく他社が自由にサービスを提供できる状態にない。

 こうした閉塞的な状況を打ち破る可能性があるのが、低圧配電線を利用したインターネット接続なのだ。なお、電力線ネットワークといった場合、低圧配電線を利用するインターネット接続(ラスト・ワンマイル)と、家屋内部の電灯線を使った家庭内LAN、送電線を利用した基幹ネットワークの3種類がある。基幹ネットワークについては、すでに光ファイバを利用した基幹ネットワークが完成しつつあることから、研究開発はそれほど進んでいない。ここでは、インターネット接続と、家庭内LANの電力線ネットワークの現状について、簡単に解説する。

電力線ネットワークの概略
電力線ネットワークといった場合、基幹ネットワーク、ラスト・ワンマイル、家庭内LANと3種類のカテゴリがある。現在注目を集めているのは、ラスト・ワンマイルと家庭内LANでの電力線の利用である。

電力線ネットワークはインターネット接続の切り札となるのか?

 2001年1月1日の日本経済新聞の報道で、郵政省(総務省)が認可を行うといったのは、「ラスト・ワンマイル」の電力線ネットワークのことである。ただ、電力線ネットワークは、許認可だけでなく、技術の面でもクリアしなければならない問題が残されている。

 例えば、日本では電柱を利用した空中線になっているため、電力線を使って高周波でデータを転送すると、電力線がアンテナとなってしまい電波を発してしまうという問題がある(ヨーロッパでは、電力線が地中埋設になっているため、この問題は比較的起こりにくいといわれている)。こうした高周波が家電機器の誤動作を引き起こすことも考えられる。また、ヨーロッパで行ったフィールド・テストでは、漏れた電波からパケットの盗聴が容易に行えたという。このようにデータ転送を行うことで、肝心の電力品質や環境に悪影響を与えてしまっては意味がない。

 こうした問題をクリアした電力線ネットワーク技術が、すでに何社からか提案・開発されている。その1つは、三菱電機が開発したOFDM(直交周波数分割多重方式)マルチキャリアを拡張した通信方式だ(三菱電機の電力線ネットワークに関するニュースリリース)。この技術は、低圧配電線だけでなく、家庭内LAN向けにも利用できるという特徴を持っている。データ転送速度は3Mbits/sを実現し、将来的には数十Mbits/sも可能だとしている。2001年中には、電力線モデム技術の実用化のメドをつけ、製品化を行う予定ということだ。

 海外においても、Ambient CorporationEnikiaMedia Fusionなどが、電力線ネットワーク用の技術開発を行っており、実用化に向けて、すでにフィールド・テストを行っている。たとえば、ドイツのエネルギー会社ベバ(Veba、現在は合併によりE.ONとなっている)は、電力線ネットワークの開発を行っているEnikiaと提携し、電力線ネットワークのサービス会社「Oneline AG」を設立、2000年1月からフィールド・テストを行っている。またAmbient Corporationは、2000年11月にニューヨークで、12月に日本で、それぞれフィールド・テストを実施し、成功を収めている(Ambient Corporationの日本でのフィールド・テストに関するニュースリリース)。

社名 URL 備考
Ambient Corporation http://www.ambientcorp.com/ 12月上旬に住友電気工業と共同で日本でのフィールド・テストを実施
Enikia http://www.enikia.com/ ドイツのOneline AGがフィールド・テスト中
Media Fusion http://www.mediafusioncorp.com/main/ Magnetic Wave Technologyと呼ぶ技術を開発。トランスを乗り越えたデータ通信が可能だという
三菱電機 http://www.melco.co.jp/ 2001年中に電力線モデムの製品化を予定
電力線ネットワークの開発を行っている会社

 このように低圧配電線を利用する電力線ネットワークに関しては、現状テスト段階ではあるが、実用に向けて動き出している。2002年の許認可というのは遅い気もするが、実用化の時期を考慮すると案外いいタイミングなのかもしれない。電力線ネットワークが実用化されることで、ラスト・ワンマイルにも競争原理が働き、高速インターネットに弾みがつく可能性が高い。早期の実用化に期待したい。

2001年に登場予定の家庭内LAN向け電力線ネットワーク機器

Intelogisの「PassPort」
intelogis(2000年1月にINARIに社名変更)が販売していた電力線ネットワーク・モデム「PassPort」。データ転送速度は350Kbit/sとやや遅い。

 低圧配電線を利用する電力線ネットワークの実用化が2002年以降になりそうなのに対し、製品面で進んでいるのが家庭内LAN環境への利用だ。家庭内において、電源コンセントはほぼすべての部屋に1つ以上備わっており、これらがLAN回線として利用できるとなると、無線LANなどより便利なことも多い。米国ではすでにいくつかの製品が販売されており、すでに実用化されている。ただこれらの製品は、いまのところデータ転送速度が350Kbits/s程度と遅く、無線LANやHomePNAなどに比べて、あまり魅力的でない。

 そうした中、電灯線を利用した電力線ネットワークの標準化団体「HomePlug Powerline Alliance」は、イーサネット・クラスのデータ転送速度が実現可能な電力線ネットワークの標準規格化作業を始めている。同団体には、IntellonやSONICblue(S3から社名変更)のほか、Enikia、3Com、Compaq、Intel、松下電器産業なども参加している。現在、標準規格案のフィールド・テストを行っており、まもなく「HomePlug v.1.0」として規格化される予定となっている。

 この標準規格に準拠した製品として、すでにSONICblueが、2001年1月6日に電力(電灯)線ネットワーク(Powerline Network:PLN)製品の「HomeFree Powerline」の発表を行っている(SONICblueのHomeFree Powerlineに関するニュースリリース)。HomeFree Powerlineは、Intellonが開発した「PowerPacket Technology」をベースに製品化を行ったものである。

 PowerPacket Technologyは、OFDM(直交周波数分割多重方式)符号化変調をベースとした通信方式を採用しており、最大14Mbits/sのデータ通信速度が実現可能だという。ただし、SONICblueのHomeFree Powerlineのデータ転送速度は、10Mbits/sとなっている。これは製品化にあたって、若干余裕を持たせた設計にしたためと推測される。

 HomePlug Powerline Allianceによれば、2001年後半には各社からHomePlug v.1.0に対応した家庭内LAN向けの電力線ネットワーク機器が販売されるとのことだ。ただ、日本では法律や配線の事情などが異なるため、こういった米国向けの製品がそのまま利用できるとは限らない点に注意したい。

電力線ネットワークはホーム・ネットワークを変えるのか?

 このように2001年から2002年にかけて、電力線ネットワークが大きく動き始めそうだ。電力線ネットワークが実用化されれば、電灯線は10Mbits/s以上の転送速度を持つLAN回線として利用でき、低圧配電線はインターネットの接続回線となる。既存の配線を使うため、新たなケーブルの敷設は不要なので、ほぼすべての家庭で利用できるはずだ。また、電力線ネットワークの登場により、既存の電話回線を利用したインターネット・アクセスやCATVインターネットの利用料金を押し下げるという影響を与えることも、十分に予想できる。

 ただ電力線ネットワークは、まだフィールド・テスト中であり、電力線ネットワークのモデムの価格も明らかになっていない(それほど高価にならないと期待したいが)。解決しなければならない問題もありそうだ。早く技術的な問題を解決し、早急な実用化を望みたい。記事の終わり

  関連リンク
電力線ネットワークに関するニュースリリース
日本でのフィールド・テストに関するニュースリリース
技術情報のページ
技術情報のページ
電力線ネットワークの情報ページ
電力線ネットワークの技術情報ページ
Intelogis
PassPortの製品情報ページ
電力線ネットワークについての説明ページ
HomeFree Powerlineに関するニュースリリース

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