元麻布春男の視点
AMDの弱点は克服されるのか?


元麻布春男
2001/04/13

 WinHEC(Microsoftが主催するハードウェア技術者向けカンファレンス)のような大規模なカンファレンスに出席する目的の1つは、出展するベンダの担当者とミーティングする機会が得られることだ。2001年3月25日から28日の4日間にわたって、米国カリフォルニア州アナハイムで開催された今回のWinHEC 2001でも、数社の方と話す機会があったが、ここではAMDのマーク・デ・フレール(Mark de Frere)氏とのミーティング内容について紹介することにしたい。フレール氏は、AMDのオースティン事業所に所属するAthlon担当のプロダクト・マーケティング・マネージャである。今回のミーティングで筆者は、かねてからAMDについて考えていることをストレートにぶつけてみた。

AMDの3つの弱点

 ハッキリいって筆者はAMDのプロセッサ(AthlonおよびDuron)は、極めて優秀なプロセッサだと思っている。同クロックのIntel製プロセッサ、特にPentium IIIに対して、性能的なアドバンテージを持つことは明らかだ。Pentium 4という、新しいアーキテクチャのプロセッサとの優劣を論じるのは難しいが、少なくとも既存のアプリケーションを前提にしてコスト・パフォーマンスを比べる限り、Athlonに分があるのは間違いないところだろう。

 だが、プロセッサ単体でその優劣がすべて決まるわけではない。かつてのように、AMDのプロセッサがIntel製プロセッサとピン互換であった時代は去り、いまはAMD自身が自らのプラットフォームを用意し、サポートする必要がある。AMDの弱点はこうした部分にある。筆者が考えるAMDに必要とされる強化ポイントは、

  1. ソフトウェア・サポートの強化
  2. マザーボードなどのプラットフォームの強化
  3. チップセット・ラインナップの拡充

というものである。

ソフトウェア・サポートはシェアの向上が解決する!?

 まずソフトウェア・サポートについてだが、Intelは自社で最適化コンパイラ、ライブラリ、チューンナップ・ツールを用意しているのに対し、AMDはこうした開発者向けソフトウェアを用意していない。また、Windows 2000に対応したHot Fix(パッチ・モジュール)が、OSのリリースから7カ月も経過するまで用意されなかったことにも、筆者は不満が残る。

 若干蛇足になるが、このWindows 2000の問題というのは、Athlon/DuronとAGPグラフィックスの組み合わせで、Ziff-Davisの3D WinBench 2000やMadOnionの3DMark2000などのベンチマーク・プログラムを実行すると、必ずフリーズするという致命的なものである(この問題に関する「AMDの情報PDF」と「Microsoftの情報」)。この問題に対するHot Fixはすでに提供されているが、Microsoftが提供しているWindows 2000用のService Pack 1には含まれていない(AMDが提供しているHot Fixの入手先)。そのためこのHot Fixは、Service Pack 1をインストールした後に必ず当てる必要がある。「元麻布春男の視点:失敗しないWindows 2000のインストール手順」で紹介しているWindows 2000のインストール手順に加え、こうしたHot Fixを順番に正しく当てるのは至難の業といえるだろう。こうした問題が分かっていながら、Service Pack 1に反映できていないのは、やはりAMDの対応に問題があると思われても仕方ないのではないだろうか(もちろん、Microsoft側にも問題があると思うが)。

 この問題に対するフレール氏の回答だが、「まずAMDがコンパイラやライブラリを独自に提供する予定は現時点ではない」とのことだった。その理由はシンプル。「現時点でその必要はないと考える」というものである。市販されていて実際にユーザーが利用するアプリケーション・ソフトウェア(バイナリ)が、どのような最適化が行われているのかはともかく、AMDのプロセッサの方が性能面で優位な立場にある。「アプリケーションがAthlonやDuronに最適化されれば、さらに性能が向上するかもしれないが、そうでなくても性能が高いのだから、その必要性は高くない」というのが答えだ。これはある程度納得できる。

 もう1つのWindows 2000に対するパッチの問題については、「AMDプラットフォームのシェアが高くなれば、MicrosoftもAMDプラットフォームに対する優先順位を上げるだろうし、それで解決するのではないか」という回答が返ってきた。確かに、これはそのとおりかもしれないが、「それは売る側の論理なのではないか」と反発もしたくなる。これでは、「AMDのシェアが上がるまで、Athlon/Duronは避けておいた方がいいですよ」といわれているようなものだ。

なぜマザーボードなどのプラットフォームを提供しないのか

Compaq Presario 7000
Athlon+DDR SDRAMプラットフォームを採用する数少ない大手ベンダ製PC。残念ながら日本での投入は未定である。

 次にマザーボードなどのプラットフォームの強化だが、Intelと異なり、AMDには純正のマザーボードが存在しない。これは、AMDブランドのマザーボードが市販されていないということだけでなく、PCベンダなどのOEMに対してもマザーボードの供給を行っていない、ということである*1。筆者は、こうした純正マザーボードの欠如が、新しいプラットフォームの立ち上げを著しく遅らせている理由の1つだと考えている。例えば、2000年11月に鳴り物入りでデビューしたDDR SDRAMのプラットフォームだが、5カ月近く経過したいまでも日本国内のPC大手で採用しているところがない。米国においても、Compaq Computerが採用しているのが目立つ程度。最初に採用したMicron Electronicsは、PC事業からの撤退を表明してしまった(別にこれはDDR SDRAMが理由ではないが)。

*1 ここで対象にしているのは、言うまでもなく量産品である。開発時のテスト用マザーボードについては、AMDが設計・製造・配布を行っているものがある。
 

 Intelが新しいプラットフォームを発表する際、多くの場合、発表日に大手PCベンダからシステムがリリースされるのは、Intel純正マザーボードのおかげだ。Intelがマザーボードを提供するということは、プロセッサやチップセットの開発元自身が、実際に市販されるマザーボードで販売前のテストを行っている、ということにほかならない。何より、プロセッサの開発元が動作を保証するのだから、PCベンダにとって安心感があるに違いない。そして、大量に販売する大手PCベンダが採用することで、BIOSやチップセット、マザーボード・デザインなどにおける、プラットフォームの立ち上げ期に不可避な障害が早期に解消する、という好循環が生まれる。

 同じことは、チップセットにも該当する。現時点でAMDのチップセット・ラインナップには、UMAグラフィックス(メイン・メモリの一部をグラフィックス・メモリとして利用するもの)を統合したチップセットが欠けているが、同社にはそのようなチップセットをリリースする予定はないという。Duronがデビューした時点でUMAチップセットがあれば、Duronの立ち上がりはもっとよかったハズである。この点に関してはAMDも認めている。間もなく本格的なモバイルPC向けのAthlonとDuronが登場することになっているが、AMD純正のチップセットなしに順調にプラットフォームが立ち上がるのか、疑問を持っている人も少なくないだろう(AMDはスケジュールどおりだとしている)。

マザーボードなどのプラットフォームよりもプロセッサ

 なぜAMDは自らマザーボードを手がけないのか。あるいはチップセットのラインナップをIntelのようにフル・ラインナップでそろえないのか。おそらくこれはだれもが感じる疑問に違いない。これに対するAMDの答えはいつも、「われわれはサードパーティと協調してビジネスを進めていきたい」というものである。もちろんこの答えはウソではないだろうが、それだけとも思えない。

 Intelの例を考えれば明らかなように、AMDがチップセット製品を拡充しようと、マザーボードを自ら手がけようが、手がけまいが、サードパーティはビジネスになると思えば、AMD対応のチップセットやマザーボードをリリースする。実際、現在チップセット市場で2位の地位にあると思われるVIA Technologiesは、Intelとの訴訟を繰り返しながらも、現在の地位を築いている。サードパーティを惹き付けられるかどうかの決め手は、商売になるかどうかであり、仲が良いとか悪いとかであるハズがない。

 ムーアの法則が示すとおり、1チップに集積可能なトランジスタ数は短期間に劇的に増えていく。Timna(Intelが開発していたグラフィックス機能とノースブリッジを統合したエントリPC向け統合型プロセッサ)はキャンセルの憂き目を見たが、今回のWinHECではVIA TechnologiesがCPUコア、ノースブリッジ、グラフィックス機能を統合したMatthew(開発コード名:マシュー)のデモを行った。この次にあるのは、サウスブリッジまで統合した完全な1チップPCだ。すべてのPCセグメントが1チップPCになるのは、まだかなり先のことだろうが、周辺チップを集積していくのは、半導体ビジネスの本質である。バリューPCセグメント(ある程度の性能を持つ低価格なPC)の主流が1チップPCになったとき、プロセッサ・ベンダは、サードパーティのチップセット・ベンダのことを気遣ってなどいられないハズだ。

 今回筆者は、このことについてもストレートにたずねてみた。そこで返ってきた答えは、「いまは競争力のカギとなる分野、つまりはプロセッサに専念していたい」というものであった。急成長を遂げているとはいえ、AMDの市場シェアはまだ20%台に過ぎない。例えば2001年度の設備投資額は、Intelの75億ドルに対し、AMDは10億ドルだといわれている。チップセットやマザーボードなど、さまざまな分野に手を出すといった、はるかに規模の大きなライバルと同じことをしていては、競争力の根源であるプロセッサの開発がおろそかになる、ということのようだ。確かにこの説明には説得力がある。上述したとおり筆者は、Windows 2000の問題やコンパイラ/ライブラリの欠如についてMicrosoft待ちである現状にいら立ちを感じているわけだが、もう少し待たねばならないようだ。

2001年後半にAthlon-1.7GHzがリリースされる

 最後に、今回のミーティングで更新されたAMDのロードマップについて若干触れておこう。2001年1月に東京で開催された説明会では、2001年内にリリースされるAMD製プロセッサの最高クロックは1.5GHzとされていた。今回、確認を求めたところ、2001年後半に1.7GHzをリリースする計画が検討されていることが明らかにされた。また、開発コード名「Thunderbird(サンダーバード)」で呼ばれた現行のAthlonの次世代コアにあたるPalomino(開発コード名:パロミノ)だが、とりあえずサーバ/ワークステーション向けとモバイル向けが先行して第2四半期にリリースされ、デスクトップPC向けのPalominoは第3四半期になる予定だ。

AMDのプロセッサ・ロードマップ(拡大図:50Kbytes
このロードマップは、2001年3月22日に発表されたAthlon-1.33GHzのプレス向けプレゼンテーションで示されたもの。

 サーバ/ワークステーション向けとデスクトップPC向けの違いについても尋ねてみたが、明快な答えは得られなかった。念を押して、「2次キャッシュ・メモリ容量の違いか」とも聞いてみたが、「それには答えられない」とのことであった。ソケットについては、現状と同じSocket Aを用いるようだ。

 デスクトップPC向けのPalominoだが、これがリリースされたからといって、ただちにThunderbirdが置き換えられることはない模様だ。つまり、動作クロック的に下から上までPalominoが登場するのではなく、Thunderbirdでカバーされていない高いクロックに対応したプロセッサとしてPalominoが登場するという。長期的には置き換えられるのかもしれないが、短期的にはThunderbirdとPalominoは共存する、という説明だった。

 現行のDuronの後継となるMorgan(開発コード名:モーガン)は、その性格上サーバ/ワークステーション向けは存在しないが、モバイル向けが優先されるのはPalominoと同じ。ただ、Palominoよりは若干遅れて登場することになっている。デスクトップPC向けのMorganは、Palomino同様、第3四半期のデビューの予定である。記事の終わり

  関連記事(PC Insider内)
失敗しないWindows 2000のインストール手順

  関連リンク
3D WinBench 2000などで生じる障害についての情報PDF
3D WinBench 2000などで生じる障害についての情報ページ
Hot Fixの入手先
 
「元麻布春男の視点」

 



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