元麻布春男の視点
東芝の汎用DRAM撤退に見る日本の未来

元麻布春男
2001/12/21

 以前から汎用DRAM事業について、他社との事業統合を目指していた東芝がついに結論を出した。それは、「汎用DRAM事業からの撤退」というものだった。12月18日付けの東芝の発表によれば、米国内のメモリ製造拠点であるDominion Semiconductor(ドミニオン・セミコンダクター:200mmウエハで128Mbit DRAMおよび512Mbit NAND型フラッシュメモリを量産)の土地、建物、DRAM関連製造設備をMicron Technologyに売却(金額は未公表)、Dominion Semiconductorの社屋内にあるフラッシュメモリ関連の製造設備を四日市工場内に移設するということだ。また、フラッシュメモリを含むメモリ事業を四日市地区に集約させるとともに、メモリの組立て(後工程:ウエハからチップを切り出してパッケージに封入する行程)を外部委託に切り替え、現在後工程を行っている子会社の四日市東芝エレクトロニクスを2002年6月末をめどに解散する。DRAMについては、関連特許などの知的財産を引き続き東芝が保持し、今後もDRAM混載ロジックなどに応用することを前提に研究・開発を進めるものの、事業としては完全に撤退することになる。ただし、ソニーのPlay Station 2向けのDirect RDRAMについては継続して製造・販売を行うようだ。現在東芝は、台湾のWinbond Electronicsに技術供与すると同時に、最先端ではないDRAMの調達を行っているが、この関係も解消されることになる。

Dominion Semiconductorのホームページ
今回、Micron Technologyに売却が決まったDominion Semiconductorは、そもそも東芝とIBMの合弁会社として1995年にスタートした会社。DRAMとNAND型フラッシュメモリの製造を行っている。1999年には、東芝がIBMからDominion Semiconductorの全株式を購入し、完全子会社化している。

DRAMはMicronとSamsungの2社体制時代へ

 当初、東芝は自社の出資比率が50%を切ることを前提に、他社との事業統合(DRAMに関する合弁会社設立)を目指すとしており、ドイツのInfineon Technologiesと話し合いをしていると伝えられていた(Samsung Electronicsとの話し合いも行われていたようだが)。しかし、Infineon Technologies自身もDRAMに関する投資を削減する方向にあり、東芝のDRAM事業を救うことは困難だったと思われる(Infineon Technologiesの「東芝との話し合い終了に関するニュースリリース」)。結局、汎用DRAMについては、売れるものを売り払って、撤退することになったわけだ。東芝とMicron Technologyは、「将来的にDRAM技術について協力する方向である」としているものの、現時点で具体的なことは何も決まっていない。

 Dominion Semiconductorを買い取ることになったMicron Technologyだが、東芝(およびDominion Semiconductor)とはDRAMのアーキテクチャが異なっており、そのまま量産を継続するのか、それとも東芝が持つDRAMシェアを市場から消し去ることで、生産過剰を解消するつもりなのか、よく分からない。ただ、すでに同社が、苦境にあるDRAM世界シェア3位の韓国Hynix Semiconductorと合併を含めた提携交渉を行っていると報じられるなど、DRAM事業をさらに強化する方向であることは間違いない(Micron Technologyの「Hynix Semiconductorとの提携に関するニュースリリース」)。

 このMicron Technologyと並び、DRAM業界で2強と称されるSamsung Electronicsの動向が注目されるところだが、同社は来年も強気の投資計画を維持するとしており、一歩も引く気配がない。投資額を削減するInfineon Technologies、巨額の赤字で先行きが危ぶまれる日本の半導体ベンダ、一様にフラッシュメモリへの転換を試みている台湾勢との差は開く一方だ。汎用DRAMベンダがMicron TechnologyとSamsung Electronicsの2社体制になったとしても、それほど驚くことではない。一時は日本企業の独壇場であったDRAMから、日本企業が締め出されるかもしれないのだ。

DRAMがたどった道はフラッシュや液晶も

 汎用DRAMのように市場で価格が決定されるデバイスは、市場の動向に合わせ、機敏な経営判断とリスク管理が求められる。しかし日本企業の判断の遅さは、よく知られたところだ。地価と人件費の高さ(この2つは密接な関係にあるが)からくるコスト競争力の低さと合わせ、日本企業が生き残るのが難しいことは間違いない。

 しかし、こうした要素が影響を及ぼすのは何も汎用DRAMに限ったことではないだろう。台湾の中小DRAMベンダの多くがフラッシュメモリへのシフトを進める一方で、携帯電話の需要にかげりが見えている状況で、フラッシュメモリが汎用DRAMと同じ道をたどらない保証など、どこにもない。液晶にしても、韓国や台湾のベンダが価格決定力を握りつつある。

 総合電機メーカーという形態は、かつて日本の強みだった。家電を始めとするセット製品向けの内製部品をベースに、他国に先駆けて最先端の半導体を生み出すことができた。だが、セット・メーカーとしての日本企業に、BSデジタルの失速、普及の進まないハイビジョン・テレビ、DVDレコーダーの伸び悩みといった具合に、かつてのようなヒット商品がない状況では組織の大きさによるデメリットが目立つばかりだ。

 汎用DRAMに限らず、汎用の製品は、最終的にはコスト競争力が勝負を決する。旅館に備え付けの使い捨てカミソリと何ら変わりはない。コモディティ(日常品)は、最も体力があるものが最後は勝ち残る。日本にコスト競争力が期待できないのだとしたら、高付加価値の製品にシフトするしかない。しかし、DRAMからロジックへ、システムチップへという掛け声は、シリコン・サイクルの谷のたびに聞かれたが、いまだに高い競争力を持つ高付加価値製品を生み出すにいたっていないのが現状だ。しかも、高付加価値製品を生み出す礎となる教育が揺らぎつつあるいま、競争力を回復するのは容易ではないかもしれない。となると、最後はハードランディング(大幅な人件費の削減や企業の集約など)によるコスト競争力の回復が頼りだが、ハードランディングの衝撃に耐えられない可能性も否定できない。記事の終わり

  関連記事(PC Insider内) 
DRAMベンダの淘汰、その結果
第8回 シリコン・サイクルは神の見えざる手か、都市伝説か
第18回 今度の半導体不況はいつもと違う?
第0回 祝!研究所開設記念、2000年のメモリ価格を振り返る
第1回 メモリとプロセッサの買いどきはいつ?

  関連リンク 
半導体メモリ事業の構造改革に関するニュースリリース
東芝との話し合い終了に関するニュースリリースENGLISH
Hynix Semiconductorとの提携に関するニュースリリースENGLISH
Winbond Electronics、富士通の3社による半導体メモリ分野における共同開発に関するニュースリリース
Dominion Semiconductorの買取によるメモリ事業体制の再編に関するニュースリリース
Winbond Electronicsとの次世代DRAMに関する技術提携
 
「元麻布春男の視点」


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