元麻布春男の視点
Dellが考える高密度サーバの世界


元麻布春男
2002/04/20
 
Dell Computerの副社長ランディ・グローブス氏
「PowerEdge 1655MCはブレードとは呼べないのでは?」という質問に対して、「Dellではカード上に実装したサーバをブレードと定義している」と述べた。

 Dell Computerは2002年4月3日(日本時間4月4日)、Pentium IIIベースのブレード・サーバ、ならびに4ウェイ構成に対応したIntel Xeon MP搭載サーバを発表した。後者は、同社としては初のIntel Xeon MPによる4ウェイ・サーバ。ラックマウント型で4UサイズのPowerEdge 6650と、7Uサイズのラックマウント型、あるいはそのままペデスタル・サーバ(フロア置き)としても利用可能なPowerEdge 6600の合計3モデルがラインナップされた。いずれもチップセットはServerWorks(Broadcomのチップセット部門)のGrand Champion HE(GC-HE)で、最大メモリ搭載量は16Gbytes。ケース・サイズの違いにより、PCI-Xスロットやドライブ・ベイの数が若干異なるが、基本的にはデータベース処理などを行うバックエンド・サーバやアプリケーション・サーバに適した製品となっている。これに対し、ブレード・サーバのPowerEdge 1655MCは、フロントエンド・サーバ向けの製品だ。ただし、これまで他社から発表されてきたブレード・サーバとは、若干性格の違う製品に仕上がっている。

 このあたりの事情について、来日したDell Computerのエンタープライズ・システム・グループ副社長であるランディ・グローブス(Randy Groves)氏に話をうかがった。

名ばかりのブレード・サーバは機能重視のため?

 PowerEdge 1655MCが他社のブレード・サーバと異なるのは、写真を見れば一目瞭然だろう。PowerEdge 1655MCは、ブレード(刀身)とは名ばかり(?)の、分厚いサーバ・モジュールの集合体である。一般にブレード・サーバといえば、その名前の由来となったように、細長く、そして薄い形状をしているはず。このサーバ・ブレードを3Uサイズのシャシー(エンクロージャと呼ばれる)に数多く収納することで、サーバ密度(単位設置面積あたりのサーバ台数)を極限まで高める、というのがブレード・サーバのそもそものコンセプトだった。

 逆にいえば、サーバ密度を高めることが第一義で、サーバ1台あたりの性能については、若干目をつぶっている(つぶらざるを得ない)部分があった。例えば、サーバであるにもかかわらず、プロセッサの性能的には必ずしもベストでないことを承知で、ノートPC向けの低電圧版超低電圧版のモバイルPentium IIIを用いたり(TransmetaのCrusoeを採用するベンダもある)、モバイルPC向けのチップセット、あるいはモバイルPC向けの2.5インチ・ハードディスクを採用したりする、といった具合である。

大きな写真へ
PowerEdge 1655MC
ブレード・サーバと呼ぶには本体が厚い。これはサーバ密度よりも、性能/機能面を重視したためだという。

 ところがPowerEdge 1655MCでは、これらの部分にモバイル向けの製品を用いていない。デュアル構成をサポートしたプロセッサはPentium III-S-1.26GHzであり、チップセットはServerWorksのServerSet LE 3.0だ。ハードディスクに至っては、Ultra 320 SCSI対応のRAIDコントローラに3.5インチSCSIハードディスクを組み合わせているという具合だ。つまりPowerEdge 1655MCは、サーバとしての性能に妥協をしなかった結果、「ブレード」とは呼びにくい形状になったわけだ。

 一方で、こうしたパーツの選択により、単純にサーバ密度という観点からは、必ずしも有利ではなくなる。写真で分かるとおり、PowerEdge 1655MCの場合、3Uサイズのシャシーに収納可能な「ブレード」は6ユニットであり、サーバ密度的には1Uサーバの2倍にすぎない。他社のブレード・サーバでは3Uサイズに20台程度のブレードを収納する(サーバ密度は1Uサーバの6〜8倍)ものも珍しくないことを考えれば、PowerEdge 1655MCのコンセプトが異なっているのは明らかだろう。PowerEdge 1655MCは、いわゆるブレード・サーバと、コンベンショナルなラックマウント・サーバの中間を狙ったもの、といえそうだ。それでも、通常のラックマウント・サーバよりもサーバ密度が高く、管理も容易なPowerEdge 1655MCは、Dell流のブレード・サーバなのだという。

 こうした狙いは、どうやら昨年来のドットコム・バブルの崩壊と無縁ではないようだ。バブル全盛期は、収益性より、とにかく多くのユーザーを獲得することにウエイトが置かれ、データセンターの限られたスペースにとにかく多くのユーザーを格納できるよう、省スペース性が最重要視された。ブレード・サーバはその申し子とでもいうべき存在だ。たとえバブルがはじけようと、省スペース性、サーバ密度の追求という点で、ブレード・サーバの付加価値が失われたわけではないが、市場のフォーカスはもう少し保守的なサーバ、すなわちフロントエンドのみでなく、場合によってはアプリケーション・サーバにも使えるような、より汎用性の高いサーバへと現在は移っているのではないか。PowerEdge 1655MCから、Dell Computerのこうした狙いが読み取れる。

ブリック・サーバという新しいコンセプト

 さて、今回発表されたサーバ3製品は、いずれも標準的な19インチ・ラックに収納可能なサーバだが、現在のDell Computerのサーバ売上げの5割はこうしたラックマウント・サーバが占めるという。5年前にDell Computerがサーバ市場に参入したときには、ラックマウント・サーバが存在しなかったことからしても、現在最も伸びているのがラックマントであることは間違いない(5年前にはラックマウント・サーバという市場自体がほとんどなかったが)。近い将来、ラックマウント・サーバの全機種にInfiniBandを標準搭載し、ラック内、あるいはラック間の接続に用いることでTCP/IPのプロトコル・スタックを省略し、性能強化を図ることが予定されている。ただタワー型ケースを用いたペデスタル・サーバについては、InfiniBandの採用をどうするか検討中だという。

「ブリック・サーバは、ユーザーに合わせた柔軟な構成を取れるので、将来的にはラックマウント市場の多くを置き換えることになる」

 ブレード・サーバ以外に、Dell Computerがサーバの高密度化を図る方法として考えているのがブリック・サーバ(Brick = レンガの意)だ。ブリック・サーバは、プロセッサ/メモリ、I/O、電源ユニット、ストレージなど、サーバを構成する機能をブリック状のモジュールにして、このブリックを組み合わせることで、機能的および性能的に、ユーザーにピッタリ合ったサーバを構築したり、将来の拡張に対応したりしようという構想である。例えば、ストレージはSANなどを利用して外部に依存する代わりに、プロセッサ/メモリ・モジュールを最大数内蔵することで、1つのシャシーに多くのサーバを収納することもできる。プロセッサ/メモリ・モジュールは、単体で1つのサーバとして機能するものであり、モジュールを複数搭載することでSMPを実現するものではない。ただしプロセッサ/メモリ・モジュール自体に2ウェイ・タイプや4ウェイ・タイプといったバリエーションが用意されることになっている。ブレード・サーバがサーバ全体を小型化することで高密度化を図るアプローチだとすれば、ブリック・サーバは必要な機能だけを取り出して組み合わせることで、サーバの高密度化を図るアプローチ、といえるかもしれない。

 ただし、サーバの機能をモジュール化するというアイデアは、このブリック・サーバ以前にも存在した。例えば、Intelのモジュール化構想は、サーバをモジュール(Intel流に言えばBuilding Block)に分割し、ベンダを超えてモジュールを相互交換可能にしよう、というアイデアである。これにより、デスクトップPCがシャシー、電源ユニット、マザーボードなどを比較的自由に組み合わせられるように、サーバでも同じような自由を実現し、それによりIAサーバの価格性能比の向上を図る、という狙いだ。

 これに対しDell Computerのブリック・サーバでは、各モジュールの提供を行うのは基本的にDell Computerのみで、モジュールの相互互換性より、機能や性能のスケーラビリティに重点が置かれている。それでも、現在の市場でDell Computerがプライス・リーダーを務めているように、価格性能比においても他社にヒケをとらない、という自信があるのだろう。

大きな図へ
ブリック・サーバの概念
このように機能別にモジュール化し、これらを組み合わせることでサーバを構成可能にする。用途に合わせて性能や機能を柔軟に変更できるのが特徴。

 ブリック・サーバは、オープン・スタンダードではなく、Dell Computer独自の技術、ということになるが、モジュール間の接続には、業界標準のインターフェイスを使うことになっている。将来的にはモジュール間の接続にはPCI Express(3GIO)が使われるのだろうが、PCI Expressの実用化は2004年以降と考えられており、それより早い製品化を予定するブリック・サーバには間に合わない。そこで、当初はHubLinkやPCI-Xをインターフェイスに使うことを考えているという。もともとHubLinkは、チップ間の短距離の接続に特化した形で開発されており、こうしたモジュール間接続を想定していない。そのHubLinkをどう使いこなすのか、ブリック・サーバの実用化が待たれるところだ。記事の終わり

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