電灯線ネットワークは事実上のワイヤレスLAN?

渡邉利和
2001/07/04

 無線LANを家庭内に導入するユーザーが増えているようだ。かくいう筆者も、アクセス・ポイントを1台導入して妻に使わせている。筆者自身は「10BASE-Tより遅いネットワークは極力使いたくない」という考えがあるので、基本的にはIEEE 802.11bにはあまり興味がない。しかし妻を見ていると、家庭内で利用する機器をネットワークに接続するには、確かにワイヤレス接続は重要な要素だと思わせられる。

電灯線をネットワークに使う「HomePlug」

 2001年6月26日に米国でThe HomePlug Powerline Allianceが「HomePlug 1.0 specification」を発表した(HomePlug Powerline Allianceの「HomePlug 1.0 specificationに関するニュースリリース」)。いわゆる「電灯線ネットワーク」の仕様であり、家庭内に配線されている電力線を通信にも利用しようとするものだ。家庭内のネットワーク化を考える場合、導入コストは極力安価に抑えたい。そのため、既存の配線を流用してネットワーク化を実現しよう、という発想が出てくる。たとえば、電話線(メタル・ケーブル)を流用するHomePNAもその一例である。HomePlugは電力線を利用するため、このネットワークが一般化すれば、電源供給と通信が1本のケーブルで実現できる可能性がある。今回策定された仕様では、データ転送速度が14Mbpsで、秋には対応製品が出荷されると予想している。14Mbpsと言っても、現実には仕様上の上限ということで、実効スループットはもっと低いだろうが、それでも10BASE-Tのイーサネットよりも高速な通信が実現する可能性がある。もちろん用途によるが、家庭内ネットワークとしては十分なレベルではないだろうか。

HomePlug 1.0のタイムライン
The HomePlug Powerline Allianceが計画している製品化の流れ。2001年第4四半期には最初の製品が出荷される予定になっている。

 HomePlugが面白いのは、実用上「ワイヤレス接続」と見なせる点だ。もちろん、電源ケーブルを使うのだから明らかに有線接続なのだが、「電源ケーブルは繋がっていて当たり前」で、ことさら意識することは少ない。基本的に、家庭内で利用する電気機器の大半は電源ケーブルを接続して利用している。建物の側にもこれを前提とした設備が整っており、電源コンセントが用意されていない部屋というのはまずないだろう。接続のために特別な準備をする必要がないという意味で、これをワイヤレス接続の一種と考えてもよいように思う。

 ワイヤレス接続が好まれるのは、接続の手間がないからだ。前述のように、筆者自身はIEEE 802.11bによる無線LANは好みではないのだが、実のところこれは、筆者が利用している環境が固定的に設置されたPCを中心としており、毎回ネットワークのための接続を行うわけではないからだろう。妻の使い方を見ていると、もともと自宅でPCを使う頻度はあまり高くないため、普段はノートPCをしまっていて、たまに使うときに出してくる。このとき毎回ケーブルを接続する一手間が面倒なようだ。以前はHomePNAを使って接続していたため、電話用の細いケーブルを1本差すだけだったのだが、子供が起きているときにはこのケーブルを引っかける危険もあり、どうしても「余分なもの」という意識があったようである。IEEE 802.11bの環境を作った結果、ずいぶん便利になったと喜んでいるようだが、実は筆者が見るところ、完全なワイヤレス環境で使っているわけではないのである。というのも、ネットワークはもちろん無線化されているわけだが、妻がノートPCを使うときには必ずACアダプタ経由で電源を取っているので、電源ケーブルは接続されているのだ。

 実際、こういうユーザーは少なくないのだろうと想像している。妻の場合、もともと使用頻度があまり高くないため、しまっている間にノートPCのバッテリが放電してしまい、バッテリ駆動で利用するのには不安があるようなのだが、同様の使い方をしている人は珍しくはないだろう。筆者もノートPCを利用するときは、やはり外出先以外ではバッテリ駆動は使わない。というのも、バッテリ駆動による省電力モードで利用するよりも、電源が確保できる場所であればACアダプタ経由で使うほうが快適だし、バッテリ残量を気にする必要もないからだ。ということで、どうせ電源を接続して使うのであれば、これを通信用に流用できれば大きなメリットがあるはずだし、実用上は「ワイヤレス感覚」で利用できるということになると思う。

HomePlugで夢のホーム・オートメーションは実現するか?

 筆者としては、HomePlugのような電灯線ネットワークが普及し、さまざまなデバイスで利用できるようになることに結構期待している。特に、プリンタやスキャナといった使用頻度が比較的低いデバイスはぜひ対応してほしいと思っている。根本的には「場所がない」という貧困な住環境に起因するのであるが、普段使わないデバイスを常時接続しておくスペース的な余裕がないのである。筆者宅では、カラー・プリンタがまさにこの状態だ。日常利用するプリンタはモノクロのレーザー・プリンタであり、これでたいていの用は足りるのだが、ときどき半ばお遊びでカラー印刷をすることもある。ただし、月に1回使うかどうかという使用頻度に加え、比較的、本体が軽いこともあり、普段は別室に置いておいて、使うときだけ自室に持ってきては接続するといった使い方をしている。接続がUSBになってだいぶ楽にはなったが、それでも面倒な作業に変わりはない。これがHomePlugに対応し、別室に置いたまま電源を接続するだけでリモート・プリンタとして利用できるようになってくれれば、ずいぶんと便利になるはずだ。

 HomePlug対応の製品はまだ出てきていないため、使い勝手の細かいところはよく分からない。基本的に家庭内でのネットワークを想定しているようで、広域接続は対象としていないようだが、集合住宅などで隣家のデータが傍受できてしまったりすることはないのか? とか、ノイズ・フィルタやACアダプタがあるとどうなるのか? といった疑問もある。利用の際にいちいち外付けのアダプタを介して接続するようではメリットが薄れるため、HomePlug対応機器に買い換えないと実用上メリットがない、という状況になることも考えられる。こう考えると、HomePlugがあらゆる機器に標準搭載されるレベルにならない限り使い物にならない、ということになるかもしれない。そこまで普及するかどうかは現時点では予想がつかないが、バッテリ駆動の機器はIEEE 802.11やBluetoothで、AC電源を必要とするデバイスはHomePlugで、という形でネットワーク対応が標準化されてくれればありがたいと期待している。こうした環境が一般的になれば、外出先から自宅の風呂を沸かせるとか帰宅時間にあわせてあらかじめ冷房をかけておくといった、古くから語られている「ホーム・オートメーション」といった構想が遂に現実化するという期待もある。ぜひ「電気製品の標準機能」として普及してほしいのだが、どうだろうか?記事の終わり

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  関連リンク 
HomePlug 1.0 specificationに関するニュースリリースENGLISH
 
「Opinion:渡邉利和」


渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp

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