8Mbps ADSL導入顛末記――速度の向上は質的向上を伴わない

渡邉利和
2002/02/09

 筆者は1年間ほどNTT東日本のフレッツ・ADSLを利用してきたが、このたび「フレッツ・ADSL 8Mタイプ」の提供が開始されたことを受けて、早速変更を行うことにした。その顛末を紹介しよう。

やっと提供が開始された「フレッツ・ADSL 8Mタイプ」

 やはりYahoo! BBのインパクトが大きかったということなのだろうか。ADSLに関してはどうも腰が重いという印象が拭えないNTT東日本/西日本だが、ついに8Mbps対応のサービスの提供を開始した。まず東京都内の千代田、中央、港、渋谷、新宿の5区で先行して2001年12月25日から提供を開始し、2002年1月30日からは23区全域に加えて都内の14市で提供が開始された。筆者は練馬区在住であり、NTT東日本的には「そのほかの23区内」という扱いになるらしい。申込受付開始日当日に申し込みを済ませたが、実際に工事が行われ、1.5Mbpsから8Mbpsへの移行が実現したのは2月5日である。もともとのサービス開始日である1月30日からは、1週間遅れということになるが、これには申し込みが殺到して処理が追い付かなかったという事情もあるようだ。

 今回は1.5Mbpsからの切り替えということで、NTT東日本のホームページで申し込みを済ませた後のやりとりはメールだけで行われ、ごく簡単に済んだ。しかし、新しい8Mbps対応型のADSLモデムが届いたのは工事の前日であり、ちょっと慌ただしい感じがした。そして、工事に関しても段取りが良いとはいい難い状況だった。

 まず、通知された工事の実施予定は「2月5日の9時から17時の間」というものである。日付はともかく、時間に関しては「営業時間内のどこかでやる」という意味であり、工事を待つ側としてはあまり参考にならない情報である。何しろ筆者は会社勤めの身分ではなく、昼間もずっと在宅していることは珍しくない。そして、家にいる間は基本的にずっとインターネットに接続しっぱなしである。放っておけば勝手に切り替わる、ということなら特段の問題はないのだが、実はNTT東日本から通知された注意事項には、「工事日当日ご不在の場合は、常時接続されている状態ですと工事が実施できませんので、ADSL通信を切断しておいてください」とあったのだ。これに従うなら、9時から17時までの間、筆者はインターネットに接続できないわけで困ることになる。

 そこで、NTT東日本にもう少し詳細な工事時間の予定は分からないかと電話で確認したところ、「時間は分からないが、工事開始前に電話で連絡する」とのことだった。あらためて確認してみると、最終確認の電子メールで「工事前の連絡」を希望するかどうかの問い合わせがあり、筆者は「希望する」と返答していたのであった。こうしたことを忘れている筆者もあまり偉そうなことはいえないのだが、実は結局NTT東日本から「これから工事を始めます」という連絡はこなかったので、NTT東日本もまた、希望を尋ねておきながらそれを無視したことになる。結果として、筆者はほぼ1日インターネットにロクにアクセスできずに過ごしたわけだ。サービス提供開始直後ということで申し込みが殺到したのは事実だろうし、忙しくてちゃんと工事を行うだけでも手いっぱいだったという事情は分かるのだが、それでもあまりほめられた状況ではない。

電源スイッチが付いた新しいADSLモデム

 さて、8Mbpsサービスへの移行に伴って、ADSLモデムが交換された。以前から筆者は知り合いなどから質問を受けるたびに「ADSLモデムはレンタルにしておく方がよい」とアドバイスしていた。これは、ADSLモデムの購入代金が回収できるほど長く利用するとは思えない、という理由によるものだったが、図らずも自分自身でこれを実証することとなった。前のモデムは10カ月ほどの利用で役目を終えてしまったので、これをレンタルでなく買い取りにしていたら損になっていたところだ*1。もっとも、1.5Mbps用のモデムの寿命が短いことは容易に想像できたが、8Mbpsタイプとなるとどうだか分からなくなってくる。8MbpsのADSLは意外に長く利用することも考えられるので、この機会に買い取りに切り替えた方が得になったのかもしれない。次は「いつ100Mbpsのサービスに切り替えるか」という問題であり、結局は自分自身の判断にかかっているのだが。

*1 フレッツ・ADSLにおけるモデムのレンタル料金は、スプリッタの分も含めて440円または490円である。一方、ADSLモデムの買い取り価格は2002年2月上旬の時点で、安くても標準価格1万3000円程度である。

 新しいADSLモデムは、8Mbps専用ではなく、1.5Mbpsと8Mbpsの両方に対応している。多分ADSLモデムはこの機種に一本化され、1.5Mbpsのサービスを申し込んだとしてもこれが提供されることになるのだろう。デザインも変更され、従来は横置きだったのが、縦置きになっている。奥行きはほぼ同等で、横倒しにして比べると厚みもほぼ同じで幅が2/3程度になっている感じだ。

筆者宅に届いた新しいADSLモデム
左側の縦型が新しいADSLモデム、右側の横型が従来の1.5Mbps対応のADSLモデムである。このように8Mbps対応のモデムは小さくなっているものの、その分ACアダプタが大きくなっている。

 このほか大きな変化として、電源スイッチが装備されている。背面にあってあまり押しやすいものではないが、従来は電源ケーブルを抜く以外に電源オフやリセットの手段がなかったことを考えると、この点は改善だろう。ただし、ちょっと気になる話もある。つい最近、まったく別の場所でNTT東日本の営業担当者がADSLの説明をするのを聞く機会があったのだが、そこで「ADSLの特性として、長期間利用を続けていると速度が低下していくので、ときどき電源を入れ直してやる必要がある」と言っていたのだ。1.5Mbpsのときにはそういう話を聞いたことはなかったが、この「電源入れ直し」に対応するためにわざわざADSLモデムに電源スイッチを装備したのだ、と考えると辻褄が合うような気がする。実際に長期間利用を続けた際に速度低下が起こるのかどうかは、今後利用を続けて確認するしかないが、どうだろうか。

ADSLモデムの互換性

 さて、工事の段取りの問題で、筆者が1日待ちぼうけを喰ったことは紹介したが、実はこれには筆者の思い込みも影響している。

 NTT東日本からの連絡メールには「現在のフレッツ・ADSL【1.5Mタイプ】に提供しているADSLモデム(10BASE-T、USBモデム)はフレッツ・ADSL【8Mタイプ】には対応しておりません」とあった。だからこそ、新しい8Mbps対応のADSLモデムに交換することになったわけだが、筆者はこれを、「古い1.5Mbps対応のADSLモデムでは、8Mbpsへの変更後は接続できなくなる」と理解したのである。そこで、古いADSLモデムを回線に接続しっぱなしにしておく一方、工事の支障にならないようにプロバイダへの接続は行わない、という状態にしておいた。この状態で時々ADSLモデムの「LINK」インジケータを確認し、このインジケータが消えたらリンク(回線の接続)が失われたということで、つまり工事が行われたことの証拠になる、と考えたのだが、これが大間違いであった。

 丸一日、LINKインジケータをちらちら眺めていたのだが、いつまでたってもリンクが失われることはなく、ついに5時を過ぎてもNTT東日本からの電話もなかったのである。さすがの筆者もここに至ってちょっと怪しいと思ったので、確認のつもりで新しいADSLモデムに交換してインターネット上の速度測定サイトにアクセスしてみると、速度はおおよそ2.5Mbpsほどと表示された。従来の1.5Mbpsサービスでは、筆者宅の場合、上限で約1Mbpsという速度が表示されていたので、これは明らかに8Mbpsサービスにすでに切り替わっているとしか考えられない。

筆者宅でのフレッツ・ADSL 8Mタイプの速度
NTT東日本のフレッツ・ユーザー向けホームページで計測した回線速度。画面のように筆者の環境では、2.5Mbps程度となっている。ボトルネックが回線なのか、ブロードバンド・ルータなのかについては、今後調査したいと思う。

 結局、1.5Mbpsから8Mbpsへの切り替え工事がいつ実行されたのかは分からないままだが、筆者が気付かないうちに工事が完了していたわけだ。念のため2台のADSLモデムを交換しながら確認してみたところ、1.5Mbpsにしか対応していない古いADSLモデムでも、8Mbps対応となった回線で問題なく通信できることが分かった。もちろん、上限で1.5Mbpsという制約がなくなるわけではないので、速度としてはおおよそ1.2Mbpsという値であり、8Mbps対応のADSLモデムを接続した場合に比べれば明らかに低速になるのだが、通信自体は問題なく可能である。つまり、「LINKインジケータを監視することで工事実施を確認する」というのはまるっきりの浅知恵だったことだけは確認できた。

 なお、古いADSLモデムを使った場合でも、従来の1Mbpsに比べてやや速い1.2Mbpsという速度が達成された点が面白いところだが、理由はよく分からない。一方で、新しいADSLモデムを使った場合の速度は平均的には2.5Mbpsほど、最高記録で3Mbps弱といったところであり、こちらに関しては不満である。5Mbps程度は達成できるのではないかと希望していたのだが。もしかしたら、ブロードバンド・ルータを最新の高性能なものに交換したらもう少し速度が上がるかもしれないという期待は持っているのだが、この確認はまた別の機会に行うことにしたい。

 というわけで、1.5MbpsのADSLから8MbpsのADSLへの変更を実施してみたわけだが、体感できるメリットは何もなかった、というのが正直なところである。期待ほどではなかったとはいえ、数値的には従来の2倍以上の速度になったのは確かなのだが、ホームページの閲覧でその差が実感できるかというと、それほど顕著なわけではない。ページの切り替えなどの際にあったもたつきが多少改善された印象はあるが、1.5Mbpsから8Mbpsに、数字としては5倍以上になっていることから連想されるほどの差はない。むしろ、驚くほど変化が少ないというべきかもしれない。筆者宅があまり条件が良くないため、実効速度があまり高くならなかったという事情があるにしてもだ。フレッツ・ADSLの場合、1.5Mタイプと8Mタイプの料金の差は月額200円なので、「金額なりの満足度で、コストパフォーマンスとしては悪くない」というところだろうか。

 インターネット利用環境の改善効果という意味では、速度よりもまず「常時接続か否か」という点が大きいだろう。ダイヤルアップ接続から常時接続定額制の回線に切り替えれば、インターネットが本来持つ利便性がフルに発揮できるようになる。ここには、質的な改善があるといってよい。一方、常時接続環境で回線速度を向上させることは、現状では単に量的な変化にとどまるといえる。本来なら、回線の拡大に伴って新しいコンテンツが実現され、これが質的な向上と意識されてしかるべきであるが、ブロードバンドを前提としたリッチなコンテンツは、実はまだほとんど用意されていない。そのため、回線速度の向上は分かりやすいメリットを生む状況にはないわけだ。そんなことをあらためて再確認した今回の回線切り替えであった。記事の終わり

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渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp

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