連載

頭脳放談
−プロセッサ デザイン現場の舞台裏−

第6回 DRAM戦国時代の勝者は?

Massa POP Izumida
2000/09/15

 メモリの話を書くはずだったのだが、仕事でヨーロッパなどへ行っていてたいへん間があいてしまい申し訳ない。それにしても、あっちこっち行くにつけ、PC主体の業界世界から着実に「変わる」雰囲気が感じられる。まずはめでたいのではないだろうか。

DRAM戦国時代はRambusの登場で始まった

 メモリ、特にDRAMの話を今回はしたい。DRAMは1990年代前半から「怒涛の戦国時代」に突入したのではないかと思っている。そろそろ戦国時代も終盤戦で大勢を決するかに見える今日このごろである。まずは、これまでをふりかえってみよう。

 この戦国時代の口火を切ったのが、Rambusの登場であった。Rambus以前のDRAM世界は、メーカー各社が各世代ごとに激しい一番乗り競争を繰り広げ、2世代続けて勝ったメーカーはないといわれるような状況であった。DRAMを初めて製品化したIntelが日本メーカーとの競争に敗れて撤退するような激しい競争であった。基本的には、世代ごとに4倍になる記憶容量を誰が一番に商品として売れる完成度に仕上げるか、という製造技術主体の競争といってもよかった。

 DRAMというものは、アーキテクチャ的にはRAS(Row Address Strobe:DRAMの行アドレスを与えるタイミング信号)とCAS(Column Address Strobe:DRAMの列アドレスを与えるタイミング信号)でアドレスを入力してアクセスする「トロい」メモリであり続け、毎年向上を続けるプロセッサの速度とのギャップが開いていく、そういうものだった。そのため、プロセッサ設計者はそのギャップを埋めるためにキャッシュに代表される階層記憶を毎年毎年、開く差の分だけより複雑かつ巧妙にすることに血道を上げていた。

 そんなころに登場したのがRambusである。差動信号(極性を反転させた2つの信号のペア)を採用したバスを使い、超高速でパケットが行き交うDRAMというのは、一部研究者にはともかく、大多数の設計者には青天の霹靂といってもいい衝撃を与えたに違いない。バス自体も、反射波(終端で信号線に戻ってきてしまう信号)によるノイズを軽減することまで考慮に入れた設計が行われており、まさに夢のようなメモリ システムであった。

 Rambusが登場したころ、これだけ性能の高いメイン メモリ向けのメモリ システムがあれば、大容量のキャッシュなど不要になると思ったものだ。一方で正直、こんなものが一般に普及するのか(?)という懐疑的な側面もあった。旧来のDRAMに慣れ親しんだ大多数のシステム設計者もきっとそうだったに違いない。実際、普及させていくうえでの障壁は高かったと想像する。DRAMという、これまでの膨大な数の資産があり、きわめて大きな慣性のある製品を変えるというのは、非常に困難なことだったはずだ。しかしご存じのとおり、NINTENDO 64やPlayStation 2といったゲーム機への採用をてこにして、一応はメジャーな製品にまで成長させたのだから凄いものだ。

 ただ、当然のことながら、Rambusの衝撃はDRAM設計者のほうが、より激しかったようだ。容量だけを追求していればよかった世界から、突然アーキテクチャを考える世界に転換せざるを得なかったのだから、当然といえば当然のことだろう。ここからDRAM世界の戦国時代が始まったのだと思う。最初はRambusを受け入れるか否かといった判断だったものが、Rambus何するものぞ、と多くの設計者が思ったためか、Rambusに代わる別の選択肢がいくつも現れてきた。それらが競争にさらされ、絞られて、今やDDR SDRAMかDirect RDRAMかというところまで煮詰まってきている。

もしもRambusがもっと安く作れたら

 「もしも」を言ってもしょうがないが、Rambusのインターフェイスがもっと安く簡単に作れるもので、またライセンス料も格段に安ければ、最初の一撃でみんなRambusに平伏して、世界はRambus一色になっていたかもしれない。事実は残念ながらそうではなかった。しかし、そのRambus登場の衝撃こそが、それまで、ある意味眠っていたDRAMの本領を発揮させるモチベーションを与えたのではないかと思う。

 1990年代後半、言わずと知れたマイクロプロセッサのトップメーカーであり、かつ最大のチップセット メーカーであり、マザーボードの設計を牛耳っていたIntelが、検討の末、Direct RDRAMをPCの主流に使うという判断を発表した時点で、多くの人がRambusの最終的な勝利を予想したはずだ。Intelの描いたロードマップに従えば、Direct RDRAMをやっていないDRAMメーカーは市場から弾き飛ばされることになるはずであった。DRAMを製造しているわけではないRambusとIntelの2社が、DRAM市場をコントロールすることになる。Intelにすれば、かつて撤退に追い込まれたDRAM市場を屈服させることになり、Rambusにすれば究極の大勝利の確信に酔いしれるような状況だっただろう。

 それが、IntelのDirect RDRAM対応チップセット(Intel 820)の度重なる遅れから、結果的にDirect RDRAMの製造に火がつかず、物はない、値段は高いという悪循環を生んでしまった。SDRAM対応を求めるマザーボード メーカー向けに、対症療法として、IntelはDirect RDRAM対応チップセットでSDRAMを使えるようにするチップを提供したのだが、このチップに不具合が生じてリコールすることになった。何かに祟られているかのように、すべてが裏目裏目になり、多くのマザーボード メーカーは離反することになってしまった。その結果、Intelは最大のチップセット メーカーの座を台湾のVIA Technologiesに明け渡すことになった。さらに、悪いことは続くもので、ライバルのAMDを蹴散らす目的で限定的に出荷を行ったPentium III-1.13GHzにも不具合が生じて、リコール。プロセッサでもAMDに先行を許し続けている。

 片や危機感の表れなのか、Rambusは「知的所有権を侵している」と、日本とドイツのメモリ メーカーを次々と訴え始めた。Micronなどは、Rambusに対抗し、「知的所有権の無効」を訴えているが、日立製作所や東芝は早々にライセンス契約を結び、Rambusにライセンス料を払うことにしたらしい。

 今やIntelもDirect RDRAMから腰が引けはじめ、DDR SDRAM陣営の意気が盛んなこと甚だしい。Rambusは実に情けない戦況だ。リーガル(知的所有権)でいくら金を作っても、エンジニアリングが伴わなければ先はない。ふんだくったものを元手に、かつてのように何かアッと言わせる新機軸を打ち出せるかどうか。それがなければ、DRAM戦国時代もDDR SDRAMによる天下統一で決まりである。記事の終わり


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
 
 
 
     
「連載:頭脳放談」
 

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