連載

頭脳放談
−プロセッサ デザイン現場の舞台裏−

第8回 シリコン・サイクルは神の見えざる手か、都市伝説か

Massa POP Izumida
2000/12/23

 世紀末とはいえ、まずは年の瀬ということもあり、業界の2000年を振り返り、2001年を展望するという御題をいただいた。そこで、今回はシリコン・サイクルなる、業界に伝わる一種の「都市伝説」(むしろムーアの法則と同様、経験に裏打ちされた「業界伝説」とも言うべきか)について書いてみる。

半導体景気の牽引役は今や「モバイル」に

 さて、世間一般必ずしも某官庁の発表する景況とは一致していないと思われる中、こと、今年の半導体業界についていえば、かなりな好況であったといえる。どの半導体工場も非常な繁忙を続けており、営業マンは営業するより顧客の注文を断るための言い訳を考えていた、というとちょっと大袈裟かもしれないが、そんな感じがした1年であった。ただ繁忙は繁忙でも、もうかる繁忙と、なかなかもうからない繁忙の両方が混在している感じがするのだが、まずはともあれ大手半導体メーカーにとっては、工場の稼働率が高ければそれなりのビジネスになるので万々歳である。

 その繁忙の中身を見てみると、過去とはパターンが変わってきたのがはっきり分かった1年であった。過去10年くらいの間は、パソコン関連の半導体、例えばインテルのプロセッサや、メイン・メモリ用のDRAMといった製品が半導体需要の中心であった。ところが2000年の状況を振り返ると、携帯電話や携帯情報端末を中心とする「モバイル」分野と、インターネットの拡大を支え、家電まで取り込みつつある「ネットワーク」分野が成長率と規模の両面で、半導体需要の中心になってきたことがはっきりしてきた。もちろん、パソコン関連も依然大きな比重を占めているのだが、なんとなく「安定成長」という雰囲気に落ち着いており、今後はベースを支える役目になっても、成長を牽引するという役目にはならないだろう。

 代わって先ほどの2つが成長の前線となっているので、どの半導体メーカーもフォーカスをそちらに移してきている。あのインテルですら例外でなく、モバイル向けプロセッサの「XScale」や、「Intel 82559」といったネットワーク・コントローラを始めとするネットワーク製品をどんどん出してきている。ただ、インテル自体はパソコンに使われる半導体の占める割合があまりに大きいので、すぐには体質を転換できないでいるようだ。そのためか、直近の業績は思わしくない。これをもってアナリストはまた半導体不況がくる前兆だ、シリコン・サイクルが回るのだといっている。

シリコン・サイクル、この神の見えざる手

 シリコン・サイクル。業界人は、この逆らえない「神の見えざる手」に翻弄されてきた。このシリコン・サイクルと呼ばれる、好況・不況の波は、昔から4年の周期を持っているといわれており、どういうわけかオリンピックをつかさどる星によって支配されているという根強い信仰がある。そういえば、今年はオリンピックの年、シドニー・オリンピックがあったのだ。すると2000年の活況は、やはりオリンピアの神々のお陰かも。前々回から前回のシリコン・サイクルが少し乱れたのは、冬季と夏期のオリンピックに分かれたためか!?

シリコン・サイクルの流れ
図のようにシリコン・サイクルが繰り返され、4年周期で好況がやって来る。単なる偶然なのか、これまでオリンピック・イヤーが好況になっている。

 業界人は恐れているのだ。次に奈落の底に落ち込む瞬間を。活況の中でみんなドキドキしながらその時を待っている、といってもよい。2001年後半、という人もいれば、2002年以降だという声もある。もしかすると、明日にもあるかもしれないのだが、ともかく落ち込むその時までは強気で賭け金を張り続けるしかないのがこの業界人の宿命である。

 ここがシリコン・サイクルを回す原動力ともいえるのだが、好況になれば、どの半導体会社も必ず工場の拡充など設備投資に走るのである。なぜなら売れるときに自分が製造能力を向上させて規模を拡大しなければ、その分は他社がデカクなることになり、最終的には他社に圧倒されてしまうことになるからだ。だからみんな一斉に拡大する。また、好況時には品薄になり、お客の方も思うように半導体が手に入らなくなるので、あっちこっちに注文を出して部品をかき集めようとする。これも需要を押し上げる一因となる。そして、新しい設備が一斉に稼働し始めたころ、需要より供給能力が上回っていることに気付くのだ。お客の方もかき集めた部品が在庫の山となっているので、当分注文など出しはしない。そんなことは何度も繰り返して、みんな分かっているはずなのに、そのときになるとがく然とするのである。

 まぁ、これは健全な競争が生み出す現象であるので、談合などがない点だけは胸を張れるだろう。とはいえ、高価な半導体製造設備を遊ばせておくことはできない。何せ最新の機械は1台数十億円もして、それを並べてある工場全体としては数百億から数千億円の投資がかかっているのだ。結果、営業マンは多少の赤字覚悟で古い製品をガンガン安売りする。また安売りばかりもしていられないので、設計者はより付加価値の高い新商品を開発する。するとよくしたもので、新たな半導体需要が喚起されて、また需要が膨らんでくる、といった具合だ。

早くオリンピックが来るといいなぁ

 こうしてシリコン・サイクルは作られていくわけだ。ここ数年の半導体の好景気も、そろそろ後退の局面に入るのかもしれない。前兆として、インテルの業績発表だけでなく、その前からPC向けのDRAMも軟調になってきている。けれど半導体というのは、発注を受けてから出荷までの期間がけっこう長い*1。どこの会社も、2001年前半の受注はすでに大部分決まっているだろうから、今すぐ急に駄目になるということもあるまい。やはり怖いのは2001年後半か? ただ、パソコン関連の不調にとどまるならそれほどひどいことにはならないだろう。携帯電話向けにも変調が波及すると、天国から地獄という具合の急降下もありえる。そうなったらクビになってしまうかも?! 次のオリンピックが早くきますよーに。記事の終わり

*1 シリコン・ウエハの製造段階から考えると、パッケージされた製品ができるまで半年以上かかる。


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
 
 
 
     
「連載:頭脳放談」
 

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