連載

頭脳放談
−プロセッサ デザイン現場の舞台裏−

第18回 今度の半導体不況はいつもと違う?

Massa POP Izumida
2001/11/30

 テクニカルな話題が尽きない半導体業界ではあるが、いま一番気になることを書くならば「不況」であろう。多分、ほとんどの業界人の関心もここにあるのではないかと思う。「不況」は、いまに始まった問題ではないし、現在ではほとんどの業界が不況に陥ってしまっている。しかし、こと半導体業界にとっては未曾有といっていいほどの深刻さである。確かにこれまでも、何度も不況を経験してきたが、今度の不況はこれまでとはどうも違う気がする。密かにみんな恐れているのは地殻変動的な構造変化であろう。

不況が当たり前の半導体業界の不思議

 振り返ってみれば、かつて半導体業界は成長産業と捉えられてきた。筆者も20年ほど前にそう思って半導体業界に飛び込んだのだが、実は「不況」が普通でたまに「好況」という変な業界なのだ。「シリコン・サイクル」なんて言葉に代表されるように、好況と不況を繰り返してきた。なぜか半導体業界の好不況は、4年に1度のオリンピックに連動している。オリンピックの年は好況、残りの3年間は不況などという循環説がまことしやかに囁かれているのだ。昔、まだインフレ基調であった時代にも、年々商品の値段が劇的に下がるという、はた目には不思議な、業界内部の人間には自明な構造を持っていて、泥沼の値引き合戦に陥るなどしょっちゅうであった。その点、昨今のデフレ基調を先取りしていたともいえる。

 しかし、そのころの好不況というのは業界にとって必然ともいえるもので、不況といっても業界にとっては成長過程の一部に組み込まれたプロセスであった。不況期には製品価格が下がり続け、業界の成長は停滞する。その半面、他社を出し抜こうと不況下であっても業界各社は努力を続け、新しい製品を開発し、コストを削減することによって、それまで存在しなかった分野での半導体利用が行われるようになる。こうして新しい市場が立ち上がり、大量の半導体を消費するようになると、景気が回復するというわけだ。

 PCにせよ、携帯電話にせよ、ゲーム専用機にせよ、これらを実現可能とする半導体ができて、初めて生まれた市場であり、その後、急速に拡大したのである。新市場の出現により業界は急激な成長軌道に入る。成長軌道に入ると、今度は好況になり、さらに他社を出し抜こうと業界各社は設備拡張に走る。この設備拡張によって、大量の製品が作れるようになるわけだ。すると最後は、誰が最初にブレーキを踏むかというチキン・レースの様相を呈し、気が付いたときは過剰設備を持て余し、製品価格は一気に下落してまた不況に入る、というのが大体の「サイクル」である。

 つまり、きわめて古典的な景気循環が発生している業界だったのである。それはある意味できわめて健全な「サイクル」ともいえる。これは、他業種に比べて稀有ともいえる徹底した市場競争の業界であり(唯一の汚点は'80年代の日米半導体摩擦であるが)、古くからボーダレスで設計も製造も世界競争に常にさらされていた、という一種特殊な業界の成り立ちゆえの現象かもしれない。

技術革新がさらなるサイクルを作る

 また、プロセス・テクノロジがどんどん進化してきたので、2〜3年も経てば、値段は半分、性能は4倍といった改善が当然であるという、この業界に特徴的な要因もある。そして、こうしてできた成果物の半導体が、業界の設計、製造などにかかわる技術の更新に直接、間接的に役立つという正のフィードバック効果も「サイクル」に寄与していた。設計も製造も、ひとところに立ち止まれないのである。どんどん新しいものへ移行し続けないとならない。ともかく結果として半導体業界は、大勢として右肩上がりの成長を続け、その成長が一時は過剰な設備もすぐに飲み下して、もっともっとと設備拡張を促してきたのである。

 ところが、どうも今回は違う。次の市場が現れてこないのである。確かに小ぶりな市場ならいくつか候補がある。既存のPCや携帯電話といった市場だって買い替え需要はあるだろう。しかし、いままでの成長を支えてきたような爆発的に拡大する潜在的な巨大市場が見当たらないのだ。例によって不況下でみんな努力しているにもかかわらず、である。多分、業界自体の規模が大きくなりすぎた、ということなのかもしれない。かつての立ち上がり時期のPC市場など、当時の業界のほとんどが何らかの形でその恩恵にあずかったが、いまその程度の市場(数百万台)があっても「ニッチ」と呼ばれることは間違いない。何せ携帯電話の登場以後、「億台」が市場を測る単位となっているのだ。

 製造能力を見てもそうだ。2000年、業界は繁忙をきわめ、工場の稼働率は実質100%に近かったようだ。しかし、2000年の繁忙のうちに、かなりの割合は好況のため各社が部品の手当てに奔走したために生じたダブル・ブッキングであり、結局、どこかに在庫を積み上げただけで、昨年中には実際に使われなかったということが、今年になって判明してきている。今年の業界全体の稼働率は半分以下という話もあるから、結局2年間で平均してみても、実需要の数十%増し以上の製造能力がすでに存在していることになる。工場1つ当たり数百から数千億円もかかる半導体工場が、である。

  2000年需要実績 2001年需要見通し
シリコン・ウエハ需要 5662.7 4495.3
成長率(対前年比) +23.7% −20.6%
ガートナー ジャパン発表の「2001年上期シリコンウェハ需要見通し」より
(単位は百万平方インチ、テスト/モニタリング用需要も含む)
カートナー ジャパンが2001年8月9日に発表した「2001年上期シリコンウェハ需要見通し」によれば、2001年のシリコン・ウェハの需要見通しは対前年比21%減であり、もろに半導体不況の影響を受けていることが分かる。

 まだある。業界を根本で支えてきたプロセス技術だが、少なくとも「いま」の方式には限界が見えてきた。微細化が進み一部では原子の大きさの数十倍といった程度の厚みが出てきてしまっている。まぁ、筆者が業界に入ってからいままでで、長さ方向で1/20、集積度では400倍になった。まだしばらくはいけそうだが、どうがんばっても原子の大きさ以下にできるはずはない。現在の半導体回路の概念が変わらない限り、筆者が定年になる頃か、あるいは新人のA君がいまの筆者の歳になる頃には原子のサイズに達してしまう。実際はそれより前に壁があるだろう。

半導体業界の成長はダッチロールで水平飛行?

 どうもこうしてみると、業界全体、「お肌の曲がり角」ではないが、あるポイントを超えたように思えてならない。業界全体の成長は、いままでのように上昇でなく水平飛行になりそうだ。景気が回復すれば忙しくなるだろうが、これまでのような右肩上がりの成長は想定しない方がよいのかもしれない。ならしてみたら水平だが、実際には上り下りでローラー・コースターかダッチロールのような動きになるだろう。

 リストラ、改革いろいろあるだろう。振れの激しい半導体部門を分社化したり、売ったり、統合したりということも、ますますあるかもしれない。しかし、いままでどおり知恵を振り絞っての「健全な競争」という業界の特質は失いたくないものである。それにしても、上り下りのダッチロールがいつまで続くのかって? それは半導体に取って代わるデバイスが現れるまでだ。そんなデバイスを見てみたい気もするが……記事の終わり

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  関連リンク 
2001年上期 シリコンウェハ需要見通し
2002年世界DRAM市場
 
 
 
     
「連載:頭脳放談」
 

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