連載

頭脳放談
−プロセッサ デザイン現場の舞台裏−

第23回 正しい半導体業界再編の組み合わせ

Massa POP Izumida
2002/04/13

 2002年3月18日、日立製作所と三菱電機がシステムLSI部門を事業統合するという発表があった(日立製作所の「三菱電機とのシステムLSI事業の統合に関するニュースリリース」)。そこで、今回は日本国内の半導体業界の再編について語ってみよう。

システムLSI部門の事業統合は疑問

 第1幕が日立製作所と日本電気によるエルピーダメモリの設立によるDRAM分野の統合ならば、第2幕はシステムLSI分野、という見立てだ。システムLSI分野では、日立製作所と三菱電機、富士通と東芝という2つの組み合わせと、日本電気で上位5社が3強に集約されることになる。どこかの国の銀行業界で起きた再編が半導体業界に乗り移ったような様相だ。確かに不良債権にあえぐ銀行業界と同様、重い設備投資(固定費負担)にあえぐ国内半導体業界を見れば、さもありなんと納得もいく流れではあるが、本当にそうだろうか。

 実際、システムLSI部門の事業統合に疑問を投げかける声はいくつもある。大体、統合時に混乱するのは某銀行のシステム問題を考えれば当然予測される事態である。いままで異なる製品系列を脈々と開発してきた2つの組織を統合しようというのだから簡単にいくとは思えない。それぞれの系列の製品に依存して、すでに開発を進めていたり製造を続けていたりする膨大な顧客の数を考えれば、最悪、統合しても同じ製品分野に2系統の製品がラインナップされるということにもなりかねない(実際にそういう傾向にある)。かといって、2つの系列を残したままでは統合の意味はない。1+1が2より少なくなる危険性が大きいからだ。

 それでも再編なくして半導体業界の生き残りはあり得ないという。確かに投資額が膨大な半導体工場を考えれば、再編は必要である。最新鋭の半導体工場を立ち上げるには数千億円にも及ぶ設備投資のうえに、優秀な半導体プロセス・エンジニア集団が必要である。大手5社といえども単独では賄いきれない投資額になってきているのは間違いない。また、台湾や中国などにある半導体工場専業のファウンダリ・メーカーの規模を考えれば、国内勢は規模をより大きくしなければ対抗できないのも明らかだからだ。

意味のない製品分野別の再編

 だが、工場側を再編するのではなく、製品分野別の再編、特にシステムLSI分野というのは意味があるのだろうか? これには疑問が大いにある。確かにDRAMのような分野に多くのメーカーがひしめいていたのでは、どこも生き残れない。汎用DRAMは「汎用」性の高さが群を抜いており、数社の寡占に落ち着くような製品分野だからだ。しかし、システムLSIというのは、多様性が爆発しているような世界である。確かに統合すれば製品ラインナップや半導体IP(Intellectual Property:半導体の設計データやシミュレーション・モデルなど)の品ぞろえが充実するかもしれない。しかし、半導体IPは、他社から簡単に購入できる世界になりつつあるし、規模のメリットよりは、むしろディシジョンの速さが重要になっている。独創的な優れたアイデアとそれを実現できる能力があれば、ファブレス(製造工場を持たないメーカー)でも世界を席巻できる可能性があるのだ。例えば、グラフィックス・チップで有名なNVIDIAやATI Technologiesといったメーカーはファブレスだ。それなのに、そこを統合して大きな組織にしようということに、何かセンスのなさを感じてしまう。

 特に第1幕のエルピーダメモリでも、今回の第2幕でも登場する日立製作所は、再編の軸といってよいのだが、どうしたもんだろう。その昔、日立製作所は立派すぎるくらい立派な半導体会社であったが、このところ自分が何をするべきか、まったく分からないうちにどんどん空中分解していっているような印象を受ける。半導体事業をクローズしたいのかもしれないが、それにしても打つ手にセンスが感じられない。結局、DRAMは日本電気に、システムLSIは三菱電機にお任せという具合ではないだろうか。2001年4月に、日立製作所とSTMicroelectronicsの合弁でスタートした、SuperH(SH)ファミリのCPUコア開発およびCPUコア・ライセンス供与を行う「SuperH, Inc」などは半分ハシゴを外されてしまったような状態なのではないだろうか(日立製作所の「SuperH設立に関するニュースリリース」)。

水平分業への統合を!

 筆者なりの結論をいえば、統合して大きくするべきは工場である。お金さえ回れば、日本には優秀な半導体プロセス・エンジニアも多いし、半導体製造装置は強いのだから、そこそこ戦える戦力が集まるはずだ。大手の製造部門を切り離して統合し、台湾の大手ファウンダリ・メーカー「TSMC」に対抗できる日本国内のファウンダリ専業メーカーを設立するのが、日本半導体復活の早道に思える。古い不要な設備を廃棄する一方、お金をかけて最新鋭の製造ラインを立ち上げていけば、自然と統合は進むし、国際競争力も復活するだろう。国際競争力があれば、そこに多くの企業が仕事を出すのは当然の流れであるし、規模からいっても、いまのTSMCの半導体プロセスが国際基準になってしまっているように、そこが主流になることは間違いない。

 それに対して、製造から切り離し、細かく分けてスピンオフするべきなのは、設計とセールスとなるだろう。日本のセールス・チャネルは、システムLSIであろうが、汎用のメモリであろうが同列に扱う傾向があり、設計も工場を埋めるために働くような側面がある。これでは、ある特定の「ソリューション」を売るためだけにセールスも設計も動いている米国などのファブレス・メーカーには勝てない。現在のように製造と設計/セールスが一緒になっていると、セールスは「売りやすい(工場の製造ラインを埋めやすい)もの」を売るし、設計も工場における特定の製造ラインが頭にあって「それに適合する製品」を設計することになるからだ。つまり、設計もセールスも常に頭の中に工場があって、そこに縛られてしまっている。この際、設計はソリューション別に分けてしまい、セールスもそれに合わせて分割してしまってはどうだろうか。この場合のポイントは、単なるアプリケーション(用途)別に再編するのではなく、同じターゲット・アプリケーションであってもアプローチが異なれば違う会社にすることにある。逆にいえば別な会社であっても発想とアプローチ方法が同じところは統合してもいい。

 このように設計部門をファブレスのベンチャーにして切り離してしまうのだ。日本のファブ(半導体工場)に競争力があれば、日本で製造してもいいし、駄目なら台湾や中国でも構わない。だいたい特定のソリューションのための会社なら、ディシジョンは明快かつ迅速なはずである。ただし、いままで自社のファブの稼働率を上げることに血道をあげ、企画や肝心の設計の付加価値に重きをおいてこなかった日本の設計とマーケティングの部隊が世界を相手にどこまで戦えるのかは疑問であるが。しかし、そういう環境になったときこそ、変なしがらみなく自らの頭で考えた「付加価値」というものがはっきりするのだ。お互い、頑張ろうではないか!記事の終わり


Massa POP Izumida
日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。
 
  関連リンク 
三菱電機とのシステムLSI事業の統合に関するニュースリリース
SuperH設立に関するニュースリリース
 
   
     
「連載:頭脳放談」
 

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