最適ネットワーク機器選択術

2.イーサネットの基礎の基礎

2-1. イーサネットの基本はCSMA/CD方式にある

河部 拓
2000/05/26

 今やオフィスではPC同士をLANで結ぶことは常識であり、SOHOや家庭内にLANを構築することも珍しくない。PCにネットワーク インターフェイス カード(NIC:Network Interface Card)が標準搭載されることも珍しくなくなり、LANに接続されるという光景は、もはや当たり前のことになっている。現在、LANを構築するための製品はイーサネット(Ethernet)と呼ばれる規格に準じたものがほとんどであり、それ以外のものを見つけるのは難しい。イーサネットは、「Experimental Ethernet」といわれる3Mbits/sの伝送速度のものから開発が始まり、10Mbits/s、100Mbits/s、そして1000Mbits/sと技術の進歩とともに高速化を実現してきた。しかし、多少の違いはあるが、動作原理は10Mbits/s、つまり10BASEのものがそのまま踏襲されている。ここからは、イーサネットの基本である10BASE-Tをもとに、イーサネットがどのような仕組みで動作しているのかを説明していこう。

イーサネットの基本的な仕組み

 10BASE-Tは、伝送速度10Mbits/sのイーサネットである。数年前までは、伝送メディアとして同軸ケーブルを用いた10BASE-2や、10BASE-5といったものもあったが、現在ではケーブル敷設の簡便さからUTP(Unshield Twist Pair:非シールド ヨリ対線)を利用する10BASE-Tが一般的である。現在、多くの企業が使用しているのが、この10BASE-Tをベースとしたもので、イーサネットといえば10BASE-Tというほどに、広く普及している。10BASE-Tは、1990年にIEEE802.3i(IEEE:米国電気電子学会)として標準化されている(コラム「IEEE802の各種規格」)。10BASE-Tの「T」は、ツイスト ペア ケーブルを意味する文字である。10BASE-Tで利用するUTPは、カテゴリ3以上の2対4芯のものだ(ケーブル中に4対のワイヤがあっても、そのうち2対しか使わない。1対は2芯=2本のワイヤからなる)。この「カテゴリ」という用語だが、これはケーブルの品質を表す言葉で、数字が大きいほど高品質で、外部からのノイズの受けにくさを示している。

 以前のイーサネットでのネットワークの構成形態は、10BASE-5、10BASE-2のように芋づる式に機器を接続してゆく「バス型」が主流であったが、現在では10BASE-TによるハブとPCをUTPで1対1に接続する形式の「スター型」が主流となっている。

バス型の接続
バス型接続では、このように1本の線に一筆書きで機器をつなげていく。そのため、機器設置の自由度があまり高くない。途中の機器を外してしまうと、通信が行えないといった問題も発生する。
 
スター型の接続
スター型は、1つのハブを中心にすべての機器をそこに接続していく方法だ。ハブのポート数だけ、機器を接続することができる。現在は、このスター型が接続方法の主流である。

 バス型による接続では、すべての機器をひと筆描きのように結ぶ必要があり、機器設置の自由度があまり高くない。この点、スター型は接続機器が増えても、点と点を結ぶだけでよいため、機器配置の自由度が大きい。また、バス型ではケーブルの1カ所のトラブル(切断など)の影響がネットワーク全体に波及するが、スター型ではそのケーブルの端に接続された機器のみが影響を受けるだけで済むといった利点もある。スター型はハブのポート数だけ機器を接続できる。この際のポート数は、ハブを多段に重ねる「カスケード」によって拡張していくことが可能である。ただし、後述のコリジョン ドメインの制限により、カスケードは10BASE-Tで最大で4段(4つのハブが数珠繋ぎ可能)、100BASE-Tで2段までとなっている。

10BASE-Tのハブのカスケード
10BASE-Tでは、ハブを図のように4段までしか接続できない。そのため、ポート数が少ないハブを使うと、この制限に引っかかってしまって思うようにポート数を増設できなくなるので注意が必要だ。

イーサネットの基本「CSMA/CD方式」

 イーサネットの特徴としてまず挙げられるのが、「共有メディア方式」といわれる伝送方式である。これは文字どおり、伝送メディア(イーサネット ケーブル)をすべての機器で共有しているという意味であり、同じ伝送メディアに接続された機器同士は、この伝送メディアを互いに仲よく分け合いつつ通信を行う。伝送メディアを共有しているため、ある瞬間に通信することができるのは、1つのペア(送信側機器と受信側機器)のみである。あるペアが通信中であれば、当然それ以外の機器は通信することができない。そこで、各機器の間で伝送メディアの使用の調停をする仕組みが必要となる。イーサネットでは、この調停にCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)という方式を採用している。

 CSMA/CDの基本ルールは、「すべての機器は伝送メディアを平等に利用でき、機器間で優先度や使用順序は定めない」、加えて「ほかのペアが通信中であったら、その通信が終わるまで送信を待つ。終わったことを確認したら自分が送信を始める」という2つだ。まず、ほかのペアが通信中であることを知るために、CSMA/CDでは「キャリア検出」を行う。各機器は、自分が送信を開始しようとした際に、伝送メディアであるケーブル上の電気信号の状態を調べ、ほかの機器が送信中かどうか(つまり生じる電気信号の変化がないかどうか)をチェックするのである。電気信号の変化がなければ、伝送メディアが空いているということであり、逆に変化があれば伝送メディアはほかの機器によって使用されているということである。このチェックの結果によって、各機器は自分がただちに送信を開始してよいか、あるいはほかの通信が終了するのを待たなければならないのかを判断する。

 このルールさえあれば、共有の伝送メディア上での通信は万事うまくいくようにも思える。ところが実際には、ほかのペアの通信が終わるのを待ったのち、いざ送信を始めてみたら、ほかの機器も同時に送信を始めてしまい、お互いの送信データが衝突してしまった、といったことも起こる得る。このデータの衝突は、「コリジョン(Collision)」と呼ばれる。コリジョンが発生すると、信号の衝突によって通信の内容は無意味なものになってしまうので、コリジョンの発生を検出する仕組みと、コリジョンが続けて発生するのを避ける仕組みが必要となる。

 10BASE-Tでは、伝送メディアとして、前述のように2対4芯のワイヤから構成されるケーブルを使用しているが、これを1対ずつ送信用と受信用に使い分けている。そこで、各機器は送信用ワイヤに信号を送信しているときに、受信用ワイヤをチェックし、ここに信号が入ってきたときに、ほかの機器が信号を送出していると判断する。つまり、コリジョンが発生しているとみなすわけだ(これに対し、10BASE-2、10BASE-5では、10BASE-Tとは異なりケーブル中の電圧値を監視することでコリジョンを検出している)。

 コリジョンを検出した場合、イーサネットでは前述の2つの基本ルールに加えて、「コリジョンが発生したらいったん送信を停止して、しばらく待ったのちデータの再送を行う」というルールが加えられている。実際には、コリジョン検出時にすぐには送信を停止せず、「ジャム」と呼ばれる特別な信号を一定時間送出し、ほかの機器が確実にコリジョンを検出できるにようにする仕組みが設けられている。簡単に言えば、しばらく待って、単にやり直しをするだけである。ただし、各機器の再送までの待ち時間が同じだと、再びコリジョンが生じてしまい、いつまでもデータの送受信が行えない。そこで、同じ待ち時間にならないようにする工夫が必要となる。このためイーサネットでは、待ち時間を決定するために乱数を用いている。たとえていうなら、各機器はコリジョンが発生したことを知ると、「サイコロ」を振り、出た目の分だけ待つのである。ただし、イーサネットで使われる「サイコロ」は、目の数がたくさんあるので、互いに同じ目が出て再びコリジョンが発生する確率はほとんどない。運悪くまたコリジョンが発生したら、また同じ処理を繰り返すことになる。とはいえ、この方式にも限度があり、伝送メディアに接続される機器の数が多くなると、それだけコリジョンが発生する確率は増してしまう。再送の回数は最大で16回と定められており、この間に通信に成功しないと、最終的には通信の失敗としてOS側へ通知されることになる。また機器が増えると、コリジョン後に各機器が待機している時間も全体的に増加する。そうなると、伝送メディアの利用率は大きく低下し、通信の効率が上がらなくなる。これは原理上、避けられないイーサネットの宿命でもある。対策としては、LANを分割する、「イーサネット スイッチ」と呼ばれる機器を導入するなどがある。イーサネット スイッチの詳細については別稿に譲ることとする。

 
     
 INDEX
  [特集]最適ネットワーク機器選択術
  1. イントロダクション
  2. イーサネットの基礎の基礎
  2-1. イーサネットの基本はCSMA/CD方式にある
      コラム:IEEE802の各種規格
    2-2. イーサネットのフレーム形式とコリジョン ドメイン
    2-3. 現在の主流、100BASE-TXを知る
      コラム:10BASE/100BASE以外のLAN規格
  3.
    3-1. デスクトップPCには100BASE-TX PCIカードが最適
      コラム:できれば避けたいISAイーサネット カード
    3-2. 一般的な100BASE-TX PCIカードの選択ポイント
    3-3. 100BASE-TX PCIカードの付加機能をチェックする
      コラム: イーサネット カードにおけるサーバ用とクライアント用の違い
    3-4. ノートPC用にはPCカードから選ぶ
    3-5. 100BASE-TX CardBusか、10BASE-T 16bit PCカードか?
    3-6. PCカードならケーブルの接続方式がポイント
    3-7. イーサネット ケーブル直結方式は便利か?
      コラム:USBによるイーサネット接続
    3-8. デバイス ドライバは重要な選択ポイント
    3-9. もう1つのソフトウェア サポート − ユーティリティ
      コラム:Linuxのためのイーサネット カード選び
  4.
    4-1. ハブ/スイッチの種類と機能
    4-2. ハブ/スイッチ選択の基礎知識
      コラム:そのほかのネットワーク機器
    4-3. ハブ/スイッチ選択のポイント

「PC Insiderの特集」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間