5万円PCがオフィスを変える

3.4万9800円実現の裏側


デジタルアドバンテージ
2000/09/13

 なぜ、このように安く提供することが可能なのかを考察してみよう。最大の理由として、ここ1年ほどプロセッサの性能向上のサイクルが速いことによる、著しいプロセッサ価格の低下が挙げられる。TC535Nが搭載しているCeleron-533MHzの場合、2000年1月上旬に販売されたばかりの秋葉原のPCショップでの価格は2万円前後であったのが、9月上旬現在では1万円前後にまで下がっている(インテルがPCベンダなどのOEM向けに提供している価格はさらに安い可能性が高い)。

 そのうえ、2000年1月上旬では最も高速であった533MHzが、9月上旬現在には一般的に販売されているCeleronの中で最も動作クロックが遅いものとなっている。すでにインテルは、Celeron-533MHzの販売を停止する方向にあるといわれており、多くのPCベンダもデスクトップPCのラインアップからCeleron-533MHzを外しはじめている。こうしたプロセッサの世代交代の早さは、PCベンダや問屋などの在庫管理を難しくする。ある程度の在庫を持たなければ、製品の供給が行えず、利益と信用を失う。一方、大量の在庫を抱えこむと、それらが不良在庫化するというリスクを抱え込んでしまうことになる。これは筆者の想像であるが、このようなメーカーの事情が少なからず低価格化に貢献しているのではないだろうか。ハードディスクも同様に容量の向上が著しく、プロセッサと同じことが言える。Windows 98 SEのライセンス料は、年間の販売台数などによっても1ライセンス当たりの金額が異なるということなので、エプソンダイレクトはショップ ブランドなどのPCに比べて金額的に割安な可能性が高い。

 このように各種パーツを安価で入手し、さらに直販による流通コストの削減により、4万9800円という破格値を実現したと思われる。エプソンダイレクトによれば、「調達方法や在庫管理を見直すことにより、管理費の削減が可能になったこと。さらに、セット モデルとすることで、一層のコスト ダウンが可能になり、4万9800円が実現できた」ということだ。最近のエプソンダイレクトのPCは、TC535N以外でも他社に比べて安価に設定されていることから、全般的な経費や調達コストの圧縮に成功しているものと予想する。さらに単一構成にすることで、在庫管理を容易にし、低価格を実現したということなのだろう。

低価格PCの便利な使い方

 4万9800円という価格は、ISDNルータや無線LANのアクセス ポイントといった周辺機器とそれほど変わらない価格だ。周辺機器の感覚で購入できる水準といえるだろう。いっそのことクライアントPCというよりも、周辺機器として導入することで、オフィス環境の向上を目指すのもいいかもしれない。たとえば、CD-Rドライブを増設してCD-Rの焼き込み専用マシンとしたり、Windows 98の共有機能を使って簡易なファイル/プリント サーバにする、というのもいい。また、多少知識は必要になるが、Linuxを使ってNATルータやDHCP・DNSサーバにして、ブロードバンド ルータ(ケーブル インターネットなどに複数のPCを接続できるようにするためのルータ)を作ることも可能だ。

 このように低価格PCは、単に価格が安いPCというだけでなく、新たなコンピューティング環境を創造する原動力になる可能性を秘めている。ここで軽率に論じることは避けるべきだが、中央にあるサーバへの情報の集中を徹底できるなら、このような低価格PCをクライアントとして短期間でリプレースするという新しいTCOモデルも検討の余地がある。特に、ここ1年はPentium IIIからPentium 4への移行期にあたり、PCの性能向上がこれまで以上に速まる可能性がある。また、インターネットの普及によるコンピューティング環境の変化も未だに見えない状態にある。そういった状況の中、高性能とはいえ、高価なPCを購入するのはリスクを増すだけだ。すべてのケースにおいて低価格PCが望ましいとはいえないが、性能をそれほど必要としない用途ならば、低価格PCの導入を検討してみる価値はあるだろう。記事の終わり

 

 INDEX
    [特集]5万円PCがオフィスを変える
    1.低価格PCの中身を探る
    2.拡張性とサポートは必要十分
  3.4万9800円実現の裏側

「PC Insiderの特集」


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