特集

CrusoeはノートPCに革新をもたらすのか?

1.Crusoe成功の秘密

デジタルアドバンテージ
2000/07/28

 AMDやCyrix(現VIA Technologies)、Centaur Technology(現VIA Technologies)、Rise Technologyといったx86互換プロッサ ベンダが、大手のOEM先(PCベンダ)を獲得するのに長い年月を必要としたり、最終的に獲得に失敗したりしているのと比べると、Transmetaの成功は対照的だ。最大のx86互換プロセッサであるAMDでさえ、80286の互換プロセッサ(正確にはライセンス生産によるもの)でx86互換プロセッサ市場に参入し、ある程度の成功を収めたものの、386時代になり独自設計に移行したとたんに大手PCベンダの採用はなくなってしまった。その後のAMD-K5では、製品出荷が大幅に遅れたこともあり、シェアをほとんど失うまでに落ち込んでいる。AMD-K6で、やっとIBMやCompaqといった大手PCベンダをOEM先として獲得し、現在に至っているわけだ。このように、従来の互換プロセッサ市場は、ユーザーの期待とは裏腹にきわめて保守的であり、新参者のプロセッサ ベンダが大手PCベンダの採用をいきなり勝ち取るなどは、これまでまったく考えられなかった。

 こうした従来の流れからすれば、隔世の感すらあるTransmetaの順調な滑り出しは、いったいどのような理由によるものなのか? それらを以下で考察してみよう。

Intelの隙間を突いたモバイル向け戦略

 Transmetaには、これまでのx86互換プロセッサ ベンダとは異なるアプローチが見える。その1つがモバイル向けに焦点を絞った点だ(実際には、デスクトップPC向けのプロセッサも開発していたが、予想よりも低い性能しか得られなかったため、性能よりも消費電力が重視されるモバイル向けに注力する戦略に変更したという噂も聞く)。これまでのx86互換プロセッサの歴史を見ると、ほとんどのベンダがデスクトップPC向けの市場を目指していた。世界的に見ると、ノートPCの割合は、全PCの15%〜20%程度しかない。そのため、これまでのx86互換プロセッサ ベンダは、より大きなボリュームを見込めるデスクトップPC用プロセッサを開発してきた。また、Intelを含め、ノートPC向けのプロセッサは、すべてデスクトップPC向けをベースに開発されてきたといってよい。どちらかというとノートPC向けのプロセッサは、デスクトップPC向けの「お下がり」でしかなく、デスクトップPCとは大きく異なった特徴を持つノートPC向けに最初から設計されたプロセッサではなかったため、性能と消費電力の両面で、ノートPCの要求に十分に応えられるものではなかった。

 そこでTransmetaでは、Intelがあまり注力していないモバイル(ノートPC)向けプロセッサを開発することに特化した。この方針は、これまでのx86互換プロセッサ ベンダにはなかったものであり、その結果注目を集めることになった。また、ノートPC向けにフォーカスしたことで、正面からIntelと競合しないことも、PCベンダが採用しやすい理由かもしれない。つまりTransmetaは、これまでは「性能」という軸しかなかったプロセッサの設計思想に、「消費電力」という新しい軸を加えたことが、その魅力につながったわけだ。

コードモーフィングという新技術の採用

 次に、コードモーフィングという新しいアプローチを採用したことが挙げられる。コードモーフィングとは、x86プロセッサの機能を「コードモーフィング ソフトウェア」と呼ぶソフトウェアと、VLIW(Very Long Instruction Word)を採用したプロセッサ コアの組み合わせによって実現するものだ。コードモーフィング ソフトウェアにより、x86命令はプロセッサ コア用のVLIW命令に変換され、それがプロセッサ コアで実行される。このような仕組みを採用したことにより、プロセッサ コアはPentium IIIやAthlonなどと比べて、非常にシンプルになっている。実際、同じ0.18μmの製造プロセスを採用するモバイルPentium IIIのダイ サイズが106平方mmなのに対し、TM5400(CrusoeのノートPC向け)は73平方mmと30%強も小さい。さらにTM5400では、この73平方mmの中にメモリ コントローラやPCIコントローラといったノースブリッジ(NorthBridge)の機能が同梱されているので、プロセッサ コアのみで比較すれば、モバイルPentium IIIの約半分のサイズになる。ダイ サイズが小さいと1枚のシリコン ウエハから製造できるチュイップの数が増え、また歩留まりも向上するので、一般的にダイ サイズが小さいほど製造コストが安くなる。つまり、価格面でも有利に働くわけだ。

CrusoeのVLIWの構成

Crusoeでは、128bitと64bitの合計6種類の命令フォーマットをサポートする。

 また、ハードウェアがシンプルになっているため、性能向上も容易である可能性が高い。まさにコードモーフィングを採用したことで、これまでのプロセッサが持つ欠点の多くを克服することができたわけだ。

秘密主義とタレントが期待へとつながる

  最後にTransmetaがこれほど注目を集めた理由として、製品発表まで秘密主義を貫き、製品の概要を発表してこなかったことが挙げられるだろう。ほぼ同時期にx86互換プロセッサの開発をスタートしたRISE Technologyやそのほかのベンダ(製品を発表できずに倒産、もしくは買収によって今は存在しない)は、早々にホームページ上でx86互換プロセッサの開発表明を行い、期待感を煽っていた。これに対し、Transmetaではどういった製品を開発しているのかさえ、公に発表することはなかった。

 それでも、SPARCのアーキテクトで知られるデビット ディッツェル(Devid Ditzel)氏が独立してTransmeta社を興し、x86互換プロセッサを開発中であることは、1997年に業界で噂となっていた。ディッツェル氏自身、業界の中ではRISCの提唱者の1人として有名だったうえ、Microsoftの共同創立者であるポール アレン(Paul Allen)氏や、投資家として有名なジョージ ソロス(George Soros)氏といったメンバーがファウンダーとして名前を連ねていたからだ。それが、むしろ期待を煽る結果になっていたのかもしれない。また、Linuxの開発者として知られるライナス トーバルズ(Linus Torvalds)氏が、ソフトウェア開発者として参加した点も、Transmetaの宣伝に一役かっているといえるだろう。

 このようにTransmetaとその製品であるCrusoeは、これまでのx86互換プロセッサとは大きく異なる戦略を採ってきたことが分かる。すでに同社は、TM5400の次のプロセッサである「TM5600」を開発中であることを表明しており、性能向上に向けた開発も順調であることがうかがえる。実際にCrusoeを搭載したノートPCやモバイル機器が製品として販売され、ある程度のシェアを確保できなければ、Transmetaが「成功」したとはまだ言えない。しかしTransmetaは、Centaur Technology(現VIA Technologies)やRise Technologyなど、ここ数年でx86互換プロセッサ市場に新たに参入したベンダの中で、最も「成功」に近い位置にいるのは間違いない。



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  [特集]CrusoeはノートPCに革新をもたらすのか?
      コラム:PC EXPO2000で披露されたCrusoe搭載ノートPC
  1.Crusoe成功の秘密
    2.Crusoeの秘密を解く

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