第4回 導入現場で気を付けたい「BPOE」の視点


西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年8月11日
日本でも1、2年のうちにRFIDを利用した業務システムが実現する勢いだ。本連載はRFIDシステムの導入を成功させるために、経験豊富なコンサルタントがノウハウを伝授するバイブルである(編集部)

 これまで、RFIDシステムの導入に必要な特有の作業やシステム開発の全体工程における位置付け、そしてソフトウェア処理などについて述べてきました。今回は、現場で実際に導入する際のさまざまな留意点について解説します。

 現場といった場合、皆さんが想像するのはどういった場所でしょうか? おそらく、工場、物流センター、店舗の売り場やバックヤード、オフィスなどであると考えられます。中には仕事柄、研究所や病院、牧場、学校などを想像する方ももちろんいらっしゃるでしょう。

 以前申し上げましたが、RFID関連機器を現場に持ち込みますと多くの場合、性能は減衰します。それはRFID関連機器の電波が、現場にすでに設置されている電波を発する機器や、天井・床・壁、物流機器やラック、車両、ヒト、PC、携帯電話などさまざまな外乱の影響を受けることによります。

 つまり、現場でRFIDシステムを導入するに際しては、その性能は減衰するものだという前提で臨む必要があるのです。ただし、比較的新しいフリーアクセス床のオフィスなどでは、逆に床からの電波の反射などにより通信距離が伸びることもあります。

 いずれにしても、性能の減衰などを見極めるためには、減衰がない状態の性能を明確に認識していることが必要です。例えば、あるリーダ/ライタとICタグの組み合わせによる通信範囲の形状がどのような形であるかを明確に理解しているということです。

 メーカーの人間でないと性能の詳細の確認は困難ですが、少なくともメーカースペックとしての通信距離だけは現場に導入するに当たっては、事前に確認しておくようにしてください。

 3つの視点<業務・対象物・利用環境>

 現場での留意点として当初から何度も述べていますが、業務・対象物・利用環境の3つの視点で考えます。これは暗記してほしいくらいです。私は自分でいっていながらお客さまの前に立つと忘れてしまうことが多かったので、業務(Business Process)、対象物(Object)、利用環境(Environment)の頭文字を取って、「BPOE」と覚えていました。

 この中で、分かりやすいのは対象物ですので、対象物の留意点からスタートします。

 対象物における留意点

 対象物とはICタグを実際に貼り付けるモノをいいます。もちろん場合によってはヒトのケースもあります。

 まずは、モノとしての商品を頭に思い浮かべてください。例えば、人形という商品にICタグを直接貼る場合もあれば、商品を入れたダンボールに貼る場合、さらにそれを積み上げたパレットや物流機器に貼るということもあるでしょう。

 いま、申し上げただけでも、

  • 人形に直接に貼付する
  • ダンボールに貼付する
  • パレットに貼付する

というように貼付する対象物が異なります。まずはICタグを貼付する対象は何かを正確にとらえなければなりません。

 次に問題となるのは対象物の素材(対象物が何でできているか)です。特に金属と水分による影響が重要であり、この2つをクローズアップして解説します。

【金属の影響】

 対象物で最初に気を付けたいのは対象物が金属であるかどうかです。金属の場合は、直接ICタグを貼ると全く読めません。ICタグを金属に直接貼付して読み取りができなくなる理由は、ICタグからの放射電磁波が金属からの反射波によって打ち消されることなどによります。

 金属に貼付する場合に実際に用いられる方法(対処方法)は以下の2つです。

  1. 金属対応タグを利用する
  2. 対象物とICタグの間にスペースをつくる

 1は金属に貼付するのを前提として作られているICタグであり、通常のICタグに比べて特殊な素材が入っている分、若干厚くなります。金属対応タグは性能の減衰を防ぐ機能を持っています。ただし金属対応タグを利用しても性能は減衰します。

 2のスペースをつくるというものですが、例えば、紙、プラスチック、乾燥した木などの読み取り性能に比較的影響を与えない素材をうまく利用して、対象物とICタグの間にスペースをつくるようにします。実際の利用例としては、対象物とICタグの間にスペーサーとしてそのような素材を挟むか、浮かすような形で貼付する方法があります。

 実際の導入例では金属対応タグは高価であり、またそれを利用しても性能の減衰は多少はあるということもあり、現実には通常のICタグを利用して2のやり方でというユーザーが多いです。

【水分(液体)の影響】

 金属と並ぶ大きな影響が水分(液体)です。水に関していえば、ICタグを貼付した対象物が水没した場合、読み取りはできません。現実に問題になるのは雨や温度によって水滴が付く場合や対象物の水分保持量が比較的大きい場合です。

 雨や水滴はなかなか状態を再現するのは困難ですが、私ども業界の人間の間では、定量化のために霧吹き10回、霧吹き5回という方法でテストをします。霧吹き10回はICタグにバケツで水をかけた状態やどしゃぶりを、霧吹き5回は普通に雨が降った程度の状態を意味します。性能は確実に減衰しますが、いずれも全く読めなくなることはありません。

 なお、現場で注意すべきなのは水分保持量の大きい対象物です。雨などは目に見えますが、水分保持量は目に見えないため、実は金属よりも難易度は高いのです。

 水分(液体)で性能が減衰する理由としては、液体の影響でアンテナの電気的特性が変化したり、電波が液体に吸収されてしまったりということが挙げられます。

 例えば、木製のパレットが水分を多く含んでいる状態と乾いた状態では、前者は大幅に性能が減衰し、後者はさほど減衰はありません。しかしながら見た目にはなかなかこの違いは分からないものです。

 水分の場合も取りあえずの対処としては、金属と同様に対象物とICタグの間にスペースをつくるようにします。

【温度】

 忘れがちなので温度の話をしておきます。

 通常のICタグは、例えばプラスチックのカードなどにインレット加工されている標準品であれば、おおむねマイナス30度から50度くらいまで保存が可能となっています。なお、リーダ/ライタと合わせて実際に読み書きの動作を実行する場合は、0度から50度程度となります。このあたりは実際に購入するICタグやリーダ/ライタのメーカーに確認してください。

 ICタグは、ICチップとアンテナとそれを囲む素材でできているのですが、実はICチップ自体はもう少し温度に強いのです。厳しい温度の環境で利用したいという場合は、ICタグの外側の加工をどうするかということになり、そのために価格が当然高くなります。

 温度が課題になる分野として、リネンや自動車の塗装などで以前から利用されています。いずれにしてもどのような温度で利用されるかは対象物自体だけでなく利用環境という点からも確認が必要です。

 ここまで金属、水分、温度について説明しましたが、対象物が金属であるか、対象物の水分保持量は、温度はどれくらいなのかというところは必ず現場で確認してください。金属や温度は見た目や体感ならびにユーザーへのインタビューで分かるのですが、水分の影響はなかなか分からないので注意してください。

 
1/2

Index
導入現場で気を付けたい「BPOE」の視点
Page1
3つの視点<業務・対象物・利用環境>
対象物における留意点
  Page2
利用環境における留意点
業務における留意点
グローバル利用での留意点


RFIDシステム導入バイブル 連載インデックス


RFID+IC フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)
- PR -

注目のテーマ

Master of IP Network 記事ランキング

本日 月間
ソリューションFLASH