岡崎勝己のカッティング・エッヂ

マルチリーダはICカード普及の起爆剤になるか?


岡崎 勝己
2008年4月21日
非接触ICカードやRFID技術が社会にもたらす変化とは何か。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に取材活動を続けるジャーナリストが、独自の視点で“近い未来”の行く末を探っていく(編集部)

 ここにきてICカードリーダ/ライタのマルチ化が急速に進みつつある。NTTデータは2007年4月、マルチリーダを用いてシステムを安価かつ短期間に構築するためのコンセプトを発表し、すでに17社がNTTデータと共同で関連システムの提供を表明した。

 また、POS分野ではWindows環境におけるPOSデバイスやアプリケーションの標準化団体「Open Point of Service技術協議会(OPOS-J)」が2008年3月、OPOS日本版仕様書の最新版を発表し、マルチリーダ対応のデバイスを各社が容易に開発できる環境を整えた。

 果たして何を目的に各社はリーダ/ライタのマルチ化を進めているのか。各社の取り組みを追った。

 リーダ/ライタの“マルチ化”でICカードの利用が加速

 電子マネーや入退室管理、勤怠管理、印刷管理など、用途のすそ野を着々と広げる非接触ICカード。そのさらなる利用拡大に向けリーダ/ライタの“マルチ化”に、ベンダ各社は本腰を入れ始めたようだ。展示会などにマルチリーダ/ライタを出品する企業も少なくなく、企業同士が連携してマルチリーダ化を推進する動きも顕在化しつつある。

 そもそもICカードはその技術的な仕組みから、次の2点が普及の阻害要因として長らく指摘されてきた。

 まず、非接触ICカードはその形状こそ免許証型でほぼ共通しているものの、ISO/IEC 14443 TypeA、ISO/IEC 14443 TypeB、FeliCa方式など複数の規格が存在することは周知のとおり。それらはいずれも13.56MHz帯の周波数帯で通信を行うが、それぞれ独自の手順で情報をやりとりするため、各規格に対応したリーダ/ライタでなければ情報を読み取ることはできない。

 また、ICカードはシステム(アプリケーション)ごとに独自の形式で情報が格納されている。そのため、たとえリーダ/ライタが規格に対応していても、システムが異なる場合にはやはり情報を正確に読み取ることは難しい。

 これらのことから、ICカードの利用が広がるほど専用リーダ/ライタの設置やシステムのカスタマイズが求められ、システムの導入コストを増大させ、導入期間を長引かせる原因となっていたのである。

 システム導入の現場では、こうした課題を解決するために各種の施策がこれまでにも講じられてきた。用途ごとにICカードの規格を一本化しようというベンダ/インテグレータ側からのアプローチもその1つ。だが、各社はそれぞれ独自の狙いからICカードを選択していたこともあり、これまで期待されたほどの成果は上がっていなかった。

 しかし、リーダ/ライタのマルチ化を進めれば、いずれのシステムでも利用可能な“共通端末”を実現でき、長らく指摘されてきた問題を抜本的に解決することができる。つまり、マルチリーダ/ライタは、ICカードの長年の懸案を解決するための最も現実的な“解”と位置付けられるわけだ。

 カードやデータ形式の違いにリーダ/ライタ側で対応

 リーダ/ライタのマルチ化に積極的な企業の1つとして見逃せない存在が、システムインテグレータ大手のNTTデータだ。同社は1992年、出光興産の「出光まいどカード」向けにICカードを提供して以来、ICカードの用途開拓と関連システムの構築をこれまで積極的に推進してきた。近年ではイオンの電子マネーサービス「WAON」のサーバシステムの開発を手掛けるなど、同分野で豊富な実績を誇る。

山本真也氏
NTTデータ ビジネスソリューション事業本部 モバイル&ICメディアビジネスユニット ICソリューション企画担当

 そんな同社がリーダライタのマルチ化に本格的に取り組むようになった背景には、セキュリティ分野における用途開拓がここ数年で急速に進展したという事情がある。

 NTTデータでICソリューション企画担当を務める山本真也氏は、「複数のICカードシステムを運用する企業はもはや少なくない。そうしたユーザーを中心に、システムの管理負荷を軽減するため、リーダ/ライタを一本化したいとの要望がここ数年で相次ぎ寄せられ、その対応に迫られることになった」と説明する。

 そこで、同社が2007年4月に発表したのが、異なるICカードを利用したシステムを効率的かつ安価に導入するためのコンセプト「【u:ma】(ウーマ)構想」だ。その技術的な特徴は、マルチリーダ/ライタ環境を実現するために必要な機能を、すべてリーダ/ライタ側に実装した点にある。

 すでに述べたとおり、リーダ/ライタのマルチ化を実現するためには、ICカードの各規格にリーダ/ライタ側が対応することはもちろん、読み取ったデータをシステムが利用可能な形に成形する仕組みを整えることが不可欠だ。

 【u:ma】構想では、リーダ/ライタである「【u:ma】-G」にICカードの種類を自動認識する機能を実装。併せて、取得したデータの成型方法などを指示するコマンドを用意し、事前にリーダ/ライタ側に設定を行うことで、システムの違いに起因するデータ形式の違いの問題をリーダ/ライタ側で吸収できるよう工夫が凝らされた。【u:ma】-Gを用いることで、システムへのカスタマイズを意識することなくシステムを導入することが可能になったわけだ。

「従来の個別対応と比べ、導入期間を約10分の1にまで短縮させることが可能だ。しかも、ICカードの情報の独自性は保たれるため、セキュリティレベルが下がる心配もない」(山本氏)

筐体付きリーダ/ライタユニット【u:ma】-GU。ISO/IEC 14443 TypeB、FeliCaに対応。TypeAには今後、対応を計画しているという

 
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Index
マルチリーダはICカード普及の起爆剤になるか?
Page1
リーダ/ライタの“マルチ化”でICカードの利用が加速
カードやデータ形式の違いにリーダ/ライタ側で対応
  Page2
開発生産性の高さを武器に2008年度で5万台を目指す
マルチリーダは電子マネーの普及拡大の切り札に?
電子マネーやクーポンの活用がCRM活動の高度化を支援

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