第6回 奥義その弐 敵を知り、自らを知る


西村 泰洋
富士通株式会社
マーケティング本部
フィールドイノベーション
プロジェクト員
2008年4月14日
RFIDシステムに必要なプログラムの実装方法はベンダによってクセがある。本連載はRFIDシステムに必要とされるプログラミングスキルを伝授するバイブルである(編集部)

 前回「奥義その壱 ソフトウェアシーケンス図を制する」としてRFIDシステム特有のリーダ/ライタとRFIDタグのソフトウェアシーケンスについて解説をしました。ソフトウェアシーケンスは細かい話ではありますが、難易度の高いプロジェクトや読み取りができない理由を突き詰めるときなどに極めて有効なアプローチであります。

 今回は大きな意味での奥義について解説します。筆者はこれまで、13.56MHz、アクティブ、UHF、ZigBeeの順で近距離無線のハードウェア/ソフトウェアを経験してきました。それらの周波数帯の中でも複数のハードウェア/ソフトウェアに触れてきた経験が現在のスキル形成につながっています。

 この複数のハードウェア/ソフトウェアに触れるということがRFIDシステム開発のマクロな意味での奥義の始まりであり、その結果として最適なハードウェア/ソフトウェアの選択とシステムの最適化が成し遂げられると思っています。

 しかし、読者の皆さんが過去にさかのぼり、もしくは今後さまざまなハードウェア/ソフトウェアを体験していくというのは開発プロジェクトを抱えている中では困難なことであります。従って、今回筆者の経験を疑似体験していただくことが肝要と感じています。

 システム開発プロジェクトの視点で、システムエンジニア(SE)やプログラマであれば、新たなシステムの構築を考える際にそのシステムの中心となるハードウェア/ソフトウェアが自身とチームにどのように大きく影響を与えるかを考えることでしょう。

 RFIDシステムの場合、それはリーダ/ライタになります。その意味で今回は、

奥義 その弐
「敵」(リーダ/ライタ)を知って、RFIDシステム開発に勝つ ≒ RFIDシステムエンジニアとして危機に陥らない

という趣旨で解説を進めていきます。本来リーダ/ライタは、敵ではなく愛すべき仲間なのですが、まだよく知らないときは敵のように感じてしまうものです。

 剣豪といわれている宮本武蔵が負けなかったのは、敵そのものの技術と性格ならびに実際に戦う場所と時刻などの環境の分析をよく行い、それらに対する対抗策を事前に準備して決戦に臨んでいたからということは周知の事実であります。さらにさまざまな敵と戦っていくことで、ますます強くなっていきます。

 RFIDシステム開発にかかわるわれわれも事前に敵(リーダ/ライタ)を知って戦いに臨むのと、そうでないのとでは大きな違いが出ることは皆さんのこれまでのシステム開発の経験からも明らかなことでしょう。

 代表的なUHF帯リーダ/ライタの特徴

 今回は現在の話題性ならびに今後の幅広い普及を考慮して、UHF帯のリーダ/ライタで解説をしていきます。UHF帯のリーダ/ライタはさまざまな種類がありますが、ここでは誌面の関係から代表的なメーカーを取り上げます。

 UHF帯リーダ/ライタは生い立ちから大きく分けると以下の2つになります。

  • 専業メーカー(モトローラ、オムロン、インピンジ、エイリアンなど)
  • コンピュータメーカー(富士通、日立など)

 「モトローラがなぜ専業メーカー?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、RFIDのリーダ/ライタに関しては、ルーツはMatrics(マトリックス)という会社であり、その後Symbol Technologies(シンボルテクノロジー)、モトローラとM&Aの中で名前を変えてきました。その流れからここでは専業メーカーに位置付けています。なお、インピンジは日本ではNECと提携をしてNEC製品として販売されています。

 主要メーカーのリーダ/ライタを大まかにプロットすると図1のようになります。プロダクトとしての特徴とシステムの趨勢(すうせい)を見る場合には図1の軸が有効です。横軸にはPCなしで自律運用が可能な組み込みシステムの最新型か、あるいはPC接続が不可欠な従来型かという視点を、縦軸はOSや開発環境に依存するかどうかです。

図1 UHF帯RFIDリーダ/ライタの特徴別マトリクス

 これから、以下の3つの視点で各社の機器を解説します。

  1. サーバやPCなどの上位機接続の有無と動作OS
  2. 開発環境
  3. エア・インターフェイス

 本来であれば、一覧形式の表としてまとめた方が見やすいのですが、読者の皆さんに図表による先入観を持ってほしくないことを考慮しています。また、筆者がエンジニアとしてすべての機器を同じ基準で操作・掌握できているわけではありません。従って、ここでは以下のように文章で特徴と違いを明らかにしていきます。

 なお、メーカーだけでなく機器名も覚えておきますと「RFID通」らしくなるので、省略機器名も添えておきます。例えば、自動車を表現するときに、メルセデスであればC、E、S、レクサスであればIS、GS、LS、BMWであれば1、3、5、7など、単純なコードネームで車体を連想することができます。リーダ/ライタも似たようなところがあるのです。

●モトローラ XR480

特徴:Windows CE組み込みの最新型の機器。PC接続をしない運用も可能。PC接続をすれば細かい制御ができる。

  1. 上位機接続しないで自律運用が可能。上位機からの指示も可能であり、現実的には上位機接続の形で運用することが多い。なお、上位機のOSは限定されない
  2. 開発言語に依存しない
  3. Gen2のみ対応

●オムロン V750

特徴:TRON組み込み。最新型と現場志向の両者を併せ持つユニークなプロダクト。簡単な処理であれば上位機なしの運用も可能。

  1. 読み取ったRFIDタグのIDをリアルタイムにシステムに上げるのであれば、上位機接続なしで処理の実行が可能。接続OSの制限はない
  2. 開発言語に依存しない
  3. Gen2のみ対応

●日立 μ-Chip Hibiki MU384

特徴:現在の多数派OSであるWindowsの開発環境を重視したプロダクト。ミドルウェアの利用で各種設定が簡便にできる。

  1. 上位機との接続が不可欠。対応OSはWindows XP/Vista
  2. ミューチップマネージャを利用して開発。Visual Studio 2005が推奨される
  3. Gen2などに対応

●富士通 RW362

特徴:現在の多数派OSであるWindowsの開発環境を重視したプロダクト。ミドルウェアの利用で各種設定が簡便にできる。

  1. 上位機との接続が不可欠。対応OSはWindows XPのみ
  2. EdgeBaseを利用しての開発。言語に依存しない
  3. Gen2、ISO18000 TypeBの2種類に対応
 
1/3

Index
奥義その弐 敵を知り、自らを知る
Page1
代表的なUHF帯リーダ/ライタの特徴
  Page2
各機器への筆者の経験ならびに感想から
コストと開発メンテナンスの視点から考える
  Page3
RFIDタグの最新動向
敵を知りさらなる敵に挑む

RFIDシステムプログラミングバイブル 連載インデックス


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