第6回 自治体におけるSSFC実証実験の意味


高村 茂
株式会社日本総合研究所
総合研究部門
新社会システム創成クラスター
2008年7月9日
オフィスにおけるセキュリティの鍵として非接触ICカードを利用することが多くなった。用途に応じて増え続けるICカードを1枚にまとめることはできないのだろうか(編集部)

 今回は、いままでの5回とは少し趣を変え、技術的なところから離れて、2007年夏に実施した東京都品川区でのSSFC実証実験についてお話しします。具体的な実験の内容に入る前に、少し理解しておいていただきたいことがあります。それは、「なぜ自治体で実証実験を行うのか」という根源的なところです。

 現在、自治体の職場の多くは一般市民が訪れることもあり、民間企業に比べてセキュリティが低い状況となっています。一方で、役所は住民の個人情報を多く保有し、個人情報を含んだ文書・データも管理する立場にあり、個人情報保護への十分な対応が急務となっています。

 また、自治体においては、前述のセキュリティの確保だけではなく、市民の活動場所として公共施設の地域開放も求められます。そこで、市民が安心かつ効率的に公共施設の空間・機器を利用できるようにする切り札として、ICカードを活用したいという意向が見られます。

 自治体市場は公開されている市場

 皆さんはセキュリティ関連の主たるマーケットといえば、当然民間企業であるとお考えでしょう。それに間違いはないと思います。

 しかし民間企業では、どの社にどのようなセキュリティシステムが入っているかというのは、当事者でなければなかなか分からない状況ではないでしょうか。ところが、これが明らかになる市場があるのです。それが自治体の市場です。

 基本的に自治体は、調達にかかわるすべての情報が公開されています。仮に、自治体側が積極的に情報公開していなくても、情報公開請求があれば情報は原則として提供しなければなりません。従って、「どの自治体が何をした」という情報は明らかになります。

 民間企業が新たな仕組みを導入する際には、効率性の向上やコストの削減など、費用対効果が明確になっている必要があります。もちろん、自治体においても費用対効果は検証されなければなりませんが、もう1つ自治体の特性があります。

 それは、横並び意識が大変強いという特性です。自治体には「1番にはなりたくない(定番にならないリスクを取りたくない)」という意識のほかに、「ビリには決してなりたくない」「隣の自治体よりは早く」という意識があります。

 一方で、全体から見ればごく一部ですが、ITについての先進性を競っている自治体があります。代表的なところでいえば、千葉県市川市、神奈川県藤沢市、神奈川県横須賀市、兵庫県西宮市といったところです。これらの自治体はビジネスマインドにたけていますので、民間と連携しつつ新たな仕組みを積極的に導入しようというチャレンジ精神が旺盛なのです。

 このような2グループの自治体があるわけです。そこで、先行グループが着手すると、

先行事例が現れる
 「どの自治体が何をした」が分かる
  「隣の自治体よりは早く」という意識が芽生える
   導入へ

というロジックが働きます。つまり、市場が開いてくると、費用対効果の検証に時間を費やすことなくシステムが導入されることとなります。

 従って、自治体市場は門戸が開くまでに時間がかかるのですが、一度ドライビングフォースが掛かると、短時間に多くの自治体に普及していくことになります。

 今回行ったのは実証実験ですから自治体市場への本格導入ではありません。しかし、品川区の協力を得ることで、セキュリティ機器連携の先行事例になり得るという位置付けでした。

 公共機関でシステムが導入されると、民間は少なからず影響を受けます。そこで、冒頭の「なぜ自治体で実証実験を行うのか」という問いの答えは、

先行事例が現れる
  「どの自治体が何をした」が分かる
   「隣の自治体よりは早く」という意識が芽生える
    多くの自治体に導入
     民間市場への導入を加速

という連鎖のトリガーになる可能性といえるでしょう。これは、セキュリティの分野に限った話ではありませんから、公共市場に関心がある企業にとっては参考になる面があるかもしれません。

 このように少し特殊な拡大の仕方をする自治体市場ですが、同じような傾向を持つ団体がほかにもあります。それは病院と大学です(以下、本稿では自治体・病院・大学を併せた市場を「公共関連団体」という)。

 これら公共関連団体のセキュリティ市場は、トリガーとしての魅力しかないのでしょうか。また、この市場自体がビジネスの対象にはならないのでしょうか。

 私どもの推計では、公共関連団体全体としてのセキュリティ市場は6000〜7000億円程度とみています。決して小さな市場というわけではありません。また、この市場は、民間の取り組みがおよそ2年程度遅れて波及しますので、今後急速に拡大する可能性もあります。

 
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Index
自治体におけるSSFC実証実験の意味
Page1
自治体市場は公開されている市場
  Page2
6部署150人が約2カ月の間、SSFCを体験
  Page3
ICカード管理への抵抗感は使用するにつれて減少

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