近未来の空港システムを探る―RFIDで旅行は手ぶらに


柏木 恵子
2007年2月23日
航空会社が、RFIDタグを使って預託荷物の管理を実施する日も近い。サービスの精度を上げるために企業間をまたがるシステム連携の実験が成田空港で公開された(編集部)

 どちらかといえば製品の生産管理や物流管理での利用が目立つRFIDだが、使い方次第では私たち一般人でもその恩恵を受けられる。例えば、空港でのRFID利用が挙げられる。実際に、香港国際空港やラスベガス空港では手荷物管理システムとして稼働しているし、パスポートのIC化が進めば入国審査などの短縮化ができるといわれる。

 効率のよい手荷物管理を実現するためには、関連するさまざまな企業のシステム間でIDを連携させる必要がある。2007年2月1日から2月28日まで、成田空港で実施される「IDコマース基盤」の実証実験は、航空手荷物業務(「JAL手ぶらサービス」)での適用効果を検証している。

【関連リンク】
「IDコマース基盤」の実証実験を開始

 手荷物にRFIDタグを付けた「手ぶら旅行」

 空港手荷物の識別と管理は、1990年代以降世界的にバーコードによって行われてきた。バーコードの場合、コンベアライン上に設置したバーコードリーダを使って、1メートルほど離れた位置から光学的に読み取る。しかし、バーコードに汚れやしわがあったり、重なり合っていたりすると読み取ることができない。

 実際には、手荷物の形や大きさがばらばらで、しかも取り付け位置も一定でないバーコードを、搬送中という短時間で読み取らなければならないため、認識率は平均で70%程度とあまり高くないのが現状だ。

 バーコードリーダで読み取れなかった手荷物は作業員が手入力することになり、誤仕分けや不明手荷物の原因ともなっている。このため、航空業界ではより認識率の高い次世代タグの開発が求められており、IATA(International Air Transportation Association:国際航空運送協会)はRFID技術がバーコードに代わるものと考えて標準化を進めている。

 日本でも、国土交通省が中心となって2002年度から成田空港で各種の「e-Airport」実証実験が始まった。その活動の中心となっているのが、新東京国際空港公団(現在は成田国際空港株式会社)と航空事業者などで構成される次世代空港システム技術研究組合(ASTREC)である。

 「e-Airport」構想は、表1の5つのプロジェクトで構成されるが、このうちRFIDタグを利用する「手ぶら旅行」に関する実証実験は、2004年の3月から開始された。

e-インフォメーション フライト情報と連動した空港アクセスの総合公共交通情報を提供する
e-チェックイン 航空旅客の各種手続の自動化などにより旅客手続の簡素化、迅速化を実現し、バイオメトリクス技術を利用した本人認証により、安全性向上を実現する
エアポートネット 空港内におけるブロードバンドネットワークを整備する
e-ナビ 携帯端末を用い、外国人などに対して観光情報や空港内施設情報などの提供を行う
e-タグ 旅客預託手荷物にe-タグ(RFIDチップ内蔵)を取り付け、陸送と航空輸送を連携させた「手ぶら旅行」を実現する

 手ぶら旅行とは、旅行者の荷物を宅配業者が自宅まで取りに行き、旅行者は到着空港のターンテーブルでその荷物を受け取るまで、自分で一度も運ばなくてよいというサービスだ。宅配業者が空港に入荷後、そのまま手荷物検査を行い空港で一時保管、旅行者の搭乗チェックインを確認して飛行機に搭載する。旅行者にとっては、かさばる荷物を自分で運ぶ必要がなく、搭乗手続きの際に手荷物検査で時間を取られないというメリットもある。

 宅配業者が旅行者の自宅で受け取った荷物にはRFIDタグが取り付けられ、以後このRFIDによって荷物の管理が行われる。2004年3月に試行運用が始まったこの手ぶら旅行の取り組みは、現在も続いている。

 実証実験を通じて具体的な課題が明確に

 手ぶら旅行の利用者に行ったアンケートでは「快適である」とおおむね好評であった。しかし、RFIDタグを使う目的はほかにもある。誤配送の起こらない輸送の確実性と、高度なセキュリティの確保による輸送の安全性の実現である。

 そのための検証として、空港内の搬送ライン上の手荷物を自動で仕分けする「e-タグ」の実証実験が2004年5月に行われた。この実験では、RFIDタグ20万枚という大規模な運用を行い、実測平均値98.84%の認識率を記録した。

 2004年の実験では13.56MHz帯のタグが使われた。高い認識率を出した結果からも周波数特性からも、当初13.56MHz帯が優位と考えられていたが、現在、IATAではUHF帯の利用が主流になりつつある。

 そのため、ASTRECでは2005年11月から2006年2月にかけて、関西空港と香港国際空港の間で、UHF帯の基本読み取り性能を把握するための実証実験を行った。結果はトータルの認識率で98.78%という高い数値が得られたが、アンテナの相互干渉などUHF帯の問題点もいくつか明らかになった。

 また、手ぶら旅行の利用者が増えるにつれ、空港内の事務処理作業が膨大になり、その効率化が必要になってきた。問題は、手荷物が宅配会社と航空会社など複数の企業を経由して搬送されるため、異なる管理IDを相互にひも付けるという煩雑な業務が発生していることが挙げられる。

 現状では、それぞれの企業が独自の管理コード体系を採用しているため、1つの手荷物に複数の異なる管理IDが付与される。しかし、企業間で複数のID情報を連携し、管理する仕組みがないため、IDを手作業でひも付けなければならない。今後、煩雑な処理が必要な手荷物が増えた場合、誤配送が発生するなどの恐れがある。そこで、異なる管理IDをシームレスに連携するための取り組みが必要となった。

手ぶら旅行を実現するシステム(画像をクリックすると拡大します)

 
1/2

Index
近未来の空港システムを探る―RFIDで旅行は手ぶらに
Page1
手荷物にRFIDタグを付けた「手ぶら旅行」
実証実験を通じて具体的な課題が明確に
 
  Page2
企業間情報連携のためのID連携基盤への取り組み
利用者を増やしたくても増やせないジレンマ
トラッキングサービスや自動チェックインも便利に


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