「製造番号XXXの家電製品を探しています」を支援するために


岡田 大助
@IT編集部
2008年2月18日
家電製品やガス製品へのRFIDタグ貼付は流通現場の効率化のためだと思われがちだ。しかし、消費者の安全を守るためにも使われるかもしれない(編集部)

 工場出荷時から家電製品にRFIDタグを組み込んで、製品事故発生時のスムーズな回収に役立てるための実証実験が始まった。また、給湯器などのガス機器にもRFIDタグを貼付して、業界横断的に修理履歴を共有する取り組みについても実証実験がスタートしている。

 この2つの実証実験は、みずほ情報総研が経済産業省から受託した「製品安全情報等提供・収集事業(電子タグの利活用による製品安全制度構築のための実証実験)」に基づくもの。今回は、東京都杉並区にあるエディオン高井戸店で実施されたRFIDタグ実証実験をレポートする。

 なぜ家電にRFIDタグを組み込むのか

 家電製品へのRFIDタグの適用としては、2007年1月に家電電子タグコンソーシアム(みずほ情報総研は同コンソーシアムの事務局を担当している)が「電子タグを活用した流通・物流の効率化実証実験」を実施している。同コンソーシアムは、2006年6月に「電子タグ運用標準化ガイドライン」を発表するなど、RFIDタグの利活用に積極的だ。今回の実証実験を経て、近いうちにガイドラインの第2版が発表される予定だ。

渡邊宏氏
経済産業省製品安全課課長

 今回の実証実験の背景には、2009年春から施行が予定されている改正消費生活用製品安全法による長期使用製品安全点検制度の実施がある。これは、最近話題となった小型ガス湯沸し器やストーブなど、経年劣化による事故の確率が高い製品の安全を確保するための法律だ。製造者や輸入業者は、設計標準使用期間や点検期間などの情報を消費者に通知することが求められる。

 ところが、現実的には消費者の手にわたった家電製品の所在を追跡することは難しい。事故が発生した場合、製造者が製品の型番やロット番号を告知し、消費者自身が製品を確認する以外に方法がない。ユーザー登録カードの返送率は1〜2割程度であり、効果的とはいい難いからだ。

 経済産業省製品安全課の渡邊宏課長は、実証実験の公開に先立って「製品を所有される方々に『そろそろ点検時期ですよ』といったお知らせを何らかの形で実施することが重要です。そこでRFIDタグによる所有者のトレーサビリティに期待しています」と語る。

 まだまだ消費者のプライバシーに関する問題や制度や仕組みの詳細を国民全員に周知するための課題などが残されているが、経済産業省では全国でセミナーを開催するなどさまざまな施策を考えているという。

【関連リンク】
消費生活用製品安全法の一部を改正する法律について(PDF)

 販売現場からも製品ライフサイクル管理に期待

 家電メーカーだけでなく量販店などの流通業界としても、RFIDタグによる製品トレーサビリティによって過剰在庫や廃棄在庫を抱えてしまうことを回避できるため、環境保全に役立つものと期待しているようだ。

外山晋吾氏
東京エディオン社長

 今回の実証実験の会場を提供する東京エディオンの外山晋吾氏は、「現場では、RFIDタグを家電製品に貼付することによる流通支援に期待を寄せています」と前向きだ。例えば、「1週間に5個しか売れないような製品が、全部まとめて購入されてしまうこともあります。その場合、2人目のお客さまは欲しいものを買えません。われわれは常に『欠品をなくしたい』と考えているのです」ということだ。

 多くの家電量販店と同様にエディオンでも会員カードを発行している。外山氏によれば、電池1個の購入でも履歴を残しているそうだ。「実際に、FAX機を購入したお客さまがインクリボンをお買い求めになる場合に、会員情報から購入製品の型番を引いて、対応するインクリボンをお渡しすることができた」という。メーカーからリコール情報が発表された場合も購入履歴を基に消費者に案内をしている。

 このように消費者が会員カードを利用して購入した製品であれば、改正消費生活用製品安全法が施行されても製品の所在の追跡が可能だ。ただし、多くの量販店では、製品の型番までしか登録しておらず、ロット番号のような個品レベルまでのデータを蓄積していないのが現状だ。

 また、会員カード制度のようなものがない店舗から家電を購入する消費者も多い。RFIDタグによる家電製品の追跡が期待通りの効果を挙げられるかどうかは、国、メーカー、販売店が三位一体となって制度作りに取り組む必要があるだろう。

 実証実験ではビデオカメラにμ-Chip Hibikiを貼付

 実証実験の詳細に入ろう。今回は、日立製作所の工場において、実験対象製品となるビデオカメラの内部にRFIDタグを組み込む。販売店では、それを化粧箱越しにハンディリーダで読み取り、顧客情報とRFIDタグ情報をひも付けて「量販店データベース」に登録する。

ビデオカメラに組み込まれたRFIDタグを読み取る

 製品事故が発生した場合には、該当製品に関する製品所在情報だけを「製品安全情管理データベース」へと追加する。このデータベースはEPCglobalが標準化した規格「EPCIS」に準拠し、量販店ごとに管理することが想定されている。量販店からメーカーに参照許可を出し、メーカーが個品レベルで製品の所在を検索するのだ。

 実証実験では、(1)量販店での製品販売局面におけるデータの登録、(2)製品事故発生を想定した製品安全情報管理データベースへのデータの登録、(3)メーカーによる事故対象製品の所在検索という3つのシナリオが検証される。

 プレス向けに公開された実証実験では、ビデオカメラを化粧箱から出し、直接ハンディリーダを製品に当ててRFIDタグの読み取りを行った。実運用を始めた場合、化粧箱の材質や緩衝材、付属品の有無などによっては、外側からの読み取りができない可能性も残されている。

 会員カードを所有していない消費者に対しては、購入時に氏名や連絡先を聞き、レジでデータを入力するシナリオを想定している。会員カード情報をひも付けるのに比べると余計な時間がかかるし、消費者の抵抗感も増えるだろう。

紀伊智顕氏

 さらに、製品安全情報管理データベースの存続についても検証しなければいけない点が残されている。例えば、量販店が倒産したり、合併したりした場合、データベースがきちんと引き継がれるかどうか分からない。また、各社がデータベースを構築するためのコストの問題もある。

 みずほ情報総研の紀伊智顕氏は、「技術的な課題も含めて検証作業を続けていきます。この制度が効率的に稼働するためには、消費者の制度や技術への理解が重要になってきます。経済産業省によるセミナー以外にも、量販店内での告知やレジでの説明、メディアなどによる広告などさまざまな施策が重要になるでしょう。なお、実証実験は、これらが充分になされているという前提で進められています」と語る。

 ガス製品の修理状況を業界で共有するために

 家電製品の製品ライフサイクル管理と同様の仕組みを利用して、ガス業界でもガス機器の製品安全管理データベースの運用を実験する。この実験には、ノーリツやリンナイといったガス機器メーカーのほか、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスらが参加している。

 実証実験では、ガス機器に貼付したRFIDタグに修理履歴のインデックスを登録する。修理事業者は、まずRFIDタグのインデックス情報をキーにして、製品安全管理データベースから修理履歴の詳細情報を取得する。修理が終了すれば、修理履歴のインデックスを更新し、帰社後に修理詳細情報を製品安全管理データベースに登録する。

 ガス機器も改正消費生活用製品安全法による長期使用製品安全点検制度の対象製品となる可能性が高い。それだけでなく、ガス機器製品の修理は複数の修理事業者によって行われるため、修理が実施された消費者使用中のガス機器の状態把握を確実に行うことが期待されている。

【関連リンク】
近未来の家電売り場を探る―RFIDでライフサイクル管理
RFIDで家電のライフサイクル管理を、家電電子タグコンソーシアム

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