CEATEC JAPAN 2007 レポート

RFIDの次のステップ、
集めた情報をどう生かすのか


岡田 大助
@IT編集部
2007年10月17日
RFIDシステムそのものは、標準化活動やそれに準拠した製品が市場に登場し一段落している。次なるステップは、どのようにRFIDを使い、どのように生かすのか。CEATEC JAPAN 2007をレポートする(編集部)

 2007年10月2日から6日にかけて「CEATEC JAPAN 2007」開催された。「見える、感じる、デジタルコンバージェンス最前線」をテーマに最新のデジタル家電で盛り上がったCEATECだが、RFID技術の活用方法もいくつか提案されていた。

 注射時に患者の取り違えを100%防止する

 秋田大学医学部附属病院では、2004年11月から13.56MHz帯RFIDタグを使った「ベッドサイド安全管理システム」を導入している。対象となったのは610床ある病院の全入院患者の注射だ。目指したのは、IT導入による医療現場の負担増を抑えつつ、さまざまなIT機器がシームレスに連携するシステム。2007年度 総務省「u-Japan大賞」を受賞している。

 同病院では、2000年以前より病院情報システム(Hospital Infomartion System)によるカルテの電子化やPDA型携帯端末による看護支援システムが稼動していたが、実際には患者のバイタルデータのみをPDAに入力するという状況だった。

 RFIDタグが付与されたのは、看護士のIDカード、薬品(注射ラベル)、患者のリストバンドの3種類。RFID化された注射ラベルは、医師の処方箋に基づいて薬剤部が薬品を準備する段階で、バーコード、患者名、日付、薬品名、投薬量、使用上の注意書きなどと合わせて発行される。また、患者のリストバンドにもバーコードが印字され、RFIDと併用する形となっている。

 注射時には、まず看護士がPDAに自身のIDカードを読み込ませる。次に、注射ラベルを読み取り、患者のリストバンドを使って照合を行う。RFIDシステムの導入を推進した近藤克幸教授によれば、「バーコードだけでもシステムを構築できたが、RFIDに比べると読み取りに時間がかかる。注射1回当たりの作業時間は、バーコードで60秒だったのに対して、RFIDでは30秒に短縮された。1カ月で数時間の作業時間の短縮となり、患者のケアを向上できた」という。

 また、いわゆる“ヒヤリハット”が3分の2に減少した。特に、患者の取り違えは100%防ぐことに成功したという。さらに、誰が、いつ、どんな作業をしたのかという履歴を蓄積することにより、医療現場の業務効率の完全にもRFIDシステムは貢献している。

 「リストバンドによる管理を嫌う患者さんもいらっしゃるかと思ったが、むしろ自分の目の前で認証を行っていることを確かめられるため、安心感をもって受け入れられている」(近藤教授)。

 無線を使うRFIDの導入に当たって、医療機器の誤作動の懸念はあった、そこで院内の医療機器を徹底的に検証し、一部の輸液ポンプだけが、基盤をむき出しにした状態で、1.7センチメートルまで近付けると誤作動することを突き止めた。実際には、基盤の外側に筐体があるため、事実上、影響はないものと考えられたが、万全を期すために電波を遮断するためのシーリングを施し、密着しても誤作動しないことを確認している。

 さらに、ペースメーカーを利用している患者や精密機器が集中する重症室などでは、自動的にRFIDによる認証からバーコードによる認証に切り替わる仕様になっている。

ベッドサイド安全管理システム
秋田大学医学部附属病院で使われているベッドサイド安全管理システム

 RFIDタグの所有者がタグデータを制御する仕組み

 日立製作所は、プライバシー保護機能を搭載したUHF帯RFIDタグ「μ-Chip Hibiki」を出展した。プライバシー保護機能は、2006年8月から2007年3月にかけて経済産業省の委託事業として行われた「セキュア電子タグプロジェクト」で開発されたもので、RFIDタグの正当な所有者がパスワードを使って、読み取り範囲を短くしたり、データの書き込みや読み出しを制御したりできるようにするものだ。

 具体的には、同プロジェクトで開発された「セキュアRFIDプロトコル(PDF)」に対応したリーダ/ライタを接続する端末に専用ソフトをインストールする。セキュアRFIDプロトコルは、UHF帯RFIDタグの国際標準であるISO/IEC 18000-6 typeCがベースになっており、μ-Chip Hibikiは同国際標準に完全準拠している。

 通常、UHF帯RFIDの通信範囲は3メートル以上とほかの周波数帯に比べて長くなるのが特徴だ。そのため、UHF帯RFIDタグが貼付された商品を、消費者が購入した後に不正にデータが読み取られる可能性があり、プライバシーの保護が求められている。

 従来の方法では、商品が消費者の手に渡る段階でRFIDタグを外すか、KILL機能を使ってRFIDタグを無効化していた。しかし、RFIDタグを無効化してしまうと、二次流通や保守、リサイクルなどのRFIDタグの活用が不可能となる。

 セキュアRFIDプロトコルに対応したμ-Chip Hibikiでは、正当なユーザー(小売店の店員や購入した消費者)が所有するRFIDタグの通信距離を30センチメートル以下に制限できるようになった。パスワードを入力することで、元の状態に戻すことも可能だ。

 また、RFIDタグに書き込まれているデータの保護という観点から、パスワードによる柔軟な読み書きの制御機能も盛り込まれた。従来のISO/IEC 18000-6 typeC準拠RFIDタグでは、メモリ内のユーザーバンク全体に対する書き込み禁止しかできなかったが、μ-Chip Hibikiでは、ユーザーバンクを複数のエリアに分割し、エリアごとの制御が可能となった。

 なお、制御方法は、エリアごとの書き込み、読み出しに対して、永久禁止とパスワードによる禁止設定の2種類が用意されている。例えば、RFIDタグ内に入れられたメーカー情報、卸売店情報、小売店情報がそれぞれのエリアに分割され、書き込みの禁止設定を行うことで、情報の改ざん防止が期待でき、複数企業間をまたがるサプライチェーンマネジメントの実現に役立つだろう。

セキュア電子タグプロジェクト試作品
セキュア電子タグプロジェクトで試作されたRFIDタグ(インレット)


 膨大な情報を生かす国産検索・解析技術の模索

情報大航海プロジェクト 経済産業省が2006年7月に次世代検索エンジンの開発を目指してスタートさせた「情報大航海プロジェクト」の各プロジェクトが合同でブースを出展し、それぞれの目指す情報検索・解析技術をアピールした。

 情報大航海プロジェクトの根底にあるのは、「個人の記録する動画像や会話、放送映像や映画映像、商品情報やセンサー情報、生産履歴や交通履歴、刻一刻と変化する地理・気象情報などさまざまな情報媒体」から得られた多種多様な大量の情報の中から、「情報家電、車載端末、電子タグや、公共交通機関、企業の生産・流通現場、市場の店頭」などのさまざまな利用シーンで、必要な情報を的確に検索・解析するための国産技術を生み出すことだ。

 国際医学情報センターでは、情報家電やセンサーから得られるヘルスケア情報を集めて、健康増進や在宅介護に役立てる「すこやかライフサポートサービス」を研究している。2008年には、沖縄県金武町などで実証実験を行う予定だ。

 ヘルスケア情報は「すこやかライフサポートセンター」にネットワーク経由(現時点では携帯電話網)で集積され、慶應義塾大学医学部、看護医療学部、政策・メディア研究科が中心となって研究している医療解析論理「すこやか解析」にかけられる。そこから導き出されたデータを、自治体や保険福祉センター、スポーツクラブ、病院・診療所などに提供する。情報提供を受けた事業者は必要に応じて、ユーザーやユーザーの家族にサービスを提供するのだ。

 東京急行電鉄(東急)では、交通系非接触ICカード「PASMO」を活用しって、利用者が便利でうれしくなるような連携型サービスの研究を行っている。これは、情報大航海プロジェクトにおける「未来型パーソナルサービス」に位置付けられている。

 交通系非接触ICカードは、電子チケットのほかにも電子マネーやポイントサービスなどの各種サービスが提供されているが、現状ではスタンドアロンで動いている。これを、FeliCaのIDm(非接触ICカードのIDナンバー)を使って連携し、カードの所有者の趣味・嗜好に応じたレコメンドサービスを実現する。ポイントは、ユーザー本人をキーとするのではなく、非接触ICカードをキーとすることで個人を厳密に特定しないことだ。

 デモンストレーションでは、渋谷の改札を出たという履歴を持つPASMOを、駅構内の電子ポスターにかざすとクーポンがもらえるというもの。

 これだけでは、現状でもあり得るサービスだが、ちょっと違うのは、選んだ店の混雑具合がリアルタイムに表示されること。これは、店内に設置されたカメラの映像に人間を認識する解析を実施し、蓄積されたデータと照らし合わせて、混雑予想までを提供する。

混雑解析システム
行こうと思う店が混んでいるかどうかリアルタイムで解析するシステム

 また、自宅のPCにICカードをかざすことで、交通履歴や、電子ポスターで選んだ店舗や実際に利用した購入履歴などを使って、カード所有者の嗜好にあった情報提供を行う。今後、研究や実証実験などを重ね、実用化は早くても3年後とのこと。

大航海ナビ
行動履歴から趣味や嗜好に応じたレコメンデーションサービスを展開

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