第2回 情報が漏れた! まず何をすればいいのか?

根津 研介
園田 道夫
宮本 久仁男
2004/12/23
※ご注意
本記事はフィク ションであり、実在の人物・組織などとは一切関係ありません。

 調査の障害は意外なところから〜社内にも敵?

●急転直下〜調査中止?

 会議室の扉を開いて入ってきたのは、取締役の1人、中田営業本部長だった。中田本部長は、まさに営業一筋のたたき上げといった風体の人であり、従来型の営業については表も裏も知り尽くした、いわば「営業のエキスパート」だ。それほど太っているわけではないのに、なぜか「タヌキ」というあだ名を奉られていた。

 中田本部長はにこにこしながら切り出した。

中田本部長 「いやーみなさん、お忙しいところご苦労さまです。今回の件について、起きている問題といままでで分かったことについて教えてもらえませんかねえ」

 久保部長をすっ飛ばして直接降りて来ちゃったということなのか。いつもネゴシエーションには手抜かりがないやり手の久保部長にしては、珍しいエラーだった。もちろん時間に余裕はなかったが、偉い人への対応はおろそかにできない。小野さんがかいつまんで経緯と現状を報告する。

小野さん 「……というわけで、いまはその情報にアクセスできる人などをチェックするところです」

 中田本部長はにこやかな表情を崩さなかったが、目の奥はぜんぜん笑っていなかった。

中田本部長 「なるほど。短時間でよく調べましたね。しかし、大変なことになりましたねえ。それで、本件についてですが、知っている人間を増やさないように十分に注意して取り扱っていただいてますか?」
小野さん 「ええ、もちろんです。真相を解明するまではむやみに事件が明るみにならないように慎重に事を運んでほしいと久保部長にもいわれています。ですので、可能な限り早く真相を解明し、当社のお客さまやしかるべき機関に届け出をするなりの対応を取ろうと思っているのですが、久保部長が出張から戻られ次第今後の方針や手順を……」
中田本部長 「あ、いやいや。それには及びませんよ。この件は内密にしてください。もうこれ以上知っている人間を増やす必要はありませんのでねえ」
小野さん 「え???」
中田本部長 「社外はもちろん、社内にも知られないように進めてくださいね。これ以上、誰1人本件についてかかわらせてはいけません。クレームが来たお客さまへの対応はわたしの方で進めます」
小野さん 「そうですか。では会社としてのプレスリリースの目標時期はいつごろと考えて作業を進めればいいのでしょうか?」

 中田本部長はそれには答えず、

中田本部長 「こういうときはクレームの対応が一番重要ですからね。クレームをつけてきたお客さまには、丁重に対応しておかないとねえ。対応を間違えると、最近はほら、掲示板とかに書かれたりしますし」

 タヌキだ。あだ名の由来はこういうことだったのか。まさかとは思うが、この人、握りつぶそうと思っているらしい。そんなことを、正義感が強い平山さんが黙って見逃すはずがなかった。

平山さん 「もしかして、会社としては一切公表しない、ということですか?」
中田本部長 「いやいや。そんなことはありませんよ。事実がすっかり明らかになって、クレームへの適切な対応が済めば、そしてお客さまがどうしてもご要望とあれば、それから公式に謝罪することを考えます。あくまでご要望があれば、ですけどねえ」
平山さん 「隠蔽(いんぺい)しても会社のためにはなりませんよ。説明責任を果たしていない、ということでむしろ責められます」
中田本部長 「責任はちゃんと果たします。クレームにはちゃんと対応しますしね。その分の予算もちゃんと確保しますしね」
平山さん 「予算って何の予算ですか? お客さまにお金を払って黙ってもらおう、ということですか?」
中田本部長 「いやいや。いろいろとお金はかかりますからね。まあ、わたしに任せておきなさい。いいですか。社内外を問わずにあくまでも極秘で進めてくださいね。ほかのお客さまに知られないようにするのはわたしが手配します。この件については社長からわたしが音頭を取るようにいわれてますので、これは会社の方針だと思ってください。では、お忙しいところおじゃまさまでした」

 タヌキは退場した。平山さんは怒りが収まらない様子でプリプリしながら、

平山さん 「あのタヌキ、ぜんっぜん何も分かってない! できるだけ早く事実を公表しないと、いま情報漏えいってそれでなくてもホットな話題なのに、マスコミに知られたらどうなるか想像できないのかしら!」
小野さん 「個別に黙らせる対策で何とかなるとは思えないけどなあ」
平山さん 「隠蔽(いんぺい)してたことがバレたら、それこそお客さまみんな逃げるわよ!」

 平山さんはちょっと考えて、乱暴にキーボードをたたき始めた。まだまだやるべきことはある。無駄になるかもしれないが、それでもとにかく原因を調査するしかない。

3/5

Index
情報が漏れた! まず何をすればいいのか?
  Page1
データの流れを把握する!
  Page2
誰が顧客データに触れたのか? 〜ザルな契約とその概要
Page3
調査の障害は意外なところから〜社内にも敵?
  Page4
調査するところと調査の方針、そして方法
  Page5
そして最悪の事態に〜マスコミへの事件リーク


基礎解説記事
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管理者のためのセキュリティ推進室
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