クラウドサービスとは何かクラウドHot Topics(1)(1/3 ページ)

今世紀最大のIT潮流といっても過言ではないと思われる「クラウド」「クラウドコンピューティング」「クラウドサービス」。本連載では、最新の展開を含めて、クラウドをさまざまな側面から分析する。

» 2009年12月15日 00時00分 公開
[三木泉@IT]

 「クラウド」「クラウドコンピューティング」「クラウドサービス」。2009年のIT流行語大賞ともいえる言葉だ。おそらく2010年も引き続きIT業界最大の流行語となるだろう。その後どうなるのかはまったく予想がつかない。より細分化された製品やサービスを表現する、新たな言葉が登場することによって、「クラウド」という言葉自体を人々が口に出すことは徐々に減ってくるのかもしれない。しかし、クラウドという言葉が徐々に使われなくなっていくとしても、今後の多くのITインフラにおける暗黙の前提となるのは間違いない。

 しかし、「クラウド」や「クラウドコンピューティング」とは何かについては、ますます混乱が広がっているようだ。これは、さまざまな人々が、それぞれの考える「クラウド」を勝手に定義することによって助長されている。また、さまざまなIT関連企業が、クラウドという言葉を使って儲けようと、自社にとって都合のいいようにこの言葉を拡大解釈し、あるいは意味を歪めることで、ますます分かりにくいものになってしまっている。

 ここでは、クラウドを、「利用者が、利用したいものを、利用したいだけ、利用するということに専念できるようなIT消費スタイル」と捉えることを提案したい。これではあいまいで、「定義」としては不十分なのは承知のうえだ。しかし、クラウドという言葉を冠したすべての製品やサービスの目標は、このことにほかならない。そして、クラウドは、上記の意味を持つからこそ重要なITトレンドであるといえる。

 利用側の企業や個人ユーザーも、上記のような使い勝手の実現を目指すものだと考えておけば、少なくともそれぞれの製品やサービスがどういう方向を目指しているかが分かるし、期待を裏切られたと思うこともないはずだ。

 「クラウドコンピューティング」は、IT業界における特定の事業分野や、特定事業者の成否の問題ではない。クラウドコンピューティングを提供するのは、必ずしも事業者でなくてもいい。企業の情報システム部門や情報子会社であってもかまわない。最近、「プライベートクラウド」と呼ばれるようになってきたのは、大まかにはこうした動きを指している。

 だれが提供者となるにしろ、「利用者が、利用したいものを、利用したいだけ、利用するということに専念できるようなIT消費スタイル」が実現されるためには、面倒なITインフラの構築や設定、運用などの部分を、何らかの形で提供者が利用者から隠ぺいできなければならない。

クラウドサービスの特徴

 本稿では事業者がユーザー企業に対して提供する「クラウドサービス」について見ていきたい。Web 2.0の場合と同様、「クラウドサービス」を定義することは困難でも、特徴を挙げることはできる。

 クラウドという言葉が象徴しているのは、雲の向こうで誰かが下働きをしてくれるおかげで、利用する側が欲しいものを、ほかの面倒なことを考慮をせずに直接使うことだけを考えればいいということだ。利用したいIT機能と直接関係のないことに関する構築や設定、運用作業などを必要とせず、使いたいものを使いたいときに使いたいだけ利用し、不要になったらやめることができる。料金は使った量や時間の分だけ支払う。こうした特徴を持つサービスを提供する側は、個々のユーザー企業のために別個にサーバ機を用意して専用の環境を構築するなどしていてはビジネスとして成立しない(し柔軟性が実現できない)ので、サーバ仮想化や、マルチテナント対応(すなわち1つのインスタンスであっても複数のユーザー企業に対して別個のサービスとして提供できる)ソフトウェアを活用することになる。

 クラウドサービスの具体的な特徴としては、下記の点を挙げることができる。

  1. システム間、ユーザー間など、何らかのITインフラの共有手法により、ITリソースを効率的に運用する。共有手法としてはサーバやストレージの仮想化技術、アプリケーションのマルチテナント化などがある。共有手法の適用は、サービスの料金体系や価格レベルにも影響を与える。
  2. ITインフラ共有は、何らかの運用自動化技術により補完される。自動化技術は、機動的なサービス、均質なサービス、サービス価格の低下につながる。これに関連して、ユーザーがクラウドサービス上で用意されているひな型を用いて、セルフサービスでこれをカスタマイズし、自分のシステムを短時間に作ることのできる環境を用意しているサービスもある。こうしたカフェテリア的な仕組みにより、均一なサービスによって運用の効率化を図りながら、一方で利用者個々のニーズに対応できる。
  3. 利用者は、使いたいと思ったときに迅速にサービスの利用を開始し、やめたくなれば迅速に利用を停止できる。これは、利用者がITインフラを自前で調達・構築し、利用のために準備するプロセスと比較して、クラウドサービスの明確なアドバンテージとなる点の1つだ。
  4. 利用者は、アプリケーションの下で動くITリソースの詳細を知る必要はない。CPUスピードやメインメモリ量、ストレージ容量などについても、サービスの目的によっては隠ぺいされる。利用者の使うITリソースに対する負荷が高まったときに、自動的にITリソースを追加・拡張し、負荷が低くなれば、逆にITリソースの割り当てを自動的に減らす仕組みが提供されることもある。完全に自動化されていなくても、非常に容易な手続きで、拡張や縮退ができる場合もある。こうしたITリソース割り当ての機動的な伸縮と、従量制料金の組み合わせは、需要が予測しきれないWebサービスを運用する者に、非常に大きなメリットをもたらす。
  5. 利用者は、使った分だけのITリソースの料金を支払う。その意味で、課金体系は基本的には従量制である。ただし、従量制にもさまざまな形態があり得る。よく見られるのは、インスタンス単価あるいはユーザー単価に、利用期間(時間や日、月といった単位)を掛け合せたものをベースとするタイプだ。理論的には、自動的にITリソースをスケールするようなサービスでは、個々の利用者のCPUサイクルやメモリの消費量を細かくトラッキングし、ログに基づいて課金することも考えられる。しかし、これは利用者の理解を得にくい方式だ。いずれにしても、利用者にとっては、自前でITインフラを調達する場合に必要な初期コストを、支払わずに済む。ITリソースを資産ではなく経費として扱えることも大きなメリットだ。
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