日本のゲーミフィケーションは「応用」のステージに

日本のゲーミフィケーションは「応用」のステージに


ゲーミフィケーションカンファレンス2012レポート

柴田克己
2012/8/20

成果への期待が高まるゲーミフィケーション

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 「ゲーム」の持つさまざまな要素を、ゲーム以外の分野へと応用し、サービス利用者の動機付けを高めたり、「行動」に影響を与えようとする取り組みである「ゲーミフィケーション」。

 ゲーミフィケーションはこれまで、そのアイデアの目新しさから注目を集めていたが、最近になってITリサーチ企業のガートナーが「2014年までにGlobal 2000企業の70%以上がゲーミフィケーションの要素を取り入れたアプリケーションを1つ以上導入するようになり、今後5年間の重要なトレンドの1つになる」といった見解を発表する流れの中で急速に認知度を上げている。また、そこから得られる成果への期待も、かつてないほどに高まりつつある。

ゆめみ 代表取締役社長 深田浩嗣氏

 こうした中、6月28日に東京・赤坂で「ゲーミフィケーションカンファレンス2012」が開催された。

 運営委員を務めた、ゆめみの代表取締役社長である深田浩嗣氏は冒頭、このイベントを「ゲーミフィケーションに関する基礎の段階を終え、応用へ向かいたい人たちのためのカンファレンス」であると述べ、日本におけるゲーミフィケーション活用のステージを新たな段階へと進めていきたいという主旨をあらためて強調した。

 カンファレンスは、有料、かつ事前に予習用のコンテンツが提供されるといった形で、参加者に「学習」の態度で臨むことを強く求めるプログラムが用意され、会場となった東京ミッドタウンのヤフー会議室は、約250名の参加者で賑わった。

 本稿では、以下のようにさまざまな観点からゲーミフィケーションを語ったセッションをいくつかレポートしよう。

ソーシャルゲームは最強のゲーミフィケーション?

 午前中のプログラムは、「これまでのゲーミフィケーションへの取り組み」について、実際にコンシューマーゲーム、ソーシャルゲームの開発に携わっている人々や、アカデミックな視点で「ゲームの力」の本質や活用方法について研究を行ってきた研究者らによるパネルディスカッションが中心となった。

 最初のディスカッションは「ソーシャルゲームは最強のゲーミフィケーション?」と題されたものだ。パネリストはグリーのメディア事業本部でエグゼクティブディレクターを務める田中剛氏、ソーシャルアプリプロバイダであるgumiの代表取締役である國光宏尚氏、ゲームデベロッパーとして数々のコンシューマーゲーム、ソーシャルゲームの開発を手掛けるエンタースフィアの代表取締役社長である岡本基氏の3名。いずれも、実際の現場で、ビジネスとしてさまざまな形態の「ゲーム」の開発と運営に携わってきたメンバーである。

パネリスト:左から、グリー メディア事業本部 エグゼクティブディレクター 田中剛氏、gumi 代表取締役 國光宏尚氏、エンタースフィア 代表取締役社長 岡本基氏

 モデレータは、ソーシャルメディアコンサルタントであるループスコミュニケーションズの岡村健右氏が務めた。

コンシューマーゲームとソーシャルゲームの違いとは?

 「従来のコンシューマーゲームと、ソーシャルゲームとの違いは?」との岡村氏の問いに、岡本氏は最大の違いとして「参加人数」を挙げた。同氏は、任天堂で「ピクミン」シリーズや「WiiFit」などの企画開発を手がけ、エンタースフィアにおいてはコミュニティサイトの運営、コンシューマーゲーム、ソーシャルゲームの開発など、幅広くゲーム開発にかかわっている。

 参加人数の違いによって、ゲーム開発側に生まれる大きな課題は「全プレイヤーを満足させることが大変難しい」ことだと岡本氏は指摘する。

 「子ども向けのおもちゃから発展してきたコンシューマーゲームの場合、『一緒に遊ぶ』といっても、その人数は、数人から数十人。その場で勝敗が決まり、続けて遊ぶといっても、せいぜい徹夜といった文化だった。一方のソーシャルゲームは、同時に遊んでいるプレイヤーが、数千人から数百万人。さらに、そこでの結果がSNSなどの他のサービスと結び付いて長期間にわたって続いていく。競争などの要素も含まれることで、すべてのプレイヤーを満足させるように作り、運営していくことに、かなりのテクニックが必要だと感じている。これは、これから取り組んでいかなければならない課題の1つだ」(岡本氏)

 gumiの國光氏が指摘するのは「ゲームに対する時間の使い方の違い」だ。プレイヤーが生活の中で、あるまとまった時間を切り出し、その中で「没頭」して取り組む必要がある旧来のコンシューマーゲームに対し、ソーシャルゲームでは、日常生活の中に散発的に表れる「スキマ」の時間を利用してゲームを続けていく。忙しくて、自分が参加できていない時間があったとしても、ゲーム世界では何か新しいことが起こっている。それを見るために、再度ゲームの世界へとアクセスする。

 國光氏は、「日常の退屈を定期的にソーシャルゲームで埋めることが、人が日常を楽しく、気持ちよく過ごすための動機付けになっていく」と表現する。また、こうした「動機付け」は、ソーシャルゲームに限らず、あらゆるジャンルにおいて「物があふれ、絶対的な需要が落ち込んでいる世の中の流れの中で、新たな需要を生み出すために重要なキーワードになっているのではないか」と指摘した。

 現在、グリーにおいて欧州向けサービスの事業に携わる田中氏は、かつてカプコンにおいて「モンスターハンター」シリーズなどのプロデュースに携わったキャリアを持つ。田中氏が指摘したのは、「ゲームを遊ぶデバイスの変化」と「遊ばれ方の予測の困難さ」である。

 専用のゲーム機が必要なコンシューマーゲームと異なり、現在のソーシャルゲームは「PC」「スマートフォン」(および携帯電話)など、日常の中にすでにあるものを使って始められる点で、遊び始めるためのハードルは下がっている。

 一方で、始めるための間口の広さや、継続的なプレイヤーの入れ替わりにより、「スタートからエンディングまで、ある程度遊ばれ方が想像できる」コンシューマーと比較して、ソーシャルゲームでは「作り手が想定しないようなことも起こり得る」と田中氏は言う。そうした開発時点での「想定外」の状況にどう対処していくかについては、今後も引き続き学習を続けていきたいという。

  次ページでは、引き続きソ−シャルゲームから見たゲーミフィケーションに関するパネルディスカッションの模様をレポートする。

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 INDEX
ゲーミフィケーションカンファレンス2012レポート
日本のゲーミフィケーションは「応用」のステージに
Page1
成果への期待が高まるゲーミフィケーション
ソーシャルゲームは最強のゲーミフィケーション?
  Page2
学術的ゲーム研究がゲーミフィケーションに見た可能性
  Page3
ゲーミフィケーションの議論に足りない3つの観点
マーケティングがゲーミフィケーションに期待するもの
  Page4
「ゲーミフィケーションとは、料理のようなもの」
ゲーミフィケーションが差し掛かった「端境期」
心理学/行動科学から導く「ゲーミフィケーションの科学」


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