日本のゲーミフィケーションは「応用」のステージに

日本のゲーミフィケーションは「応用」のステージに


ゲーミフィケーションカンファレンス2012レポート

柴田克己
2012/8/20

ソーシャルゲームの「動機付け」となる要素は何か

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 ゲーミフィケーションの重要なキーワードの1つとして常に挙げられるのが、「参加者の動機付け」を高めるための仕組みだ。モデレータの岡村氏は、次のテーマとして「ソーシャルゲームで遊ぶ原動力となる動機付けは何か」についてパネリストの意見を求めた。その中で共通していた意見は「ゲーム内での名誉」「コミュニケーション」だった。

 名誉の中には、ゲーム内でのランキング、他のプレイヤーとの勝ち負けといった要素に加えて、コレクション要素のあるカードゲームなどでの「コンプリート」や、少しずつゲームを進めてそこへ至った際の達成感なども含まれる。

 他のプレイヤーとの競争は「コミュニケーション」の1つの要素ではあるが、すべてではない。例えば、他のプレイヤーからの「承認」「感謝」といったもの、さらに単なる「あいさつ」のやり取りなども、他のプレイヤーとのつながりを意識させる点で動機付けの重要な要素となっている。

 これらに加えて國光氏は、毎回新しいことが起こっている「驚き」や、他のプレイヤーから「褒めてもらえる」といった要素も、動機付けになるとした。

 「普通の生活の中で、人に褒めてもらえるという経験はあまりない。だからこそ『いいね!』や、肯定的なコメントがあると単純にうれしく感じられる。そのうれしさを演出するために、徹底的に『褒めてもらえる』ループを作ることを考える。例えば、全プレイヤーでの全国ランキングを作ると、多くの人はなかなかその上位には入れない。そこで、プレイ時間に応じたグループを作って、その中で『ちょっと頑張れば(上位に入れる)』感を演出することなどは、1つの方法かもしれない」(國光氏)

ソーシャルゲームの「強み」はどんな分野に応用できるか

 今回の「ゲーミフィケーションカンファレンス」におけるテーマの1つは、「ゲームが持つ要素を、いかにゲーム以外の分野に応用するか」であるが、このセッションでは、いずれもソーシャルゲームの開発に携わっているパネリストに対し、その強みをいかに他の分野に応用できると考えているかについても質問が行われた。

 岡本氏は、ゲームに対するモチベーションを、ゲームプレイ以外の消費者行動につなげられる可能性について示唆した。

 例として挙げたのは任天堂の人気ゲーム「ポケットモンスター」に関連した、物販店舗や映画館などでのレアモンスター配信、スタンプラリーといった取り組みだ。ゲームをプレイしているユーザーが、そのゲームを「ゲーム以外」の行動へとつなげていくレベルにまで達すると、その効果は大きいという。

 また田中氏は、語学修得などの学習分野を中心として「本来なら嫌なことを、あまり嫌でなく実行できるようにするか」という観点でゲーミフィケーションがより活用されることを望むとした。

 例えば、学習の成果が少しずつ向上していく様子を学習者にうまくフィードバックする仕組みなどへの応用はしやすいのではないかという。

 國光氏は、ゲーミフィケーションという言葉と関連して「バッジの提供」「ビッグデータの活用」といった側面ばかりが強調され、そうしたものを導入さえすれば売上向上などにつながるととらえられがちな風潮に異を唱える。

 むしろおざなりにされがちな「他者からの承認」「参加者の自己実現」といった欲求をうまくかなえることが、リピーターの獲得や購買へとつながっていくのではないかという。國光氏がソーシャルゲーム運営の立場で決定的に感じるのは、最終的に運営がプレイヤーに対して、いかに「おもてなし」の感覚を持てるかだとする。

 「ゲーミフィケーションで一番大事なのは、やはり『相手の立場で考える』ことだと感じている。ソーシャルゲームの運営を行っていると、プレイヤーと運営との間に関係性が生まれ始める。その中で、プレイヤーが必要とするものを運営側が知り、提供していくことができる。この部分は、他の分野にも応用ができるはず」(國光氏)

 こうした前提があったうえで、データは「答え」を得るために使うのではなく、「おもてなし」のために運営側が行った施策に対する「参加者の客観的な満足度」を示す指標として活用されるべきだとした。

 このセッションでは、それ以外にも「日本と海外でのソーシャルゲーム市場の違い」などについて意見が交わされ、日本ではPDCAサイクルを基にした、頻繁なアップデートによる改善が行われているが、海外での運営においては、そうした「改善」のサイクルがまだ確立していないケースが多いことなどが示された。

ループスコミュニケーションズ 岡村健右氏

 最後にモデレーターの岡村氏は、「コンプガチャ」の規制問題などで「日本においては、ソーシャルゲームというもの自体が、悪い目で見られがち」な状況を指摘した。しかしながら、今、ソーシャルゲームについて見るべき部分はそこではないという。

 「考えるべきなのは、なぜ、そこまで遊ばれるようになったかについてではないだろうか。ソーシャルゲームは、非常に速いサイクルでPDCAを回し、プレイヤーがどうすれば楽しめるか、そして実際に楽しんだかを徹底的に追究しているサービスといえる。そうしたサービスは、どのような考えに基づいて、どのように実践することができるのかという視点で、ゲーミフィケーションの活用を考えていってほしい」(岡村氏)

学術的ゲーム研究がゲーミフィケーションに見た可能性

 ゲーミフィケーションカンファレンス2012においては、「ゲーミフィケーション」という言葉の登場以前から、学術的な視点で「ゲーム研究」に取り組んできた研究者からの提言も行われた。

 「ゲーム研究的な視点から見たゲーミフィケーション」と題されたこのセッションの意図について、立命館大学映像学部助教授であり、日本デジタルゲーム学会の会長も務める細井浩一氏は「考えるための切り口の提供」であるとした。

立命館大学映像学部助教授/日本デジタルゲーム学会 会長 細井浩一氏

 「実社会の中で、ある問題を技術的な観点で解決しようとしても、うまくいかないケースが数多くある。そのうまくいかないことについて『なぜうまくいかないか』を考えるための切り口と手段を提供するのがアカデミズムの役割。今回のセッションでは、ようやく日本でも話題になり始めたゲーミフィケーションの取り組みについて、ご意見番的なスタンスで問題提起をしようと考えている」(細井氏)

 細井氏は、ゲーミフィケーションについて語られる際について使われる言葉の「両義性」に注意を払うよう促した。例えば、「ユーザーの欲求(ニーズ)」といった場合、この「ニーズ」の正体とは、一体何なのかといった問題がある。

 細井氏は人間の欲求に関する理論として広く知られる「マズローの欲求段階説」を取り上げた。米国の心理学者であったマズローの唱えた欲求段階説とは、一般に人間の欲求が5段階のピラミッド構造となっており、より人間の生命にとって根源的な「生理的欲求」「安全の欲求」といったものから、「所属と社会的欲求」「承認と尊重の欲求」「自己実現への欲求」へと、一段階ずつ上の欲求を満たしていこうとするものとして知られている。

細井氏の講演資料より

 しかし、細井氏によれば、マズロー自身はこの説を「悩みながら」まとめたという。その理由の1つは、最終段階とされる「自己実現の欲求」が、それ以外の欲求と性質が大幅に異なるためだ。自己実現は、人間が「こうありたい」という欲求。それ以外の欲求はすべて「欠乏」を埋める欲求である。こうした異質のものを一連の段階の1つとしてとらえることの妥当性については、その言葉を使う際に常に注意を払うべきなのではないかとする。

 さらにゲーミフィケーションを語る際に多く使われる「動機付け(モチベーション)」や「もてなし」という言葉についても注意すべきだという。

 例えば「動機付け」には、動機を生みだす主体の違いによって「他者が自分を動機付けるための条件をいかにして生みだすか」という側面と、「他者をいかに動機付けるか」という側面が存在しうる。

 「もてなし」については、「持って成す」という言葉の意味として「心を込めて客の世話をする(hospitality)」とというもの以外に「そうであるかのようにとりなす。見せかける(mediation)」といったものもあることを指摘。

 細井氏は「ゲーミフィケーションを語る際に多く使われている言葉と、その言葉の二重性について知ることにより、サービスを提供する側で、自分がやろうとしていることの意味を絶えず考えるきっかけとなる」と述べた。

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 INDEX
ゲーミフィケーションカンファレンス2012レポート
日本のゲーミフィケーションは「応用」のステージに
  Page1
成果への期待が高まるゲーミフィケーション
ソーシャルゲームは最強のゲーミフィケーション?
Page2
学術的ゲーム研究がゲーミフィケーションに見た可能性
  Page3
ゲーミフィケーションの議論に足りない3つの観点
マーケティングがゲーミフィケーションに期待するもの
  Page4
「ゲーミフィケーションとは、料理のようなもの」
ゲーミフィケーションが差し掛かった「端境期」
心理学/行動科学から導く「ゲーミフィケーションの科学」


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