IT技術者は「スマホ」「ソーシャル」で活躍できるのか


グリー CTO 藤本真樹氏インタビュー


有限会社オングス
杉山貴章
2012/6/1
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 スマートフォンやソーシャルサービスの流行は、ソフトウェア・技術者にとって大きなチャンスである。自分で作ったアプリを公開して他人に使ってもらうという機会を大幅に増やしてくれるからだ。実際、これらのプラットフォームの上では、日々無数のアプリケーションやサービスがリリースされ、その数は増え続けている。ソーシャルネットワーク/SNSの大手であるGREEも、そのような技術者にとっての活躍の場の1つとなっている。

 今回はグリーのCTOであり開発本部長を務める藤本真樹氏と、同開発本部 エンジニアの佐島豊氏に、現在のIT技術者を取り巻く環境や、同社が技術者の採用に取り入れた「Interviewstreet」、同社が情報処理学会と共同開催するプログラミングコンテスト「SamurAI Coding」などについてお話を伺った。

グリー 取締役 執行役員 CTO 開発本部長 藤本真樹氏

技術者が個人として活動できる文化になってきている

――プラットフォームを提供している立場として、いま技術者が置かれている環境をどのように感じていますでしょうか。

藤本氏 グリーの採用募集に来てくださる方々でも、個人でアプリを作って持ってくる方は多いです。そういうところからも、昔に比べれば個人でいろいろな技術を試してみる環境が整っているなと感じます。アイデアを持っている人が、それを実際に形にするためのハードルが下がっているんだと思います。うまくやれば、個人でもマネタイズまで持っていけます。実際に作って、たくさんの人に使ってもらって、収入を得る。そういう体験が手軽にできるのは実に素晴らしいことだと思います。技術者が個人として活動できる文化になってきていますね。

佐島氏 仕事のために何かを作るというよりも、好きなものを作るために活動しているという印象が強いです。技術者にとっては、そういう姿勢も大事なんじゃないでしょうか。

――実際に自分で作ったアプリなどを持ってくる方は、面接などでも印象は違ってきますか。

藤本氏 同じ技術者という立場からすれば、「仕事だから」という感覚でモノを作る人よりも、「好きだからやっている」というタイプの人の方が親近感が持てるのは事実です。それに作ったものを見ると、その人の好みや考え方、取り組む姿勢などが現れていたりするので、参考になります。

 いろいろなアプリを見せてもらいますが、共通して感じるのは、「デザインで苦労している人が多いな」ということです。最近のスマートフォンはグラフィック性能が上がっているので、昔のようにごまかしが効かないんですよね。ちゃんとしたデザインができる技術者というのは限られていますから、その辺りは1人でできることの限界ともいえるかもしれません。

 逆にいえば、会社に所属してチームで開発する場合には、1人でできない範囲のことにも挑戦できます。その点はグリーでも意識していて、「会社だからこそできることは何か」という視点を大切にしています。

技術者採用に「GREE Programming Challenge」を導入

 グリーでは、技術者の採用に一風変わった方法も取り入れている。それが「Interviewstreet」の利用である。Interviewstreetは、技術者の採用試験にプログラミングを導入するためのサービスである。企業はInterviewstreetのサイト上でプログラミングテストを実施し、技術者から提出されたコードを選考時の参考にできる。評価を助けるCodeCheckerも提供される。

 採用面接で「○○の経験があります」といわれても、実際にどの程度の実力を持っているのかは判断できない。それを判断するためには、実際にコードを見ることが一番の近道だ。Interviewstreetは、それを手助けしてくれるサービスというわけだ。グリーは技術者採用として「GREE Programming Challenge」という名称で導入を開始した。藤本氏には、グリーがInterviewstreetの導入を決めた理由を伺った。

「GREE Programming Challenge」の画面

――Interviewstreetの導入を決めた経緯を教えていただけますか。

藤本氏 Interviewstreet自身は知り合いから紹介されて知ったんですが、最初の印象は、こういうやり方もあるんだなという感じでした。導入を決めたのは、普段受けにくる人とは違ったタイプの人が受けに来てくれるかもしれないという期待があったからです。

 プログラミングのテストは通常の採用試験でもできますが、オンラインで完結できるという点で興味を持ってくれる人もいるかもしれないな、と。どの程度参考にできるかという点では未知数ですけど、コードを見ればある程度の実力は見えてきますから。

――人柄などは、どのように判断するのでしょうか。

藤本氏 別に、これだけで採用を決めるわけではなくて、あくまでも評価手段の1つという位置付けなので、面接などは通常通り実施しますよ。

 ただ、先にコードを見せてもらっているので、面接ではそれ以外のことにフォーカスして話ができるメリットがあります。まずは試験的に導入してみて、もしメリットが大きいようであれば、もっと広げていこうと考えています。

若手技術者向けのプログラミングコンテストを開催

 今夏、グリーでは情報処理学会と共同で若手技術者向けのゲームAIプログラミングコンテスト「SamurAI coding」を開催する。SamurAI codingは、25歳以下の技術者が対戦型のゲームプログラムを持ち寄ってプログラミングスキルを競い合う大会。7月より世界4地域で予選を開催し、勝ち残ったチームが12月9日の決勝戦に進出できる。世界市場を舞台にして活躍できる人材の育成が主な目的とのことで、公式言語が英語に設定されている点も大きな特徴である。

――「SamurAI coding」は若い技術者にとって、まさしく“ものを作って公開する機会”の1つになっていると思いますが、これはどういった経緯で始まったものなのでしょうか。

藤本氏 最初は2011年に早稲田大学と共同で開催しました。そのときは、どういうものになるか手探りの部分もありました。しかし実際にやってみると、思っていた以上に盛り上がって、サーバのリソースが足りなくなりそうな勢いでした。そこで2012年には、これをもっと発展させて世界中の若手技術者や学生をターゲットとした国際的なコンテストとして開催することにしました。

 SamurAI coding以外にも同じようなイベントはありますが、まだまだ少ないと思います。若い人たち対して、そういう機会をもっと増やしてあげられたら、業界全体がもっと盛り上がるんじゃないか。皆で集まって競い合うのは楽しいことだし、主催者側としても大勢の方に参加していただいてうれしかったです。この盛り上がりが、業界全体のレベルの底上げにつながれば良いな、と。

 それに加えて、“グリーがやった”ということで、少しでもほかの企業や団体が影響を受けてくれたら良いなという考えもあります。業界が盛り上がれば、結果的に技術者の採用の機会が増えることになるし、インターネットサービスの普及にもつながります。企業としてのメリットも大きいので、そういうことを考えるきっかけになってくれたらと思います。

――参加者に対する印象はどうでしたか。

藤本氏 まず純粋にレベルが高いなと感じましたね。日本もまだまだいけるな、と(笑)。

佐島氏 技術的な話からははちょっと外れますけど、いまの若い技術者はみんなオシャレですよね。勉強会にモデルの人を呼んで、作ったアプリのレビューをしてもらったりするんですよ。個人制作でそこまでするというのは、少し前ではあまり考えられなかったと思います。いつの間にかオシャレな産業になっているなと感じました(笑)。

藤本氏 単純にうらやましい気持ちもありますよ。いまは、やりたいと思ったことを実現しやすい環境が整っています。インターネット上に情報があふれていて調べモノもしやすいですし、ツールなども簡単に手に入ります。勉強会なども活発なので、いろんな人に出会う機会にも恵まれています。ただ、その影響で技術者の絶対数が増えたかというと、実際にはそれほどではないようです。その点は少し残念ですね。

 われわれとしては、もっといろいろな人にこういう世界があるんだということを知ってもらいたいと思っています。そのための機会をもっと増やしていきたい。現状では、この業界に入る人は、たまたま面白そうな技術や製品に出会って興味を持ったという人が多いと思います。そういう偶然の機会に頼っている状態を脱却していきたいと考えています。

――いまでは小中学生でもPCやスマートフォンを持っている時代ですから、一般の人がソフトウェアやインターネットサービスを使う機会は格段に増えているはずです。しかし、使う側の視点から、“こういうものを作りたい”という作る側の視点に変わるためには、もうワンステップ越えなければいけないものがあると思います。その点については、どのようにお考えですか。

藤本氏 「これを作ってみたい」という想いを持つきっかけとしては、ゲームなどが非常に良いトリガーではないかと思います。実際私たちの世代にも、面白いゲームに出会ったことをきっかけとしてゲームプログラマになった人が大勢います。ゲームは視覚や体験で訴えてくるので、その点は非常に強力です。グリーとしても、質の高いゲームを提供することで、できるだけ多くの人に興味を持ってもらえたらと思っています。

 それにプラスして、勉強する場や発表する場が増えることも大事ではないでしょうか。せっかく興味を持っても、何から始めれば良いのか分からないのではいけません。作ったものは、たくさんの人に触れてもらった方が刺激になります。そういう環境が整えば、作ることにチャレンジする人も自然と増えていくと思います。

――藤本さんもPHPのコミュニティで活躍なさっていましたけど、自分の技術をコミットメントする機会としては、以前はオープンソース・コミュニティが主流でしたよね。最近はソーシャルアプリやスマートフォンアプリが個人でも気軽に公開できるようになって、機会は広がっている印象があります。

藤本氏 モバイルやソーシャルは活発なんですが、その一方でオープンソース・コミュニティの方には若い人が少ないんですよ。これは個人的には複雑な思いがありますね。とはいえ、みんなが作ったものを発表しやすい環境になっているのは歓迎すべきことだと思います。

 ただし、単に作って公開するだけではなくて、できることなら大勢の人に使ってもらった方が断然良いはずです。その場合、現状ではポータル的なものが少ないという問題が挙げられます。アップルのApp StoreやグーグルのGoogle Playなどはマーケットとしては巨大ですけど、それぞれのプラットフォームに分散してしまっています。そういった現状に対しては、グリーのような第三者の立場で、その選択肢を増やしていけたら良いと考えています。

継続して技術を磨くことが大事

――これからも若手技術者の勢いはどんどん増してくると思いますが、彼らに伝えたいことはありますか。

藤本氏 この業界はすごく面白いけれど、厳しい側面もあります。例えば、若い人たちには新しい技術でどんどん追い抜かれていく。若い人にとっては、そういうチャンスがある世界だと思って積極的にチャレンジしてほしいと思います。

 ただし、これは言葉を返せば、年齢が上がれば上がるほど追われる立場になることでもあります。若い人に負けないように、常に継続して技術や知識を磨いていく必要があります。先輩たちは先輩たちで頑張っているんです(笑)。そうやってみんなで切磋琢磨しながら、業界全体のレベルを上げていってほしいと思います。

――最近だとソーシャルグラフ分析やビッグデータ処理などのために、統計解析や数学的な知識が必要とされるケースも増えていますよね。そういった知識を身に付けるためのコツのようなものはあるでしょうか。

藤本氏 良いと思ったら、まずは実際にやってみることだと思います。机に向かって勉強するよりも、実際に手元で動かしてみた方が理解しやすいですから。数式だけを眺めていたのではなかなか頭は追いついていかないものですが、自分でプログラムを作ることによって、そのギャップは埋められます。

 グリーでも、本当に専門的な分析までいかなくても、数字見てポイントをつかむというような取り組みは開発者自身でやっています。やる気のある人たちの間では講座を設けるなどして勉強もしていますよ。大事なのは、「単に統計の手法だけを知っていれば良いわけではない」点です。プロダクトの中身や性質を知っていなければ、せっかく手法を勉強しても有効には使えません。

――逆に、中堅以上の人たちに対して何かアドバイスはありますか。

藤本氏 それは私の立場で偉そうにいうことではないんですけど(笑)、とにかく勉強は続けなければならないということでしょうか。何となく分かった気になってごまかさずに、ちゃんと技術を理解しないといけません。

 それから、経験はすごく大事だと実感しています。プログラマというのは、コーディングの歴史を積み重ねて良いソフトウェアを作れるようになっていくものです。品質の高いプログラムを作るにはどうしたら良いか。人に使ってもらえるプログラムを作るにはどうしたら良いか。そういうもろもろのことを考えたときに、より良い選択をできるようになることが“経験を積む”ということだと思います。ユーザーの要求はどんどん変わっていきます。それをどう受け止めて、どう形にするかを、第三者の視点で判断ができるようになれば、それが強力な武器になるはずです。

 IT業界は日本でもグローバルでも堅調に成長していく分野だと信じています。日本のIT各社も世界への展開を加速していますし、グリーも、5月23日に「GREE Platform」をグローバルでのサービス提供を開始しました。技術者の皆さんにとってご自身の実力を試す良い機会だと思います。

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