第2回@ITスマソ勉強会レポート
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スマホ元年に賭ける
Amebaのソーシャルプラットフォームとは


仲里淳
@nakazato
2011/7/22

第2回スマソ勉強会開催!

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 @IT編集部は6月24日、「第2回 @IT Smart&Social(スマソ)勉強会〜ソーシャルアプリの新たな選択肢「Ameba Smartphone Platform」とは〜」を開催した。サイバーエージェントの長瀬慶重氏による同社のスマートフォン戦略と、それに合わせて展開するソーシャルプラットフォームの解説が行われた。

 この勉強会は「第1回 @IT Smart&Social(スマソ)勉強会〜ソーシャルアプリを作ってみまソ〜」に続くもので、当日は約80人が参加した。「ソーシャルアプリ」「スマートフォン」という注目のキーワードに加え、国内有数のユーザー規模を誇る「Ameba」のプラットフォームということもあり、参加者は熱心に聞き入った。

 長瀬氏の講演は、サイバーエージェントという立場からのものではあるが、その内容は現在のスマートフォンやネット業界全般に共通したものでもある。サイバーエージェントをはじめ、各社の競争が熾烈を極める中、アプリ開発者としてどうかかわっていくべきか、その判断材料として大いに参考になるはずだ。

サイバーエージェント 技術部門 執行役員 アメーバ事業本部 ゼネラルマネージャー 技術推進本部 本部長の長瀬慶重氏

すべてのデバイスで成長する「Ameba」サービス

 長瀬氏は、サイバーエージェントがこの1年間スマートフォンに対して積極的に取り組んできたが、今後は全社を挙げてさらに注力していくとしたうえで、まずその理由をAmebaのデータを示しながら説明した。

 Amebaにおけるスマートフォンからのアクセス状況としては、2010年夏から順調に伸びており、直近では10億PVを軽く超えるという。1年前は2〜3億程度なので、5倍以上に増えている。

2010年7月は2億程度だったPVは、2011年4月には10億に達して現在も拡大成長中(長瀬氏の講演資料より)

「データを見ると、年末から1月にかけてグッと伸びるところがあります。これは新端末が出てきたタイミングで、2011年は6月と7月にAndroid端末が多数発売されるので、そこに急激な伸びが来ると予想しています」(長瀬氏)

 スマートフォンの成長が際立つが、Ameba全体でも同様に成長しており、PVは200億を超える。大手ポータルサイトやSNSでは、PCのトラフィックが減ったり、モバイルが抜いたりといった動きがよく聞かれる。しかし、Amebaに関しては、PC、フィーチャーフォン、スマートフォンすべてのデバイスで成長している。

AmebaではPC、フィーチャーフォン、スマートフォンのすべてが伸びており、全体のPVは200億を超える(長瀬氏の講演資料より)

 iPhoneを狙うべきか、Androidを狙うべきか。よく議論になるテーマだが、人によって見解は異なる。ただし、ユーザー数だけで見るとAndroidの伸びが著しく、iPhoneを抜くのは時間の問題だ。キャリアのプロモーションを見ていても、それは容易に想像できる。

 「2010年12月から2011年4月までのデータからは、Androidのユーザーが確実に拡大していることが分かります。この先、9月ごろには50%ずつで並ぶと予想しています。それ以降も、Androidがさらに拡大していくでしょう。ビジネス的には、サービスやアプリがiPhoneで先に立ち上がるとしても、Androidも決して無視できない存在だと感じています」(長瀬氏)

iPhoneとAndroidからのAmebaブログへのアクセス状況(セッション数)。青=iPhone、赤=Android(長瀬氏の講演資料より)

アプリ開発の心得「デバイスの特徴を知ること」

 フィーチャーフォンでは、画面サイズや利用可能なデータ形式、Webブラウザの仕様、ハードウェアの進化予測(いつごろ、どんなハードウェア(技術)が登場するか知っておく)が開発者には必要な知識だった。これはスマートフォンでも同様で、開発者はデバイスとしての特徴を整理しておくべきだとしたうえで、長瀬氏は次の3つを重要事項として挙げた。

  1. デバイスのハイスペック化
    デュアルコアは当たり前で、RAMやバッテリ性能も向上。4〜5年前のPCと同程度か、それ以上のスペックになる可能性もある
  2. モバイルブロードバンド化
    NTTドコモのXi(LTE)や公衆無線LANサービス、WiMAXなど、スマートフォンを活用するための無線ブロードバンド環境が整いつつある
  3. アプリが主役(クライアント回帰)
    HTML5かネイティブアプリかという議論はあるが、OSやハードウェア固有の機能を活用するにはネイティブアプリが必須

 この3つを踏まえつつ、「ユーザーニーズの多様化」というライフスタイルの変化をとらえたアプリが求められているという。

 「ユーザーの時間を誘惑するサービス、コンテンツ、アプリがありとあらゆるところにあるので、サービスを提供する側はユーザーのTPOに適したアプリを提供することを、きちんと考えていかないといけない。テレビを見ながらTwitterをするユーザーが、今後は増えていくでしょうし、多様性にどう応えていくか、がサービス提供者にとっての課題です」(長瀬氏)

サイバーエージェントのスマホ戦略、5本柱

 サイバーエージェントでは、次の5つをAmebaのスマートフォン戦略の柱として位置付ける。

  1. PC向けWebサービスの強化
  2. アドネットワーク
  3. アプリ開発
  4. アプリマーケット(独自マーケットの立ち上げ)
  5. プラットフォームのオープン化

 まず「PC向けWebサービスの強化」は、先述のように全てのデバイスで成長しているAmebaならではのもので、全体の戦略に大きく影響する部分だ。Amebaのスマートフォンユーザーは、現在のところPC併用者が5割もいるという。そこで、「あえてスマートフォンに特化せず、PC向け施策と組み合わせて成果につなげる」という狙いがある。

2011年4月にスマートフォンでAmebaへログインしたユーザーのデバイス別比率(長瀬氏の講演資料より)。「フィーチャーフォンと併用の2割は当月に乗り換えたユーザーではないか」(長瀬氏)とのこと

 サイバーエージェントは国内屈指のユーザー規模を誇るサービスを数多く提供している。中でもAmebaブログは、1万人の著名人や芸能人がブログを書き、月に3千万ユーザーが閲覧する媒体規模だ。PC向けサービスを強化してユーザー数のベースを上げ、それをスマートフォン向けサービスにも広げるという戦略である。

AmebaにおけるスマートフォンからのPVは、2010年が3億、2011年が20億(予想)だが、2013年には200億PVを目指す(長瀬氏の講演資料より)

 「スマートフォンでも、まず広告ビジネスが立ち上がると思う」と長瀬氏が言うように、「アドネットワーク」はビジネス的に一番可能性の高い領域で、これまでサイバーエージェントが培ってきた強みも生かせる。

 「アプリ開発」は、同社のサービスをスマートフォンへ広げる直接的な手段となる。まずは、「アメーバピグ」などPC向けの人気サービスをアプリとして提供していく。また、Amebaが得意とする女性をターゲットにしたアプリや、スマートフォン独自のサービスも予定しているという。

アメーバピグのAndroidアプリ。Adobe AIRを使って動作する

 「アプリの企画をやっていて感じるのは、海外も含めて男性が多いということです。サイバーエージェントでは、もちろん男性向けもやりますが、特に女性向けにこだわっています。現在、女性向けの写真アプリをAndroidで提供しており、カメラカテゴリのランキングでは上位に入っています。他にも、ブログリーダー(「Ameba Channel」今のところiPhone版のみ)がありますが、AKB48のメンバーのブログをまとめ読みできるアプリは、選抜総選挙イベントの影響もあってかなりダウンロードされました。

 アプリをリリースして分かったのは、ものによっては海外でも意外とダウンロードされるということです。メダル落とし系のゲームをAndroid向けに出したら、何もプロモーションしなかったにもかかわらず、2〜3割は海外でダウンロードされました。日本語に依存する部分が少ないアプリ(直感的なゲームなど)なら、ローカライズの手間を掛けずに海外でも通じるものを作ることができます」(長瀬氏)

アプリのビジネス化には「集客できる場」が必要

 4本目の柱となる「アプリマーケット」は、独自のAndroidアプリマーケット「Ameba AppMarket」を運営するというもの。自社企画のアプリだけではなく、外部の開発者のアプリも含めてビジネスにつなげることが目的だ。特徴は、PC向けのWebを主軸に置くところ。その理由は、PC併用のユーザーが多いことと、プロモーションがしやすいためだ。

PC版のAmeba AppMarket。7月12日に150本のアプリとともに正式オープンした

 「アプリマーケットという言葉だけを聞くと、『ああ、Amebaもやるのか』と思うかもしれません。われわれの特徴の1つは、Webベース(ブラウザから利用)である点です。他で多いのは、端末にマーケットアプリをインストールして、そこからマーケットに飛んでダウンロードしてもらう形です。Webベースにする理由は、プロモーションしやすいからです。Androidでは、優れたアプリを作ってもユーザーが認知してダウンロードするソリューションがないため、現状ではビジネスになりにくいです。

 MobageやGREEにソーシャルアプリプロバイダがゲームを出す意味は、100万〜200万人を集客できるからです。お金がもうかるからというよりは(もちろん結果的に収益に結び付くことになるが)、何もしなくてもそれだけのユーザーを集められるからです。ネットで100万人の会員を集めることがいかに大変か知っているので、こぞって参入するわけです。

 ところが、スマートフォンに関しては『ここに出せば10万人、100万人獲得できる』というプラットフォームがまだありせん。唯一の存在は、iTunes App Storeです。われわれは、App Store自体をプラットフォームととらえていますが、あのランキングで上位になることが唯一の集客手段です。確実に集客できるスマートフォンのプラットフォームは、世界を見てもApp Store以外に存在しません」(長瀬氏)

 Amebaブログの誘導枠は10億インプレッション、マイページを使うユーザー(MAU)は80万人で、「女性向け」などのターゲティングもできる。すでに100万以上ダウンロードされたというアプリも、誘導枠の1つとして使える。これらに加えて、ブロガーを生かしたプロモーション(女性が集まるブロガーパーティなど)といった、サイバーエージェントの資産をフル活用することで、幅広い層に向けたプロモーションが可能になる。

 「もう1つの特徴は決済です。『アメゴールド』というAmeba独自のポイント(仮想通貨)を使ってアプリを購入できます。アメゴールドは現在、月に10億円相当の流通総額があります。何十万人というユーザーがAndroidでAmebaにログインしており、アメゴールドを使える顧客がすでにいるという状態です。これは、リワード広告モデル(これを買ったら『何ポイントバックします』『ゲーム内アイテムと交換できます』など)がやりやすいという理由もあります」(長瀬氏)

Android版の「Ameba AppMarket」。アプリ購入にはAmebaへのログインが必要

 Ameba AppMarketでは、「ダウンロード時課金(有料アプリ販売)」「アプリ利用時月額課金」「アプリ内課金(アイテムなど)」の仕組みが提供される。これに、アプリ内広告やリワード広告を加えたものが、アプリ開発元に対するマネタイズ支援(収益手段)となる。また、アプリの不正コピー防止用にDRMと、そのSDKも用意している。

開発者を巻き込むための“プラットフォーム”

 最後の柱「プラットフォームのオープン化」は、スマートフォン用プラットフォーム「Ameba SP(Ameba Smartphone Platform)」の提供だ。アプリマーケットと同様に、外部の開発者を巻き込み、Amebaサービスの生態系を築くことで、サービスの規模を拡大する意図がある。

 「DeNAのPlus+ Networkとngmoco、グリーのOpenFeint、パンカクのPANKIAなど、各社による開発プラットフォームの争奪戦が熱いです。これらはスマートフォン業界の開発者にとって重要ですから、ぜひ抑えておいてください。サイバーエージェントでも、同じように開発者に対してプラットフォームのAmeba SPを提供します」(長瀬氏)

「スマートフォン向けコミュニティプラットフォーム」と位置付けるAmeba SPで幅広いアプリ開発を支援する(長瀬氏の講演資料より)

 Ameba SPは、ゲームをはじめ幅広い分野のアプリ開発プラットフォームとなる。具体的には、次のようなソーシャル系APIを提供する。

  • ソーシャルゲーム開発API――ゲーム制作用
  • ソーシャルメディア連携API――Ameba、mixi、Twitter、Facebookなど
  • Ameba連携APIAmeba APIs)――AmebaサービスのAPI

 ソーシャル系APIとは、ランキング、アチーブメント(達成度)、ソーシャルグラフ(交友状態)などの情報を取得し、アプリの中で簡単に使えるようにしたものだ。Ameba連携APIを社外へ公開するのは初めてで、Amebaの「プロフィール」「ブログ」「なう」「メッセージ」などのデータを使ったアプリが開発できる。Ameba SPのSDKは、iOS向けが6月、Android向けが8月に提供予定だが、一般公開ではなく一部のデベロッパに向けた限定公開となるという。

スマホアプリの開発環境は、まだ混沌状態

 サイバーエージェントでは、スマートフォン戦略を練り上げる過程で、その開発環境や関連技術について研究してきた。それに基づいて、長瀬氏がアプリ開発の現状を技術別、OS別にまとめたのが次の内容だ。

主なスマートフォンのアプリ開発環境/技術。サイバーエージェントが取り組んでいるものが○、取り組んでいないものが×(長瀬氏の講演資料より)
  • ネイティブ(Objective-CJava
    OSごとにネイティブアプリとして開発する。3Dエンジンには国内でも海外でもUnity 3Dがけっこう使われている
  • Unity
    互換性の高いゲームエンジンとして、コンソールゲームをはじめ多くのプラットフォームで重宝されている。国内での採用事例も徐々に増えており、サイバーエージェントでも積極的に取り組んでいる
  • Titanium Mobile
    Web系の技術者が、HTMLやJavaScriptなどのスキルを生かしてスマートフォンアプリを開発できる。iOSとAndroidをあまり意識せずに使える点でも注目されている
  • AIR for Android
    アップルがFlash技術を採用しないため、Androidのみ
  • Corona SDK
  • Web(HTML5/JavaScript)

 これら複数の選択肢がある現状で、その動向や有望性を見極めることがアプリ開発者にとって重要だと長瀬氏は言う。

 「ここで挙げたスマートフォンに投入される技術は、もともとPCやWebの分野で培ってきたものです。ゲームをバリバリ作っていた人やFlashクリエータなどが取り組み易く、さまざまな分野からスマートフォンに参入してきていることが分かります。

 先日、社内で勉強会をしましたが、Objective-CとCocos2Dの組み合わせで開発するスタイルは1つの定番になりそうな感じです。また、ゲーム開発で使われる「Maya」のような3Dソフトも注目しています。これまで、ブラウザ上で動作するWebアプリやケータイアプリ(フィーチャーフォン用)では、高度な3Dアプリを動作させることは難しかったです。しかし、スマートフォンのネイティブアプリなら可能で、ゲーム業界の技術やクリエイティブが生きてきますから、3D技術も忘れてはならないポイントです」(長瀬氏)

 長瀬氏は「ビジネス的にも技術的にも、どうなるか分からないというのが現状です。ネイティブアプリかWebアプリかという議論も依然として答えは出ていません」としながらも、「これまでの取り組みで各技術の長所と短所が少しずつ見えてきました」と語る。

今年が勝負! ――2011年はスマホビジネスの天王山

 サイバーエージェントでは、スマートフォンで「Web」「アプリ」「広告」「プラットフォーム」の4分野に取り組む。「社員は『今年はスマホ元年。この1年で結果を出せなければ、その後の5年間は苦労する』という共通認識でいます」(長瀬氏)と、危機感を持ちながら社運を賭ける勢いだ。1年前に数人で立ち上げたスマートフォンの事業部は、現在70人で今後も拡大するという。

 最後に長瀬氏は「今日の参加者は、一緒にビジネスをやるかもしれませんし、競合になるかもしれません。ただ、震災や不景気であまり良いニュースがない中で、スマートフォンは活気のある話題。1人の社会人として皆さんとともに業界を盛り上げていきたいと思っています」と締めくくった。

講演後には、参加者と長瀬氏、サイバーエージェントの開発者とで懇親会が行われた(会場はインテリジェンスのセミナールーム)

■ 勉強会当日の講演資料



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