「Social Media Week Tokyo」レポート

嫌いな人も知らないと損する
9つの「ソーシャル」のカタチ


Social Media Week Tokyoまとめレポート

五味明子
2012/3/19

【8】成功事例に学ぶソーシャル“マーケティング”のあり方


ドクターシーラボ EC事業統括 西井敏恭氏

 「お客さまは怒ってばかりじゃない、喜んでくれていることも多いんだ、ということに社内の人間が気づくようになった。この効果は大きい」

 ドクターシーラボでEC事業を統括する西井敏恭氏は、ソーシャルメディア導入のメリットの1つをこう語る。ソーシャルメディアの導入を検討する企業が増え始める一方で、炎上やクレーム増などの事態を恐れ、手を出せずにいる企業もまた多い。

 そんな中、ソーシャルメディア活用の成功企業として取り上げられることが多い企業が化粧品通販で有名なドクターシーラボだ。ここでは、ドクターシーラボの成功事例を中心に、「キーマンが本音で語り合う! 企業のソーシャルメディア活用の『今』と『これから』」と題されたセッションで、西井氏のほか、ソーシャルメディアに関する著作を数多く執筆している河野武氏、アユダンテ創業者の安川洋氏によるパネルディスカッションの内容を基に、企業がソーシャルメディアを活用するうえでのルールを考察してみたい。

 「Webサイトを商品が買えるだけの自動販売機にはしない」というポリシーの下、ドクターシーラボは現在、Twitter、Facbook、自社CGMといったソーシャルメディアを使い、マーケティングを展開している。中でも力を入れているのがTwitterで、公式アカウント、ブランドごとのアカウントの他、キャンペーン展開時には別にアカウントを取得、常時5アカウント程度を運用している。

「Webをただの自動販売機にしない」がECサイト運営のポリシー(西井氏の講演資料より)

 「取りあえず始めてみて、個別に様子を見ながら運用している。複数のソーシャルアカウントを持つ場合は、運用体制がカギになるので、社内対応のルールはきっちり決めておくことは重要」(西井氏)

 以下は、その運用ルールの一部だ。

  • 公式アカウントは毎日何らかのツイートをする
  • 公式アカウントの発信は企画側、対応はコンタクトセンターで一元化
  • その他の個々のアカウントは担当者が情報発信
  • 発信内容は硬すぎず、柔らかすぎず。絵文字程度は使ってもいいが、タメ口など軟化し過ぎるのはダメ
  • ユーザーからの問い合わせはメールと同様、24時間以内に返答
  • 「シーラボ」などブランド名に対するツイートは個々の担当者が対応
  • 「ドクターシーラボ」というキーワードや怒り気味のユーザーに対しては取締役が直でサポート
ドクターシーラボのTwitterアカウント運用体制(西井氏の講演資料より)

 ただし、ここに挙げたものは絶対的なものではなく、やはり状況を見ながら柔軟にルールを変えていく姿勢が必要だと西井氏。「どういう発言をすればRT(ReTweet)されやすいか、お客さまの声にどの程度踏み込んでいいのか、などわれわれもナレッジをためているところだ。トライアル&エラーを重ねつつ、実践している」と語る。

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 ここでポイントの1つとなるのは、経営トップの関与を推進していることだ。河野氏も「企業でソーシャルメディアを活用するには、トップの理解は不可欠」と強調する。担当者の情報だけで突っ走ってソーシャルアカウントを作ってしまうと、それが顧客対応窓口になってしまうことも十分あり得る。そのとき、組織内からサポートを得られない状態であれば、その担当者が孤立するだけではなく、会社全体の信用問題にもなりかねない。逆にいえば、トップの理解を得られないままソーシャルメディアを始めるのは止めておくべきだといえる。

 ちなみに、西井氏は20代のころ、世界中をバックパックで放浪し、その旅行記をブログやFacebookが存在しない時代から発信し、数多くの読者を獲得していたという経歴を持つ。つまり、ネットで情報を発信してきたキャリアが長く、それを現在も続けているという専門家でもある。こういった専門家がEC事業を統括することで、トップにも現場の担当者にも理解を得やすいソーシャルメディア運営を図れるという側面はあるだろう。

アユダンテ創業者の 安川洋氏

 ソーシャルメディアの活用をトップに理解してもらう方法の1つとして、そのメリットを数値化するという方法がある。「ソーシャルKPI(socKPI)」といわれる数値がそれで、安川氏によれば「ソーシャルメディアは通常の流入トラフィックとは異なるKPIが必要になる」という。より精緻なsocKPIを必要とするならアクセス解析ツール、ソーシャルメディア管理/分析ツール、サイト自体のコード埋め込みなど「多彩なテクノロジが必要になってくる」(安川氏)とのこと。

 だが、基本的にソーシャルでの顧客対応は「リアルで行っている顧客対応を、そのままオンラインに持ってきているだけ」と西井氏は強調する。河野氏も「重要なのは最初の1人にきちんと対応すること。『100万人のファンも最初の1人から』という意識を忘れないでほしい。最初のソーシャルユーザーを怒らせてしまえば、ネガティブなスタートになってしまう」とアドバイス。ソーシャルのリスクもきちんと把握した上で、ルールを決めて運用し、通常の顧客対応を心掛ける。これが基本ルールといったところだろうか。

 ドクターシーラボでは、ソーシャルメディアを活用したことで「より顧客の顔がはっきり見えるようになった」(西井氏)という。これまで顧客対応といえば、顧客のクレーム、つまり怒りの声ばかりを聞かされていた担当者にとって、ソーシャルメディアに見られるユーザーからのポジティブな反応は、初めて可視化された好意といってもいい。

フリーランス 河野武氏

 河野氏も「これまでの顧客の声をまとめたエクセル表を思い出してほしい。苦情や不満の声ばかりを束ねた文字の羅列は顧客対応に良い影響を与えない。一方で、例えばTwitter上のユーザーの声をプリントアウトしたものは、そこにアイコンが表示されるということもあって、ユーザーとの距離がグッと近くなったように感じる。この差は、かなり大きい。加工された情報ではなく、生のお客が怒ったり喜んだりしていることを担当者が理解するうえで、顧客対応の質が上がることにつながる」と分析。ソーシャルメディアによって、顧客の声に正しいバイアスが掛かってきたことを評価する。

 ソーシャルメディアが多くの企業にとって魅力的であるにもかかわらず、踏み込めないものである理由は「よく分からない」部分が大きいから。それならば、まずはドクターシーラボのような成功事例を研究し、メリットを可視化してトップの説得にあたるのも、1つの有効な方策といえるだろう。

【9】IT技術者の想いをカタチにしたソーシャル“グッド”


Georepublic Japan CEO 関治之氏

 すべての日本人にとって忘れられない1日となった2011年3月11日から1年が過ぎた。被災者の苦しみは筆舌に尽くし難く、心身に負った深い傷から立ち直れないままの人々も、いまだ多い。一方で、震災直後から現在に至るまで、あらゆるボランティアが組織的かつ精力的に活動を続けており、「自分たちができること」でもって被災者を支援している。

 あの大地震から数時間後の2011年3月11日18時19分、1通のメールをきっかけに1つの情報サイトが立ち上がった。位置情報サービスを駆使した「sinsai.info」がそれである。ここでは、sinsai.infoの責任者を務めるGeorepublic Japan CEOの関治之氏が行ったセッション「エンジニアによる復興支援活動、sinsai.infoとHack For Japanの裏側」の内容を紹介しながら、「何か役に立つことをできないか」という思いをITで具現化するまでのプロセスを追っていきたい。

 sinsai.infoローンチのきっかけとなった1通のメール、それはOpenStreetMap Foundation Japan(以下、OSMFJ)代表理事の三浦広志氏がOSMFJのメーリングリストに送った「みんなでグローバルの支援を受けながら行動を開始しよう」という呼びかけだった。

利用状況のまとめ(関氏の講演資料より)。Yahoo! Japanなどのポータルサイトやニュースサイトでも配信され、多くの被災者が情報を閲覧することが可能になった

 OSMFJは「もともとはWikipediaのように、皆で地図を作っていこうというプロジェクト。誰もが自由に編集でき、中にはGPSロガーを持ち歩きながら書き込む人もいた」(関氏)というオープンな性格のWebサイトだ。正確性にも定評があり、場所によっては「商用地図より詳細で役に立つ」という声も多い。

 このOSMFJが三浦氏のメールをきっかけに2つの活動をすぐさま開始した。1つは「クライシスマッピング」で、場所にかかわる情報(○○にある橋が壊れて通行不可能、××の避難所に空きが出た、などなど)を迅速にアップデートし続け、間接的な被災者支援を行うこと。そしてもう1つが、関氏を中心に構築されたsinsai.infoである。

 大地震のようにインフラが切断され、被災者が孤立しやすい環境で最も恐ろしい事態はパニックである。特に、デマの流布によって生じるパニックは、ただでさえ不安定な心理状態にある被災者をより追い詰める要因となりかねない。パニックによって何の罪もない人々が被害に遭うことも極力回避すべきである。そして、デマを断つには正確な情報を発信し続けること、これに勝るものはない。

 sinsai.infoでは、主にTwitterの情報をベースに、1つ1つの情報を精査し、地域ごとにマッピングしていった。Webサイトを見ると、地図にひも付けられた赤丸の中に数字が記されているが、これは各エリアの情報の数を表している。また、掲載された情報(レポート)は「公式発表・通達」「消息」「非難拠点」のようにカテゴリ分けされている。つまり被災者は、どこに何の情報があるかをsinsai.infoを通して視覚的に把握することが、地震後数時間で可能になったのだ。

sinsai.infoではTwitterで発せられる情報に位置情報を付加してエリアごとのレポートとしてアップしていった(関氏の講演資料より)「日本は非常にTwitterが普及している国なので、やや特殊な情報収集だったかもしれない」(関氏)

 Twitterのようなフローの情報に対し、位置情報とカテゴリ属性を追加し、しかもその正確性もチェックしたうえでマッピングしてストックの情報へと変えていく作業が簡単だったはずがない。しかし、世界中から著名なエンジニアが次々と協力を申し出てくれたことでsinsai.infoというWebサイトをわずか数時間で立ち上げ、発展していくことができたと関氏は振り返る。

 「200名以上のエンジニアやモデレータがボランティアでの協力を申し出てくれた。また、Amazon Web Servicesのエバンジェリストの玉川憲氏がクラウドサービスを無償で提供してくれたことも大きかった」(関氏)

 玉川氏のほかに、もう1人、sinsai.infoに協力を申し出た大物ハッカーがいる。オープンソースのクライシスマッピングツール「Ushahidi(ウシャヒディ)」の開発者であるパトリック・メイヤー(Patrick Mayer)氏だ。sinsai.infoはUshahidiをベースに構築されており、地震直後の数時間で稼働開始できたのは、Ushahidiの機能の高さとメイヤー氏の協力によるところが大きかったという。

 Ushahidiは、もともとは政変に伴うケニアでの選挙監視に利用されたのが最初で、ハイチやニュージーランドの地震など、東日本大震災以前から災害時で実績を重ねてきたツールでもある。2011年には、タイの洪水のときも使われた。

「デマツイートに惑わされる人を減らしたかったから、情報の1つ1つをボランティアが精査してからアップデートした」という関氏。この手間を惜しまなかったことがsinsai.infoを成功に導いた(関氏の講演資料より)

 sinsai.infoのアップデートを続けてきた関氏は、もう1つのエンジニアによる震災支援活動に従事している。グーグルの及川卓也氏が「企業の垣根を超えて協力しあおう」とエンジニアに呼び掛けて始まったハッカソン「Hack for Japan」だ。

 Hack for Japanの活動は、さまざまな媒体で紹介されているので、ここでは割愛するが、この2つの活動を通して、関氏は「震災支援のようなオープンコラボレーションは速さが重要」ということに気づいたという。また、「体力のあるNPOなどの他組織とのコラボレーションも、もっと早期から行うべき」という課題も残ったとする。

 「マーク・ザッカーバーグ氏の提唱する『ハッカウェー』の考え方『インパクトに焦点を当てる、速く動く、大胆であれ、オープンであれ、ソーシャルバリューを作れ』は、震災サポートに通じるところがある」と関氏は指摘するが、あのようなときに実際に動くものを迅速かつ冷静に作り上げた経験者の言葉として聞くと重みを感じる。

「ハッカウェー」のほかにも「Done is better than perfect」など、ザッカーバーグ氏の言葉にはアジリティを強調するものが多い。それは、震災のような緊急時には身をもって重要性を感じる言葉でもある(関氏の講演資料より)

 今回の震災サポートのような、ソーシャルの力を利用したボランティア的な活動を「ソーシャルグッド(social good)」と米国では呼ぶそうだ。ビジネスとして展開されている活動も多く、企業の関心も高いというが、日本ではソーシャルグッドをマネタイズに結び付ける動きは正直、当面は出てきにくいように思える。だが、「役に立ちたい」という情熱と、ある程度のスキル、そして迅速で冷静な行動力があれば、誰もがソーシャルグッドの実践者になれることをsinsai.infoは証明してくれた。それは、あの日から日本のIT技術者たちが自らの手で得た、貴重な教訓である。

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Windows Server Insider」フォーラム 2011/2/15

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 INDEX
Social Media Week Tokyoまとめレポート
嫌いな人も知らないと損する9つの「ソーシャル」のカタチ
  Page1
「ソーシャル」の現在が分かる厳選9講演
【1】「バルス」に驚愕!? ソーシャル“メディア”日米比較
  Page2
【2】“プラットフォーム”化するソーシャルメディアの行方
【3】「誰もが主役になれる」mixiのソーシャル“インフラ”
  Page3
【4】ソーシャル“ゲーム”は日本のITを救うのか
【5】本当にコワイ“炎上”、その火消し対策は
  Page4
【6】レシピでソーシャル“メディア事業”に参戦した楽天
【7】いいね!より売り上げを増やすソーシャル“コマース”
Page5
【8】成功事例に学ぶソーシャル“マーケティング”のあり方
【9】IT技術者の想いをカタチにしたソーシャル“グッド”


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