ソーシャルカンファレンス2012まとめレポート

いまの日本は「ソーシャル」が何か分かっていない


ソーシャルカンファレンス2012まとめレポート

五味明子
2012/7/6

ソーシャルで変わっていくテレビの役割

 第2部の「ソーシャル×テレビが想像するシナジー」は、ビデオプロモーション 企画推進部長 境治氏がモデレータとなり、3名のパネリストを迎えたパネルディスカッションだ。パネリストは以下の通り。

  • 日本放送協会(NHK) 報道局 報道番組センター ソフト開発プロジェクト チーフ・プロデューサー 倉又俊夫氏
  • 日本テレビ放送網 編成局 メディアデザインセンター メディアマネジメント部 安藤聖泰氏
  • アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長 遠藤諭氏
パネリスト。左から倉又氏、安藤氏、遠藤氏
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 境氏はパネルディスカッションの冒頭、「ソーシャルとテレビのこの1年」として、2011年から起こった関連する出来事を以下の通り挙げた。

  • 3月11日 UstreamでNHK同時配信(ソーシャルメディア浮上)
  • 夏 ソーシャルテレビ用アプリ続々
  • 8月 反フジテレビデモ
  • 秋 ニコニコ動画とテレビ局の連携進む
  • 11月 日本テレビ、YouTubeで公式チャンネル
  • 12月 バルス事件
  • 1月 「おやすみ日本」「News Web24」
  • 3月 日本テレビ、iConでJoinNTV

震災で中学生が実現した「ネットとテレビの初の融合」

 まずは東日本大震災におけるNHKニュースのUstream同時配信について。これは広島に住む中学2年生が大地震のわずか17分後にNHKのニュース画面をUstreamで無断配信したことに端を発する。中学生は著作権違反と知りつつも、「多くの人が助かるのでは」という想いから配信に踏み切った。Ustream、NHKともに最終的には少年の行為を許諾、3月11日の夜にはNHKのほか、民放12局がUstreamでのニュース同時配信を開始する。

 「ネットとテレビの初の融合」とも言われた事件だったが、NHKの倉又氏は「本来なら違法配信はぜったいにダメだけど、震災という多くの人々の人命にかかわることだったから例外的に許諾した。だが、それ以外にも大きかったのは、当時、放送とネットの同時配信はダメだという呪縛があった。広島の中学生がわれわれを、その呪縛から解放してくれたといえる」と当時を振り返る。

 この事件は、テレビ局を含め世の中全体が「テレビが大事な存在であることは変わらないが、ソーシャルも重要」という意識にシフトしていくきっかけになったともいえる。

ソーシャルに近づいたが、不信感も

 以降、テレビを視聴しながら、同じコンテンツについてソーシャルで楽しむソーシャルテレビ用アプリケーションも続々と開発され、「つい最近までYouTubeを敵視していたテレビ局とは思えないほど」(境氏)ソーシャルとテレビの連携は進んできている。

 逆にソーシャルメディアによって、韓流ドラマの放送にまつわる反フジテレビデモのように、テレビを含めた既存メディアに不信感を示す動きも加速しているという。「震災以降、マスメディアへの信頼度はかなり落ちている。もう少し視聴者側に歩み寄った努力をした方がいい」とアスキー総研の遠藤氏は指摘する。

「バルス」は何も仕掛けずに楽しんだ

 ソーシャルとテレビの新しい関係を象徴する出来事として忘れられないのが昨年末の「バルス事件」だ。日本テレビで放映したジブリ映画『天空の城ラピュタ』の終盤、破壊の呪文「バルス」が唱えられるのに合わせて、Twitter上でユーザーが一斉に「バルス」とツイート、その総数は秒間1万5000を超えたとされ、Twitter社が「ツイート数世界記録」として認定したことでも話題になった。

 日本テレビの安藤氏は「バルスが来るのは社内でも分かっていたが、どれくらい来るかは分からなかった。何か仕掛けようか、という声もあったが、われわれはあえてきっかけを提供するだけにとどまり、自然発生的なお祭りにした方がいいと判断した」と語る。

 結果、その放置が「ツイート数世界一」へとつながり、「僕ら(日本テレビ)も、すごく楽しむことができた」(安藤氏)イベントになった。もっとも、次のラピュタ放映時にどうするかは、まだ決まっていないそうだ。

ソーシャルテレビの3つの類型

 こうして見ると、ソーシャルとテレビの融合は進みつつあるように感じられるが、「テレビ側は、まだソーシャルの動きを追い切れていない」と、安藤氏は指摘する。では、テレビがソーシャルと速度を同じくするには何に力を入れればよいのか。ここで境氏は「ソーシャルテレビの3つの類型」として以下のポイントを挙げる。

  1. 番組側が企画や画面などで、視聴者からのツイッターなどを提出したり、活用したりする
  2. 番組側と視聴者が、テレビ本線とは別回線でやりとりをする
  3. 番組側と関係なく、視聴者が番組をネタに盛り上がっている

 これで見ると、“バルス事件”は3に当てはまる。実際に番組作りにかかわる立場の倉又氏や安藤氏は、「現在、1と2の可能性を探っているところだ」という。「テレビはやはり、1と2で成長していくべきだと思う」とは参加者の一致する意見だ。

「眠いいね!」で“ゆるい”ソーシャルテレビも

 実際の取り組みとして、NHKでは例えば「News Web24」で視聴者によるTwitterの書き込みを画面内に表示している。もちろん放送法の規定により、画面につぶやきを流す前には、必ず番組側でチェックを行うため、完全なリアルタイムではないが、かなりリアルに近いタイミングで流しているという。

 また深夜番組の「おやすみ日本」では「眠いいね!」というボタンをデータ放送画面やホームページ上に設置し、一定数に達したら放送を終えるユニークなシステムを採用している。「このくらいのゆるいソーシャル感が深夜にはちょうどいいのかもしれない」と倉又氏。評判も上々だという。

NHKは「おやすみ日本」で、視聴者からの「眠いいね!」数で放送終了時間を決める、深夜ならではの“ゆるい”ソーシャルテレビを実践(講演資料より)

 なおNHKはソーシャルメディアの公式アカウントを100個ほど持っているとのこと。「公共放送は見てもらって、なんぼ。若い人はテレビを見なくなったというが、それも長い目で見たら経営課題の1つ。ソーシャルを通じて見てもらえる努力は必要」と倉又氏。

ソーシャルの盛り上がりは、ただの幻想で自己満足なんじゃないかと思うことも

 日本テレビでは、データ放送を利用してFacebookと連携したソーシャルテレビ「JoinTV」を同社のIT情報番組「iCon」内で実験的に開始した。ログインボタンがテレビ画面に現れ、Facebookにも同時にログインできる。気になったシーンに「いいね!」をしてクリッピングしたり、後から友人と共有することも可能だ。プレゼント企画への応募なども画面上からできる。同社では、これらの機能を「ソーシャルビューイング」と呼んでいる。

ソーシャルテレビの実験的取り組みとして放送された日本テレビの「JoinTV」ではデータ放送を利用してFacebookと連携したソーシャルビューイングが特徴(講演資料より)

 「(JoinTVで)テレビもようやく“いいね!”の仲間入りができた気がする。友達とテレビを見ているような感覚に近い。ソーシャルの盛り上がっている感じがテレビにも入ってくることは制作者としてもうれしいが、もしかしたらこの盛り上がりはただの幻想で自己満足なんじゃないか、と思うこともある」と安藤氏は正直な心境を語る。

番組をコミュニティとして作ることはできないのか

 では今後、ソーシャルテレビは発展していくのだろうか。倉又氏は「これまではリビングの中心にテレビがあったが、いまは違う。10年後にはリビングにテレビがない家も珍しくなくなる。そうなったとき、テレビ局がやることはテレビ放送だけでいいのか。番組をコミュニティとして作ることはできないのか。その方向性も考えていきたい」とした。

 そのうえで、「テレビの規模感とソーシャルの“間尺感”が違うというのはよく言われるし、僕らも思うところでもある。視聴率とソーシャルをこれからどう関係させていくか、これは大きな課題」(倉又氏)と語る。

モバイルデバイスがソーシャルテレビに影響を及ぼす

 遠藤氏は「ソーシャルテレビといってもソーシャルの捉え方はさまざま。友達同士の関係をソーシャルということもあるし、社会全体のトレンドをソーシャルということもある。人間関係もリアルだけでなく、バーチャルな友人が増えている人も多い。求められるソーシャルテレビのあり方は1つではなく、それぞれ構造も機能も違う、そこが難しい」と指摘。

 まだクリアすべき課題が多いものの、「スマートフォンやタブレットに見られるデバイスの進化が1つの鍵になるかもしれない。モバイルはネットとテレビの境目を曖昧にしつつある」(遠藤氏)と、モバイルデバイスがソーシャルテレビに及ぼす影響を示唆している。

アスキー総研が調査したデバイスの使われ方の変化。使われるデバイスが変化すれば、当然、コンテンツも変化していく

ソーシャルを使えば、もっとテレビは楽しくなる

 電通の調査によれば「ソーシャルメディア利用者の21%がテレビの内容を書き込んでいる」という。倉又氏は、この数字に「意外と多いのでは」と指摘する。

 「テレビはいつも時代の中心であり、もともとソーシャルな存在だった。それが、いまはテレビ離れが進んでいると言われている。でも、この数字を見ると、まだテレビは十分に話題の中心になり得る存在だと思う。逆に、ソーシャルを使えばテレビはもっと楽しくなるはず」(倉又氏)

 倉又氏は、ソーシャルとの連携がテレビを強くすると期待を込めていたが、もしそうなれば、これまで見たことのないテレビ放送が誕生する可能性は決して低くないように思える。

コンピュータとテレビの変化の比較。新しい機能は最初、本体の外付けとして提供され、次に本体がそれを取り込み、やがて小型化していく。「ネットはコンピュータとテレビの見分けを難しくしている」(遠藤氏)

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 INDEX
ソーシャルカンファレンス2012まとめレポート
いまの日本は「ソーシャル」が何か分かっていない
  Page1
コンプガチャ、炎上など問題点が多い「ソーシャル」
コンシューマライゼーションが生み出す“うねり”
  Page2
Facebookを見て「通信キャリアも変わらなくちゃ」
O2O―オンラインとオフラインの融合を現実にするNFC
  Page3
コンプガチャはクリエイティブじゃない
企業は“コミュニティ”で消費者と社会をつなげ
Page4
ソーシャルで変わっていくテレビの役割
  Page5
ブランディング、運用、ビッグデータ分析、キュレーション
われわれの「ソーシャル」はまだ始まったばかりだ!


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