GREE Plartform Conference 2012まとめレポート

ここがヘンだよ
日本のソーシャルゲームと世界進出


GREE Plartform Conference 2012まとめレポート

五味明子
2012/4/26

ヘンな業界? 「ソーシャルゲーム」の最新事情

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 「ソーシャルゲーム」という言葉読者の方々はどんなイメージを重ね合わせるだろうか。

 昔ながらのゲームユーザーであっても「ソーシャルゲームは一切やらない」と固く拒絶する人もいれば、最近のソーシャルゲームにまつわるいくつかのネガティブな報道から反社会的なイメージを抱いている人も少なくない。

 一方で「ゲーム業界における史上最大のパラダイムシフト」「低迷する日本経済にあってグローバル展開を期待できる数少ない分野」とソーシャルゲームの勢いを高く評価する向きも確実に存在する。いずれにしろ、良い意味でも悪い意味でも“旬”な市場であることは確かなようだ。

 また、IT業界で仕事をしている人々、特に“開発者”にとってソーシャルゲームという市場は、非常に魅力的な要素を多分に含んでいるように思える。iOSAndroidHTML5クラウド、データ解析など最先端のIT技術導入にも積極的で、開発のサイクルが速い。加えて、プロジェクトの予算が潤沢で1つのゲーム開発に数千万円は当たり前、ヒットが見込めそうなら億単位に跳ね上がることも珍しくなく、優秀な開発者を高待遇で迎えるソーシャルアプリプロバイダ(以下、プロバイダ)も多い。最近では業界を代表するような一流プログラマやITアーキテクトの名前を聞くことも増えてきた。

 さまざまな意味で確実に社会での存在感を高めているソーシャルゲームだが、その基盤を支えているのは、どんな技術なのか、またソーシャルゲームにかかわる人々は、どんな戦略を持って市場に相対しているのか。

 本稿では、3月23日に東京・港区のザ・プリンスパークタワーで開催された「GREE Platform Conference 2012」のセッションのいくつかを紹介しながら、開発者が知っておきたいソーシャルゲームのトレンドを俯瞰してみたい。

  1. ソーシャルゲームのためのユーザー分析の基礎知識
  2. 進出前に知らないと損する中国市場の予備知識
  3. 携帯キャリア4社はグローバルでかく戦えり
  4. 開発者が本音で語る「ここがタイヘンだよ世界進出」
  5. 累計コイン、消費額、ユーザー数などでゲームを表彰

【1】ソーシャルゲームのためのユーザー分析の基礎知識


日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業ビジネス・アナリティクス事業部 SPSS クライアント・テクニカル・プロフェッショナル 磯部葉月氏「プロバイダに『ユーザーの行動分析をしていますか』と質問すると、ほとんどの企業が『分析はしていない』と答える。分析していると回答した企業も集計のレベルで留まっており、本当の意味で分析を行っているプロバイダは、ごくわずかだ」

 IT業界のバズワードとして「ビッグデータ」が取り上げられるようになってから久しいが、ビッグデータで最も注目されている部分の1つが“ユーザーの行動分析”である。ソーシャルゲームでもしかり、ユーザーの行動を詳細に分析すれば、大幅な収益増につなげられる可能性は非常に高い。世界最大のソーシャルゲーム企業であるジンガの成功も、データドリブンに基づく詳細な分析による部分が大きいとされている。

 「だが、実際にジンガのように効果的なユーザー分析を実施できているプロバイダはごくわずかだ」と、日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業ビジネス・アナリティクス事業部 SPSS クライアント・テクニカル・プロフェッショナル 磯部葉月氏はいう。プロバイダが経営効果を引き出すユーザー分析を行うためには何から手を付ければよいのだろうか。以下、同氏によるセッション「ソーシャルゲーム業界のアナログ分析最前線」の内容を紹介する。

 磯部氏はまず、ソーシャルゲームでデータ分析するのに必要な指標として以下の8つを挙げる。

  1. CAC(Customer Acquisition Cost)… ユーザー1人当たりの獲得コスト
  2. K-FACTOR … ユーザーがフィード、インバイト(招待)、メールなどでどれだけほかのユーザーを巻き込むか(バイラルマーケティング)
  3. 稼働状況 … セッション数、ユーザー数、平均セッション時間、アクティブ率、セッション当たりの接続時間
  4. 継続率 … 初日または1週間での継続率
  5. 平均利用期間 … ユーザー1人当たりの平均プレイ期間
  6. ARPU(Average Revenue per User)/ARPPU(Average Revenue per Playing User)… ユーザー1人当たりの収益
  7. 課金ユーザー率 … ユーザー全体における課金ユーザーの比率
  8. バイラルLTV(Life Time Value)… ユーザー1人がプレイ期間中に誘う人数

 まずは、これらの指標に基づくデータを収集し、集計する、これが分析の第一歩となる。だが実際には、この収集/集計の段階で「分析を終えた気になっている」プロバイダが「かなり多い」と磯部氏は指摘する。

 なぜ分析を行うプロバイダの数はこんなにも少ないのだろうか。磯部氏は「分析し、その結果をKPIから業務に落とし込むための手法が理解されていない」と指摘する。

予測分析のゴールは収益向上。収集/集計したデータを基にユーザーの行動を予測し、課金を誘発、さらにリアルタイムにユーザー動向をモニタリング。ここまでのプロセスをツールで自動化できると、スマートな予測分析を実現できる

 言うまでもないが、経営においては分析そのものがゴールではない。現状分析や予測分析から得られるインサイトから、取るべきアクションを選択し、スピーディな意思決定を行うことで収益向上につなげることが分析のゴールである。

 特にソーシャルゲームの世界では、分析のPDCAサイクルを早く回し、アプリの運用や改修、チューニングに反映させ、次の評価分析を行っていくことで、収益向上につながる可能性が大きく高まるという。従って「収益向上が見込める分析モデルを作り上げ、モデルの精度をつねに上げていく」作業が欠かせない。

 そのための作業を以下のプロセスに従って行うと効果が出やすくなる。

  1. ユーザー理解/優良客識別 … ユーザー属性と行動の概要を把握する→ビジネス上の問題点を明確化
  2. ユーザー類型化 … ユーザーを行動で類型化する→適切なユーザー対応の材料を選定
  3. ユーザー育成 … ユーザーのランク移動をとらえる→LTV上のキーアイテムを発見
  4. 経営管理 … 業務へ展開する→管理/自動化

 興味深いのは2の「ユーザーの類型化」である。これはお金の使い方やログインの時間や期間が似ているユーザーをひとまとめにし、その特性を浮かび上がらせることで、ターゲットが明確になり、打つべき手段(特性に合わせたイベント開催やランクアップを促すアイテム提供など)が見えてくるという。

似たような行動を取るユーザーを類型化(グループ化)することで、ランクアップを促すアイテムなどのオファーもまとめて行いやすくなる

 そして、4の分析業務の自動化まで行えた時点で、初めて「分析をしている」といえる状態になるそうだ。ここまでの道のりは長そうに見えるが「その効果はすごいものがある」と磯部氏は断言する。

 磯部氏は分析の具体例として以下を挙げた。

  1. KPIの予測 …LTV、課金、売り上げ、継続率などを予測し、データに基づく迅速な意思決定を行う
  2. 継続率の改善 … ゲームからの離脱ポイントを分析し行き詰まっているユーザーを救うことで継続率を維持、コンプリユーザーとその他のユーザーをグループ化しその違いを分析して継続率を向上
  3. 課金の誘発 … 攻略ヒントやイベントなど課金に至るまでの検討期間を設ける、アイテムラインアップの改善、無料アイテムの提供、課金率の良いコンプガチャ用アイテムの選定で課金につなげる
  4. 優良ユーザーの発見/増加 … ユーザーのランク付けを行いランクアップ後の売上を予測、ヘビーユーザーへの収益依存からヘビーユーザー予備軍を活性化させてユーザーランクアップを図り、安定した収益基盤につなげる

 特にユーザーの離脱ポイントの見極めは、プロバイダにとって収益改善の大きなきっかけになる。「アプリはダウンロードしてもプレイしない人もいれば、プレイしてすぐに『思っていたゲームと違う』と止めてしまう人もいる。あるいは課金の段階で、もしくは連携プレイが始まる段階で離れるユーザーも多い。アプリの“離脱ポイント”を知ることで、さまざまな施策(離脱しやすいステージの難易度を下げる、課金のタイミングを見直す、など)を打ちやすくなる」と磯部氏。分析を収益向上につなげる具体的な手段として興味深い。

ユーザーの離脱ポイントはアプリ改善の重要な指標。ここを丁寧に分析することで継続率のアップを図れる

 ここまで紹介した分析プロセスをワンストップで提供するソリューションが「IBM SPSS Modeler」である。直感的なUIでさまざまなデータのアクセスやモデリングを行い、収益向上につながる分析を提供できるとしている。

IBM SPSS Modelerはプログラミングの知識がなくても簡単に分析フローを描ける直感的なUIが特徴

 「画面下に並んでいるアイコンと⇔を使って簡単にフローやモデルを作成できる。プログラミングの知識は一切必要ない」と磯部氏。知りたい分析データをすぐに手元に得られ、有効な施策を打ち出せるのも特徴だ。離脱ポイントや優良ユーザーにランクアップさせるために必要なアイテムの関係性などがライトタイムに可視化されて表示されるため、分析のルール化→自動化に大きな効果を期待できる。


課金の誘発にはアイテムの詳細な分析が欠かせない。大量のデータ(上)を基にユーザーがどのアイテムをいくつ購入し、どのくらいの金額を使ったかを分析することで、魅力的なアイテムの傾向が見えてくる(下)

 ソーシャルゲームに限らず、ネット上でコンテンツを提供するプロバイダは常に「どこで有料化して収益向上を図れるのか」のライン設定に悩んでいる。もし、磯部氏が解説したような洗練されたデータ分析の手法がソーシャルゲームの世界で日常的になれば、さらにソーシャルゲームの市場が拡大することは間違いない。

 その一方で磯部氏は「どんなに分析を高度化しても、肝心のコンテンツが面白くなければ、まったく意味がない」と強調する。魅力的なコンテンツと、その魅力をさらに高める精緻な分析が融合したとき、日本のプロバイダはようやくグローバルで通用する強さを身に付けられるのかもしれない。

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 INDEX
GREE Plartform Conference 2012まとめレポート
ここがヘンだよ日本のソーシャルゲームと世界進出
Page1
ヘンな業界? 「ソーシャルゲーム」の最新事情
ソーシャルゲームのためのユーザー分析の基礎知識
  Page2
進出前に知らないと損する中国市場の予備知識
携帯キャリア4社はグローバルでかく戦えり
  Page3
開発者が本音で語る「ここがタイヘンだよ世界進出」
累計コイン、消費額、ユーザー数などでゲームを表彰
ソーシャルゲームがやるべきことは、まだ多い


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